キタガワのブログ

島根県在住のフリーライター。ロッキン、Real Sound、KAI-YOU.net、uzurea.netなどに寄稿。ご依頼はプロフィール欄『このブログについて』よりお願い致します。

【ライブレポート】ヤバイTシャツ屋さん・夜の本気ダンス『“BEST of the Tank-top” 47都道府県TOUR 2023-2024』@BLUE LIVE 広島

ヤバイTシャツ屋さんが47都道府県ツアーを敢行してから数ヶ月経ち、今回の広島公演で気付けば終盤戦。通常ではあり得ない短スパンで叩き込まれたスケジュールを消化していく様は『ロックバンドかくあるべし』の感があるが、実際に行うとなるとその過酷さは言うまでもなく。ただその疲れさえも翌日のライブで回復させていくのが、ヤバTらしさである。

今回会場に選ばれたのは、眼前が海に面した少し特殊なライブハウス。何と現状全てのライブがソールドアウトになっている彼らはこの日も同様で、このちょっとやそっとではたどり着けない場所に大雨にも関わらず1000人近くのファンが満員御礼で集まり、その時を楽しみに待っていた。この日の対バン相手は高校の先輩後輩の立ち位置でもある、夜の本気ダンス。結成15年の夜ダンと結成10周年のヤバT、その化学反応は如何なるものなのか。

大勢のファンでごった返すライブの幕が下りたのは、定刻から5分ほど過ぎた頃。先行は夜の本気ダンスで、デビュー当時から変わらない“ロシアのビッグマフ”のSEを経て鈴鹿秋斗(Dr.Cho)、米田貴紀(Vo.G)、西田一紀(G)、マイケル(B.Cho)らメンバーが登場。そして「クレイジーに踊ろうぜ。“Crazy Dancer”!」と米田が叫ぶと、いきなりの“Crazy Dancer”でフロアを温めにかかる。この楽曲はライブではリリース当時からほぼ必ずセットリストに入っていて、《ないないない》の歌詞部分で振り付けを入れたり、レスポンスを委ねたりとその都度新たな盛り上がりを吸収して成長してきた。その結果今回は『何も言わずとも伝わっている』という状況が既に出来上がっており、早くもハイライト的な爆発を引き起こしていた。

【夜の本気ダンス】Crazy Dancer - YouTube ver. - YouTube

ライブ活動を続けているとともすればセットリストが偏ってしまいがちな感もあるが、今回の夜ダンはここ数年でも非常にレア、具体的にはセットリストの大半をミドルチューン、もしくは比較的新しい楽曲に変化させた前傾姿勢のものに。「皆さん踊る準備は出来てますか?」との一言から始まった“Oh Love”、インディーズ時代のファーストにおける“Fun Fun Fun”など、この40分の持ち時間にあえて強気の姿勢で攻める形は好感が持てたし、実際『今が最高!』を具現化する彼ららしいステージングだったように思う。

夜の本気ダンス"ピラミッドダンス feat. ケンモチヒデフミ" MUSIC VIDEO - YouTube

夜ダンのコンセプトは『自分たちが踊りたくなるような曲を作る』というもの。そのため初期はアッパーで四つ打ちを基本形にしていたのだが、最近は更に新しい方面での踊れる楽曲を量産し、注目を集めている。特に今回のライブでは新曲の“ピラミッドダンス feat.ケンモチヒデフミ”がそのモードで、ラップさながらに言葉を紡ぐ冒頭から打ち込みを使用したサウンドまで、明確に他の楽曲とは異なる魅力を宿していた。音源では打ち込みを妙があったが、実際にライブで耳にするとまた違った面白さもあったりして、これぞライブだなと。

MCでは、主に鈴鹿が他愛もない話をファンのレスポンスと共にどんどん変化させていく現場主義で進行。まずはこの日が年明け初めてのライブであることに触れると、年の瀬に4万円のお年玉を貰ったことを語り「これから少しずつ返していければと思います……」と濁したのを契機とし、以降は夜ダンとヤバTが先輩後輩の関係性であることから「後輩を脅して出演が決まった訳じゃないですから」と爆笑を生み出したり、果ては西田とヤバTもりもとの後ろ姿が似ている話などやりたい放題。もはや収拾のつかなくなった鈴鹿を他のメンバーはただ眺めるだけ、という構図も最高だ。

夜の本気ダンス MV "WHERE?" - YouTube

「後輩のヤバTに捧げます」と鳴らされた“Magical Feelin'”を終え、最後の楽曲は“WHERE?”。米田は「行くぞ広島!」と何度も煽りつつ、BPMの速いファストロックを叩き付けていく。我々はと言えば何も考えず踊り狂う、最高のロック空間が出来上がっていたのは印象深い。“fuckin' so tired”や“審美眼”といった代表曲を廃して、彼らなりの覚悟で臨んだ40分間。個人的には最後に広島で彼らのライブを観たのは今から7年半前、主催者に直接DMを送って行く小さな会場が最後だったのだけれど、あれから何倍もパワーアップしているなとしみじみ。今度は単独で。

【夜の本気ダンス@広島 セットリスト】
ロシアのビッグマフ(SE)
Crazy Dancer
By My Side
Oh Love
Fun Fun Fun
ピラミッドダンス feat.ケンモチヒデフミ
Magical Feelin'
GIVE&TAKE
WHERE?

 

夜ダンのライブが終わるとすぐ、目の前にポッカリとスペースが発生。その答えはひとつで、次なるヤバTのモッシュタイムに備えて全員が2〜3歩前に進み出た結果だ。この瞬間に「凄いライブになるぞ……」という思いが頭を支配していたが、まさかその結末は更に興奮上乗せ、気化した汗がステージの上部から垂れてくる、カオスな時間となったのは誰が想像出来ただろう。

『ネッキーとあそぼう わんぱく☆パラダイス』のOPである“はじまるよ”に乗せてステージに現れたのはこやまたくや(Vo.G)、しばたありぼぼ(B.Vo)、もりもりもと(Dr.Cho)の3名。人があまりに密集し過ぎて、メンバーは頭のてっぺん程しか見えないが「そこにいるんだろうな……」というのは明確に分かる盛り上がり。そこから鳴らされたのは“Universal Serial Bus”、“ダックスフンドにシンパシー”の超ファストチューン2連発で、一気に熱量を高めるばかりか、早くもこの段階でダイバーも出現。ライブ定番曲でもないのに、この盛り上がりは一体何だろうか。

ヤバイTシャツ屋さん - 「Universal Serial Bus」Music Video - YouTube

ヤバTのライブは、セットリストが毎回変わることでも有名。今回もこやまに「ちょっと今日のセットリスト、変なことになってまして……」と冒頭で示唆された通り、アルバムに収録されつつもなかなか披露されない楽曲に加え、今は入手不可能な自主制作盤から“反吐でる”、激レアの“どすえ 〜おこしやす京都〜”、果てはROTTENGRAFFTYの“D.A.N.C.E.”のカバーなど多方面に振り切ったセットリストで翻弄。その中で全員が知っているキラーチューンも惜しみなく見せる、ライブ慣れした彼らにしか不可能な幸福空間がここに。なおこの日のライブハウスは47都道府県中でもキャパが1000人と大きい場所で、物量的にも圧倒されるライブであったことも特筆しておきたい。

ヤバイTシャツ屋さん - 「ハッピーウェディング前ソング」Music Video - YouTube

前半部のハイライトは、何と言っても“ハッピーウェディング前ソング”。ライブで必ず演奏される認知度的にも「待ってました!」感が強いこの曲。もちろん会場内の盛り上がりは異常なほどで、ダイバーやモッシュがそこかしこで発生。前で観ている人はどれほどの状況になっているかは想像するしかないものの、後方で観ていても既に体は汗だく。キュッキュッと鳴る音に気付いてふと足元を見ると、地面は謎の水びたし状態。それが「みんなの体から出た汗なんだ」と判明した時、この日のライブの凄まじさを再認識した次第だ。

かと思えばMCでは、一気に脱力するのも彼ららしさ。今回は夜の本気ダンス・キュウソネコカミ、ヤバイTシャツ屋さん、四星球のメンバーで構成された通称『ソゴウ会』のトークが中心で、こやまが「皆さんソゴウ会って知ってます?4バンドが一緒になってやってるあの……おもんない身内ノリグループなんですけど」とボケると、夜ダンの米田を「あんな細い人間が産まれてくるもんなんやな」としばたが刺し、もりもとの言い間違えをふたりが徹底的にイジる。終始グダグダなトークだが、それすらも微笑ましくなるのはヤバTだからこそ。

そして“ちらばれ! サマーピーポー”でウォールオブデス(観客を左右に分けて突撃させる方法)を作り出し、「ヤバTの中で一番チルい曲」とする“dabscription”でムードを作り出すと「ここからは本気ダンスタイムです!」と“喜志駅周辺なんもない”を投下するヤバT。ただ今回は夜ダンに送る特別バージョンで、演奏の後半部を夜ダンの1曲目“Crazy Dancer”をカバーでまとめたこの日だけの楽曲、その名も“喜志駅周辺のCrazy Dancer”として再構築。更には“DANCE ON TANSU”、まさかのROTTENGRAFFTYの“D.A.N.C.E.”カバーなどダンス曲3連発でお届けし、熱量を底上げ。

ヤバイTシャツ屋さん - 「Blooming the Tank-top」Music Video - YouTube

ライブはラストスパートで、ここからは“Blooming the Tank-top”、“Tank-top Festival 2019”、“ヤバみ”というラウドな楽曲を立て続けに展開。もうここまで来ると体温上昇も著しいレベルになっていて、一緒に歌って踊って汗をかいている間に楽曲が終わって、また続いて……という覚醒状態に。正直僕はこの時点でほぼ記憶がなかったりするのだけれど、それは彼らの後半にかけての畳み掛けが『楽しい!』の感情のみで全て完結するものであった証左なのだろうと思う。これは最大級の褒め言葉としてだが、本当に「俺死ぬんじゃないかこれ……」と思うレベルの盛り上がり。こやまは「前に来たときはまだコロナ禍で、客席にスペースがあった。でも今日はグッチャグチャになってる。これがヤバTのライブや!楽しいなあ!」と叫んでいたが、これこそがヤバTが望み続けていたライブなのだ。

ヤバイTシャツ屋さん - 【LIVE】「かわE」 from 3rd LIVE Blu-ray/DVD 「Tank-top of the DVD Ⅲ」 - YouTube

最後の楽曲に選ばれたのは“かわE”。満面の笑みを浮かべながら演奏するメンバーの目下、フロアでは「最後やー!悔い残すなよー!」とのこやまの呼び掛けに反応し、10人以上ものファンが肩車状態となり押し合い圧し合いでこの日一番のカオス空間が形成されていく。中でもサビの盛り上がりは凄まじく、いつもファンに委ねている《やんけ!》のレスポンスに関しては1000人が叫び倒しているため、鼓膜がビリビリ震えるほどの迫力と一体感。ラスサビではダイバーが一斉に立ち上がったことで眼前にはメンバーすら見えないという異常事態さえも発生する程、完全燃焼で終了。地面はツルッツル、息はゼエゼエ。でもテンションはずっと高いという興奮は、やはりヤバTでしか味わえない。

ヤバイTシャツ屋さん - 「無線LANばり便利」Music Video - YouTube

ステージからハケた瞬間から「ヤバイ!」→「Tシャツ屋さん!」のチームワーク抜群のアンコールによって再び呼び込まれたメンバー。こやまは眼前に広がる靄を見ながら「これスモークちゃうねん。みんなの体から出てきた汗やねん。多分めっちゃ体に悪いよなこれ」と全員を称賛していて、その表情は穏やかだ。なおヤバTの今回の全国ツアーでは30秒以内であればアンコールの1曲目のみ動画撮影・投稿が許可されており、一斉にスマホが掲げられる……という光景も新鮮で楽しい。そんな状況下での1曲目は“無線LANばり便利”で、再度の盛り上がりを記録していく。歌われている内容はと言えば『有線より無線LANの方が便利』『Wi-Fiがあるから家に帰りたい』というものだけれど、これがヤバTにかかると歌って踊れるライブアンセムになるのだから不思議だ。

“Tank-top in your heart”からの写真撮影を終えると、再びファンに挙手制で語り掛けるこやま。「今日ヤバT初めて観たよって人?楽しかった人?もし良かったら他の友達とか、是非ライブに連れてきてください。絶対に良いライブします!」……。思えばこれまで彼らは、特にコロナ禍ではライブハウスの未来を考えて活動していた。制限のある状況下でもライブを続けてソールドアウトさせることで、ライブハウスの存続に繫げるというものだ。しかしシーンが元通りになった今、彼の原動力となっているのは『ライブハウスから離れてしまった人たちをカムバックさせること』。そのためには楽しいライブをして、どんどん広めて行こうというのが今のヤバTの考えである。先程の動画投稿OKの措置についても、それが大きな理由だと思うのだ。

ヤバイTシャツ屋さん - 「あつまれ!パーティーピーポー」Music Video[メジャー版] - YouTube

そんな彼らは最後に、最も期待されていたであろうキラーチューン“あつまれ! パーティーピーポー”を持ってきた。盛り上げまくった末の最後の駄目押しとして放たれたこの一手は、ファンの心を掌握するには十分すぎるもので、全員が一体となっての《しゃっ!しゃっ!》《エビバーディ!》のレスポンスが尋常ならざる大きさで響き渡っていく。モッシュもダイブもこれまでとは比較にならないレベルで発生し、天井からは至るところで水滴がポタポタ。目の前は汗が気化して靄になっている……という異常事態の中、ライブは終了。ステージのみならず会場の外の手すりまでビッチョビチョになったリアルからも、このライブが如何に灼熱だったのかを物語っていた。

昔からイラストを書いていて、今も書き続けている。マンガを読むことが大好きで、今も収集している……など、人は過去に多大な影響を与えられた場合、それに従った生き方を無意識のうちにすることがある。ヤバTと夜ダンにとってそれは学生時代に出会ったロックとライブシーンであり、ステージに立つようになった彼らは今でも、ロックライブを続けている。彼らが行っていることは実は非常にシンプルな思考によるものだ。

こやまが語っていたライブハウスへの思い……。それはかつて自分ひとりが抱えていたものだっただろう。ただ時を経て自分が他者を動かす側になった今、彼らの歩みはいちリスナーである我々の心を強く震わせる力強いものとなった。汗だくでグチャグチャのライブハウス、彼らが求め続けてきた景色から、また何かがここから生まれていくのだろうと思うと感慨深いものがある。約2時間半の熱狂、ご苦労さまでした。

【ヤバイTシャツ屋さん@広島 セットリスト】
Universal Serial Bus
ダックスフンドにシンパシー
KOKYAKU満足度1位
BEST
ハッピーウェディング前ソング
反吐でる
ZORORI ROCK!!!
ちらばれ! サマーピーポー
dabscription
喜志駅周辺のCrazy Dancer(夜の本気ダンスカバー)
NO MONEY DANCE
DANCE ON TANSU
D.A.N.C.E.(ROTTENGRAFFTYカバー)
どすえ 〜おこしやす京都〜
Blooming the Tank-top
Tank-top Festival 2019
ヤバみ
かわE

[アンコール]
無線LANばり便利
Tank-top in your heart
あつまれ! パーティーピーポー