キタガワのブログ

島根県在住。文筆。rockinon.com外部ライター等。

【ライブレポート】Hump Back『僕らの夢や足は止まらないツアー振替公演』@松江Aztic Canova

こんばんは、キタガワです。
 

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https://www.humpbackofficial.com/

 

開場前、会場となる松江Aztic Canovaでは暴風が吹き荒れる中、数十人のファンが寒さに耐えながらじっとその時を待っていた。ただ彼らの秘めたる興奮は防風を超越しているようにも見えた。それも無理はない。この日は本来であれば2020年に行われる予定で動いていたHump Backの『僕らの夢や足は止まらないツアー』が延期となり、約2年ぶりの島根公演なのだ。

 

アナウンスの後、新型コロナ対策により50席まで絞られたフロアにひとり、またひとりと足を踏み入れる。ソールドアウト公演ではあるが先日島根県にまん延防止が発令されたこともあり、おそらく直前で参加を断念したファンも多いためかフロアには若干の空席もあるが、今回ばかりは無問題。何故ならこの日を彩るのはこれまで数多の全国ツアーを大成功に導いてくれた、Hump Backなのだから……。


客電が落ち、ライブは19時15分にスタート。もはやお馴染みとなったハナレグミの楽曲“ティップティップ”をバックにステージに足を踏み入れたのは林萌々子(Vo.G)、ぴか(Ba.Cho)、美咲(Dr.Cho)ら最強のメンバーたちで、各々あと数十秒後に迫った爆発まで準備に勤しむ。中でもSEの歌詞を口ずさみながらチューニングを行う林の姿はとてもマイペースで、これまで何百回とライブを行ってきた自信すら感じさせる。

 

Hump Back -「LILLY」Music Video - YouTube


そして準備が整った林がSEを止めて開口一番「松江ー!歌いに来たぞー!」と目一杯叫ぶと、今回のオープナーでありファーストフルアルバム『人間なのさ』でも1曲目に配置されていたファストチューン“LILLY”が弾き語りを経て圧倒的な音量で鳴らされた。一瞬で感情のスイッチが切り替わった観客たちが拳を掲げる先で彼女たちは、『君』への感情をストレートに音の塊に乗せてぶつけていく。元々この楽曲における『君』の存在は意図して抽象的な表現に留まっていて、果たしてそれが恋人なのか友人なのか、はたまた子供なのかは明言されていない。ただ延期を繰り返し実現した今この場所においては、きっとこの『君』は我々観客を指していたのではなかろうか。その他楽曲を演奏するメンバーも美咲は重いドラミング、ぴかはピョンピョンと飛び跳ねながら嬉しさを表しているのは目にも楽しいし、林が「おーい!」「行こかー!」と何度も突発的な言葉を発しつつ、観客の熱量をぐんぐん底上げしているのもライブバンドとして、ひいては自分たちが全身全霊で楽しむためのスパイスにしている点も素晴らしい。

 

Hump Back - Major 1st Full Album “人間なのさ”全曲ティザー - YouTube


冒頭にも記した通り、今回のライブツアーは『人間なのさ』を携えて2020年に47都道府県を制覇しようと計画された『僕らの夢や足は止まらないツアー』のうち、突然の新型コロナウイルスの蔓延に伴い延期の決断を余儀なくされた数公演を取り戻す形で行われている。その関係からか、セットリストは基本的に『人間なのさ』に収録された楽曲を中心に固められていて、ニューアルバムからの楽曲に関しては“宣誓”と“番狂わせ”のみに留まる攻めの姿勢を貫いていたのが印象的だった。


この日の持ち時間は先行のTHE FOREVER YOUNGと同様の1時間キッカリ。そのためだろうか、まるで時間が惜しいとばかりにチューニングも水分補給もなしに連続で楽曲を畳み掛ける様は観ているこちらとしても非常に清々しいものであり、楽曲の内容についても度々林が熱いメッセージを飛ばしてくれたりするので満足感もある。そんな中で個人的に思ったのは、こうしたHump Backのライブスタイルは今のコロナ禍に最も適しているのではないかということ。というのも、現在ライブハウスではキャパを従来の半分以下にしていることは広く知られているけれど、実際今回の会場であるAztic  Canovaのように、本来のキャパ250人を半分(125人)にした上でその半分(62.5人)にし、更に収容人数を減らして運営している(繰り返すが今回のキャパは50人)ライブハウスは少なくないからだ。これが何を意味するかと言えば、単純に演者と観客との間にテンションの乖離が生まれることになる訳で、言葉を選ばずに言えば明らかにガラガラなフロアで演者が「行くぞお前ら!」と叫んでも観客としては微妙な感覚になってしまったり、逆に我々が盛り上がりたくても演者側の気分が乗らなかったり、何かと難しい状況になってしまうことも多い。こと島根県のような地方都市では、発声制限やアルコール禁止に加えてシャイな県民性がネガティブに作用してしまう場面というのも、これまで何度か観てきた。


だがHump Backは、これまでとは全く違う状況下においても変わらなかった。声が出せない観客の代わりに叫び、ひたすらにボルテージを高めていく。そして彼女たちのステージングに呼応するように観客の興奮も熱を帯びるという最高の循環。「コロナ禍だからこうしよう」ではなく、純粋にライブを行うことの楽しさを具現化したいつも通りの彼女たちはその実、とてつもなくこの環境にも順応していたのだ。

 

Hump Back 2020.11.23 大阪城ホール 単独公演"拝啓、少年少女たちよ" ダイジェストムービー - YouTube


Hump Backのライブに突飛なことは特段ない。爆音を鳴らして、歌詞を届け、内なる思いを放つ。開幕からは“生きて行く”、“オレンジ”、“恋をしよう”、“宣誓”といった楽曲を矢継ぎ早にプレイし、この日初のMCへ。まずは今回のライブが『人間なのさ』リリースツアーである関係上、このアルバムの楽曲を改めて聴くうちに当時頑張っていたこと、思っていたことを思い出す契機になったことを語ってくれ、約2年間この日を待ち続けてくれた観客に対して深いお辞儀で感謝を伝えていた。林はこのMCで何度か『人間なのさ』について「昔の曲たち」と語っていたし、正直なところ今のHump Backという意味では最新作『ACHATTER』が最も近いことだろうと思う。ただそうした中でも敢えて今回の振替公演のために過去の楽曲を練習し、届けてくれたことは本当に有り難い。


以降も気付けば始まり、気付けば終わっている性急さで楽曲を連発。開演前こそ「長旅で疲れただろうな」とか「翌日もライブだから抑え目にする可能性もあるかも」などと考えてしまっていたが、全くの杞憂。フルスロットルで駆け抜ける様は驚くばかりで、我々観客も何とかふるい落とされないよう必死に喰らいついていく。そのうちライブのハイライトとも言うべき一幕があるとすれば、それはきっと感動的なMCからの即興演奏→“番狂わせ”の流れだろう。


実は2020年に中止になったライブと今回のライブの間に、Hump Backはショートツアーとして一度ここAztic  Canovaに訪れている。その際「宍道湖は夕日が綺麗」との噂を聞きつけ、リハを打ち切って宍道湖へ向かうも曇り空で見えず、前乗りした昨日の夕方に、ようやく夕日を観ることが出来たのだそうだ。林はその時の光景について「ホンマに綺麗かった」と語ってくれ、また夕日を背にして自転車で帰宅する女学生や犬を散歩させているお爺さんらを見て「この町の人はこんな最高の環境で生活してきたのか……」と感動してくれたようで、そこから話は各自が考える『故郷』の存在へと流れていく。


ここから先は断片的な部分もあるし、はっきりと一言一句が正しい訳ではないけれど、林はまず「コロナもあるし、それ以外にもホンマに辛いこともあったと思う。でも(松江の宍道湖の夕日のように)『これがあったら!』って戻ってこれる場所も絶対にある。故郷って、自分が生きてきてる場所だけじゃない。それは音楽、ライブハウスだってそう。私にとってのチャットモンチーや大好きなバンドみたいに、みんなが昔出会ってずっと聴き続けてるバンド、ライブの思い出と同じで、この日を心の故郷にして忘れんとってほしい。そうすれば私らは絶対にまた会いにいくから」……。記憶は定かではないにしろ、林はこんなMCを語ってくれていた。そしてそれはきっと彼女自身がライブハウス、ひいては音楽に救われてきた実体験から来ているもので、ここまで彼女たちが見せてきた笑顔のパフォーマンスの理由にも、合点がいった次第だ。

 

Hump Back - 「番狂わせ(BANKURUWASE)」 Live ver. - YouTube


そうしてこれまでのMCの内容を即興の弾き語りとして聴かせた後、感動的に鳴り響いたのは新作『ACHATTER』からの“番狂わせ”。この楽曲で歌われるのは徹底してポジティブに振り切った人生讃歌で、どんなことがあっても前向きに方向転換を試みるような、オモロイ大人になりたいとの思いを込めている。それは決して簡単なものではないけれども、それこそこの日のライブような『心の故郷』があると考えれば、それで良いと思える。林とぴかは思いを体現するが如く時折ステージ前の柵に足を掛けたり、ポーズを決めたりして感情を露にし、汗だくで思いをぶつけていく。ふと周りを見渡せば全員が拳を突き上げていて、何というか、Hump Backが指示される理由に合点がいったような、そんな感覚にも陥った。


先程の感動的なMCの余韻が続く中披露された“ティーンエイジサンセット”でも、林は「若い子らはあん時が良かった、あん時に戻りたいって思うこともあるかも知らん。でも心に音楽の故郷があればええ。この場所にピッタリの曲や!(注:ニュアンスでの抜粋)」と宣言し、楽曲中には「おーい!お前らの歌やぞ!」「私らはずっとHump Backに、夢中やー!」と絶叫し、ライブ後半ながら興奮は一瞬たりとも途切れることはない。しかも心なしか観客もHump Backの熱も前半と比べて上昇している感覚すらあり、気付けば体を揺らしている自分にも気付く。長丁場のライブでは「セットリストをなるべく覚えておこう」「足の負担を考えて足のリズムキープをペースダウンさせようかな」などと感じてしまうものだが、そうしたことすら意識の埒外に追いやる最高の時間が、刻一刻と過ぎていく。

 

Hump Back - 「ティーンエイジサンセット」Music Video - YouTube


“クジラ”を終えると、この日何度目かのMCへ。まずはHump Backの直前にライブを行った盟友・THE FOREVER YOUNGのボーカルであるクニタケヒロキがライブ中、ひたすら拳を突き上げるひとりのファンを指して発した「何か凄い盛り上がっとる人おるっちゃけど。俺らの事知っとう?後で100円あげるわ」とのMCを話題に出しつつ、以前歌舞伎町でクニタケとセブンイレブンに行った時の一幕について暴露。ふたりは何かしらのアルコールを購入するためにセブンイレブンに向かい、林は当時ハマっていた男梅サワーを購入しようとするも、クニタケからセブンイレブンオリジナル商品の100円程のチューハイを「こっちの方が安くて酔えるからコスパが良い」と勧められ、結果ベロベロに泥酔したという思い出を笑いながら語ってくれ、続いて熱いメッセージが込められたMCへと雪崩れ込む。


ここで語られたのは、2年ぶりに開催された今回のツアーへの熱い思いだった。林は2年前のチケット発売時はフルキャパ(250人規模)での開催を予定していたことに触れ、結果コロナの影響によりキャパが50人まで減少したフロアを見ながら、こう語ってくれた。「声も出せへんし、モッシュも出来へん。でもこんな状況やけど、心から楽しむことだけは何にも制限されてへん。世の中いろんな人がおるけど、ライブハウスは全部受け入れてくれて、どんな楽しみ方してても指さされることはない。みんなもホンマは不便だと思うし、昔と比べていろいろ思うことはあると思う。でもそれはライブハウスを守るため、心の故郷を守るためやと思ってほしい。ライブハウスを守ってくれて、本当にありがとうございました」……。深々とお辞儀をしたメンバーを見て、ある種合点がいった。おそらく彼女たちは今もロックと出合った学生時代の時から何も変わらず、ただひたすら音楽を楽しみ、またライブハウスを好む青春時代を生き続けているのだと。

 

Hump Back - 「僕らは今日も車の中」 Music Video - YouTube


そうして鳴らされたのは、今回のツアーのタイトルにもなっている歌詞が入れ込まれた“僕らは今日も車の中”。歌われる内容はもちろん、機材車に乗りながら全国を旅する彼女たちの『いつも通りの日常』である。眠い目を擦ってライブ会場に向かい、音楽を鳴らして、また次の町へと繰り出す。それは決して収入面の確保のためだけではない。その町にHump Backの音楽を求める人が少しでもいるなら赴くし、何よりロックに心震えたあの頃からある意味では取り憑かれてしまった、自分たちの欲求に素直に従った結果なのだ。だからこそ世の中が大きく変わっても、彼女たちは音楽を作ってこうして地方都市にまでも車を走らせてくれた。そしておそらくこの最高な循環は一生涯続く。それこそが『僕らの夢や足は止まらない』ということなのだから。

 

Hump Back - 「拝啓、少年よ」Music Video - YouTube


10代の頃に作ったとする“いつか”を挟み、ラストソングとして披露されたのは『人間なのさ』におけるリード曲のひとつ“拝啓、少年よ”。正直その後のアンコールはあると思っていたし、これまでの1時間が秒速で過ぎ去っていた感覚があったため演奏終了後には「いつの間にこんな時間に?」と驚いた感は否めなかったが、この楽曲が結果として正真正銘、最後の楽曲だった。だがふと思い返す。彼女たちは最初から最後まで全力で突っ走っていて、アンコールをやる必要すらなかったことを。林はこれまで以上に突発的な叫びを繰り返し、ぴかは何度もステージ前に進み出てのパフォーマンス、美咲も2番に突入した直後、林がギターをスライドミュートするのと共に首を捻らせるなど、全身全霊というよりは明らかに楽しみが上回っている最高のステージングに終始。つまらない日常も過ごすのもひとつの選択ではあれど、どうせ生きるなら全力で、楽しい方に向かって進もうという力強い意思が、この楽曲には強く込められていたように思う。


客電が落ちた後、集まった観客たちはスタッフからライブ終了のアナウンスがあるまでずっとアンコールを求める手拍子を続けていたが、これこそが此度のライブの素晴らしさを示す、最終的な証明のひとつだった。少しネガティブなことを言うようで申し訳ないけれど、正直コロナが蔓延し出した頃からライブハウスは苦境に立たされている中でそれこそここ数日間はアーティストの感染報告も相次いでいて、我々一般市民にもいつ罹患してもおかしくない状況に陥っている点では、ライブシーンとして過去最悪の時期に陥っていると言っても過言ではない。ただ彼女たちはそんな中でも中断されていたライブツアーを再開し、思いを直接届けてくれた。これまで大きな会場をパンパンにしてきた身でありながら、キャパ50人の地方都市を選んでくれた……。どれだけ感謝してもし切れないが、本当に有り難い。


ライブ終了後、「この状況がもしも自分が逆の立場だったらどうするだろう」と何度も考えた。例えば自分がアーティストでこの状況で全国ツアーを回ろうと思ったとき、キャパ50人しか入らず車で何時間もかかるような会場に、直接足を選ぶだろうかと。いくら自問自答しても、その答えは何度考えてもNOだった。何故なら東京近郊でホールを借りてキャパ100%のパンパンなライブをした方が採算が取れるし、たとえライブハウスを選んだとしても都市部と島根では収容人数に雲泥の差があるからだ。故に「じゃあやるとしても島根じゃなくて隣の広島にしようか」とか、そうした考えはいろいろな意味でも正しい。だからこそこの2年間、多くのアーティストが島根県を会場に選ぶことは少なかったのだと思う。


だが、島根県に住んでいるライブキッズはそうも行かない。例えば僕なんかがそうなのだけど、高齢の両親と住んでいたり、田舎特有の狭いコミュニティがことライブに関しては完全にネガティブな方面にしか向かわないから。「遠征は絶対にダメだからせめて島根県内なら」「もし行ってコロナになったらどうするの」「本当に今行かんといけんの?」……。この日もそうした言葉を何度も親や友人に言われながら参加をした。理由はただひとつ。少なくとも音楽を愛する人にとって、音楽は、ライブは不要不急ではないと判断したためだ。だから逆に、今回チケットを持っていながら参加を諦めた人の気持ちもよく分かるつもりだし、そして何より、こうした中で島根に来てくれたHump BackとTHE FOREVER YOUNGのメンバーには本当に感謝を伝えたいのだ。


確かに制限もある。ふとかつてのライブと比べてやるせなさを感じてしまうこともある。でもこんな素晴らしいライブを観ることが出来るのなら、どんな辛い生活でも耐え忍んでいけることを確信した夜だった。きっと彼女たちはこれからもキャパシティに関わらず全国各地を飛び回り、島根県にもまた訪れてくれることだろう。それまで我々はその時が訪れたら是非ともフルキャパで迎えられるよう、最高の場所を守り続けることをここに約束しようではないか。泥臭くても、前へ。どんな状況であってもへこたれない、そんなポジティブな感情をこの日、強く感じることが出来た。


【Hump Back@松江Canova セットリスト】
LILLY
生きて行く
オレンジ
恋をしよう
宣誓
Adm
サンデーモーニング
ナイトシアター
〜即興楽曲〜
番狂わせ
ティーンエイジサンセット
短編小説
クジラ
僕らは今日も車の中
いつか
拝啓、少年よ