こんばんは、キタガワです。
『万引き家族』の是枝裕和監督、そして『パラサイト 半地下の家族』の主人公役として抜擢されたソン・ガンホがタッグを組んで制作されたのが、今作『ベイビー・ブローカー』。カンヌ国際映画祭でもノミネートされたりと話題沸騰中のこの映画は結果何というか……。心のどこかを突き刺しにかかるような、不思議な雰囲気を纏った映画だった。
印象的なタイトルの通り、『ベイビー・ブローカー』は赤ちゃんの人身売買を題材にした物語。ある日とある女性が赤ちゃんポストに子どもを入れるが、その職員はよもやの人身売買の商人で、翌日からなるべく高い値段で売り手を見つけようと動き出す。しかし彼らにとって誤算だったのは、母親が翌日赤ちゃんが連れ去られたことに気付いて、彼らに直接迫ったことだ。「どうせ売るなら私も連れて行って。なるべく高い値段で買わせて」と語る母親を連れて、彼らは4人で買い手を探しに奔走する……というのが、今作の簡単なあらすじである。
まず大前提として、この作品を語るではほぼほぼ『万引き家族』の既視感は必ずついて回ると思う。『万引き家族』が好きな人は『ベイビー・ブローカー』も好きだし、また逆も然り……という、単純に制作監督が同じなことによって起きやすいあるあるだ。ただ『万引き家族』が生活困窮で仕方なく万引きをしていた偽家族だとするなら、こちらは更にディープ。何故ならこのグループは加害者と被害者が、ほぼWin-Winで行動を共にする家族でも何でもない関係性なのだから。
そんな歪な彼らがいつしかひとつの家族として距離を縮めていく流れは、まさしく唯一無二。この点に関しては『万引き家族』と比較してもこちらの方が好み、という人は決して少なくないだろうし、作りとしても良く出来ていた。こうした雰囲気重視の作品にありがちな冗長な感じも然程なかったので、この点を鑑みればかなり評価は高くなることだろう。重苦しい展開になると思いきや意外にキャッチーなのも◯。
けれども物語を詰めすぎたのか、はたまた余韻を残したかったのか……。映画を見終えて「あの人どうなったの?」「あの展開からどう転んだの?」とする疑問が噴出した部分は明らかなマイナスだろう。想像の通り、曲がりなりにも犯罪に手を染めている関係上、この話がハッピーエンドで終わることはない。そのため重要なのはその果てに描かれる後日談にあるように思うのだが、こと今作に関しては明かされない事実があまりに多い印象を受けた。確かに最後にフワッと終わる手法は映画の良い締め方としてあるあるになってもいる訳だが、それはあくまで大事な部分が一箇所程度だからこそ成立する。それが「◯◯さん逮捕されたよね」→「じゃあ子どもはどうなるの?」→「そもそも他の人の描写足りなくない?」といろいろ疑問が積み重なることは、やはり悪手だったのかなと。
ただ、この作品には他の映画にはない魅力がたっぷりと秘められている。目は口ほどに物を言うとはよく言ったもので、全体を包む無言の意思というか、何も言わずとも目の動きでYesとNoが分かる没入度は、実は韓国映画としては稀有だったり。そもそも赤ちゃんの売買というあまりにダークな世界をこのオチでまとめた脚本だったり……。『母と父の行為によってこの世に産まれてしまった』という、悲しき幸せと葛藤を描く『ベイビー・ブローカー』。一体何が正解だったのかは、この映画を観た誰もが分からないはず。
ストーリー★★★★☆
コメディー★★★☆☆
配役★★★★★
感動★★★☆☆
エンタメ★★★☆☆
総合評価★★★★☆