キタガワのブログ

島根県在住のフリーライター。ロッキン、Real Sound、KAI-YOU.net、uzurea.netなどに寄稿。ご依頼はプロフィール欄『このブログについて』よりお願い致します。

映画『怪物』レビュー(ネタバレなし)

こんばんは、キタガワです。

思えば『万引き家族』のパルムドール獲得を機に、是枝裕和監督の名前を聞くことが明らかに多くなった。他にも『三度目の殺人』、『ベイビー・ブローカー』、『海街diary』と、いつしか映画を出せばその分ヒットを飛ばす強打者として、日本映画を語る上で欠かせない人物となったのは言うまでもないだろう。

そんな彼が今年送り出したのは『怪物』と題された作品で、カンヌ国際映画祭で脚本賞を受賞、今年3月に急逝した坂本龍一が音楽を担当するなど、公開前からにわかに注目されていたヒューマンミステリー。脚本には『花束みたいな恋をした』で知られる坂元裕二を、中心人物には『万引き家族』でも存在感を放っていた安藤サクラ他、豪華俳優陣がキャスティングされており、力の入りようが伺える。

物語の舞台は学校。中学生の息子を持つシングルマザーの安藤サクラはある日、息子が担任の先生にイジメられていることを知る。イジメは増々エスカレートする中、安藤は直接学校へ意見を言うため訪問。ただそこにあったのは組織的な隠蔽体質で、イジメの張本人である教師はもちろん、ほぼ全員と話が通じない。一方、一向に解決しない状況の裏では息子が何かの計画を企てていて、学校側には何かの思惑が見え隠れ……と、あらすじとしてはこのような感じになるだろうか。

大前提として、この『怪物』は主人公クラスの人間が複数存在する。確かにはじめの物語こそ安藤サクラ視点ではあるが、そこからはイジメをしていた教師→校長先生→息子と視点が変わっていき、ストーリーを全く別の方向から解き明かす流れで、これが本当に秀逸なのである。

詳細はネタバレになるので省くが、ここで本編とは全く関係のない話として「運送の仕事に行く途中でスピード違反をしてしまった!」の一例で考えてみよう。この話はおそらく、取り締まった警察官だけで見れば「はいスピード違反ね。減点ね」という淡白な話で終わるだろう。ただ本人としては睡眠不足で、急いでいて、朝から子どもとケンカしてたし……と、様々な要因が重なってのことだったりもする。同じように、運送会社の社長は「スピード違反?じゃあクビにするか」と思った結果運転者は職を失い、毎日酒に溺れるようになる。要はこれひとつだけを切り取っても様々なバックボーンと影響があるものなのだ。

当事者Aの車がスピードを超過する

警察官Bがそれを発見

上司Cが事件を知り、Aをクビにする

Aは毎日酒浸りになる

ここまでの話を要約するとこうなるのだが、ここで『怪物』は更に踏み込んで、もうひとつの可能性を我々に与える。それは『スピード違反は本当に偶然で起こったのか?』というものである。……上司Cが車に細工をした可能性は?警察官Bはスピード違反を起こすのを知っていたのでは?もしかしたら、酒浸りにさせるために近所の誰かが企んだのかも?などなど。そして思う。もしもこうしたことを考える人間がいるとすれば、そいつはまさに『怪物』なんじゃないか。

もちろんこの話はネタバレ回避のフィクションだけれど、この映画の『怪物』における「自分の息子が担任からイジメを受けている!」という話は、まさにこれに該当する。裏に一体何があったのか、それを紐解いていくのが痛快すぎるのだ。是枝監督あるあるの話の輪郭をぼかす点は賛否が分かれるだろうが、それでもこの体験は映画でなければ作れないと思う。本当の怪物は一体誰なのか、その正体はあなたの目で確かめてみてほしい。

ストーリー★★★★☆
コメディー★☆☆☆☆
配役★★★★☆
感動★★★★☆
エンタメ★★★★☆

総合評価★★★★☆(4.0)

映画『怪物』予告映像【6月2日(金)全国公開】 - YouTube