こんばんは、キタガワです。
1階も2階も特別席も、とにかくありとあらゆる場所が人で埋め尽くされたあいみょん史上最大規模となる全国ツアー。老若男女問わず、カップルも子供連れも。果てはプラカードを掲げた熱心なファンも全身全霊で抱き締めたこの日のライブはズバリ、あいみょんが愛され続ける理由をあまりにも直接的に伝えていた。すっかり国民誰しもが知るアーティストとして君臨した彼女が魅せた2時間半の軌跡は、紛れもない彼女のシンデレラストーリーの裏付けだった。
ステージに足を踏み入れると、そこはコロナ禍と言えどこれまでのライブ風景と何ら変わらない光景があった。X,Y、Zなどに割り振られたフロアにはパイプ椅子が敷き詰められていて、後にあいみょんが「こんなパンパンな会場でライブするの久し振りやなあ」と語っていたようにキャパシティは100%に近い。ステージは未だ薄暗くその全貌を窺い知ることは出来ないが、特徴的なのは左右にふたつ聳える大型モニター。そこには『AIMYON TOUR 2022』や『まある』といった文字がその名の通りゆっくり回り続けていて、今回のライブにちなんだ形になっていたのも面白い。
ライブの幕が切って落とされたのは、定刻を3分ほど過ぎた頃。まずはqurosawa(G)、八橋義幸(G)、井嶋啓介(B)、山本健太(Key)、伊吹文裕(Dr)、朝倉真司(Per)らサポートメンバーの面々が暗がりの中から姿を表し、観客の興奮をゆっくりと高めていく。この時点で空いているスペースは中心にあるあいみょんの立ち位置だけで、皆固唾を飲んで中心人物が来るのを待っている。そしておそらくあいみょんであろう真っ黒なシルエットの人物がその地点に立った後、その立ち位置の周りを真っ青な照明が囲んでいき、突然明点。そこにいたのはオレンジのTシャツに茶色のツナギを着たあいみょんその人で、真っ白の照明が激しく点った瞬間、1曲目となる“マシマロ”に雪崩れ込む。
あいみょん - マシマロ【OFFICIAL MUSIC VIDEO】 - YouTube
ロックバンド然とした爆音の中、まるで漫画の主人公の如き存在感でステージを練り歩くあいみょん。その姿にある種の現実感のなさを抱いてしまうのは、これまで彼女の姿をテレビやMV越しにしか観測していなかったためだろうか。けれども時折手拍子を要求して笑顔を振り撒くその姿を目に焼き付けているうち「これまでテレビで観ていたあいみょんが目の前にいる」という遅効性な感動となって襲い掛かってきて、サビに突入する頃にはこの光景を『現実』として理解した誰もが大盛り上がり。1曲目にして圧倒的な興奮を生み出していた。
この日のライブはあいみょんにしては珍しく、アルバムをリリースしていない状況下で行われるもの。故にそのセットリストに関しては多くの期待が寄せられていた筈だが、結果としては既存の大ヒット曲をほぼ網羅、更には活動が長くなるにつれて現在ではライブで披露されることが少なくなった“○○ちゃん”や“ジェニファー”などレア曲をも随所に配置した、ひとつのベストアルバムのようなセットだった。というより、彼女が作る楽曲すべてが通常あり得ないレベルの名曲だから全曲で盛り上がった……。その証左を、はっきりと見せ付けられた感覚すらある。
あいみょん - マリーゴールド【OFFICIAL MUSIC VIDEO】 - YouTube
さて、リリースする楽曲が都度大ブレイクを果たすあいみょんならではの乙な楽しみ方として、代表曲が一体どのタイミングで鳴らされるのか、というワクワク感もある。実際人気曲たる“マシマロ”が早い段階で披露された時点で「おお!」となったものだが、ここからはまさかの“桜が降る夜は”、“マリーゴールド”、“今夜このまま”といった代表曲を連続ドロップ!特に感動的に映ったのはやはり“マリーゴールド”で、実際のマリーゴールドの花を体現した黄色の照明で彩られる中、アコースティックギターで軽やかな歌声を響かせるあいみょんにじっくり浸る幸福な時間だ。これまで何度も何度も聴いた楽曲が大舞台で鳴らされるとここまで涙腺が緩むものかと改めて気付いた他にも、ふと周囲のファンを観るとマスク越しに歌っていたり、子どもがピョンピョン飛び跳ねながら楽しんでいたりして、とても嬉しい気持ちにもなる。
あいみょん – 今夜このまま 【AIMYON TOUR 2019 -SIXTH SENSE STORY- IN YOKOHAMA ARENA】 - YouTube
“今夜このまま”が終わると、この日初めてのMCへ。あいみょんのMCは彼女がボケとツッコミを繰り返す形で結果長尺になることでも知られており、この日も彼女は自分の服装やマツダスタジアム、今日来たファンのジャンル(カップル・母と子・男友達同士など)についてキレ良くツッコミながら、感覚でトークを継続。その後は今回意味深な『ま・わ・る』と題されたツアーを敢行したことについて、全国各地を『回る』意味合いと、なかなかライブに赴くことが出来ないファンに『自分から会いに行く』という意味合いが込められていると語り、改めてこの場に集まってくれたファンに感謝を伝えてくれた。そして特筆すべきは今回のMCのために導入された特殊アイテム・双眼鏡を使用するコーナーで、異常な倍率までアップに出来るというこの双眼鏡を使いながら、集まったファンの顔をドアップでモニターに映し出すあいみょん。ステージの端にいる男友達をアップにして「ありがとー!」と喜び、2階席のカップルには「大丈夫?休みの日にライブ来て。もっといろいろ行きたいとこあるんちゃうん?」、カープの帽子を被る人には「カープや!やっぱええなあ!後ろでタイガースの服来てる人に関しては何やねん」などなど……。他にも『ネイル見せて』とプラカードを掲げる人にネイルを見せたり(グリーンアリーナにちなんで緑色)、『LINE教えて』に「誰が教えるかあ!」下を向いた中年男性に「今ちょっと油断しとったやろ!」と物凄い勢いでズバズバ切っていくあいみょんが面白い。あいみょんは「これ私ずっとやっちゃうねんなー」と語っていたけれど、本当にMCの時間の大半をこのコーナーに割いていた。まさしく抱腹絶倒の名コーナー。今後のツアーの参加者は是非楽しみにしてもらいたいところだ。
あいみょん – 初恋が泣いている 【very short movie】 - YouTube
以降もライブは猛然と続いていく。ラストのタイミングを間違えるハプニングに拍手が巻き起こった“プレゼント”、特徴的なシンセサウンドが体を揺らした“テレパしい”、可能性を模索する日々で未だ見ぬ愛を希求する“愛を知るまでは”、更には現状ショートバージョンのみ公開されている新曲“初恋が泣いている”のフル……。佳曲も新曲もシングル曲もがごった煮された挑戦的なセット全体を見ても、彼女は特段珍しいことはしていない。ギターを弾いて渾身の歌を届ける、無骨に振り切ったパフォーマンスである。そしてその1曲1曲が圧倒的な興奮を携えていたのは言うなれば歌の力の凄まじさを意味していて、『あいみょんがあいみょんの歌を歌う』というただそれだけのシンプルさにも、どれ程彼女の歌が高水準で愛されているのかを雄弁に伝えていた。
ここまで実物として存在するあいみょんと、左右のモニターに映し出される姿を観ながら楽しんでいたライブ。その流れが少しばかり変化したのは、背後に出現した4面のスクリーンが抜群の映像効果をもたらした“鯉”から。アッパーな曲調に合わせるように、VJには赤と青、若しくは白と黒を貴重とした映像が流れ続けるホールならではの演出が楽しい。広島における代表的球団・広島カープが通称『鯉』と呼ばれているのは地元民にとってのあるあるだけれど、そんな広島で“鯉”が鳴らされているのもまた印象的だ。続く“スーパーガール”と“愛を伝えたいだとか”でも同じくスクリーンを用いた演出が視覚的に楽しませてくれ、ともすればダレることも少なくない中盤を上手く完結させる。
あいみょん - 裸の心【OFFICIAL MUSIC VIDEO】 - YouTube
「新しい曲を作るたびに昔の曲を聴き返すことがあるんやけど、今の自分じゃ書けへんと思う曲もたくさんあって」との一言から鳴らされた“○○ちゃん”からは、ゆったり聴かせるバラード・ミドルチューンを連発する一幕へ。ここでも“生きていたんだよな”はドラムとあいみょんのコンビで進行したり、“裸の心”は必要最小限のミニマルな構成だったりと、原曲とはまた一味違うアレンジが光る。周りを見るとこれまで長らく立ちんぼだったファンが座りながら鑑賞する姿も見えたが、自分の好きな形でピンスポに当てられたあいみょんを観ながらしっとりと没入出来る……この最高の環境は、やはり生ライブの特権だなと思ったりも。
あいみょん - 夢追いベンガル【OFFICIAL MUSIC VIDEO】 - YouTube
purosawaが歳が近いにも関わらずタメ口を使わない問題、伊吹のドラムセットにあいみょんがあげたキャラクターが乗っている問題などメンバー紹介のオモシロMCを挟み、以降はクライマックスへと導くアッパーナンバーの連続!ひとりひとりにとって大好きな曲は異なるのは当然として、特筆すべきは背中に“AIMYON”と書かれた特注カープTシャツを着たあいみょんが動き回って歌唱した“夢追いベンガル”のパフォーマンス。半月状に作られた花道を無邪気に疾走しながら歌声を届けていくあいみょんの笑顔がモニターにすっぱ抜かれるたびに強い感動が迫ってきたが、中でもウルッときたのはファンの表情で、おばあちゃんも子どもも関係なく会場の誰もが全身全霊で楽しんでいる光景は、本当に愛おしい。あいみょんはそんなファンの期待に答えるべく、ステージを右から左へと縦横無尽に駆け抜け、果ては右端と左端の一部が変形して上昇→2階席に至近距離で手を振っていき、バッター・あいみょんがエア野球でかっとばす最高のラストでキメ。コロコロと表情を変えながら歌い終わったあいみょんの笑顔は、名状し難い喜びに満ち満ちていた。
あいみょん「貴方解剖純愛歌 〜死ね〜」LINEで作ったリリックムービー - YouTube
そしてライブは“貴方解剖純愛歌〜死ね〜”から“君はロックを聴かない”の最強コンボで、終盤イチの盛り上がりに。ひとつはインディーズ時代のあいみょんが世に出たきっかけとも言える楽曲であり、対してもうひとつはNHK紅白歌合戦でも披露された運命的な代物。故にこれらの楽曲からあいみょんを聴き始めた人もきっと多いはずだ。必然盛り上がりは最高潮に達しておりどことなく安心感さえ覚えるほど。と同時に思ったのは、あいみょんは一足飛びにスターダムを駆け上がったのではなく、愚直に音楽活動に邁進してきた結果この立場があるということ。総じて彼女の真摯さにも触れることが出来た重要な2曲だったように思う。
この時点で多くのファンが察していた通りもうじきライブは終わってしまう。のだが、ここで改めて長尺のMCにトライする我らがあいみょんである。あいみょんは再び双眼鏡を手にすると先程以上にゆっくり会場を見渡し、ステージの一番後方にいるファンにも柔らかく接していく。ただそれだけでは終わらないのがあいみょんらしさで、後ろにある『生もみじ にしき堂』の甲板を上手く使って「それミート&ミートのタオルやん!えっと……生もみじの生のとこの女の子!」や「にしき堂の堂のとこのカップル」など分かりやすい表現を多様。そのたびカメラに抜かれたファンが皆一様に大喜びするのも感動的だ。最後まで双眼鏡を活用したあいみょんいわく、この双眼鏡を使ったアーティストは現状自分ひとりだとして「これからライブで双眼鏡使った歌手がおったら、私のパクリやと思ってください」とドヤ顔。
あいみょん - 双葉【OFFICIAL MUSIC VIDEO】 - YouTube
あいみょんのライブではアンコールは基本的に行われない。正真正銘最後に披露された楽曲は、先日放送されたNHK番組『18祭』でも感動を巻き起こした“双葉”だ。この楽曲は現在18歳で今後大人になっていく若者に向けて綴った楽曲で、またコロナ禍で満足な学生生活が送れなかった若者に対してのエールでもある。かつて“19歳になりたくない”という楽曲をリリースした程に『大人』になることへの不安を抱えていたあいみょんが、大人になることへの希望を歌う……。そのことにはきっとあいみょんにしか知り得ない、大きな意味があるのだろうし、会場内に響き渡る《悲しみなんかは 気づけば雨になる/心耕し 花が咲くまで/可愛く揺れなよ 双葉》のフレーズ。あいみょんが歌うからこそ価値のある強いメッセージは、最後に温かく会場を満たしていった。
かくして時間にして約2時間半、最高のライブは幕を閉じた。が、特注のお好み焼きのヘラを持ちつつ「どうも生あいみょんですー」「(子どもを観ながら)大きくなっても来てなー」など、あいみょんは“双葉”を歌い終わった後も終わってしまうのを寂しがるように双眼鏡を使って客席を見渡していた。「初めて来る人は知らんかもしれへんけど、私終わってからが長いねん」と彼女は語っていたが、それも応援してくれるファンへの感謝を具現化したものなのだろう。
確かにこれまであいみょんの活動をテレビなどで観ていて「愛されてるなあ」と感じてはいた。しかしながらこの日実際に彼女のライブに参加して気付いたのは、我々があいみょんを愛するように、あいみょんも我々ファンを愛する双方向的な関係性が築かれているということだった。これほどの信頼感を見せ付けられては、もう断言するしかない。今のあいみょんは無敵であると。……余談だがライブ終了後、宿泊先のホテルに戻るとそこは今回のライブに参加したファンで一杯で、中には全通しようと試みるフィリピンの人やカップル、友人同士など千差万別。本当に多くの人に愛されているあいみょんの次の歩みを楽しみにしながら、僕はあいみょん談義に参加した。素晴らしいライブをありがとう。
【あいみょん@広島グリーンアリーナ セットリスト】
マシマロ
桜が降る夜は
マリーゴールド
今夜このまま
プレゼント
テレパしい
愛を知るまでは
初恋が泣いている(新曲)
ユラユラ
鯉
スーパーガール
愛を伝えたいだとか
○○ちゃん
君がいない夜を越えられやしない
生きていたんだよな
ひかりもの
裸の心
ジェニファー
ふたりの世界
夢追いベンガル
貴方解剖純愛歌〜死ね〜
君はロックを聴かない
ハート
双葉