キタガワのブログ

島根県在住のフリーライター。ロッキン、Real Sound、KAI-YOU.net、uzurea.netなどに寄稿。ご依頼はプロフィール欄『このブログについて』よりお願い致します。

泣かないでロストボーイ

前略、この話(友人をふたり亡くした話)の続き。

ライブが終わったその足で、僕はリョウと会った。大学を卒業してからリョウは東京にそのまま残り、対して僕は地元島根県にUターンしたのでもう長いこと会ってはいない。けれども風の噂でリョウが数日ほど地元に帰省すると耳にした僕が飲みに誘って……という、まあ特段どうこう言うこともない流れで実現に至った次第である。……リョウとの飲みの場は、基本的に家の近くにある大衆居酒屋と決まっている。これは単に互いの家が店から徒歩圏内とする利便性の高さもあるが、純粋に様々な居酒屋やバーをふたりで行き尽くしてしまったことが大きい。なもんで「結局はせんべろでもふたりで飲めりゃ良いよね」精神で行き着いたのが、この安居酒屋だった。

店に入って適当なテーブルに着くと、取り敢えず同じく適当な感覚で生ビールをふたつ頼んで暫し談笑。と言ってももう15年程の付き合いになるので話すこともなく。バイトはどうだとかゲームは変わらずしてるかとか、つまらない話を延々とする。彼は僕とは対照的に酒をほとんど飲まない。以前東京の彼の家に居候していたとき、毎日ビールを5本飲む僕を本気で心配していたレベルで彼は飲まない。そんな思い出を引き合いに出しながら、更に酒は進む。店員さんが持ってきてくれた唐揚げの味も分からなくなるくらい、それはそれは猛烈に。

ビール、ハイボール、ビール、ハイボール……と行ったり来たりしているうち、話はどんどんと紡がれていく。彼は基本的に人の話をしっかり聞いて意に沿った言葉を返す、という出来た人間性をしているので、トークも無駄がない。完全に泥酔状態になった僕はうわ言のように何やら喋り続ける対比もまた、授業中にアジカンの話をしまくって授業が終わったりした十数年前の頃と同じである。久方振りの邂逅のムードもへったくれもないけれど、それでもまたこうして会えることが嬉しかった。

いつの間にか話は変遷し、いつもの音楽の話になる。僕には泥酔すると自分が主導権を握ることの出来る話を捲し立てる悪癖があって、それはさも相手の話を聞くようでいてその実自分のターンになると倍喋る質の悪いものだが、こと飲みの場においてそれは決まって音楽だった。彼はボカロマニアなので最近オススメとする音楽を聞いてほうほうと頷きつつ、今日のライブの個人的感想と、これまで東京で一緒に行ったずとまよや集団行動らの話で盛り上がる。しまいには「僕らがあん時観ちょったバンド全員売れちょーなあ」などと、音楽評論家気取りの言葉を吐いたりもして。

そして最後に、かつてふたりで観に行ったamazarashi武道館の話。当時の僕らは互いにどん底で、僕は夢を追い続けてはいるものの芽が出ない日陰者、リョウは日々の時間を憂鬱な自問自答に費やしていた。実際前日に観に行った他のライブもフワフワとした感覚で終わってしまっていて、「せっかく誘ってくれたけど楽しめんかったらごめん」と予め前置きされていた程だ。でもふたりともがライブを観て大粒の涙を流したあの日をきっかけに、人生の動きが変わった気がする。僕は夢を諦める決断をして正社員になり、リョウは鬱を脱して前向きになった。それが良いか悪いかはわからないが、全部僕らには必要なことだったのだと今なら思う。

数時間後、したたかに酔った僕らは帰り支度をする。まだ残っているビールを一気に飲みながら、金額を確認して適当に割る。居酒屋では僕が少し多めに出し、またどこかの店で代わりにリョウが奢ってくれてトントン、というのもいつも通り。この日は僕が多く飲んだものの数ヶ月前の焼肉のこともあって、ほぼ同額でお開きになった。「じゃあ出るかー」と千鳥足で帰ろうとした僕らに、店員さんが声をかける。「すいません!ウーロン茶の注文忘れてて、今お持ちしました!」……。僕らはヘラヘラ笑いながら、やっぱりもう少しだけ居座ることにした。

amazarashi 『ロストボーイズ』Official Video - YouTube