キタガワのブログ

島根県在住のフリーライター。ロッキン、Real Sound、KAI-YOU.net、uzurea.netなどに寄稿。ご依頼はプロフィール欄『このブログについて』よりお願い致します。

【ライブレポート】石崎ひゅーい・崎山蒼志『10th Anniversary TOUR「、&」』@大阪BIGCAT

こんばんは、キタガワです。

 

「もうそんなに経ったのかあ」という感慨深い思いは、会場に着いた瞬間、集まった観客の笑顔がはっきりと示していた。石崎ひゅーいのメジャーデビュー10周年を記念して開催された今回のツアーは、全国3箇所で尾崎世界観、崎山蒼志、あいみょんの3名を迎えて行われる、これまでの活動の総括とも言える特別な代物だ。ツアー中日となるこの日のゲストは、最近20歳を迎えたギター少年・崎山蒼志。先輩後輩のふたりが織り成すライブは、一体どのようなものなのか……。それを見届けるため、木曜日のド平日には異例の、大勢のファンが大阪に詰めかけた。

今回の会場となる大阪BIGCATはコロナ禍では珍しく立ち位置テープが貼られていない、見た目的には本来のライブハウスの様相。そんな中で頻りに飛んでいたのは「皆さん一歩ずつ下がって間隔を空けてください!」という、これまた珍しいアナウンス。ちなみに石崎の判断によりアルコール販売は禁止され、手指消毒も義務化となったこの日、ファンは全員ルールを守りながらビシッと対応。石崎ひゅーいファンの民度、素晴らしい。

マムフォード・アンド・サンズのBGMが会場に流れ続ける中、ライブは定刻ジャストに開演。穏やかなSEに誘われてギター、ベース、キーボード、ドラムのサポートメンバーが登場する。本来ツーマンライブと言えばゲストが先行、主催側(今回でいう石崎ひゅーい)が後攻、という形が通例。そのためてっきり先行は崎山蒼志だと思いこんでいたが、何と遅れてステージに登場したのは石崎ひゅーい(Vo.G.Harp)その人。後ろの方で観ていたファンの中には「えっ!?」と声を上げながら前に進む姿も見られ、早くも驚きのスタートだ。

 

石崎ひゅーい - ピーナッツバター - YouTube

1曲目はなかなか始まらず、数分間の間SEが流れるのみの緊張した空間が続く。そしてそんな空気を切り裂くように、《あせんな平凡な毎日が 凡人を天才にするから》と歌い出した瞬間、点と点が線になった感覚があった。そう。1曲目はセカンドフルアルバム『花瓶の花』でも1曲目に冠されていた“ピーナッツバター”だ。最初こそ石崎によるアカペラモードだった中で、その後は一気にバンドサウンドに変貌した“ピーナッツバター”。石崎は倒れそうで倒れないマイクスタンドをぐわんぐわんと動かしながら、力強く熱唱。あまりの興奮に手を挙げるファンには手を振り返すサービス精神旺盛な感も、観ていてとても頼もしい。

先述の通り、この日のライブは彼の10周年を祝うものとして開催されたものだ。そのためセットリストについてもキャリア総括の意味合いが強いものとなり、これまでリリースした様々なアルバム、提供曲からセレクト。ベスト盤よりもベストな極上セトリで、一気に駆け抜けた2時間だった。

 

石崎ひゅーい – さよならエレジー - YouTube

“ピーナッツバター”後は挨拶も特になく、チューニングも水分補給もなしで楽曲を連発。そのうち前半のハイライトだったのは知名度的にも「待ってました!」の興奮的にも、菅田将暉に楽曲提供した“さよならエレジー”だろう。音量をかなり上げたフォークギターが印象深い“さよならエレジー”は、まずギターリフからの盛り上がりが凄まじく、まだライブ前半でありながら観客の心を完全に掴む1曲と化していた。確かにこの楽曲をきっかけにして彼が広く認知されるようになったのは間違いないけれど、やはり彼が歌うと『石崎ひゅーいの曲』になるのだなあと実感。

しかしながらMCになると一転、とてつもなくひ弱なイメージになってしまうのは石崎のライブあるある。「あ、石崎ひゅーいです……」と小さな声で語り出した彼の言葉は声を張る訳でもない、本当にボソボソとした喋り口でその対比が面白い。「今日は10周年ということで、別にあの……シンプルにお祝いというか」と彼は語っていたけれど、この日はまさしくその通りで。彼にとっては「10年の節目だからこのライブをやったよ」という以外のことはあまり考えておらず、あくまでひとつの区切りとして、この日を迎えていることが分かった。

 

石崎ひゅーい - 夜間飛行 - YouTube

そのMCが予告したように、以降はこれまであまりライブでは披露されなかったながらも、おそらく石崎的にはとても思い出深い楽曲を連続投下。中でも「大阪の皆さん、君たちの歌だよ」と意味深な発言から始まった“ダメ人間”はエンタメ性抜群で、自分自身のダメな性格を《ダメ人間なんだよ》とポップに自虐する様はもちろん、中盤ではドラムのサポメンが静まり返った会場で「頑張れー!ダメ人間ー!」と絶叫→そこから改めて“ダメ人間”に戻るというアレンジも爆笑モノ。個人的にはこのシーンで思わず歓声を上げてしまったファンに対して、石崎が唇に指を当てて真剣に静止していたのが、何だかとても嬉しかった。いろいろ制約はあるけれど、そんな中でも楽しませようとしているんだなあ、と。

今回のライブを一言で例えるとすれば、それは『没入感』が一番適しているのではないかと思う。“ピーナッツバター”の一心不乱さ、“ダメ人間”の何が起こるか分からないドキドキ……。これは帰宅してからハッとしたことだが、思えばこの日のライブはずっと石崎に釘付けになっていたのだ。そしてその最たる場面は、“ひまわり畑の夜”→“アヤメ”→“花瓶の花”というバラード地帯で“アヤメ”を披露した時だった。

 

石崎ひゅーい - アヤメ / 弾き語り - YouTube

バンドメンバーが全員去ったステージ上で、彼は「生歌でいっか」と呟いて、スタンドマイクを背にして陣取った。手に持ったギターにもアンプが繋がっておらず、言わばこの瞬間、完全アンプラグドの状態と化したのだ。鼻をすする音や隣の人の呼吸さえも聴こえるような、真っ裸の環境。彼はそんな中でもはっきりと伝わる歌声とギターで、深く思いを届けていく。もちろん視界と耳は完全に彼しか見ていない・聴いていない感覚になり、この数分間は本当に、別の世界にトリップしたようなイメージだった。……そして思うのだ。おそらく彼以外の人がどれだけ雰囲気を作ろうとも、ここまでのものにはならないだろうと。

 

石崎ひゅーい - 花瓶の花 - YouTube

美しく“花瓶の花”をアコースティックで聴かせると「ここでゲストを呼んでいいですか。会った時から、僕と同じ人種だと思ってました」と語り、ここからは今回のゲスト・崎山蒼志を招いての特別なライブに。ピョコピョコとステージに足を踏み入れた崎山は水色のギターを構えるも、そこからはほぼ無言。お互いが「あっ……(手を前に出して会話を譲る)」と「いや……あ……(また譲り返す)」といったやり取りがかなりの間続き、しんと静まり返った空間がもたらす謎のクスクス笑いが会場に広がっていく。

その後も膠着状態は続き、石崎が「あの……ご飯とかね。一緒に食べたよね。お肉とか」と語るも崎山が「はい」と返して会話がストップ。すかさず「ラジオとかでちゃんと言ってる?俺がタクシー代とか出したりしてるって」と石崎が反撃すると、崎山は「あっ、ありがとうございます、そうなんですよ。……今、言いました」→石崎「いや今じゃなくて」といった会話が本当に面白く、このホンワカ感にどんどん飲まれていく我々。ただサウナの会話になった途端、これまでずっと視線を合わせなかった崎山が大声で「サウナ!皆さんサウナ良いですよね!」と饒舌になったり、崎山のキャラクターがはっきり分かった場面も。

他にも石崎がMステで歌った“夜間飛行”を当時小学6年生だった崎山が観て衝撃を受けたことや、その放送事故と呼ばれたパフォーマンスが、石崎の喉に常に銀紙が詰まっていて起こったものだったこと、そして崎山が作った“夏至”が僅か14歳で生み出されたなど様々なエピソードが飛び出し、石崎の「すげえなー。頼むよ。俺の未来」と崎山を称える一幕をもって、ここからは4曲のコラボに突入。

 

崎山蒼志 - 夏至 / THE FIRST TAKE - YouTube

まずは「この曲から崎山くんを知った」とする“夏至”と、大胆な打ち込みサウンドが大きな衝撃をもたらした“I Don't Wanna Dance In This Squall”という崎山蒼志楽曲2曲をふたりでパフォーマンス。崎山は“夏至”ではギターのみ、対して“I Don't Wanna Dance In This Squall”では低音パートを歌唱することで、後輩に花を持たせる形にしていたのも印象深い。そして崎山はというと物腰柔らかな語り口とは対照的に、歌になった瞬間一気に覚醒。2曲目では頭を振り乱しながら、何度もジャンプして歌唱していたのはとても格好良かった。

そしてバンドメンバーを迎えて披露されたのは、“第三惑星交響曲”と“告白”。音圧が高まったことで、パフォーマンス的にも更に素晴らしいものになったのはもちろん、石崎ひゅーい楽曲ということもあってか、その盛り上がりも格別。中でも“第三惑星交響曲”のふたりの掛け合いは極上で、キーの高い部分を裏声を使って限界突破で歌い上げる崎山と、手を広げて会場全体と抱擁するように歌う石崎のやり取りは、今後他の両者のライブでも絶対に得られない貴重さがあった。

 

石崎ひゅーい『キミがいないLIVE』より「第三惑星交響曲」~「3329人」(フル尺) - YouTube

ここでライブは一旦ブレイク。やや落ち着きを取り戻したステージで、石崎この日最後となるMCを聞かせてくれた。彼は「改めて、10周年を祝うことが出来て嬉しいです」と前置きし、自身の胸の内を語ってくれた。「今は一人で何でもできる時代でしょう?でも僕は、出来るだけ人に依存してたいと思っていて。というのもこの10年間本当に人に恵まれてたし、僕を信じてくれる人がいたからこそ、ここまでやってこれたと思っているので」……。そう彼は語っていた。

古くから彼を知っている人は分かることだが、石崎は基本的に、誰かを立てる言い方をすることが多い。対バンライブでは「呼んでくれてありがとう」と感謝を伝えるし、新曲を披露するときは「いろんな方々の力があって」と言い。果ては菅田将暉への楽曲提供でバズを記録した“さよならエレジー”に関しても、これまでのライブでは自身が制作した曲ながら「菅田くんの曲のカバーをします」と言っていた。……そして彼のその姿勢は明らかに、今回のライブでも表れていたように思うのだ。それこそ“アヤメ”や“花瓶の花”などがそうだったように、あまりにも強い説得力を全ての曲が宿していたけれど、それは彼が本気で伝えたい気持ちを歌詞にしていて、集まってくれたファンに本気で感謝しているからだった。

 

石崎ひゅーい - 僕がいるぞ! - YouTube

そんな気持ちを携えた“僕がいるぞ!”は、間違いなくクライマックスの一番の爆発だった。石崎がマイクスタンドをブンブン振り回しながら、マイクを大切そうに両手で握って、鬼気迫る勢いで歌声を響かせていた“僕がいるぞ!”。Cメロの《5秒前 4秒前〜》の歌詞のカウントダウン部分では、ファンが数字を指折り数える感動的なシーンを挟み《ふたりきりでいよう》のフレーズで新たな爆発へと向かっていく。……感傷に浸ったり、楽しみを共有したりと様々な雰囲気に『のまれた』この日、明らかに石崎のステージングによって興奮にのまれたのは、この瞬間だった。

 

石崎ひゅーい - ファンタジックレディオ - YouTube

「まだまだ制約があって、この歌をみんなが一緒に歌うことは出来ないけど。熱唱出来ない分、熱狂しましょう!」と最後に鳴らされたのは代表曲“ファンタジックレディオ”。石崎は右へ左へとこれまで以上に動きながら愛する人への思いをストレートにぶつけ、ファンは全員が腕を挙げて答えている。ラストは《baby baby baby》の繰り返しの果てに「大阪の君たちが好きー!」と絶叫。……かくして最後まで心を完全掌握したライブは、あまりに最高の盛り上がりで終幕したのだった。

様々なライブに足を運んでいると、やはり「ライブは本人の熱量に左右されるんだな」と感じることが多々ある。この『熱量』というのは曖昧な表現だけれども、例えば「良いアルバムが出たから聴いてくれ!」とする欲求だったり、延期中止を経ての全国ツアーにかける思いだったり、とにかく……。アーティスト側の気持ちははっきりと観客に伝播して、成功するか否かを決定付けるものになると、僕は信じて疑わない。

そんな中で、今回の石崎ひゅーいのライブ。彼がこの日我々に伝えていたのは、何より巨大な最大限の感謝だった。デビュー10周年。全国ツアー。そして“さよならエレジー”のヒットさえも。全ては関わってくれた人々のお陰だと、彼は本気で思っていて、それが圧倒的な雄弁さで『最高のライブ』を作り出すエッセンスとなっていた。……息をするように音楽を作る彼のことだ。今後10年、20年とアーティスト活動を続いていくのは間違いなく、まだまだこの10周年は通過点に過ぎないはず。現状のベストセットで臨んだ今回のライブの貴重さについても、きっとまた何年後かに明らかになることだろう。

【石崎ひゅーい@大阪BIGCAT セットリスト】
ピーナッツバター
あなたはどこにいるの
パラサイト
さよならエレジー(菅田将暉セルフカバー)
パレード
バターチキンムーンカーニバル
ダメ人間
Oh My エンジェル!
愛らしく(新曲)
夜間飛行
ピリオド
ひまわり畑の夜
アヤメ
花瓶の花
夏至(崎山蒼志カバー・feat. 崎山蒼志)
I Don't Wanna Dance In This Squall(崎山蒼志カバー・feat.崎山蒼志)
第三惑星交響曲(feat. 崎山蒼志)
告白(feat. 崎山蒼志)
アンコール
僕がいるぞ!
ファンタジックレディオ