キタガワのブログ

島根県在住のフリーライター。ロッキン、Real Sound、KAI-YOU.net、uzurea.netなどに寄稿。ご依頼はプロフィール欄『このブログについて』よりお願い致します。

【ライブレポート】秋山黄色『一鬼一遊TOUR Lv.3』@広島クラブクアトロ

こんばんは、キタガワです。

 

秋山黄色による恒例の全国ツアー『一鬼一遊TOUR Lv.3』。今回はニューアルバム『ONE MORE SHABON』のリリースを記念して行われるもので、当然ながら披露された楽曲の大半は『ONE MORE SHABON』収録曲。ほぼアルバム再現と言っても過言ではないライブとなった。ただ文字通りレベルアップした秋山黄色のパフォーマンスは我々の想像を遥かに上回っており、明らかに彼の目指す地点が変わったことをも意味していたのである。


16時の開場と共にフロアに入ると、そこにあったのは至って簡素なバンドセットだった。ギターとベースとドラムがあり、中心にはマイクとサンプラーが鎮座するのみのこのシンプルなステージが、今回の主戦場だ。暫くの待機時間を経て定刻になり緩やかに暗転すると、暗がりからサポートメンバーたる井手上誠(G)、神崎峻(B)、片山タカズミ(Dr)が現れ、中央の空間のみを残し固唾を飲んで彼の姿を待つ幸福な時間が訪れれば、上手からひとりの陰がステージに足を踏み入れ、持っていたスマホをアンプに置いてギターを構えた。そう。彼こそが今回のライブの主人公・秋山黄色である。


オープナーは『ONE MORE SHABON』から、秋山と井手上の速弾きが印象的なミドルチューン“白夜”。《幸福で死にたくないっていうのは/この地球上で一番の不幸だね》……。彼は決してポジティブな人間ではないし、楽曲も誰かの憂いに沿ったものが多い。けれども彼は『自分で自分の命を断つ行為』に関してはこれまでメディアで否定的な意見を述べている訳で、この楽曲は言わば、悩める人々に送る彼なりの人生肯定なのだろう。荒々しく爆音、本来であれば誰もが腕を上げて叱るべしな“白夜”を誰もが厳かに聴いていたのも、そのどこかフワリと漂う儚さゆえだろう。


冒頭でも記したけれど、この日のセットリストの中心を担っていたのは『ONE  MORE  SHABON』。具体的には本編で披露された全15曲のうち9曲が新曲という完全なるニューモードで、秋山黄色の『今』をぶつける強気な姿勢が現れていたように思う。更には1年前に行われた全国ツアーで「次回はライブで実験的なことをやってみたい」と語られていた通り、そのセットについても後々キーボードとサンプラー演奏が組み込まれる、これまでにない試みも満載。正直ニューアルバムを聴いた際には前作以上に「ジャンルの振り幅凄いなあ」と漠然と感じていたものだが、それに伴ってライブもアップデートしているということなのだろう。

 

秋山黄色『アイデンティティ』 - YouTube

前半部の注目曲はやはり昨今のキラーチューンとして定番化している“アイデンティティ”。ここまで“白夜”、“アク”、“Caffeine”と徐々に盛り上がりを見せていた流れを経て爆発することを見越しての投下だ。秋山は時折マイクに齧り付くように歌うのみならず、ギターも上下に振り下ろしながらのパフォーマンスを試みており、ヒヤヒヤしてしまうほど破壊的。「ライブの次の日は体中が筋肉痛になって1ミリも動けなくなる」とはMCでの秋山の弁だが、確かにその末路も頷ける渾身の演奏に、気付けば目が釘付けになっている観客たち。陳腐な表現で例えれば『ロックバンド以上にロックバンドしてるソロアーティスト』とでも言おうか……。とにかくこの熱量に当てられて、良い意味でポカンと観るしか出来ない状況がそこにはあった。

 

MCでは、この広島クラブクアトロの会場にちなんでのトークに移行。どうやら秋山にはクアトロに苦い思い出があるらしく、次第にその思いの行き先は2020年8月27日に渋谷クラブクアトロで行われたオンラインライブに。新型コロナウイルスの感染拡大により急遽オンラインで開催されたこの日、彼は本来観客がいるはずの環境に誰もおらずカメラに向かってライブをしている状況がとても悔しかったとし、ひとつの答え合わせとして今日の昼頃にツイッターの個人アカウントで公開された写真が、ストレスのあまり泥酔した秋山が冷蔵庫から氷結を取り出す様子であることが明らかに。「あの会場で1曲目に“chills?”やったんだよ。頭おかしいよな」と自嘲気味に笑う秋山は、「だから今日クアトロでやれるっていうのは凄く有り難いです。声は出せないけど……手拍子とか良いらしいですよ。あと、俺に逆らうな」とたどたどしくも『らしい』言葉で締め括った。


ここからは『ONE MORE SHABON』楽曲を連続してドロップする新境地に。哀愁漂う秋山黄色流叙情歌“燦々と降り積もる夜は”、サンプラーを用いてサウンドにハリを持たせた“あのこと?”、ハンドマイク&サンプラーで身軽なステージングに挑んだ“Night park”、大切なものの喪失を誰もが知る商品名で暗喩した“うつつ”……。ロックもポップスもごった煮された多種多様な楽曲群で彼が示すのは漠然とした不安感と、現状を変えようともがく思考。それらが敢えて抽象的な表現に留まっているのは何とも彼らしいが、その抽象的さが逆に、我々個人個人のネガティブな感情に寄り添ってくれる感覚もある。

 

秋山黄色『ホットバニラ・ホットケーキ』Live ver. - YouTube

そして「1年前にも広島でライブやったんですけど、来れなかった人もいると思います」と語れば、当時のセットリストの中心を担っていた前作『FIZZY POP SYNDROME』から“ホットバニラ・ホットケーキ”と“宮の橋アンダーセッション”を。取り分けハイライトだったのは異様なスピードで駆け抜ける“宮の橋アンダーセッション”の一幕で、秋山が歌詞を歌い終えたと思われる瞬間にサポートメンバーが突然沈黙。具体的には井手上は壁に寄りかかり、神崎は髪をダランと垂らし地面に突っ伏していて、片山はドラムセットから離れた位置で待機している。思わず笑ってしまう異常空間の中、唯一『動ける人』状態の秋山はマイペースに水を飲んだりウロウロしたりと自由奔放で、挙げ句の果てにはスマホの動画機能を使ってメンバーを映し続けて爆笑。ひと通り撮影が終わった後「これファンクラブ動画だな」と語る秋山に、ファンからは歓声が起こる。ただそれだけでは終わらず、何と秋山が「今日はドラム空いてんなあ」と突発的なドラムソロを繰り出す点も含めてサービス精神旺盛。

 

秋山黄色『ナイトダンサー』 - YouTube

その後は昨日のライブで一部を間違えたリベンジとして初期曲“Drown in Twinkle”が弾き語りスタートで鳴らされると、ニューアルバムのうち“PUPA”と“ナイトダンサー”が爆音で披露され、今や秋山黄色の恒例的ライブアンセムとなった“やさぐれカイドー”へ。これまでも体がどうにかなってしまいそうな過激なパフォーマンスを繰り返してきた彼は、ここでメーターの振り切った覚醒を見せる。「明日からライブの予定のない人間がぶっ壊れるところ、良く見といてください。くれぐれも皆さんは怪我しないように」との意味深な一言から雪崩込んだ“やさぐれカイドー”は、まさしく秋山黄色がぶっ壊れる様を直視した瞬間だった。開幕と共に「オイ!」と絶叫した彼は、そこから首を沿って前に90度以上倒す翌日の筋肉痛必至な動きを連発してギターを弾き倒し、ラストはつんのめるようにギターをぶん回しながら前後左右に動き回った彼の姿は、天性のソロ・ロックスター。この楽曲のメインテーマは思うように生きられなかった当時の彼の生き写し。けれどもあれから何年も経った今、それこそライブを観ていた我々もそうだが当時の辛い思いに心を合わせることはほぼ不可能である。そんな中彼がこの楽曲で行ったのは、例えるなら飲み屋で辛い話をするときにジョッキを一気飲みするような自傷的な熱量の上げ方で、無理矢理感情を高めるそうした部分にも彼の優しい人間性をも感じることが出来た。

 

秋山黄色 『シャッターチャンス』 - YouTube

息を切らしたまま「次が最後の曲です」との宣言から鳴らされたラストソングは“シャッターチャンス”。ハンドマイクで身軽になった秋山はもちろん、まるで野球のピッチャーの如く振り被って投げる一幕や、サビの随所に盛り上がりポイントを含めていて一時もダレることはないし、秋山の動きと連動するようにゆらゆら動く観客のアクションも美しい。そしてクライマックスサンプラーを乱打してサウンドに彩りを加えた秋山、最後は自身のスマートフォンを客席に向け、シャッターを押す音と共にフェードアウトという印象的な幕引きとなった。


本編はこれにて終了、興奮おさまらないファンによる手拍子によってすぐさま再度呼び込まれた秋山黄色とメンバーたちである。しかし秋山は現れるなり我々の興奮をよそにヘアスタイルをクシで直し続け、「……ここの部分が大事なんだよ」と独自のヘアセット理論を展開。彼いわく前日の福岡公演では初めてのワックスを使ったため終盤に髪がパックリ割れ、マネージャーがライブ撮影の撮影に苦労していたとのことで、その二の舞いを避けるよう今日は丁寧にセットしているのだという。そこからは『一鬼一遊TOUR』と題したツアータイトルを友人に伝える際に恥ずかしかった話や、ツアーの開催が収入に直結している話などを赤裸々に吐露していて、秋山の正直過ぎる人間性を垣間見ることが出来た。


続いては恒例のメンバー紹介。まず初めに振られた井手上は紹介されるなり、前回のツアーで一番最初に鳴らされた楽曲“LIE on”のギターリフを即興演奏。もちろんこの行動は言わば何となくのものだったはずだが、秋山が「(長らく練習してないから)今絶対出来ないわ」と呟いたことをきっかけに以降の神崎、片山も“LIE on”のフレーズを弾いていき、最終的には秋山も加わって本格的な“LIE on”に。こうした阿吽の呼吸と試みが出来るのも、これまでライブに帯同してきたサポートメンバーならではだ。

 

秋山黄色 『見て呉れ』 - YouTube

そしてニューアルバムをまたリリースした際はここ広島クアトロでライブをやりたいという有り難いMCが終わると、実質的なアンコール1曲目“見て呉れ”へ。ファルセットを駆使した幕開けから一転して秋山的なサウンドに移行する形は確かに稀有。そんな中でもファーストアルバムと比較して圧倒的に幅が広がった曲調が誰もの心にスッと馴染む感覚があるのは、彼がこれまで『From DROPOUT』『FIZZY POP SYNDROME』『ONE MORE SHABON』と少しずつサウンドを変化させていった歩みをしっかりと理解しているためなのだろう。加えて曲調の他にも今回のライブ自体もそれこそキーボード+サンプラースタイル然り、これまでのライブとは一線を画す試みが多数存在していた訳で……。これは昨年コロナ禍でチケットを購入したにも関わらず泣く泣く参加を断念したいちファンの意見として、本当に「毎回ライブに行くべきアーティストだな」と強く感じた次第だ。


ここでライブ終了かと思いきや、まだまだライブは終わらない。秋山による「今日の気分は……クソクラペチーノ!!」とするよもやの予定調和一切なしのサプライズとして披露された最後の楽曲は“クソフラペチーノ”!この楽曲ではこれまで見たことも聞いたこともない、個人的には約10年のライブ人生でも初めて視認した大ハプニングが発生。それはそれは、おそらく同様の体験はもう一生来ないだろうと思える程の……。

 

秋山黄色『クソフラペチーノ』 - YouTube

この楽曲は原曲で約1分半、BPMにして180超えという秋山黄色の数ある楽曲の中でも随一のファスト・パンクチューンとしても知られる。故にそのパフォーマンスについては激しいものになることはおよそ覚悟していたつもりだったのだが、この数分間で我々が目の当たりにした一幕は想像を遥かに超えるものだった。楽曲が鳴らされた瞬間から秋山は声が枯れんばかりに絶唱を続け、ギターの井手上はヘッドバンギングを繰り出しながらステージを右往左往しながら演奏するカオス状態に。そして体感的には一瞬で駆け抜けたこの楽曲のアウトロ、秋山がギターを振り抜き続ける前後不覚のアクションの果て、事件は発生。何とバランスを崩した秋山が客席フロアに頭から転落したのだ。ギターが地面に叩き付けられる不協和音が叫びのように鳴り響く中ステージ袖からはスタッフが顔面蒼白で駆け付け、メンバーも我々も固唾を飲んで見守る異常事態。ただすぐさまステージに転がり戻った秋山は元気そうで、思わずホッとする(どうやら後日の以下のツイートの通り、怪我はなかったそうである)。そして全ての狂騒が終わった後、この時点では安否すら気になる我々をよそに、足元のエフェクターのツマミを全開にして会場を超轟音のノイズまみれにして秋山は帰っていった。おそらくは今回の全国ツアーの中でも圧倒的に印象深い出来事は、間違いなく全ての参加者の心に刻まれたことだろう。

 

“猿上がりシティーポップ”も“モノローグ”も、“とうこうのはて”も……。かつてライブの中心だった楽曲が撤廃された代わりに、最新アルバムの楽曲を敷き詰めた攻めのセットリストで臨んだ今回のライブ。もちろんニューアルバムがリリースされる以上ライブツアーがその楽曲を中心にしたものとなるのは誰もが理解していたはずだが、それでもここまで振り切った代物になることは予想していなかった、というのが正直なところ。実際のライブで再現される『ONE MORE SHABON』の楽曲はCDで聴くより遥かに生身で、格好良かった。


と同時に、今回のライブは秋山黄色の精神性を深く知ることにも一役買っていた印象がある。というのも、それこそ“とうこうのはて”での《借金まみれの顔 鏡でまた洗っている》にしろ“猿上がりシティーポップ”の《辛うじて息を吸って吐いている》にしろ、特に処女作では彼のネガティブな一面を曝け出すような楽曲が多い印象を抱いていて、逆に活動が長くなり陽の目が当たるようになった今ではもっと別の視点で楽曲を紡いでいる感も多少なりあったから。……翻って今回のライブを観てハッとしたのは、彼は全く変わっていなくて、むしろネガティブな思いを更に吐き出そうとしていた。彼は最後のMCで「アーティストが使う歌詞は優しくないといけないと思ってて。でも俺はひ弱だからこそ、強い言葉で書いたとしても許されるんです」というようなことを語っていたが、等身大の自分をストレートに表した結果が今の彼なのだろうと思ったり。


最後に期せずしてステージから転落した一幕も、言わばその一部。例えば酒に酔った状態じゃないと話せない人や、キャラクターを演じないと社会に迎合出来ない人と同じように、元来引きこもり気質で思いを吐き出せないアーティストによる感情の爆発がそれだったのだと、今になって理解する。この日のライブがいろいろな意味で大きな爪痕を残したのは言うまでもないけれど、今後の秋山黄色を予測する上でも、とても大切なライブだったのではないか。


【秋山黄色@広島クラブクアトロ セットリスト】
白夜
アク
Caffeine
アイデンティティ
燦々と降り積もる夜は
あのこと?
Night park
うつつ
ホットバニラ・ホットケーキ
宮の橋アンダーセッション
Drown in Twinkle
PUPA
ナイトダンサー
やさぐれカイドー
シャッターチャンス

[アンコール]
LIE on(序盤のみ)
見て呉れ
クソフラペチーノ