11月某日、僕は広島に赴いた。新型コロナの影響で思うように遠征が出来なくなって約2年。これまで毎月当たり前のように見ていた風景は、猫カフェが出来たりフタバ図書が消滅していたり、ガラス張りの喫煙所が出来たりと多少の変化もあったが他は概ね、自分が知る広島だった。
……事前計画ではこの日の弾丸遠征で、僕はこの限られた時間を極力音楽にベットしようと考えていた。TSUTAYAに行き広島にしかないCDを借り尽くし、宿に向かって少し記事を書き、急いでライブを観に行く。そしてライブが終われば直ぐ様カフェで朝まで文章を書いて、翌日にはブログにアップする。無論ズボラな自分自身が考えた計画なので、そこまで念入りにプランを練っていた訳ではないにしろ「十中八九大丈夫だろう」との確証があった。……ただ決まって、計画には何かしらの誤算が生じるものである。そもそもこの計画は全てが完璧に動いた時に初めて成立する流れが組んであったが、よもやの『TSUTAYA移転』『アストラムライン逆走』『グーグルナビ不調』という事態が立て続けに起きた結果、速歩きで原爆ドーム近くのホテルにチェックインする頃には体力的にも限界。つまるところ、以降の計画は破綻したも同然となった。
……ライブを終え、広島の中心地・本通りに向かう。僕はその後の執筆を諦め、この近くに住んでいるという友人に連絡を送った。「もし会えたら飲もう。難しかったらもう帰って寝る」というようなことを書いたのは覚えていて、元々「いつか飲もう」と語っていた友人だからと思案しての提案だった。結果友人は快くOKしてくれ、この瞬間に8時間睡眠は飲酒時間に切り替えられた。
随分と久方振りに邂逅した友人は、引き攣った笑顔で僕を迎えてくれた。それが嬉しさによるものなのかそれ以外のものなのかは定かではないが、取り敢えずホッとした自分がいた。終電までの時間があまりないとのことで、フラリと目の前に鎮座する松屋に向かう。2年ぶりの再会の場としては些かチープだが、致し方あるまい。取り敢えずビール瓶2本と牛丼を注文し、それぞれのこの2年間の生活について語る。大して面白くもないが、嫌な気がする訳もない独特の空間を揺蕩いながら、ハイペースでアルコールを摂取する。僕らはいつしかしたたかに酔って、学生時代のとりとめもない話を展開し始めた。一緒に講義を並んで受けたこと、居酒屋で10杯飲んで吐いたこと。朝までゲームに興じたこと……。ただ楽しかった過去に思いを馳せるたび、あの日々は決して戻らないという事実を突きつけられるようでもある。残り少なくなったビールをちびちび飲みながら、僕は彼に「最近楽しい?」と問うた。彼は「つまらん」と言い、僕もそれに同調した。話はそれでおひらきになった。
まだ飲み足りなかったので、コンビニで酒を数本調達してホテルに着く。楽しかったはずの飲み会の記憶は延々襲い来る寒さでどんどん掻き消され、得も言われぬ感情が頭を支配していた。そんな心が嫌でたまらなくなり、ビールのプルタブを開けて一気に飲み干した。時刻は深夜0時。気付けばいつも通りのソロ晩酌である。……全ては変わらないようで変わっていく。自分はどうかと問われれば答えはよく分からないままだが、それでも、何か人生に意味を感じるようなことだけは成し遂げなければと思った。なので何となく、僕はこのまま朝まで筆を取ることにした。