キタガワのブログ

島根県在住。文筆。rockinon.com外部ライター等。

【ライブレポート】くるり『結成25周年記念公演「くるりの25回転」』@東京ガーデンシアター

こんばんは、キタガワです。

 

f:id:psychedelicrock0825:20220301183308j:plain

https://www.quruli.net/


くるりが結成25周年を迎えたことを記念して『くるりの25回転』と題したライブを行う事実を初めて知ったのはもう数ヶ月も前の話だが、そのことについては特に驚きはなかった。何故ならデビュー前音源『くるりの一回転』然りベストアルバム『くるりの20回転』然り、くるりはキャリアの節々で『○回転』の形でアピールを続けてきてくれたからだ。同じく、セットリストが全アルバムから満遍なく披露されるものであることも、ある程度は予想出来ていた。大きく違ったものがあるとすればそれは会場全体を覆い尽くした一体感。そしてその理由は何を隠そう、彼らが25年間を経て届けてきた楽曲群にあった、ということだ。


定刻を少し過ぎ、客電が緩やかに消える。と同時にバックで閉められていたカーテンが左右に動き、背後に存在していたスクリーンがお目見え。オレンジの光が淡く照らす素晴らしい雰囲気だ。気付けばステージには岸田繁(Vo.G)と佐藤征史(B)の2名がスタンバイしており、岸田が「皆さんこんばんはくるりです」と短く挨拶。そのままこれまでのライブではほぼ披露されたことがない、1999年にリリースされた『さよならストレンジャー』から“ランチ”が届けられる。岸田は時折手元のiPad(このiPadには歌詞が映し出される仕組みになっている)を見ながら丁寧に歌い上げ、佐藤はコントラバスでゆったりと進行。後半ではドラムとコーラスが交わったことで、臨場感もバッチリだ。

 

ランチ - YouTube


続く楽曲は同アルバムから“虹”。ライブで多く演奏されてきた楽曲だけあってファンにとっては印象深く、思い思いに揺れるフロアが目にも楽しい。こうして観るとくるりの楽曲は『全力で盛り上がる』『腕を大きく上げる』ような所謂ロックバンド的な興奮以上に各自が好きに楽しむスタンスを維持し続けていて、それを分かっているからこそファンも自分なりに楽しんでいる……。くるりが愛される理由の一端すら感じた次第だ。


後のMCで「今回のライブは……くるり25年精魂込めて続けてて、その時系列みたいな感じで古い曲から順番にやってるみたいな感じになってるんですよ」と岸田が語っていた通り、今回のライブは1999年リリースの『さよならストレンジャー』から2021年リリースの『天才の愛』までのアルバムから人気曲を抽出し、ちょうど本編25曲に収める形を取っていて、言わば現時点でのベストアルバムのような伝説的セットリストに。長く活動を続けていればそれこそ“ばらの花”や“ロックンロール”といった代表的な楽曲が好きな人もいるし、当然『思い出深い楽曲』は人それぞれに存在する。そんな中で今回のライブは総じて、この日ライブを鑑賞したひとりひとりに絶対に何かが刺さる、そんな素晴らしい選曲だった。

 

QURULI - Niji|Kyoto Music Expo 2020 - YouTube


そして、今回のライブを彩ったメンバーについても特筆すべきだろう。これまでも多くのサポートメンバーを従えてライブを行ってきたくるりだが、今回は岸田と佐藤のくるりメンバーに加えて松本大樹(G)、石若駿(Dr)、野崎泰弘(Key)、ハタヤテツヤ(Key)、山﨑大輝(Per)、副田整歩(Sax.Cl)、大石俊太郎(Sax.Cl)、沢圭輔(Mp)、コーラスとして加藤哉子(Cho)、ヤマグチヒロコ(Cho)らを招いた何と総勢12名の大編成ライブとなり、必然サウンド的にも大きく広がりを見せるものとなった。にも関わらず音数の多さによる煩わしい感覚は一切なく、きちんと楽曲として完璧なアンサンブルを有しているのは流石で、ただ音を増やすだけでは決して収まらない膨らみに気付けば耳を委ねてしまう。

 

くるり - ワンダーフォーゲル - YouTube


そんな彼らの豪華なサウンドが最高のアレンジでもって炸裂したのは、6曲目にドロップされた“ワンダーフォーゲル”。あのピコピコ感溢れる開幕から松本のギターが鳴り響く展開にも驚いたものだが、山﨑によるティンパニー演奏など、全体的にサウンドの厚みが加わったことで、より臨場感を抱くアレンジになっていたのが嬉しい。後半ではコーラス隊による腕を大きく振る振り付けが伝播してひとり、またひとりと腕を振る美しい光景が広がっていて、これまで長年活動を続けてきたくるりだからこそ成し得る一体感が「ライブ楽しい!」とのとてもシンプルな幸福を視覚的に訴えかけてくれた。


以降はまさしくお馴染みのくるりと言うべきライブアンセムの連発で、実験的過ぎる音で当時話題を博したアルバム『THE WORLD IS MINE』から“ワールズエンド・スーパーノヴァ”と“水中モーター”。『アンテナ』からは“Morning Paper”と“ロックンロール”。そして超レア曲“The Veranda”と“BIRTHDAY”を畳み掛ける形で第1部は幕を降ろした。中でもやはりこれまでのライブでも多くセットリスト入りを果たしていた“ロックンロール”は圧巻の一言で、終盤の長尺ジャム・セッションや岸田が腕を振り抜いて弾く独特のアクションで熱量もぐんぐん上昇。サビでは大勢の腕が上がる空間に一気に様変わりしていたのは印象深かった。

 

くるり - ジュビリー - YouTube


“BIRTHDAY”が終わるとメンバー全員がステージ袖にハケ、ここでライブは一旦ブレイク。集まったファンたちは椅子に腰を降ろし、束の間の無音時間の到来である。ただその間も興奮冷めやらぬといった雰囲気で、静かな中にも次なる演奏への期待を強く感じる。しばらくすると再度メンバーがステージ上に姿を現し、第2部は『ワルツを踊れ Tanz Walzer』の“ジュビリー”からスタート。某栄養ドリンクのCMソングとしてお茶の間に広まり、この楽曲からくるりを知った人も多いであろう“ジュビリー”は緩やかに会場を包み込み、室内ながらふわりとした風が流れ込んで来るよう。


第2部も1部と同様に過去作から順に演奏するスタイル。ただどちらかと言えば楽曲はBPM的にゆったりとしたものが多くチョイスされており”さよならリグレット“や”pray“、”魔法のじゅうたん“など、知る人ぞ知る名曲群をファンはじっくり聴き入っていた。……繰り返すが、くるりは長年の活動により人それぞれ好きな楽曲が違うバンドでもある。ただ必然新しいアルバムがリリースされるたびに『自分の好きなアルバム』のライブにおけるセットリスト入りの確率が減少していく、というのも常だった。そこで今回のライブを振り返ってみるとそれこそ”pray“や”魔法のじゅうたん“もそうだが、まるであの時の個々人の思い出にフォーカスを当てるような楽曲が多数披露されたことで感慨深い気持ちになったし、過去のアルバムから寄りすぐった構成を心底有り難くも思う。

 

くるり - everybody feels the same - YouTube


音と共に様々な感情が溶けていくような、緩やかな第2部。当然誰もが完全着席状態で音楽に身を任せていた訳だが、そのフワフワ感が一瞬で弾けるハイライトがあったとするならば、続く“everybody feels the same”だろう。松本のリードギターが鳴り響いた瞬間から、これまで第2部が始まってから数十分間着席状態だったファンたちがポツポツと立ち上がり、そこからAメロに進む頃には多数の腕が上がっていく様には本当に感動した。ちなみに立ち上がったファンは全てではなく、着席状態のファンと立ち上がったファンはちょうど半々くらいだったのだが、それすらも「いいなあ」と何となく思える幸せな空間だ。


楽曲の内容についても少しばかり思うところがあった。というのもこの楽曲はくるりの楽曲の中でも非常にポジティブな部類であり、海外を含む様々な都市を列挙しつつ、プラスの感情を迸らせるポジティブさからはどこか海外旅行をしているような、晴れた空にうってつけなような、そんなイメージを携えている。では現在の日本はどうかと言えばこのコロナ禍により旅行的な行動は極限まで制限されているし、このライブ時には発生していなかった出来事で言えばロシア軍がウクライナに進行したり……といった、特に“everybody feels the same”の明るさからは対極に位置した日々が続いていたりもする。そうした中で今この楽曲を聴くと「前向きになろう」ということ以上に「辛いことはあるけど何とか乗り切っていこう」と考えられる説得力をも感じられた。

 

くるり - ソングライン - YouTube


以降も“o.A.o”や“There is(always light)”といったレア曲を交えたマイペースな展開が続き、岸田が「これからも何年やるか……。まあやるでしょう。やるんでまた、気が向けば何十周年とか何百周年とか、お祝いに来てください。本当に感謝してます」と語ると、最終曲はアルバム『ソングライン』から表題曲“ソングライン”。アルコールの銘柄や日常の風景を表しながら岸田が歌うのは《所詮 君は 独りぼっちじゃないでしょう/生きて 死ねば それで終わりじゃないでしょう》という、全てを抱えて生き抜こうとするメッセージだ。更に楽曲後半では長尺のアレンジが加えられたことでいつまでも続く幸福を味わい尽くす感覚も得られ、まるで1曲とは思えないほどの濃密な時間が過ぎていった。


これにて本編全25曲。今回のタイトルにもある『くるりの25回転』の意味するところは示したようにも思えるが、もちろんライブはまだ終わらない。メンバーがステージを去った後すぐさま発生した手拍子に呼び込まれ、岸田と佐藤が三たびステージへ足を踏み入れる。そこで佐藤が紹介したのは今回のライブオリジナルとして制作された物販の数々であり、今回の素晴らしいライブを経て最高の記念をどうぞ、という粋な計らいだ(注:佐藤はくるりの事務所社長も兼任している)。ただ語りになるとマイペースになってしまうのは岸田と佐藤で似ているらしく、「マネージャーに紹介してって言われた」と口を滑らせながらバッグを指さして突っ込まれたり、ロンT(ロングTシャツ)を取り出しながら「ロンTチャップリ〜ン♪」とふたりで歌ったりと、どこまでも相性抜群。よくよく考えればくるりが25周年ということは岸田と佐藤の関係性はそれを上回っている訳で、このふたりだからこそくるりは存在し続けているのだろう。

 

くるり - 心のなかの悪魔 - YouTube

くるり - 潮風のアリア - YouTube


アンコールはくるりの現在地とも言うべき『thaw』と『天才の愛』から、“心のなかの悪魔”と“潮風のアリア”をそれぞれ選択。最後の楽曲ではあるがその演奏も歌声も至って自然体で、心地良い時間が流れていく。……そもそも“心のなかの悪魔”は2009年頃には出来上がっていたと聞いているし、対して“潮風のアリア”はコロナ禍真っ只中でのリリース。意味合いを考えると真逆のようにも思える2曲だが、実はその内容に共通点がない訳でもない。これは個人の意見に過ぎないけれど、この2曲はコロナに憂う過去の我々と、そして辛い状況でもコロナ後の世界を希求しながら動く我々の気持ちともリンクしていたのではなかろうかと思う。


全27曲、くるりのライブとしては過去最多曲数とも言える『くるりの25回転』は、かくして終幕した。シングル曲多め、全キャリアから満遍なく披露……という今回のライブは明らかに豪華で、ファンの誰しもを大満足させる最高の一夜だったのは間違いない。ただライブ後の配信用トークで「30周年はこれまでの全メンバーを集めてやりたい」「これまでやらなかった曲ばっかりを集めたライブどう?」などの案が次々出てきたことからも分かる通り、まだまだ彼らの中での『やりたいこと』は無限にあるようだ。ということはつまり、くるりの活動もおそらくは一生続くのだろう。


1曲単位のバズが大きな飛躍を生む現在。もちろんそれが悪いとは決して言わないまでも「○○しか知らない」とする人も増えてしまうことで、難しい戦略を余儀なくされているのが今の音楽シーンであるとも思う。そんな中で極めてマイペースに、しかも25年のキャリアにおけるどの楽曲にも固定ファンが付くくるりは本当に稀有な存在であるとも、同時に思ってしまうのだ。……25周年を経たくるりがこれからあと何回転するのかは不明だが、出来る限り足並みを揃えて彼らの楽曲と触れ合いたいと、そう強く決意したライブだった。これからもどうか、宜しくお願いします。


【くるり@東京ガーデンシアター セットリスト】
[第1部]
ランチ


惑星づくり
ばらの花
ワンダーフォーゲル
ワールズエンド・スーパーノヴァ
水中モーター
Morning Paper
ロックンロール
The Veranda
BIRTHDAY

[第2部]
ジュビリー
アナーキー・イン・ザ・ムジーク
さよならリグレット
pray
魔法のじゅうたん
everybody feels the same
o.A.o
loveless
There is(always light)
琥珀色の街、上海蟹の朝
ふたつの世界
How Can I Do?
ソングライン

[アンコール]
心のなかの悪魔
潮風のアリア