キタガワのブログ

島根県在住のフリーライター。ロッキン、Real Sound、KAI-YOU.net、uzurea.netなどに寄稿。ご依頼はプロフィール欄『このブログについて』よりお願い致します。

ファンファン脱退から見る『あのときのくるり』と『それからのくるり』

こんばんは、キタガワです。

 

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思えば2021年の2月に入って以降、こと音楽シーンにおいてはネガティブなアナウンスが目立った。印象深い出来事のみをピックアップするだけでも、新型コロナウイルスによるライブの中止・延期の数々、中にはサマソニを牽引する洋楽プロモーターからの「このままでは潰れてしまう」との衝撃的な発言、ダフト・パンクと赤い公園の解散が公式発表されたのもごく最近の出来事だった。ただこれらのアナウンスは完全に予期不可能の事象であったかと問われれば決してそうではなく、例えばダフト・パンクと赤い公園の解散にしろ、絶対にそれだけは避けてほしいと強く思う一方「おそらく解散するだろうな」とのネガティブな思いも心中に存在していたのは事実。故に「今後は何が起きても絶対驚かないぞ」という心構えは出来ていたように自分では思っていたが、今回ファンファン脱退の公式発表を自分の眼球が捉えた瞬間、僕の脳裏を様々な思い出が駆け巡った。依頼されたくるりの寄稿記事を死ぬ思いで書いたこと。2018年のレディクレの初日に[Alexandros]とくるりで散々迷った挙げ句、くるりを選んだこと。カラオケで“Remember me”を歌って90点を出したこと。最近では夜中に酒をあおりながら新曲“益荒男さん”を聴いて爆笑したこともあった。そして気付く。素晴らしきくるりの記憶のその全てに彼女……ファンファンがいたのだと。

 


くるり - Remember me


くるりは『ロックバンド』だ。ただくるりは岸田繁(Vo.Gt)と佐藤征史(Ba)の2名のイメージが強く、くるりを追っているかねてよりのファン以外の人々からすると、元々2名編成の『ユニット』であるとのイメージも強い。ただ事実は少しばかり異なり、実際は森信行、大村達身、クリストファー・マグワイアなど様々なメンバー増減を繰り返した後、2名で活動する時期が長かったというだけで、くるりの中では「メンバーを増やしてはどうか」との思いは常に存在していた。そうした彼らの思いが直接的に結び付いたのが2011年。そう。吉田省念、田中佑司、ファンファンから成る一挙3名増員である。実際当時の音楽雑誌やメディアではこぞって新生くるりの特集記事が組まれ、その驚きに満ちたメンバー加入の経緯であったり、今後のくるりの展望であったり、未来的なトークが多く繰り広げられたことを今でも鮮明に覚えている。ただそうしたメンバー大加入の裏ではファンから少しばかりのネガティブな声が上がったのも事実としてあって、中でも『岸田と佐藤時代』に産み出された楽曲に心酔し、足しげくライブに通った人々からは増員の必要性について疑問を唱える者もいた(都度サポートメンバーを加えて完璧なライブを行っていたことも要因のひとつであろう)。


そして取り分け槍玉に挙げられたのが、唯一トランペットパートを担うファンファンの存在だった。新たに加入した3名のパートはそれぞれ吉田はギター、田中はドラム、ファンファンはトランペット。ただ今までにリリースしたどの楽曲でも基本的にトランペットは鳴っておらず、あくまでギター+ベース+ドラムに打ち込みを重ねたものがほとんど。故にファンファンが加入したことで必然、ライブで披露される際には今までリリースした全ての楽曲にファンファンのトランペットが挟み込まれる新アレンジタイプに変化することとなり、これも称賛の声が上がる一方、所謂『くるりらしさ』が失われることを危惧したファンからは疑問の声が上がった。実際僕自身も当初はトランペットの追加に否定的な考えを持っていた人間のひとりで、正直な気持ちとして「今のくるりで完成されているのに何でメンバーを入れるの?しかもトランペット?」と思っていた時期もあった。

 


くるり - everybody feels the same


念願叶って、ようやく『バンド』となったくるり。しかしその幸福も長くは続かず、程なくして田中が脱退。吉田も次いで脱退し、くるりはいつしか岸田、佐藤、ファンファンの3名のみとなっていた。2名の脱退について岸田は某紙でまたもや訪れたメンバー増減を悔やみつつ、今後はファンファンを含めた3名で活動を行うことを宣言。そのインタビュー通り、以降のくるりは長年……期間で言えば約8年の間、3名で度重なる音源制作とライブ活動に着手。次第にくるりは3名編成のバンドとして認知され、今では完全にファンファン含めてのくるりが確立した。前述の通りファンファンは本日をもってくるりを脱退するが、長文で綴られた赤裸々なファンファンからの報告を見るに、彼女自身が考えに考えを重ねて決断したことであり、母親として全力で家庭を守るという決意は、脱退に際しての至極全うな理由であるとも思う。おそらく今後様々なメディアが岸田、ないしは佐藤にファンファン脱退の経緯等を質問するだろうが、それはファンファンのみぞ知ることであるため、野暮だろう。彼女が加入してから多くの作品に触れ、ライブも鑑賞した身としては「ファンファンが脱退する」という未来が来るとは思ってもみなかったけれど、ここまでポジティブに応援したくなる脱退が来るとも思っていなかった、というのが本音である。


来たる4月28日にはくるりのニューアルバムにして、結果としてファンファン最後の作品となる『天才の愛』がリリースされる。ファンファンからの報告の最後に記されていたのも「新しいアルバムが最高です。ぜひともお聴きください」との強い願いだった。……であるとすれば、我々ファンが取る行動はひとつである。ファンファンへの最大限の感謝を込めて隅から隅までアルバムを聴き込み、彼女の最高の門出とすることをここに誓おう。

 


くるり - 益荒男さん