キタガワのブログ

島根県在住のフリーライター。ロッキン、Real Sound、KAI-YOU.net、uzurea.netなどに寄稿。ご依頼はプロフィール欄『このブログについて』よりお願い致します。

【前編】爆速で終わるロックバンドの曲15選

こんばんは、キタガワです。


もはや言うまでもないが、YouTubeやサブスクリプションがすっかり市民権を得た現在では音楽シーンにおける生産と消費は明らかな『消費優先』の傾向にあり、特に若者の間ではひとつの作品をじっくり聴き込むというよりは、心を揺さぶる音楽をジャンル問わず様々な音楽に触れながら確かめる新時代の域に突入している。だからこそ、令和に生きるサウンドメイカー的には如何にスピーディーにサビ部分へ辿り着いて印象度を残すかが最大の課題となっている。現に2020年以降は取り分け短い時間で終わる楽曲……具体的には2分半~3分少々の展開がベストとされ、短い展開の中で確固たる独自性を打ち出したサウンドを模索することがほぼマスト。


そこで今回は『爆速で終わるロックバンドの曲15選』と題し、ロックバンドの中でも極めて速い楽曲、つまりは2分以内で駆け抜ける性急な楽曲群に焦点を当てて紹介していく。なお今回はアルバム冒頭のイントロダクションや曲間のインタールード曲、言葉を並べただけの楽曲群は徹底的に省いた上で、あくまでバンドとしてしっかりとした『曲』になっているものに限定して選考。是非とも未だ見ぬロックバンドへの注目に至る、その何よりの契機としてもらいたい。

 

 

ナツメグ/andymori(0分29秒)

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邦ロックの神童・andymori。今でこそ伝説のロックバンドとして再結成を待ち望む声も多いandymoriだが、何故当時20歳そこそこの彼らがここまでロックの英雄たる存在感を迸らせていたのかと言えば、それは彼らのファースト、セカンド時代のアルバムがあまりに完成度が高く、また穿った視点で社会を切り取る異端な作品であったためだ。


まず記念すべき1曲目として紹介するのは、特に彼らの最高傑作との呼び声高いセカンドアルバム『ファンファーレと熱狂』の後半部にひっそりと配置された“ナツメグ”。実際彼らの2枚のアルバムは、以降のアルバムと比較すると開幕から終了までが圧倒的に短く、若さゆえの初期衝動が随所に見られる作品となっている。しかしながらそんな中でも“ナツメグ”のゴールテープを切るスピードは何と29秒。異端なロックバンドとしてのスタンドアローンぶりを見事に体現している。なおこの楽曲はandymoriが2014年に解散するまでライブのセットリストにたびたび組み込まれてきた代表的アンセムのひとつでもあり、ライブでは《友達のおもちゃを壊したりKILL ME BABY》の直後にギターを掻き鳴らすアレンジが加えられることで、原曲よりはトータル時間が長く設定されている。ただそれでも精々1分少々に留まるスピーディーさは圧巻の一言。


前述の通り、以降のandymoriは性急な音楽性とはある程度の距離を置き、サウンドのキャッチーさと歌詞の融合を第一義として活動。必然全体的なBPMはおよそ緩やかになり新たなandymoriらしさに辿り着いた。結果としてバンド結成当初と解散以前とでは両極端な音楽性となった彼らは後に新バンドAL(アル)を結成。そして2020年、バンドのフロントマンである小山田壮平(Vo.Gt)は遂にソロアルバム『THE TRAVELING LIFE』を発表。andymoriの名声を纏いつつ、新たな極致への躍進を続けている。

 


andymori「ナツメグ」

 

 

コピー/快速東京(0分44秒)

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邦ロック界随一のファストバンド・快速東京。多摩美術大学の学生同士で結成されたというバイオグラフィーからも分かる通り、彼らは快速東京の傍らグラフィックデザイナーやテレビ番組のトークセットデザインなど様々な活動に従事するマルチな活動に奔走。枠に囚われないクリエイティブな面でも印象的な4人組だ。


快速東京のアルバムの特徴は、とにかく楽曲が速くて多いこと。以下の楽曲“コピー”が収録されたデビューアルバム『ミュージックステーション』は収録曲にして全17曲、けれどもその総時間が約17分(!)という恐るべき性急さで、気付けば曲が始まり気付けば終わっているよもやの展開のオンパレード。“コピー”は44秒で言うまでもなく爆速の楽曲なのだが、この“コピー”ですらこのアルバムの中では遅い部類に入る作りには脱帽である。当然ライブの展開も異様に速く、短い持ち時間にMCなしチューニングなしで楽曲を詰め込みまくるパフォーマンスでもって、各地のフェスで頭角を現してきた。


楽曲自体もタイトルの連続や曖昧模糊なワードの数々が並ぶが、おそらく彼らについて語る上では歌詞の存在は無意味であろうし、身も蓋もないことを言ってしまえばそのサウンドメイクさえも語るに及ばない。ただやりたいことを何も考えずにやった結果が『快速東京』なのだから。例えば“コピー”は一貫して10円払えば誰でも出来るコピーについて綴っていて意味もへったくれもないけれど、彼らを語る上ではオールオッケー。完全に無問題である。多様な仕事を兼業しつつ、定期的にファストチューンを世に送り出す快速東京。現在も世間一般の流行歌とは真逆を行く音楽性を武器にしているが、およそ『パンク然とした痛快さ』という意味では、いつ聴いても新鮮なバンド。次回のツアーにも期待が高まる。

 


快速東京 「コピー」PV - KAISOKU TOKYO "COPY" official videoclip

 

 

Hey Lady/WANIMA(1分13秒)

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第68回紅白歌合戦への出場も果たしたメロディックパンクバンド・WANIMA。実際メディアで広く取り上げられている通り、その熱いメッセージ性と心中の熱量をぐんぐん高めるパンクサウンドが彼らの楽曲の最たる魅力であることは間違いない。ただWANIMAはその実、紅白歌合戦披露曲こと“ともに”や屈指のメッセージソング“シグナル”はともかくとして、アルバムには短時間で突っ切るファストチューンが多数収録されることでも知られている。


中でも記念すべきインディーズデビューアルバム『Can Not Behaved!!』は収録曲の約半数が2分以内で幕を閉じる性急な作品となっており、以下の“Hey Lady”に関しては未だライブにおけるキラーチューンとして確立。けれども印象度に振っただけの『単に速いだけの曲』という出来では決してなく、短い間にもライブの興奮を最大限意識した楽曲となっていることは流石WANIMAと言ったところか。実際ライブではドラムカウントからのKENTA(Vo.B)の絶唱を契機としてレスポンスや大合唱、モッシュ&ダイブがそこかしこで誘発する幸せな無法地帯と化すことからも、短い時間でストレートに思いをぶつけつつ、それらが結果的に大衆に浸透したWANIMAの求心力の高さは賞賛して然るべきだろう。


昨今は新型コロナウイルスの影響により、残念ながら大規模なライブツアーは全て中止に追い込まれてしまったWANIMA。しかしながら彼らは変わらずポジティブを貫き通し『#春は必ず来る』なるハッシュタグに触発れた希望歌“春を待って”をリード曲に据えたニューアルバム『Cheddar Flavor』をサプライズリリース。ちなみに今作にも2分以内の楽曲が3曲収録されていて、インディーズ時代から高まり続けるパンクス魂は未だ不変であることが見て取れる。明らかなネガティブの時代に突入した現在だが、ポジティブな暴れん坊バンドのロックはそんな中でも、今日も誰かの心を絶対的に揺り動かしているはずだ。

 


WANIMA 1stミニアルバム"Can Not Behaved!!Trailer ♪Hey Lady

 

 

Justice 4/Wienners(1分35秒)

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“Justice 4”はエネルギッシュを極めるロックバンド・Wiennersによるファーストアルバム『CULT POP JAPAN』収録曲。今でこそフロントマンたる玉屋2026%(Vo.G)によるでんぱ組.inc、浦島坂田船、ナナヲアカリといった豪華アーティスト陣に楽曲提供を行う活動が音楽ファンに広く知られているが、あくまでも彼のポジションは長年Wienners、主戦場はライブハウスだ。


そんなWiennersはライブでの披露を大前提としたアッパーな楽曲が多数。中でも上記の『CULT POP JAPAN』は当時今以上にぎっしりとライブを入れ、若さ特有の焦燥に駆られていた関係上ファストチューンに覆い尽くされる稀有な作品となり、実に2分14秒の楽曲が今作の中で最長。1曲目に関しては僅か26秒で幕を閉じ、更には何故か全体として音量がハチャメチャにデカく設定されている異端さでもって、小バコを好む暴れたがりのライブキッズにとことん刺さる傑作と相成った。


実際“Justice 4”(CDアルバムをPCに取り込んだ際にはレコード会社のミスによりタイトルが“Justica 4”となっているが、正しくはこれ)はパンクを極めた過去の彼らと、更なる音楽性を追求した未来の彼らの丁度中間とも言うべきサウンドメイクとなっている。なお以下のライブ映像では∴560∵(Ba)によるカウベルのプレイから更なる興奮へ誘うバンドの姿が記録されているが、これはライブアレンジを加えた新バージョンであり『CULT POP JAPAN』に収録されている“Justice 4”は彼のカウベル以降のシーンが丸々カットされ、時間にして1分35秒。なおこうしたライブアレンジは同アルバムの別曲“龍宮城”でも同様に施されていて、ライブならではの特別感を如実に体現している。

 


Wienners "Justice 4" Live ver.

 

 

365/BlieAN(0分57秒)

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ベースとドラムオンリーでサウンドメイクを試みる無骨なロックバンド、ブライアン。現在は長期に渡って活動はマイペース。音源に関してもほぼ手売りで販売するミニマルさであるが、以下の楽曲“365”が収録されたアルバム“do gazer”リリース時は極めて精力的にツアーを回り、なおかつギターも在籍していた。加えて当時は“365”を起爆剤として次曲に雪崩れ込む流れが定番で、言わば観客の熱量を緩やかに高める重要な武器として頻繁にこの楽曲が用いられていた。


ただこの楽曲が「シンプルに鳴らされるだけのSEじみた代物であるか」と問われれば答えは完全にNOであり、不穏な空気を醸し出す冒頭から始まりギターの高速カッティングや重いドラミング、ラストはKenji George(Vo.B)による大胆不敵な一言で終える一連の流れから見ても、1分以内の楽曲とは考えられない程の密度が込められている。あまりに短時間ながらもMVがあえて作られているのも、彼らの中でこの楽曲に対して思うところがあったのではないかと勝手ながら推察する。


前述の通り、現在はギターを廃した2人編成で活動するBlieAN。“365”が世に送り出されたのは10年以上前で、その間新たな新曲が次々生み出された関係上、現在では“365”はライブから完全に姿を消していて、対してこの楽曲のネクストナンバーとしてMVに登場する“morgof”は未だ頻繁に披露されるものの“365”の助走なしで演奏される形に変貌した。しかしながら当然今なおその演奏スキルは顕在で、決してライブの絶対数は多くないながらも、日夜多くのファンを生み出し続けている。

 


BlieAN - 365~morgof

 

 

……さて、『爆速で終わるロックバンドの曲15選』の前編はこれにて終了。次回はいよいよその性急なサウンドの真髄に迫る中編である。紅白歌合戦連続出場を果たしたあのグループから超絶テクで弾き倒すギタリスト、メンバーの突然の失踪により解散を決断したロックバンドまで、幅広いラインナップでお届けする予定だ。乞うご期待。