キタガワのブログ

島根県在住のフリーライター。ロッキン、Real Sound、KAI-YOU.net、uzurea.netなどに寄稿。ご依頼はプロフィール欄『このブログについて』よりお願い致します。

【ライブレポート】フレデリック『FREDERHYTHM TOUR 2021 〜思い出にされるくらいなら二度とあなたに歌わないよ〜』@BLUE LIVE 広島

こんばんは、キタガワです。

 

f:id:psychedelicrock0825:20211129003259j:plain

https://frederic-official.com/

 

開演前。瀬戸内海が眼前に見える若干肌寒い環境を抜けて扉を開けると、尋常ならざる熱気が立ち込めていた。それもそのはず。何故ならあと数十分で、フレデリック待望の広島公演が始まるのだから……。前方を飛沫感染防止の観点で数席潰し、パイプ椅子が一面に並ぶコロナ禍ならではの空間の上、ステージには日の丸のような映像がバックスクリーンに当てられており、観客がじっとステージを見詰めるだけの良い意味でいじらしい時間が続く。

 

定刻ジャストになり暗転すると、新たに制作されたSEとそれに呼応して行われる観客のクラップに乗せて三原健司(Vo.G)、三原康司(B.Vo)、赤頭隆児(G)、高橋武(Dr)がステージへと足を踏み入れる。その表情は全員が無、まるで来たる興奮への心の準備をしているようでもあり、思わずこちらも呼吸を整えてしまう程。……ライブへ参加するにあたり、多くの観客が事前に考えていたのはおそらくセットリストのこと。特に1曲目については後の展開の方向性を決める主軸になるため、具体的には「ゆっくり始まって後半畳み掛けるパターンかな」「タイトル通り“名悪役”で先陣を切るのかな」などとひとりイメージしていたのだけれど、オープナーとして披露されたのは“オドループ”!本来であればライブ終盤に披露されることの多いフレデリック屈指のキラーチューンが、よもやの初手でのドロップである。これにはある種身構えていた観客も全員が意表を突かれたようで、あのイントロが鳴り響いた瞬間に一気に爆発。

 

フレデリック「オドループ」Music Video | Frederic "oddloop" - YouTube

フレデリックのライブではほぼ必ずセットリストに組み込まれる“オドループ”。観客側もその楽しみ方については全員が熟知しているようで、MVのダンスを完コピで踊ることも含めた各々のアクションで興奮を体現。メンバーの一挙手一投足についても面白く、健司は歌詞の一部を《踊ってない夜を知らない広島 この世に一人もございません》に変えたり(上記の健司のツイート参照)、カスタネット風のクラップを要求したりと序盤からフルスロットルで、鬼頭に至ってはジャンケンの前によくするような手を交差して持ち上げる動作から海老反りギターソロを炸裂させるアグレッシブさで魅せ、およそ1曲目とは思えない盛り上がりを記録。


後のMCで健司が「前半戦はとにかく曲をたくさん披露したいと思った」と語っていた通り、基本的にはインターバルを挟まず楽曲をシームレスに届ける姿勢で前半は進行。加えてその演奏曲に関してもどちらかと言えば『レア曲』と呼ばれる、これまであまりセットリストに組み込まれてこなかった雰囲気のある楽曲を多く展開していたのが印象深い。……これまでもフェス会場などで驚きの選曲で楽しませてくれたフレデリックである。彼らにとっておそらくは、楽曲ごとに何となくカテゴライズされたA面B面、ライブ向けかそうでないかの評価はおそらく関係がない。全ての楽曲を引っ括めて「これが俺たちフレデリックだ」という信念を強く見せ付る攻めの姿勢がこの前半戦では強く伺えた。

 

フレデリック「シンセンス」Live at 神戸 ワールド記念ホール2018/frederic「Shinsense」 - YouTube

 

その後はハンドマイクに切り替えた健司がステージを動き回りながら注目を一身に浴びた“Wake Me Up”、「申し訳ありませんが、皆さんにはもう1度飛んでもらうことになります」との一言で一面の波が上がった“シンセンス”、康司のベースサウンドが確かなグルーヴを形作る“パラレルロール”と、まるで何かに取り憑かれたようにMCも水分補給もなしで楽曲を連続投下。その間のチューニングでさえもスタッフに任せる徹底ぶりであり、この限られた2時間という時間内で、如何に楽曲を通して思いを伝えることが出来るのかを体現しているよう。

 

フェスに比べて圧倒的に持ち時間が長い単独ライブでは、ファンが予想もしていなかった楽曲が挟まれることも多々。更に今回のライブはアルバムのリリースツアーでもない関係上、そのセットリストがどのようなものになるのかはひとつ楽しみな部分だった。では今回のフレデリックのツアーがどう位置付けられていたかというと、言うなれば『全部乗せ』。特に“レプリカパプリカ”、“夜にロックを聴いてしまったら”、“たりないeye”、“みつめるみつあみ”、“SENTIMENTAL SUMMER”というこれまでほとんど演奏されることがなかったレア曲5連発はその内容も相まって深い叙情を抱かせる代物で、夢の世界を求めて、ひとりで過ごし、君の存在を確かめて、女の子を介抱し、夏を回顧する……。そうした楽曲ごとに与えられたそれぞれのストーリーを見事に表現していた。

 

フレデリック「たりないeye」Music Video / frederic“Tarinai eye” - YouTube

 

ライブ開始から1時間が経とうという頃、ここで全員を着席した状態でこの日初となるMCに移行。先陣を切ったのはギターの赤頭、なのだが開口一番「さて、ツアーも100箇所目になりましたけど……」と盛大なボケをかまして笑いを掻っ攫い(実際は5箇所目)、以降は「コロナ禍を経てお客さんからの手拍子が凄く長くなった」と、活動当初よりライブ活動に重きを置いてきたフレデリックならではの気付きを語ってくれた。続く高橋はマイク無しでも遠くまで聞こえる独特の声質で、今回のツアー会場ごとに語っているという『ご当地ゆるキャラトーク』でカープ坊やへの思いを捲し立てるも、カープ坊やを選んだ理由が「ゆるキャラなのに人間だから」という謎のものであることから、メンバーから総ツッコミを喰らってしまう(注:ちなみに実際はカープ坊やはゆるキャラではなく、カープのマスコットはスライリーという人間はないキャラ)。ライブを観るたびに思ってしまうことではあるが、本当に仲の良い4人の関係性に思わずホッとする。 


一旦笑って落ち着いたところで、ここでフレデリックの大半の楽曲の作詞作曲を担当している康司へバトンタッチ。先んじてMCを行ったふたりとは少し異なり、康司は作詞作曲者ならではの思いについて吐露しつつ、今回の会場が瀬戸内海が見える位置にあることから海について語っていく。というのも、康司は常日頃から作詞作曲に煮詰まった際、インターネットで海の画像を見たりすることでリラックスしたりインスピレーションを受けることがあるそう。ただ一見すると過酷な生活にも思えるそれは「喜んでくれるみんなのため」に行っていると言い、最後はしっかりと観客への感謝で占めるのは、やはり優しさ溢れる康司らしい。


健司は「コロナの2021年、いろんなアーティストの方がいろんな活動をしてるけど、フレデリックが今年発表した内容凄くないですか?」と、須田景凪との共作EP『ANSWER』と和田アキ子に提供し話題を攫った“YONA YONA DANCE”、近日詳細発表予定のニューアルバム『フレデリズム3』に触れ、これらの自分たちのバンド以外の人との制作は「こういう曲を作ったら、こういうことをしたらみんなにもっと楽しんでもらえるだろうな」という考えの末に起こしたアクションであることが語られた。なお特に康司の制作意欲は極めて高く、今日の楽屋にも録音機材を持ち込んでベースを録音したり、赤頭を呼んでギターを弾いてもらったりしていたと言い、彼らの天井知らずの音楽志向が垣間見えた瞬間でもあった。

 

フレデリック「サイカ」Official Audio / frederic “Saika”(TVアニメ「さんかく窓の外側は夜」オープニングテーマ) - YouTube


そうして「この曲に今のフレデリックを詰め込みました。座ったままで大丈夫なので、聴いてください。“サイカ”」との前口上から放たれた新曲“サイカ”は、まさしく彼らの現在地を捉えることの出来る重要な1曲として位置していた。印象的なイントロで一気にフレデリック感を見せ付け、そこからキャッチーなボーカルでしっとり聴かせるそれは、様々な点から徹底して夜明けを意識している。もちろんそれはテレビアニメ『さんかく窓の外側は夜』のタイアップに沿った代物ではあれど、どこかこの1年半コロナで辛い思いをしてきたからか、我々への希望的メッセージのようにも感じて思わずグッとくる。


ここからライブは怒涛の終盤戦に突入。もちろん演奏される楽曲群は全てフレデリック屈指のキラーチューンであり、その盛り上がりについては言うまでもない。会場一体となっての手拍子が楽しい“かなしいうれしい”、《君とばっくれたいのさ》の耳に残るフレーズが中毒になる“逃避行”、恋愛における表裏一体の感情を歌詞に込めた“スキライズム”、浮遊感を携えたロックサウンドで魅せた“TOGENKYO”。楽しい時間ほど過ぎるのは早いと言われるけれど、まさしくこの日のフレデリックは様々なライブと比較しても総時間数こそ同じにしろ、とても早く終わった気がした次第だ。

 

フレデリック「KITAKU BEATS」Live at 神戸 ワールド記念ホール2018 / frederic“KITAKU BEATS” - YouTube

 

そして気付けば本編ラスト。最後のナンバーは健司が「本日はどうもありがとうございました。フレデリック、遊び切ったので帰宅します」と語って鳴らされた“KITAKU BEATS”。全員の音色が渾然一体となったリフを経て「遊ぶ?遊ばない?……遊ぶよな!」と健司が笑顔で叫ぶと、間違いなくこの日一番にフロアが揺れる揺れる。決してモッシュや熱唱は起こらない環境にありながら、全員の心からの興奮が伝わってくるようだ。2番からは赤頭と康司の立ち位置を入れ替え、時にふたりが至近距離で見つめ合いながら楽器を演奏するシーンも挟まれつつ笑いを誘うと、もう一段階音圧が上がったどしゃめしゃな演奏でフィニッシュ。観客から届けられる大きな拍手をBGMとしながら、メンバー4人はゆっくりとステージを降りていった。

 

ステージはやがて完全な暗闇に包まれたが、当然まだライブは終わらない。終演後の高橋の呟きいわく『今回のツアーで1番爆速な手拍子』によって再度呼び込まれたメンバーたちはとてもリラックスした様子で改めて観客に感謝を伝えていて、互いの関係性もバッチリ。以降は楽器隊によるチューニングが行われたため、その間はひとり勝手に次の曲の予想を脳内で巡らせていたのだが、健司がおもむろに「あの……最近自分のギターを作ってまして」と語り始める。どうやらその後の話を整理するに、健司はオーダーメイドのギター制作を今年の早い段階から着手していたそう。それはイチから良い木を選定して型から作り始める本格的なもので、先方からは「夏フェスには間に合うと思う」と聞かされてはいたものの諸々の事情で制作が延び。結果ようやく出来上がったのがつい最近で、ようやく次のZeppツアーから組み込まれる予定だったようだ……。が。

 

何とそのギターを今回の広島公演で初披露したいと健司が宣言し、直ぐ様袖からスタッフが持ってきたのは緑色にデザインされたオーダーメイドギター。それを一度何故か鬼頭に渡されて笑いを生む一幕もありつつ、自身の元にようやく辿り着いたギターを見て笑顔を見せる健司。そんなフレッシュなニューギターを携えて披露されたのは盟友・須田景凪と共同制作したもうじき発売のEP『ANSWER』から“TOMOSHI BEAT”と呼ばれる新曲であり、そのフレデリック感満載のアッパーサウンドに酔いしれる最高の空間に変遷。

 

フレデリック「名悪役」Music Video / frederic “THE GREAT VILLAIN” - YouTube

 

そして「ヤバいな、新しいギターテンション上がるな」という健司の感動を皮切りに、ライブはいよいよラストナンバーに。もちろん最後を飾るのは、今回のツアータイトルにも冠されている新曲“名悪役”である。「小学校の頃から歌い続けた俺の声だったりとか。使い続けたギターだったりとか。そんな思い出が次に繋がっています。……これからまた活動する中で、また広島にくることもあると思います。その時はこのギターも自分たちももっと成長して、戻ってこれるように。言いたいことは全部、音楽に込めるようにしてます。だから……。今日はどうもありがとうございました」。

 

彼は演奏前、観客にこう語っていた。《思い出にされるくらいなら 二度とあなたに歌わないよ》と歌われるサビのフレーズにあるように、去る日本武道館公演のアンコールで初披露された際には『このロックバンドとしては頂点とも言える光景を、“名悪役”は思い出として終わらせてほしくない』という意味で歌われていた。だがこの日、彼ははっきりと「思い出が次に繋がっている」と語った。……同じようでいて、全く異なる『思い出』の言葉が何を意味するのかと言えば、答えはひとつ。フレデリックがまだまだこの先も活動し続けるという確固たる信念なのだ。メンバーはダークな一面をポップに落とし込んだこの楽曲をひとりひとりの目をしっかりと見詰めながら丁寧に鳴らし、また健司はこれまでの熱唱で若干傷んだ声を全力で振り絞って届けており、その姿からはとてつもなく純粋な感謝が感じられた。

 

f:id:psychedelicrock0825:20211129004544j:plain

 

ライブ後にスタッフの許可のもとステージ写真をパシャパシャと撮りながら、まだライブ終わりのフワフワした頭で僕は『フレデリックの姿勢』について考えていた。これまでフレデリックのライブには何度も参加しているけれど、彼らのMCはたわいもないトーク以外の要素を抜き出すと基本的に3種類しかない。それは『感謝の気持ち』と『活動報告』、『これからも良い曲を作っていく』というもので、ともすればそのうちどこか一部でもプツンと切れてしまいかねない姿勢を彼らは結成当初からずっと崩していないのだ。それこそ、昨年と今年はコロナの存在があったのにも関わらず。……それがどれほど簡単なようでハードな決意なのかは一般の我々には想像もつかない。

 

そんな中で彼らは感謝と飛躍の精神を持ち続け、特に今年は圧倒的なまでの活動量で『フレデリックかくあるべし』を愚直に貫いた。今回のフレデリックのライブがこのコロナ禍では珍しく早い段階でほぼソールドアウトとなったのも、“YONA YONA DANCE”の大バズも、アニメやゲームのタイアップを任せられたのも、全ては努力が導いた必然なのだと今なら断言出来る。……今回のツアーが終わり、12月からはまた新たなツアー『FREDERHYTHM TOUR 2021-2022 〜朝日も嫉妬する程に〜』がアナウンスされているが、このタイトルから察するに、次なる新曲が披露される可能性も極めて高そうだ。総じて更なる高みを目指し続けるフレデリックの歩みを、いつまでも共に歩んでいきたいと感じた、最高の一夜だった。

 

【フレデリック@ブルーライブ広島 セットリスト】
オドループ
Wake Me Up
シンセンス
パラレルロール
レプリカパプリカ
夜にロックを聴いてしまったら
たりないeye
みつめるみつあみ
SENTIMENTAL SUMMER
サイカ(新曲)
かなしいうれしい
逃避行
スキライズム
TOGENKYO
KITAKU BEATS

[アンコール]
TOMOSHI BEAT(新曲)
名悪役