キタガワのブログ

島根県在住のフリーライター。ロッキン、Real Sound、KAI-YOU.net、uzurea.netなどに寄稿。ご依頼はプロフィール欄『このブログについて』よりお願い致します。

【ライブレポート】 ZAZEN BOYS『ZAZEN BOYS TOUR MATSURI SESSION』@広島クラブクアトロ

こんばんは、キタガワです。

 

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6月21日、ZAZEN BOYSのツアー『ZAZEN BOYS TOUR MATSURI SESSION』広島公演に参加した。今回はその当日のレポートを記す。


全8公演、ZAZEN BOYSにおいて久方ぶりの大規模なツアー。今回ライブ会場に選ばれた広島クラブクアトロは700人以上が収容可能な大バコではあるが、平日にも関わらず後ろまでパンパンの客入りとなり、一切のBGMが流れない無音空間の中、静かな緊張感に包まれていた。


しかしその裏では、今までの彼らのライブとは異なる雰囲気も漂っていたように思う。


理由は主にふたつ。まずひとつ目にZAZEN BOYSは、今年中にニューアルバムの発売を控えているということだ。前作『すとーりーず』から数えると約7年もの月日が経過したが、その間新曲は1曲たりともライブで披露されることはなく、ファンにとってはやきもきする期間が続いていた。


そんな中で発表されたニューアルバムの一報である。そのため新曲が披露される可能性が高いことは集まった観客も理解しているはずで、いわば今回のツアーは『ニューアルバムの雰囲気を最も早く知ることができるライブ』とも言えるのだ。


そしてもうひとつは言わずもがな、NUMBER GIRLの再始動が発表されたことだ。フェス参加やツアー開催も決定し、今夏から少なくとも向井秀徳(Vo.Gt)はそちらに重点を置くこととなるだろう。


事実ザゼンのライブ予定は7月中旬を最後にぱったり途絶えており、以降はNUMBER GIRLのスケジュールでビッシリだ。このツアーが終われば、次にザゼンがライブを行うのはいつになるのか分からない。アルバムリリースツアーさえも行わない可能性すらあるわけだ。


……つまり総合すると今回のライブは『予想がつかない』ということ。セットリストも構成も、その全てが霧に包まれている。さあ、今宵のマツリセッションの行方は如何に。


完全無音のフロアで待機すること数十分、定時を5分ほど過ぎて暗転。向井、MIYA(Ba)、カシオマン(Gt)、松下(Dr)の4名がゆっくりと配置に着く。


一曲目は『Fender Telecaster』。中でも開幕を告げる冒頭の数十秒間は絶頂だった。全員が向かい合わせになり「ワンツースリーフォー!」の合図で同じタイミングで音が鳴った瞬間、会場の温度が一段階引き上げられるのが分かる。

 


ZAZEN BOYS - Fender Telecaster @ TOUR MATSURI SESSION


誰かがワンテンポでもズレたら瞬時に破綻する状況下において、すさまじい集中力で進行していく。その姿はさながら武士の斬り合いだ。ふと周囲に目をこらすと、観客は皆一様に一挙手一投足を見逃すまいと目を釘付けにしており「ヤバいものを観ている」という実感が会場を支配していた。


曲終わり「マツリスタジオからやって参りましたザゼンボーイズ」と向井が発すると、大きな拍手が送られた。


その後は『破裂音の朝』、『Maboroshi In My Blood』、『Honnoji』といったキャリア全体を網羅する磐石のセットリストで進行。


特筆すべきは演奏面。カシオマンは虚空を見つめて高難度のフレーズを弾きまくり、MIYAは首がもげそうになるほどヘッドバンキングを行いながらスラップを連発。松下は鬼のような形相でバンドメンバーに目を配り、体重全体を乗せた重いドラミングを披露していた。


向井はと言えば時折傍らに置かれたハイボールをチビチビ飲みつつ、曲間に「ハッ!」「シャッ!」とアドリブを入れまくる力の抜きっぷり。かと思えばバンドメンバーに拍のタイミングを指示するバンマスらしさも垣間見え、絶対的な存在感を放っていた。


アドリブと言えば『COLD BEAT』にて突然向井が「ずぼっとハマったポテサラ」と『泥沼』、『ポテトサラダ』の一説を引用したかと思えば「とりあえず生中」「あと……おしんこ」「金宮1合」「そのあとにまたポテサラ」と、気の向くままに居酒屋のメニューを列挙する一幕も。


そして何度も「ポテサラ」を連呼した後に再び曲に戻るという、CD音源では3分にも満たない『COLD BEAT』がエンターテインメント性抜群かつ長尺な楽曲に変貌していた。

 


ZAZEN BOYS - COLD BEAT


その一連の流れは完全なる向井のアドリブであり、他のメンバーはどの段階で曲に戻るのか一切知らない様子。そのため向井以外の3人は呼吸を止めながら、常に向井の動向に目を光らせていたのが印象的だった。全7公演のツアーではあるが、彼らのライブパフォーマンスは絶対に『その日のライブ』でしか観ることの出来ない、唯一無二の作品なのだと実感した次第だ。


『RIFF MAN』終了後、向井の「我々ザゼンボーイズは新曲を作っております』」の一言から始まったのは、『公園には誰もいない』と名付けられた新曲。


今回のライブでは後述する楽曲を含めると計3曲が新曲として披露されたのだが、この『公園には誰もいない』は彼ららしい変拍子とギターの主張に圧倒されるミドルテンポなナンバー。大半の観客が初見でありながらゆらゆらと体を動かす人が多数見受けられ、今後ライブのセットリストにも積極的に入りそうな印象を受けた。


『This is NORANEKO』、『TANUKI』という動物ナンバーが連続する場面においては「塀と塀の間からこっちを見ている野良猫の歌」、「狩人に散弾銃で土手っ腹を撃ち抜かれてぶっ殺された、タヌキ!」とユーモア溢れる入りで大いに笑わせてくれた。


「ぴろしまシティーにお集まりの皆様。ピロシキでも食べながらスウィートな週末をお過ごしください」と始まった『Weekend』では演奏中に向井のハイボールが空になり、スタッフを呼んで作らせる場面も。圧倒的なグルーヴと意味不明な歌詞、そしてライブならではのアドリブ感に、だんだん意識がトリップしそうになる。

 


Zazen Boys - Weekend


ちなみに今回のライブでは、向井はキーボードを一切弾かなかった。というよりそもそもの配置自体されておらず、本来キーボードサウンドを主体に展開するはずの『Weekend』や後述する『Asobi』といった楽曲においてはエレキギターで代用。必然的にとてつもなくロック然としたナンバーに変貌していたのが印象的だった。


その後はファーストアルバム収録の『Ikasama Love』や「秘密、こっそり教えちゃもらえんかね?」と語ってスタートした『HIMITSU GIRL'S TOP SECLET』、「暗黒屋台の親父が売ってるのは、毒入りのもみじまんじゅう」と笑いを誘った「暗黒屋」と次々進行していく。


更には再び「ザゼンボーイズは新曲を作っております」と語って鳴らされた『杉並の少年』と『黄泉の国』の2曲は新鮮で、『杉並の少年』はかつてないほど口ずさみやすいキャッチーな楽曲。対する『黄泉の国』は転調を多用したサイケデリックなダークナンバー。『公園には誰もいない』と同様の完成度の高い楽曲の数々に、来たるニューアルバムの完成形を期待してしまう自分がいた。


向井の独特の語りは続く。『天狗』前には連想ゲームのように「そんなこんなで黒猫やらぶっ殺されたタヌキやらがおったわけですけれども、ふと空を見上げてみればあれは……夕焼け空に飛んでいった、天狗……。まあ本当は鷺(さぎ)だったんだけれども……」と語っていたのだが、あまりにも謎過ぎるシナリオとシリアスな空気感が相まって、客席からは笑いが起こる。


それに対して「うーん……分からんだろうなあ……いや、分からんだろうなあ……」と向井が首を捻りながら奏でられた童謡『赤とんぼ』のカバーは「夕焼け小焼の赤とんぼ~♪」といった本来の歌い方を大きく逸脱し、ギャリギャリと鳴るギターをバックに一種の朗読劇のように進行。もうここまで来ると観客の理解の範疇を完全に超えてしまっているのだが、このサイケ感がザゼンの魅力でもある。僕は今まで数多くのライブに参加してきた自負はあるが、これほどまでに特異なライブは経験したことがない。というよりはっきり言って狂っている。何だこれは。


そしてライブは終盤へと差し掛かる。『Whisky & Unubore』、『SUGAR MAN』、『はあとぶれいく』といった新旧のナンバーを織り交ぜながら、最後に演奏されたのは『Asobi』だ。

 


Zazen Boys - Asobi 7.19 2018


CD音源ではキーボードサウンドを軸として進行する楽曲ではあるが、今回は前述したようにキーボードが存在しないため、終始カシオマンがキーボードパートをギターで代用。更に向井はギターをスタンドに立て掛け手ぶらの状態で挑み、昨今のライブで散見されたようなカシオマンによる大五郎の容器を用いたシェイカー演奏も皆無で、全く新しい『Asobi』として確立していた。


ポケットに両手を突っ込んで仁王立ちで歌う向井は「遊び足りなーい!」と繰り返し絶唱。後半に至っては完全なるジャム・セッションと化し、ある種のトランス状態が果てしなく続く至福の時間となった。向井は2杯目の残されたハイボールをチビチビ飲みつつ、小声で「ワン・ツー・スリー」と拍を取ったり、指を立てながらあと何小節で次の場面に移るかを逐一指示していた。


3人がミラーボールに照らされながら演奏し、それを向井が指揮する様は神々しくも見え、「この時間がずっと続けばいいのに」と感じたほど。


向井が「マツリスタジオからやって参りましたザゼンボーイズ。ぴろしまシティー、乾杯!」とハイボールを掲げた瞬間に演奏が終了。惜しみ無い拍手が送られて本編は終了した。


鳴り止まないアンコールの声に再びステージに舞い戻ったメンバー。鬼気迫るステージングの後だからなのか、メンバーの顔は一様に朗らかだ。ちなみに向井の手には既にプルトップを開けた350mlのアサヒスーパードライが握られていた。まだ飲むのか……。


「貴様に伝えたい」と語って始まったアンコール1曲目は『Kimochi』。時折「俺のこのキモチを」の歌詞を「キモティ」や「キモピ」にしながら余裕綽々で歌い上げる向井に、その都度客席からは笑いと歓声が上がる。聞けばこの楽曲は他公演のアンコールでは演奏されなかった楽曲らしく、広島で聴けたのは運命的なものを感じた。


正真正銘ラストの楽曲として鳴らされたのは『CRAZY DAYS CRAZY FEELING』である。椎名林檎がコラボしたことでも有名な楽曲だが、この場では向井が椎名林檎パートも兼任する形で進んでいく。

 


ZAZEN BOYS_CRAZY DAYS CRAZY FEELING


今まで以上にどしゃめしゃな演奏を繰り広げるバンドメンバー。そして向井は伝家の宝刀「繰り返される諸行無常、甦る性的衝動」のフレーズをバッチリ決め、大団円で終了した。


……とてつもないライブだった。客電が付いた後も鳴り止まないアンコールと、治まる気配のない耳鳴りが、その日の壮絶さを何よりも雄弁に物語っていたと思う。


正直CD音源や公式動画を聴いただけで彼らのことを理解した気でいたのだが、とんでもない。この日目の前で繰り広げられていた2時間のステージングはあまりにもクレイジーで、日本中のどのバンドより肉体的だった。


ライブハウスの外に出ると「Tシャツ販売しておりまーす!」というスタッフの声が聞こえてくる。ふと物販に目をやるとそこにはTシャツしか販売されておらず、缶バッジやタオルといったグッズは一切置かれていなかった。学校の授業机を彷彿とさせる小さな物販コーナー。その前にはたった1種類のTシャツを求めて、長蛇の列が出来ていた。そんなカオスな光景を見て「何だかザゼンらしいな」と思ってしまった。


僕は列の最後尾に並ぶ。まだ耳鳴りは酷いが、今は何故か心地良い。ウォークマンを取り出し、今しがた演奏されたばかりの『CRAZY DAYS CRAZY FEELING』を聴きながら列が進むのを待つ。


〈くりかえされる諸行無常 よみがえる性的衝動…〉


……改めて聴くと意味が分からない。何だこの歌詞は。何だこの不協和音にも似たサイケ感は。頭がおかしくなりそうだ。


しかし僕は先程まで、こんなクレイジーな楽曲群を2時間以上も聴いていたのである。まだ夢心地で現実味がない。もしかすると、彼らのライブは合法ドラッグにも似た成分が含まれているのかもしれない。


未だふわふわとした気持ちの中僕は、「今日は久しぶりにビールを飲もう」と決めた。この余韻に浸りながら飲む酒は格別だろう。もちろん、肴はザゼンボーイズの音楽だ。

 

【ZAZEN BOYS@広島 セットリスト】
Fender Telecaster
破裂音の朝
Maboroshi In My Blood
Honnoji
COLD BEAT
RIFF MAN
公園には誰もいない(新曲)
Fureai
This is NORANEKO
TANUKI
Weekend
Ikasama Love
暗黒屋
HIMITSU GIRL'S TOP SECRET
杉並の少年(新曲)
黄泉の国(新曲)
天狗
赤とんぼ
Whisky & Unubore
SUGAR MAN
はあとぶれいく
Asobi

[アンコール]
Kimochi
CRAZY DAYS CRAZY FEELING