キタガワのブログ

島根県在住のフリーライター。ロッキン、Real Sound、KAI-YOU.net、uzurea.netなどに寄稿。ご依頼はプロフィール欄『このブログについて』よりお願い致します。

【ライブレポート】『JAPAN ONLINE FESTIVAL 2021 Spring』DAY2

こんばんは、キタガワです。


本来であれば東京オリンピックの開催など、半ば幸福な出来事が約束された記念すべき年となる筈だった2020年。けれども突如として出現した新型コロナウイルスの蔓延により、結果として国民の誰しもが多くの我慢を強いられるよもやの年となった。その中でも取り分け苦境に立たされたのがライブシーンで、アーティストの多くが行う予定で動いていたライブは軒並み延期、若しくは中止の判断が下され、少しずつ緩和されつつはあるが、その影響は現在進行形で続いている……ということは、もはや周知の事実であろう。


それは『ROCK IN JAPAN FESTIVAL』と冬フェス『COUNTDOWN JAPAN』など国内最大規模の音楽フェスを主催するロッキング・オン・ジャパン社も同様であり、昨年度は上記のふたつのフェスに留まらず、ライブイベントの多くの中止を決定。そんな中開催されたのが、此度の『JAPAN ONLINE FESTIVAL 2021 Spring』と題されたオンラインライブで、開催は昨年に続き2度目となる今回は日程を4日間、出演アーティストは総勢20組と規模を拡大し、演奏中にバックを彩るLEDビジョンは約19m×7m、800インチと更に巨大化。なおこうしたパワーアップを遂げた背景にはコロナ禍で自宅にいながら安心して楽しめるオンラインライブならではの利点ももちろんだが、何より一番は生身のアーティストたちが織り成すライブの興奮を広めたいという思いである。事実度重なるイベントの中止を経験したにも関わらずチケット代は大幅な値下げを敢行(全日購入の場合何と3200円引き!)していて、強い覚悟が伺える。


さて、前置きは短ければ短いほど良い。以下より待望の、各バンドのライブレポートである。コロナ禍の中、ロックバンドの未来は暗いのか?答えは断じて否である。

 

 

おいしくるメロンパン(19:00~19:40)

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1番手として登場したのは、かつて同社が開催したバンド・アーティストのオーディション「RO69JACK 2016 for ROCK IN JAPAN FESTIVAL」で優勝しその後もコンスタントな活動で頭角を現す3人組、おいしくるメロンパン。1曲目に選ばれたのは前述のオーディションで応募曲として提供した代表曲“色水”で、この日ならではの軽快な滑り出しを図る。至って平熱の歌唱に徹するナカシマ(Vo.G)と対極に位置するように、演奏の熱量は後半に差し掛かるにつれてぐんぐん上昇。特段彼らの楽曲は音源同様、爆音が鳴っている訳でもなく、特に“色水”ではギターもクリーンで声を張り上げる場面すらほぼない。ただ彼らの心中には明らかな興奮が宿っていて、それが演奏に還元されたような、不思議な熱を伴って鳴り響いていた。

 


タイトルを彷彿とさせる澄んだ海中の映像がVJとして映し出された“look at the sea”、リズミカルな曲調が楽しい“5月の呪い”など、前半部に彼らが選りすぐった楽曲は初期のフルアルバムに収録されているものが大半であったが、その中でもひとつのハイライトとして映ったのは屈指のライブアンセム“シュガーサーフ”。原曲と比較しても明らかに速さを増したBPMに乗せてパンキッシュに駆け抜けていく“シュガーサーフ”だが、ラスサビに雪崩れ込む頃には足元のエフェクターを介したためか凶悪なサウンドに変貌。轟音にまみれる中、笑顔も浮かべず淡々と演奏に集中するメンバーの姿には心底圧倒された。


“シュガーサーフ”後のMCで、峯岸翔雪(Ba)は「僕らは今まさに制限はありつつも全国ツアーを回っておりまして。ライブをやるたびにお客さんが『ライブ大好きだな』って感じるし、僕らもライブが本当に好きなんだなっていうのを感じるんですね」と語っていたが、その言葉の通り後半からは現在進行中のライブツアーのセットリストの中心部を担う、自身5枚目となるニュー・ミニアルバム『theory』から計3曲を連続投下。

 


ラストに演奏されたのは“斜陽”。悲痛な心中をポジティブに変換する独特の歌詞がポップロック然としたサウンドに落ち、サビ部分に突入した瞬間に一気に爆発。最終曲に相応しい興奮をもたらしていく。クライマックスではナカシマが《振り返らないで》とのフレーズを幾度も繰り返し、余韻を残さずに切り裂くように終了。ナカシマが「ありがとうございました」とポツリと言い放ち、彼らの久方ぶりのオンラインライブは幕を閉じたのだった。終演後、バックステージトークにて現在ツアーを回っていることに触れ「結構リラックスして出来ましたね」と原駿太郎(Dr)は語っていたが、まさにその言葉の通り、総じて肩肘張らないようでいて、凄まじくエネルギッシュなライブであった。


【おいしくるメロンパン『JAPAN ONLINE FES』セットリスト】
色水
look at the sea
5月の呪い
シュガーサーフ
caramel city
epilogue
亡き王女のための水域
架空船
斜陽

 

Saucy Dog(19:45~20:25)

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おいしくるメロンパンからバトンを受け継いだのは、彼らと同様注目の若手バンドとしてシーンを席巻しつつあるロックバンド・Saucy Dog。「HELLO」の歌詞が続く、まるで休日の朝に流れるリラクゼーションミュージックのようなSEと共にせとゆいか(Dr)、秋澤和貴(Ba)、石原慎也(Vo.G)が袖からステージに登場。暫しのチューニングの後、石原がすうっと息を吸って鳴らされたのは“シーグラス”だ。

 


石原は「Saucy Dog始めます!よろしくねー!」との一言から曲中は「フォー!」と叫んで感情を露にしたり、満面の笑顔を浮かべる一幕も。コーラスパートも同時に担うせとも同じく笑顔で、秋澤も地に足着けた演奏でサウンドに面をガッチリサポート。歌われる内容は大恋愛の果ての破局というネガティブな代物であるけれど、《胸の中大切に仕舞っておくよ、ずっと/このまま》と締め括られる“シーグラス”と同様、石原の目線は常に前だけを向いていた。


“真昼の月”の演奏が終わると、この日初となるMCへ。今回が『JAPAN ONLINE FESTIVAL』初出演となるSaucy Dogだが、実は前回も同イベントへのオファーがあったものの、メンバー(せとと秋澤)が新型コロナウイルスに感染したことから出演を見送らざるを得ない状況に陥っていたという。そうした経緯を申し訳なさそうに語るせとを笑顔でフォローしつつ、石原は「それでもまた誘ってくれて。そりゃ出ますよ!嬉しいね、本当に」と感謝の思いを述べる。

 


石原が続けて語った「なので今日はそのリベンジも兼ねて、2回分を今日に凝縮したそういうライブをしたいと思います」との言葉の通り、以降の彼らは珠玉のロックナンバーを連続して披露。エモーショナルに響き渡った“BLUE”、アッパーなサウンドが鼓膜を揺らした“ゴーストバスター”、「みんな画面の前で楽しむ準備出来てますか!」と石原が叫んで雪崩れ込んだ“バンドワゴンに乗って”……。画面越しにも直接訴え掛けるようなナンバーの数々は、大勢の心の琴線に触れたことだろう。


端的に言い切ってしまうならば、Saucy Dogの楽曲は作詞作曲を務める石原の人生をそのまま回顧したものだ。故に彼らの楽曲は恥ずかしいほどにストレートで、また痛みを伴った思いを内包するが、そしてそれはそのまま、彼らが広く人気を博す理由のひとつでもある。新型コロナウイルスの所謂『第4波』が襲来し、未だ先の見せない生活は続いていくと予想されるけれど、ラスト“猫の背”のサビで歌われた《ずっと前だけを向いてなくて良い/叶うよ きっと 信じて》の一幕は、前向きに未来を見据える彼らなりのメッセージのようにも思えた。


【Saucy Dog『JAPAN ONLINE FES』セットリスト】
シーグラス
真昼の月
雀ノ欠伸
BLUE
ゴーストバスター
バンドワゴンに乗って
sugar
猫の背

 

フレデリック(20:30~21:10)

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Saucy Dogのバックステージトークから画面が切り替わるなり、冒頭から楽器隊が渾然一体となった“KITAKU BEATS”におけるリフを響かせたフレデリック。にかっとした笑顔で開口一番「『JAPAN ONLINE FES』フレデリック40分一本勝負、よろしくお願いします。どうする?……遊ぼっか!」と三原健司(Vo.G)が言葉を放つと、直ぐ様音の洪水に包まれる。

 


健司の冒頭の言葉を体現するように、中盤で少しばかりMCを挟んだ以外は基本的に楽曲を披露し続けたフレデリック。キャッチーな楽曲群と各所のアレンジは元より、先日行われた自身初の武道館公演でも絶大な印象を与えていたVJも顕在で、中でも“ふしだらフラミンゴ”と“他所のピラニア”から成る生き物ゾーンではサイケな音像と共にブランコを漕ぐフラミンゴや一匹狼のピラニアが投影され、楽曲にも見え隠れしていたシュールな雰囲気は更に加速。大型LEDビジョンを最大限活用した視覚的にも楽しめるパフォーマンスを届けていく。“正偽”後のMCにて健司は、初めてフレデリックの音楽に触れるリスナーに思いを寄せ「ここで会ったのも運命ですから。知ってても知らなくても楽しめる……。それが音楽やと思ってるんで」と語っていたが、それは音楽の素晴らしさを熟知しているということの他にも、フレデリックが奏でる音楽に対する自信によるところも大きいのだろう。


持ち時間後半部は何と、フレデリックを一躍表舞台に押し上げたキラーチューン“オドループ”を新曲“サーチライトランナー”と“名悪役”でサンドイッチするニクい構成だ。この場で特筆すべきはやはり先日の日本武道館公演でも披露された2曲の新曲であろうが、どちらも一見アッパーな曲調のようでいてその実しっかりと差別化も図られていて、間違いなく今後のフレデリックのライブで都度セットリスト入りする魅力を秘めた楽曲。正式な音源リリースはまだ先だが、出来る限り早く堪能したいところだ。

 


彼らが今回のライブで示したもの……。それは端的に言い表すならば「俺らは止まらない」という強い意思表示だったように思う。初期曲“ふしだらフラミンゴ”には「捨て曲はひとつもない」との思いも感じたし、爆発的な興奮を叩き出した“オドループ”にはロックバンドのライブらしさを、そして新曲2曲には、更なる飛躍の予感を抱かせた。ネクストステージへの到達を目論む彼らを観測するには今回の40分はあまりに短いようでもあったが、それも来たる有観客ライブへの期待を高める前哨戦と考えれば、これ以上なく素晴らしいものだったのではないか。


【フレデリック『JAPAN ONLINE FES』セットリスト】
KITAKU BEATS
Wake Me Up
ふしだらフラミンゴ
他所のピラニア
正偽
サーチライトランナー(新曲)
オドループ
名悪役(新曲)

 

go!go!vanillas(21:10~21:50)

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トリ前の重要な役割を担うのはgo!go!vanillas。ぐんぐん大きくなる打ち込みに合わせて牧達弥(Vo.G)が「プレイバック!」と叫ぶと、まずはオープナーを飾る“鏡”を投下。ただオンラインライブと言えど甘ったるいパフォーマンスなどバニラズには無縁で、メンバーは皆一様に笑顔を浮かべながらの演奏に終始しており、長谷川プリティ敬祐(Ba)は幾度もジャンプし興奮を体現。気付けば牧もギターを置いてハンドマイクで歌唱している。彼らのライブでは基本的には用いられないVJもこの日は多用されていて、背後にはThe Chemical Brothersの“Go”を彷彿とさせる人型のキャラクターが所狭しとダンスを繰り広げ、目にも楽しい。

 


この配信の数日後からは自身5枚目となるフルアルバム『PANDORA』を携えたツアーを控えていた彼ら。必然セットリストもこのアルバムを軸に構成されていて、実に演奏された全7曲のうち5曲を『PANDORA』からの楽曲が占める、バニラズのニューモードを存分に見せ付ける形となった。ただアルバムを未聴のファンを置いてけぼりにすることは一切なく「このご時世、普段のようにみんなと一緒に声を出したりとか出来ないんですけども、その分僕らがその熱量をオモイッキリ画面の向こうに届けますので」という牧のMCの通り、沸点まで熱した極上のロックンロール・フルコースをお見舞い。


取り分け印象部として映ったのは、今回演奏された中でも数少ない既存ナンバー『No.999』。メロ部分では楽器隊の面々にボーカルパートを任せつつ、牧がつんのめるようにギターを弾き倒すアグレッシブぶりで魅せる。そしてラスサビ前には「騒げー!」との牧の絶叫を契機として、言語化不能の発語を連発するジェットセイヤ(Dr)を除くメンバー全員が会場内を駆け巡り、カメラを翻弄。ラストはジェットセイヤが熱を帯びた演奏で落下してしまったシンバルを拾い、シンバル同士を叩き付ける流れから宙にぶん投げる圧巻のパフォーマンスで終了。観るものに絶大な印象を与えた。

 


2021年もすっかり春になり、バニラズはようやくツアーを再開する。この記事を書き終わった頃にはきっと1日に昼夜2公演という過酷なツアーが始まっていることだろうが、彼らの望む「誰もが声を出して盛り上がるライブ」は未だ遠い。ただ忘れてはならないのは、そうした試みの理由のひとつはロックンロールに飢えた我々に音楽を届けるためであるということ。現在も先の見えない状況は続いているけれど、ラストナンバー“ロールプレイ”前、画面の向こうの我々に対し「元気でいてください」と語った牧の表情は、どこまでも晴れやかだった。


【go!go!vanillas『JAPAN ONLINE FES』セットリスト】

平成ペイン
アメイジングレース
アダムとイヴ
お子さまプレート
No.999
ロールプレイ

 

フジファブリック(21:55~22:25)

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楽しかった時間ほど過ぎ去るのは早いもので、気付けばこの日のライブアクトは残すところ、フジファブリックただ1組のみとなった。約1ヶ月前にニューアルバム『I LOVE YOU』をリリースしてから間もない今回のライブが如何なる代物となるのか……。必然自ずと心中の期待が高まる感覚に陥っていく。


まずは表題の歌詞を発する以外はほぼインストの新曲“LOVE YOU”で会場を温めると、以降はミドルテンポな音像でゆるりと聴かせた“赤い果実 feat.JUJU”、開幕で山内総一郎(Vo.G)が加藤慎一(Ba)と向き合って演奏を繰り広げた“徒然モノクローム”、緑色に染まった鳥たちが天高く舞い上がる映像が画面一杯に広がった“Green Bird”と新旧入り乱れた楽曲群を展開。中でも“徒然モノクローム”では山内が「ジャパーン!」と叫んだり、直前のMCで同じく山内が「コロナ禍だからこそ出来るオンラインのフェスなんですけども、本当に『行き詰まったところが始まり』だと思います」と“徒然モノクローム”の歌詞を引用して語ったりとグッと来る仕掛けも生み出していて素晴らしかった。

 


以降はアダルティなMVが投影され演奏を彩った“楽園”、フジファブリックの代表的ヒットナンバーとして知られる“若者のすべて”が満を持して鳴らされると、山内が「いろんな大変なことがたくさんあると思うんですけど、光輝く未来がすぐそこまで来ているってことを信じて。心を込めて送りたいと思います。今日はどうもありがとうございました」と語り、コロナ禍の果ての晴れ晴れしい未来を希求する“光あれ”でフィナーレを飾る。

 


小説家・橋爪駿輝の他、各界で活躍する総勢16名にも及ぶ新世代のアーティストやクリエイターが撮影した映像の数々をバックに、サポートメンバーである伊藤大地(Dr)含む楽器隊の面々は真摯にサウンドを鳴らし、山内は画面越しの我々の心に訴え掛けるように、希望を描いた楽曲“光あれ”を届けていく。彼らは身体的なアクションをパフォーマンスの一環とするバンドではなく終始動きが少ないため、必然背後のVJに目を映す形になるのだが、描かれているMVはコロナ禍の真っ只中に公開されたものであるにも関わらず基本的に屋外で、それでいてマスクを着用する場面すらほぼない。ただその光景は今や遠い昔の出来事のようにも思えてしまうが、かつて我々が当たり前に過ごしてきた日常そのものなのだ。今回、何故多くのバンドが存在する中でフジファブリックがトリを務めたのか……。その理由については定かではないけれど、楽曲のアウトロで「皆さんの未来に、光あれー!」と笑顔で叫んだ山内の姿を見ていると、やはり漠然と彼らをトリに選んだ判断は何より正しかったのではないかと、そう思えて仕方がなかった。


【フジファブリック『JAPAN ONLINE FES』セットリスト】
LOVE YOU
赤い果実 feat.JUJU
徒然モノクローム
Green Bird
楽園
若者のすべて
光あれ

 

そういえば、と改めて回顧する。……ソロアーティストやヒップホップユニット、アイドル、果てはビジュアル系バンドといった幅広いアーティストが出演する『JAPAN ONLINE FESTIVAL 2021』 の中で、唯一ロックバンドのみが出演者に顔を揃えていたのがこの2日目であったと。各自様々な趣向を凝らしてパフォーマンスを行っていたことは上記の通りであるが、それぞれ活動の主軸に置いていたライブ活動が長く停滞に追い込まれていたからか、どこかとてつもなく強い力を感じる、そんな熱い熱い一夜でもあったように思う。


加えてまだ余談を許さない状況は続くが、 今回出演を決めたアーティストは全組、今年は大規模なツアーを回る方向で動いている。……「ロックは死んだのか?」というクエスチョンが海外でしきりに問われるようになってから何年も経つが、僕は今回のライブを観て絶対的なひとつの解に至った。そしてそれはおそらく僕以外にも、今回ライブを全組鑑賞したリスナー全員が感じたことと同じであるはずだ。次回は最終日、DAY4のレポートをお届け。乞うご期待である。