キタガワのブログ

島根県在住。文筆。rockinon.com外部ライター等。

【ライブレポート】サカナクション『SAKANAQUARIUM アダプト ONLINE』

こんばんは、キタガワです。

 

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https://sakanaction.jp/


思えば前回のオンラインライブ『SAKANAQUARIUM 光 ONLINE』が圧倒的な完成度で終幕してからと言うもの、サカナクションの歩みは徹底して外側を向いていた印象が強くある。新たな有観客ライブ『暗闇』の開催アナウンス(後に全国的な感染拡大により中止が発表された)や、山口一郎(Vo.G)の自宅で行われた画期的な配信ライブ。山口は終わりの見えないコロナ禍の中でも何とか未来に光を当てようと尽力していて、彼らの楽曲に心奪われた我々自身もそんなサカナクションの動向をひっそりと見守る……。言うなればそうした相互的な信頼関係が、長らく続いてきた。


そんな折に同時に発表されたのが、3つの事柄。まずひとつがコロナ禍にどう適応してきたのかを示す『アダプト』と、今後どう適応していくのかを示す『アプライ』という相互に補完し合うニューアルバム二部作品の来年リリース。ふたつ目が2021年〜2022年にかけての全国ツアーの開催。そして最後のひとつこそ、今回の『SAKANAQUARIUM アダプト ONLINE』の開催だ。なお今回のオンラインライブではタイトルの通り『アダプト』収録曲が初披露されることもアナウンスされており、言わば後の有観客ライブ、ひいては2022年のサカナクションの楽曲がどのような代物になっているのかを、いち早く知る重要な時間としても位置していたのだ。


ライブの開始は19時からなのでいち早く視聴ページにログインすると、そこには様々なアナウンスに交じる形で、山口が演者として出演するCMと“新宝島”がBGMとして流れるCMのふたつが耳馴染み良く流れていた。そこで改めて「そういえば今回の協賛は『sante FX』と『5G LAB』だったなあ……」と企業とサカナクションとの親和性に納得しつつ、ポーンというサカナクションのMVで決まって流れる音を合図に気付けばオープニングに。


スタッフディレクションが流れる中画面に映るのは、謎の人物(おそらくはカメラマン)が階段を1段1段踏み締める映像。ほとんど先の見えない暗闇で階段を登る音と、まるで海中で酸素ボンベ越しに存在するようなシューシューと鳴る息遣いが響く意味深な開幕に目を凝らしているうち、ふいに階段が途切れる。そしてカメラが横を向くとそこには大量のスモークに包まれた山口がギターを携えて立っており、未だ謎に包まれる中、山口がゆっくりと歌い始める。その楽曲は何と、かの“夜の踊り子”のカップリングとして収録されながらもこれまでほとんどライブで披露されることがなかった“multiple exposure”。

 

 

山口のギターと僅かな外部サウンドのみが緩やかに鳴り響く“multiple exposure”。おそらくは長年のファンであっても一瞬新曲にも誤認してしまいそうなレア曲を、山口は思いを口にするように届けていく。サビで歌われる《そう生きづらい そう生きづらい》との印象的なフレーズの楽曲を敢えて選択したのは、このコロナ禍を揶揄してのものだろうか。次第に楽曲は熱を帯び、背後のステージに存在する岩寺基晴(G)、草刈愛美(B)、岡崎英美(Key)、江島啓一(Dr)にカメラが向けられた頃にはスモークと暗闇で見えにくいながらも、しっかりとサカナクションがそこにいることを視認する。しばらくフワフワとして言語化不能の感情で画面を眺めているも、全歌詞を歌い終えた山口はおもむろに前方へ進むと、両腕を広げて背後に倒れ、彼は暗闇へと消えてしまった。……そして何もない空間に映し出される『SAKANAQUARIUM アダプト ONLINE』の文字。それは名状し難い極上空間の、何よりの始まりを意味していた。


この日のライブは公式に明言されてはいないものの、言うなれば第1部と第2部に分けられた前後編で構成されていて、具体的には第1部ではファンの間では主に深層・中層に区分される緩やかな楽曲を中心に『少女の精神性』を描き、第2部ではお馴染みのアッパーチューンをお見舞いする形で進行。ちなみに当初こそ『SAKANAQUARIUM アダプト ONLINE』というタイトルから、ともすればニューアルバム全曲再現ライブの可能性もあると踏んでいたけれど、実際は『アダプト』からの新曲は計5曲。ただ第1部では特にだが、これまでサカナクションのライブではまず披露されなかったレア曲を大量に見せ付けるよもやの展開となっていた。

 

 

なお、ここで「はて、少女の精神性とは?」と疑問に感じた人も少なくないと思うので説明すると、第一部の“キャラバン”から“目が明く藍色”まで、サカナクションの演奏とほぼ交互に流れる形でファッションモデルやCM出演、また女優としても活躍する19歳の少女・川床明日香が同時進行で出演。詳しくは後述するが、第1部を通して少女の精神変化を表すストーリーになっていたことは是非とも特筆しておきたい。


話はライブに戻って、2曲目は“キャラバン”と名付けられた新曲。キーボードを主軸としたミドルチューンという点ではサカナクションらしくもあり、その雰囲気に関してはどこか新境地に達したような不思議なミドルチューンだ。先程暗闇に落下した山口はステージ上手から登場、早くもハンドマイクで歌唱しており、先の見えないコロナ禍のリアルをどこまでも続く砂道である『砂漠』をテーマに紡いでいく。片や幾度も切り替わる別映像では密室に閉じ込められた川床が不安そうな表情を浮かべていて、少女で言うところの囚われの心、我々で言うところのコロナ禍の悲観を暗に匂わせ、心をグッと惹きつけられる。

 

サカナクション「スローモーション」 -Music Video- - YouTube

 

その後の既存曲についても、ファン垂涎の選曲が続く。まずは“なんてったって春”と“スローモーション”から成る春冬を表したこれまたライブで披露されるのは随分と久しぶりな2曲がドロップされ、真っ赤な光がステージを照らす、雪が降り頻るなどその季節に合わせた綺麗なVJが視覚的にも楽しい。そして長らくサカナクションファン興奮必至の人気曲“『バッハの旋律を夜に聴いたせいです。』”の5名の山口人形(中央のひとりは演者)がダンスする様を笑いながら観る頃、沸き上がる感情をしみじみと感じながら、どこか業界随一の完成度を誇るミュージックビデオ集を観ている感覚に陥った自分がいた。もちろん実際は生配信で魅せる、正真正銘ロックバンドのライブではある。けれども何というか……画面越しにも分かる圧倒的な興奮と丁寧に作られた環境、それでいて殺伐とした雰囲気の不思議な映像がごった煮しながら目に、耳に、脳内に侵入するこの幸せな状況は、サカナクションにしか成し得ない極上の空間であることだけは確かな気がした。  


以降は《気になりだす》のフレーズが印象的な、CMソングとしても絶賛放送中の新曲“月の椀”の他、2008年リリース『NIGHT FISHING』から“ティーンエイジ”、2009年リリース『シンシロ』から“雑踏”とおよそ予想だにしていなかった楽曲が連続で展開され、一瞬たりとも熱量が途切れることはない。ただ、ひとつ気掛かりなことがあるとすれば、それは少女(川床)の動向。というのも、今回のライブは前後編で分けられていて『前半では少女の精神性を描いていた』というのは先述の通りなのだが、“ティーンエイジ”と“雑踏”で描かれる少女は、明らかに精神に異常をきたしていたからだ。少女が冷たい壁を背にして肩を抱く一幕から、真っ赤な照明に照らされカメラに向かって絶叫する豹変ぶりを見せた“ティーンエイジ”。山口が歌唱する画面を覆い隠すように少しずつ四角形の石が置かれ、最終的に画面の全てを覆い尽くした“雑踏”……。少女はこれまでも苦悶の表情を浮かべることはあれど笑うことは絶対的になく、むしろどんどん悪化している感覚すら覚えた。

 

サカナクション - 目が明く藍色(MUSIC VIDEO) -BEST ALBUM「魚図鑑」(3/28release)- - YouTube


第1部のラストに冠されたのは、かつてファン投票1位にも輝いた“目が明く藍色”。この楽曲では、青空をバックに佇む少女の映像がスクリーンに映し出されると、以降は赤く照らされた照明下で笑顔、泣き顔、絶叫、真顔と様々な表情を0.5秒置きに切り替わる映像が流され、彼女が変わろうとしていることを体現する。それはおそらく彼女だけの話ではなく、コロナ禍が少しばかりの収束の兆しを見せ、辛い中でも何とか先を見据えようとする我々の心とも如実にシンクロしているのだろう。《制服はもう捨てた 僕は行く 行くんだ/悲しみの終着点は歓びへの執着さ》とはクライマックスに至る歌詞の一節だが、まさしくその思いを発散するように、ラスサビではこれまで敢えて暗く設定されていた照明が明るく切り替えられ、背後のスクリーンには笑顔で走り抜ける少女の映像が組み込まれた。そして“目が明く藍色”の演奏が終わり、山口がおもむろに腕を前に出し、そこにゆっくりと近付く少女の手を山口が力強く握り返す感動の幕切れで、第1部は幕を降ろしたのだった。


感動的な第1部を終え、舞台は第2部へ。暫くの転換時間の後、画面に映し出されたのはサカナクションのライブではもはやお馴染みとなった、全員が横並びになっての打ち込みで魅了するジャム・セッションタイムに移行。まず披露されたのはこれまたレアな“DocumentaRy”。メンバーは一様にヘッドホン+SFチックなサングラス姿で、手元の機材を触りながら思い思いに電子音を紡いでいく。なお視聴画面にはRhizomatiksがリアルタイムで繋げた視覚効果もふんだんに散りばめられており、そこはまさしく異次元空間だ。そしていつまでも続いて欲しいと願ってしまう幸福な音は次第に“SAKANATRIBE”と呼ばれる、かつてサカナクションがライブのみの特別な楽曲として披露することで知られるサウンドに変化を遂げていき、山口の「行くぞー!」との絶叫を合図として完全に覚醒。鼓膜をEDMフェスさながらの低音電子音が蹂躪する、極上のダンス空間と化した。

 

サカナクション - アルクアラウンド(MUSIC VIDEO) -BEST ALBUM「魚図鑑」(3/28release)- - YouTube

 

その後の絶頂具合については、もはや語るまでもあるまい。緑色の照明が幻想的に照らした“ルーキー”、「サカナクション史上一番ロックなのでは?」と思わず笑顔になってしまう程、岩寺の歪んだギターが炸裂した新曲“プラトー”、ドローンやクレーンカメラといった多数の撮影機材の視認でもって、この日のライブの本気度を感じさせた“アルクアラウンド”、「皆さん、画面の向こうで一緒に踊りましょーう!」という山口の前口上から繰り出される待ってました的ライブアンセム“アイデンティティ”……。所謂『浅瀬』に分類されるアッパーチューンをこれでもかとお見舞いしていく姿には、ロックバンドとしての地力をまざまざと見せ付ける感すらあり、この後半の畳み掛けについては何度も観ている身ではあれどやはり感動してしまう。

 

『劇場版 ルパンの娘』主題歌特別映像 2021年10月15日(金)公開 - YouTube

 

この日の圧倒的なハイライトとして位置していたのは、『劇場版 ルパンの娘』の主題歌としても劇中で流れた新曲“ショック!”だった。イントロの時点で『情報ライブ shock!』と名付けられたテレビ番組が突然スタートし、報道番組を模したセットの中で嶋田久作、古舘佑太郎、エモン久瑠美ら3人が「それでは現場のるうこさーん?」と言わんばかりの勢いでカメラにキューを出す。先程のアイデンティティの余韻を残しつつ、演奏を続けるサカナクションの元にマイクを持って接近するるうこ嬢だったが、メンバーたちは演奏に集中しているのか、にべもなくインタビューを拒否。おそらくニュースの生配信という体なのだろうが、そんな状況下でも笑顔を絶やさずメンバーひとりひとりに接近して撃沈し続けるるうこと、撮れ高を要求する番組内の3人、“ショック!”を真面目に演奏するサカナクションの対比が面白い。 


サビに差し掛かると、とてつもないキャッチーさで歌われる「ショック ショック ショック ショッショックー」のフレーズに合わせて山口が両腕を曲げて脇に固定→そこから腕を上下させる独特の振り付けが挟まれ、るうこも番組内の3人も「何だこの動きは……」との表情を浮かべつつ一様にマネするカオス空間に。そして2番では山口が番組に突入する放送事故を経て、最後は全員でショックダンスを楽しむ最高の展開に突き進んでいった。……ライブを観終わってから数日経つけれど、ちょっとこの楽曲の衝撃は忘れられそうにない。特に印象深いのはサビのフレーズの繰り返しと振り付けで、“ショック!”は今後のサカナクションのライブで定番化するナンバーになるだろうと推察するし、同じようにこの振り付けも定番になるはずなので、サカナクションファンは総じて完コピ必須の代物になりそうな予感。

 

サカナクション / 新宝島 -Music Video- - YouTube


ライブはそのままクライマックスへ、怒涛の勢いで進行していく。画面越しに誰もが《マイノリティ》の一節を叫んだであろう“モス”、踊り子のVJをバックに希望的な未来をイメージさせた“夜の踊り子”、ダンサーと山口人形が踊り狂うラストに腹がよじれるほど笑った“新宝島”……。どこを切ってもサカナクションらしく、それでいてエンタメ性も抜群な彼らの魅力を存分に見せ付ける圧巻の畳み掛けには、感服するばかりだ。抽象的な表現で恐縮だが、この移り変わりの激しい音楽業界で、サカナクションが浮き沈みなく第一線を走り続けられている理由のようなものを、強く感じた時間だった。
 

そうして「こういったオンラインのライブがコロナ禍でたくさんありましたが、我々ちょっと特殊なことをやってきました。こういうのもね、僕はアリだと思うんですよ。こういうことをやり続けるバンドがひとつくらい、あってもいいかなと思ってます。優秀な仲間と共に、やり過ぎたくらい楽しく遊び過ぎちゃいましたけど。皆さんも楽しんでいただけましたか?」と、この日初めて長尺で語ってくれた山口。思わず「もちろんです!」と叫びたくなる気持ちを覚えつつ、ふと考える。山口はコロナ禍においても徹底して未来を見据え、何とかサカナクションの音楽を通してリスナーの人生をより豊かにする方法を模索し続けてきたし、多分今回のライブもそうした思いが発端となっていたのだと思う。そして実際にこの日のライブで我々は通常では有り得ないライブ体験を得ることが出来た。……では我々はこの体験をどう活かしていくことが出来るのだろうかと。それはもう何となくだが、『自分らしく前向きに生きる』ことだろうと、そう思った。

 

サカナクション / 忘れられないの -Music Video- - YouTube

 

実質的なラストナンバーとなった“忘れられないの”は、そんな鬱屈したコロナ禍の『未来』を、明るく照らす1曲だった。紙吹雪の降る中で山口が笑顔振り撒きながら歌うのはタイトルにもある通り、人生の1ページをこれからも忘れたくないという強い思い。もちろん何を『忘れられない』と見なすのかは人それぞれだ。楽しい思い出を『忘れられない』。今回のライブを『忘れられない』。……敢えてネガティブな点で考えれば、コロナ禍の1年半の辛い生活を『忘れられない』。後悔や悲観、様々なストレスを『忘れられない』と回顧する人も当然いるだろう。では今回山口が“忘れられないの”で歌ったのはポジティブかネガティブ、どちらに該当するのかと問われれば、おそらくそれは両方ということになるのだろうと思う。どんなことがあっても前に進まなければならない。ならばそうした感情を忘れずに生きていこうとする山口のメッセージを、我々はこれ以上ない環境で受信した。その事実は、きっと大きいはずだ。

 


“忘れられないの”後、《正しい 正しくないと 決めたくないな/そう 考える夜》と歌われる新曲“フレンドリー”を演奏するサカナクションの姿と共に、スタッフロールが流れ出す。……少女が絶望から救われ、コロナ禍のリアルをつまびらかにし、アッパーなナンバーで体を揺らし、来たる生活に光を灯した此度のオンラインライブは名実共に紛れもなく濃密な夜だったが、同時に我々視聴者に『その濃密な夜を越えて君はどう生きる?』と問われているような、不思議な代物でもあった。


特に今回『コロナ禍にどう適応してきたのか』をメインテーマとして制作された来年3月30日リリースとなる『アダプト』からの“キャラバン”、“月の椀”、“プラトー”、“ショック!”、“フレンドリー”という多種多様な音楽性で魅せた新曲5つには、サカナクションなりの考えが映し出されていた気がしていて、まだ収録曲の一部しか把握してしていないため推測にはなるが、彼らはこのコロナ禍をひとつの最悪な思い出として記憶しながらも、それでも前を向くのがやるべきことだと判断しているようだった。なお事前アナウンスでも今回のアダプトプロジェクトの構成は『この日のオンラインライブ→アダプトツアー→アダプト発売』とされていたので、彼らの真意が視認出来るのはこれから始まる全国ツアーないしアルバムになる関係上少なくともサカナクションが等身大で思いを伝えるツアー参加もマスト。考えることはいろいろあるけれど、総括すれば彼らがコロナ禍をどう生き、またどう今後生きていくのか……。リスナー全員を巻き込んむ幸福たる翻弄に今後も身を投じていたいと、心から感じられた運命的一夜だった。


【サカナクション@アダプトONLINE セットリスト】
multiple exposure
キャラバン(新曲)
なんてったって春
スローモーション
『バッハの旋律を夜に聴いたせいです。』
月の椀(新曲)
ティーンエイジ
雑踏
目が明く藍色
DocumentaRy
SAKANATRIBE 2021(Rhizomatiks Remix Ver.)
ルーキー
プラトー(新曲)
アルクアラウンド
アイデンティティ
ショック!(新曲)
モス
夜の踊り子
新宝島
忘れられないの
フレンドリー(新曲)