キタガワのブログ

島根県在住のフリーライター。ロッキン、Real Sound、KAI-YOU.net、uzurea.netなどに寄稿。ご依頼はプロフィール欄『このブログについて』よりお願い致します。

あの日の青春を蘇らせるリアムとノエル……。映画『オアシス:ネブワース1996』の感動

こんばんは、キタガワです。


今から29年前の1996年、東イングランドで行われた2日間の動員数25万人超の伝説的イベントが、東イングランド・ハートフォードシャー州にあるネブワースで開催された。全てのファンの目当てはマンチェスター出身のロックバンド・オアシスで、その興奮は風に乗り、ここ日本でも洋楽ファンなら誰しもが聞いたことのある伝説として語られてきた。けれどもその当日の様子についてはこれまでどのメディアも権利関係からか映像化を避け続けており、もうライブ自体がかなり前のこともあり、それこそオアシスファン的にはある種又聞きというか「こういうことがあった『らしい』よ」との真偽不明の情報で知ることしか出来なかった。

 

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https://www.culture-ville.jp/oasisknebworth1996


そんな中リリースされたDVD/Blu-rayが、映画『オアシス:ネブワース1996』。今作ではその当日の様子を超美麗の映像と参加者への独占インタビューでもって、霧に包まれていた当時の様子をはっきりと観測することが出来る、ファン垂涎の1作となっている。しかも以前発売された『リアム・ギャラガー:アズ・イット・ワズ』ではノエルの意向によりオアシス曲が使えなかった(注:ボーカルの弟リアムと作曲者の兄ノエルは現在ケンカ絶縁中。詳細は過去記事のこちらこちらを参照のこと)ので、オアシス曲を聴きながら楽しめる映画としては2016年のドキュメンタリー以来となるのだ!……なので是非ともファンには本編を観てもらいたいとして、今記事ではどちらかと言えばあまりオアシスのことを知らない音楽好き向けに、今作の素晴らしさを発信していきたい所存である。


まずは初歩も初歩、映画以前に「オアシスって何ぞや」というWikipedia的な部分から明らかにしていこう。冒頭でも記した通り、オアシスはイギリス・マンチェスター出身、特に海外で爆発的な人気を博したロックバンドとして知られている。代表的なメンバーは作詞作曲を務める兄ノエル・ギャラガーと、フロントマンの弟リアム・ギャラガーで、このふたりはバンドの絶対的立ち位置と傍若無人な振る舞いで、何かと話題をさらってきた。一説によると『第2のビートルズ』と呼ばれる程の人気で、アルバムは軒並み歴史的な売上を誇っている程。ここ日本でも“Don't Look Back In Anger”や“Whatever”はCM曲としてもお茶の間に広く浸透していたので、聴いたことのない人はまずいない。しかしオアシスは人気絶頂の最中、2009年に解散。理由は兄弟間の大喧嘩であり、以降ふたりは音信不通、実質的な絶縁状態で各自ソロ活動をスタート。今ではオアシスファンが「再結成してくれー」と願うだけという、悲しい状態に陥っているのだ。

 

伝説のバンド「オアシス」ギャラガー兄弟の喧嘩で満席のライブが中止…映画『リアム・ギャラガー:アズ・イット・ワズ』本編映像 - YouTube

 

翻って、映画本編である。映画は代表曲である“Columbia”や“ACQUIESCE”、“Live Forever”といった実際のライブ映像をふんだんに用いつつ、基本的にはファン目線の会場の様子や当日に至るまでの興奮に焦点を当てた作りになっていて、これまでリリースされてきたライブDVDと比べると明らかに『リスナー目線』……つまりは誰しもに「オアシスってこんなに凄いバンドだったんだ」と思わせる趣向が凝らされているのがニクい。

 

中でも思わずウルッときてしまったのが、チケットが発売される当日のファンの動きだ。当時はスマートフォンはおろか、SNSもインターネットもあまり普及していなかった時期。故にほぼ新聞の切り抜きなどでライブ開催を知ったファンたちは各々奔走。しかも当時はチケットを購入するには直接チケット会社に電話をするか販売店に行くしかなかったため(販売は午前9時)、午前3時起きでスタンバイする者、友人らと協力しようともがく者、その他店の前に大行列が出来る異常事態となった。 

 

『オアシス:ネブワース1996』劇場公開予告ロングバージョン - YouTube


中には「電話を1000回以上かけて、ツーツーツーという音に気が狂いそうになった」という生々しい声もあり、実際今回のライブチケットを求める人々は何と250万人にも達したそう。……キャパ25万人に対しての250万人。とてつもない倍率である。なおチケットの代金は22ポンド50ペンス(日本円で約3500円)と異様な安さ、加えてひとりの購入制限もなかったため、例えば一番初めに訪れたファンひとりが100枚買った時点で、その店の販売が終わる可能性もあって、この日チケットを入手出来た人々がどれほど幸運なのかは言うまでもない。インタビューに応じたひとりは「チケット買ったけどよく考えたらネブワースの場所を知らなかった」と語っていたけれど、ネブワースどうこうという以上に、オアシスのライブが観れる可能性自体が当時極端に少なかったことも見て取れた。


そして面白いのが、ライブ当日の様子。当時は整理券番号もないので、必然的に最前列に行ける人間は最も早く会場に入った人になる。故に朝4時の『前日』に会場入りして徹夜する人々がいたのはもちろん、当時のご時世柄なのか、薬物を使用してビールを浴びるように飲んで待ったり、会場に向かうバス車内でファン全員がオアシス楽曲を熱唱したりしたらしく、本当に今とは全く時代が違ったのだなと思い知る。今ではスマホがあればそれで良く、スマホで動画を撮影して悦に入るだけでライブが終わるファンも少なくないのだから、みんながみんな楽しそうに目の前を見ているだけで、何故か素晴らしい気分になってくる程。

 

Oasis - Live Forever (Glastonbury 1994) - YouTube

 

その後の展開はシンプルだ。極端なことを言えば、曲が演奏され、合間に参加したファンによる思い出が語られるのみである。ただ言わばライブ映像にコメンタリーを付けただけのように見えるそれが、何より感動モノなのだ。正直、当時の情報はSNSで調べればその大半が出てくる。けれどもやはり直接参加したファンの証言、観客たちの喜びようを直視するとここまで感動するのか、と思ってしまうほど、破壊力抜群なのだ。そういえばこの時点でオアシスは結成2年目の超短スパン。歴史的快挙という言葉が陳腐に感じてしまうほど、ロックバンド界隈から見ても稀有な状況に改めて驚く。オアシスと出会ってしまった若者たちと、若者にメッセージを届けるべく奔走するオアシス。その関係性は、とても健全だ。


そして映画に最低限必要な伏線回収もしっかりだ。映像のエンドロールを締め括るのは“Rock N Roll Star”。ただこの楽曲は決まってライブ冒頭に披露されるものだが、何故だか今回のセットリストには入っていなかった。これについては多くのファンの間で実際議論はあったものなのだけれど、このエンドロールに突き進むまでの流れが以下の通り。「ロックンロールスターを演奏しなかったと言われて驚いたよ。ロックンロールスターをやらないはずがない。いつもオープニングか、最後に歌う曲だから」……。ここから“Rock N Rock Star”が流れるのだから、感涙必死。今回筆者は約6000円をはたいてこのBlu-rayをゲットした訳だが、ひとつ後悔することがあるとすれば、これを劇場で鑑賞しなかったこと。正直前作『オアシス:スーパーソニック』が兄弟間の関係性を描き続けて2時間が終わってしまったので尻込みしてしまった末なのだけれど、こんなに素晴らしい作品なら劇場で観るべきだった……と本気で思ったり。


総じて今作は、オアシスを好きな人にとっては大切なファンディスクに。オアシスをあまり知らない人にとっては深みに嵌まる重要事項として記録される傑作である。ビートルズ、ザ・ローリング・ストーンズらと並んで海外ロックシーンの伝説と呼ばれる彼らの歩みを、もし時間とお金に余裕があれば是非とも鑑賞してほしいと願う。さすれば必ず、素晴らしい音楽との出会いとして活かされるはずだから。

 

Oasis - Whatever (Official Video) - YouTube