キタガワのブログ

島根県在住。文筆。rockinon.com外部ライター等。

映像がループする、邦楽アーティストのMV5選

こんばんは、キタガワです。


今やアーティストの存在を広く知らしめる重要な契機とも言える代物が、YouTube上に公開されるミュージックビデオ(MV)。特に昨年度は瑛人の“香水”を筆頭としてYOASOBIの“夜に駆ける”、優里の“ドライフラワー”、yamaの“春を告げる”といった正体不明のダークホースが台頭。一躍巨大なムーブメントを形成するに至ったことは周知の通りだが、楽曲という最たる武器に付加価値的な魅力と認知度がほぼ欠かせなくなっていると言っていいだろう。


当ブログでは今までも『途中でテンポが変わるMV』や『正義について歌うMV』といった多くのMVに焦点を当て、独自性を高めた紹介を行ってきた。そこで今回も例に漏れず、テーマを『時間が巻き戻るMV』……所謂“ループもの”に絞り、その稀有な魅力に深く迫っていきたい。様々な意図が交錯するループMVの世界に込められた意図を推察しつつ、素晴らしい音楽とも出会いを楽しんでいただければ幸いである。

 

 

ルーキー/サカナクション

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今回紹介するMVの中で最も物語性の強い代物こそ、サカナクションにおける屈指のライブアンセムのひとつ“ルーキー”だ。


繰り返されるワンフレーズと、膨らみのあるシンセサウンドが印象的な“ルーキー”。けれどもその楽曲自体の情報量の多さとは裏腹に歌詞はどこか意味深で、その深意を汲み取り辛い部分が存在するのも確か。そして重立った歌詞の浮遊感とリンクするように、MVも極めて独創性の高い内容に仕上がっている。MVはバンドのフロントマン・山口一郎(Vo.G)が起床し一杯の水を飲み干すワンシーンから始まり、以降は街中を闊歩した後に風船を持つ少女との邂逅を経て、何故か地面に倒れた女性の変死体の第一発見者となった山口が現場から逃走。瞬間画面は切り替わり、また冒頭の場面から再びループする……といった具合である。


このMVで取り分け重要となるのは、ガラスを破った後に訪れるバッドエンド回避の場面で、今まで再三に渡り変化の兆しさえ見せなかった少女との衝突、及び死体発見を回避するに至る。これは数々のタイムリープ作品で散見される未来予知の類とも違う、言わばそうした未来自体が起こり得ない世界線へと移動したことの証明。……と思いきや、全てのラストに女性の変死体が再び出現するホラーな幕引きで、心に名状し難い消化不良感が宿るのも面白い。


前述の通り“ルーキー”は現在のサカナクションにおけるキラーチューンに位置しており、ライブでは幻想的なグリーンライトの下、ダンサブルなサウンドが激しく鳴らされることでも知られている。そこではサビの一節を大合唱する一幕もまた恒例となっているが、手放しで躍り狂うことマストな“ルーキー”を語る上で、真逆に位置するMVとの対比が光る。きらびやかな裏で確かに存在する闇。何度考えても結論は出ないが、無意味な思いは巡るばかりだ。

 


サカナクション - ルーキー(MUSIC VIDEO) -BEST ALBUM「魚図鑑」(3/28release)-

 

 

LOVE SONG/Droog

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大分県出身のパンクロックバンド・Droog(ドルーグ)。10代という若さで大手音楽誌に取り上げられると、あれよあれよという間に若手ロックバンドとして名を馳せ、この楽曲が収録されたミニアルバム“LOVE SONG”は、何と浜崎あゆみやAAAなど多数のポップアーティストを有する事務所・avexからのリリースとなった。なおDroogはサウンド的変遷を続け、2018年5月より無期限活動休止。現在はメンバーそれぞれが個々の活動を行っている。


Droogの真骨頂と言えば、暴力的なサウンドメイク。その無骨なサウンドと調和を図るかのよつに、“LOVE SONG”のMVもエネルギッシュ、かつある種のカオスさを体現した作りとなっている。MVのループ部分の一端を担っているのは、妖艶たるカタヤマヒロキ(Vo)による傍若無人な挙動。“LOVE SONG”というタイトルにも関わらず、歌われる内容はラブへのヘイトに徹していて、相手との別れを一方的に叫び倒すサビ、意味の欠片もないメロ、ラストはカタヤマがカメラに向かって大々的なファックサインを繰り出し幕を閉じることさえ、どこを切ってもパンクロック。結果として半年後のDroogは“LOVE SONG”とは趣を異にするポップロック楽曲を数多くリリースすることになるけれども、そう考えると“LOVE SONG”は在りし日のDroogの絶頂期であるという見方も出来る。


中でもカタヤマが目線を前に据えながら幾度となく前方に突き進む様は、怖いもの知らずの無敵のロックンローラーそのものだ。残念ながらバンドは散り散りになってしまったが、セットリストにすっかり定着した“LOVE SONG”とこのMVを観るたび「戻って来てほしい」と願ってしまうのもまた、避けられない運命なのだろう。

 


Droog / LOVE SONG

 

 

救われ升/ポップしなないで

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かめがい(Vo.Key)、かわむら(Dr.Cho)による2人組ポップユニット・ポップしなないで。先日リリースされた初のフルアルバム『上々』におけるリード曲としても位置しているのが、ぐるぐる回るサビのリフレインが印象的な“救われ升”である。


かつてはかめがいのキーボードを軸とした、取り分け緩やかなサウンドを確立していたポしな。そんな中突如としてYouTube上に投下された今作“救われ升”は、現時点でのポしな史上最もダンサブルな音像で展開されるアッパー楽曲で、ライブの熱量を底上げするナンバーとしても知られる。更にはMVの構成も中毒性のあるサウンドに上手く合致した代物となっていて、具体的には矢継ぎ早に繰り出される発語に合わせてカメラは目まぐるしく場面転換。対して繰り返されるサビ部分では同様の映像をリピートするといった工夫でエンタメ性を擽っている。かめがいによるメロ・サビの声質変化も、かわむらの地に足着けたドラミングも。ある意味ではどこを切ってもポしなであり、けれども“救われ升”は間違いなく新境地を開拓している。


現在、ポップしなないでとしての活動と平行する形で新バンド・Paraisoを結成し、未だ見ぬ実験的サウンドを追及する鬼と化しているポしな。実際Paraisoでは今まで培われてきたポしな像を大きく覆す楽曲が多く、彼ら自身も未経験の音楽に対する好奇心は非常に旺盛の様子。故に今後彼らは様々なサウンドメイクにトライするものと思われるが、どう転んでも異質を極めた初の挑戦的楽曲こと“救われ升”の存在意義は大きく、行く行くはネクストステージを暗喩する重要な一撃として、広く世間に知れ渡る気がしてならない。

 


【MV】ポップしなないで「救われ升」

 

 

すごい速さ/andymori

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ありふれた爽やかな四つ打ちロックがすっかりスタンダードとなったロックシーンに、突如進撃した異端児・andymori(アンディモリ)。彼らの魅力はその性急を極めたバンドアンサンブルであり、中でも小山田壮平(Vo.G)が先陣を切って駆け抜けるロックサウンドはあまりに特徴的。実際、そのスピーディーなテイストは以下の“すごい速さ”で正に凄い速さでもって体現されていて、『A→B→サビ』の正統派な流れを2度展開した末、突然終わるという約1分半に及ぶ絶頂がしっかりと収められている。


なおこの楽曲のMVでは住宅街を疾走する3人の姿が描かれているが、ただ単に走っているだけのような簡素なものでは決してなく、よく見ると1コマ1コマ立ち絵……つまりは何百何千という写真をリアルタイム的にコラージュし、動画化していることが分かる。素人目でもこのMVを制作するためにどれ程の時間を要したのか、想像に難くないだろう。最終的には住宅街をぐるりと一周し、元いた場所へと舞い戻る3人。その際のポーズが冒頭と全く同じであることもまた、エンターテインメントとして完璧なオチだ。なおandymoriは“すごい速さ”が収録されたデビューアルバム、その名も『andymori』のリリースから5年後、突然の解散を発表。現在はandymori初期時代の3人にシンガーソングライターとしても活動する長澤知之を加えた4人組ロックバンド・AL(アル)を結成。andymoriとはまた違った音像を探求し続けている。

 


andymori「すごい速さ」

 

 

アルクアラウンド/サカナクション

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ラストを飾るのは、再び登場、サカナクション。今記事二度目となるループMVは、今や飛ぶ鳥を落とす勢いで日本のロックシーンを駆け抜けるサカナクションの初期の改心の一撃とも称するべき楽曲。ちなみにアッパーなサカナクションのサウンドイメージを広く浸透させたのは何を隠そう、この“アルクアラウンド”がひとつの契機であることは、ぜひとも特筆しておきたいところ。


MVは、基本的に山口の独歩の一部始終を映し出すカメラワークに徹している。ただこの4分超にも及ぶ彼の道程には多様なるエンターテインメント性が、それも綿密に計算し尽くされた形で描かれている。中でも驚きは歌詞の大進行で、縦横無尽に動き回る彼の周囲を歌詞の数々が巡るという、ある意味では極めてアナログ、けれども現在のライブにおいて視覚的効果の多用が確定事項となっているサカナクションの未来的な考えは、この時点で極まっていたと見ていいだろう。


ループ部分を担うのは、楽曲が終わる直前に挟み込まれた一幕。ルートをぐるりと一周し、傍らの林檎を握った山口が《僕は歩く》と歌う。そのシーンは冒頭のワンシーンをそっくりそのまま模倣したかのようで、思わずはっとする。ただ前述の“ルーキー”と大きく異なるのは、このMVが完全一発撮りである点。当然この映像を実現するには相当なトライ&エラーを余儀なくされたと見て間違いないが、結果このMVは大きな反響を呼び、続く“アイデンティティ”や“新宝島”のバズへの進路に大きく作用。更には昨今『オオカミちゃんには騙されない』の主題歌に抜擢された関係上、今までサカナクションを知らなかった若い年代の人々がMVに辿り着き、新鮮な衝撃を受けるという逆転現象さえ発生しているまさかの流れには、驚かされるばかりである。

 


サカナクション - アルクアラウンド(MUSIC VIDEO) -BEST ALBUM「魚図鑑」(3/28release)-

 

 

……さて、いかがだっただろうか。ループするMVの世界。


前述の通り、今やMVはそのアーティストの楽曲に視覚的彩りを与えるのみならず、知名度を獲得するためのツールとして、また音源とは別の側面でもって魅力を伝える重要な手段のひとつとして確立している。本末転倒だが、今回紹介したMVには、基本的に意味はほとんど存在しないと見て良いだろう。そもそも重厚なストーリーを紡ごうとしたとて、3分少々という時間はあまりに短過ぎるし、結果としてループ系のMVの大半がある種疑問的な作品ばかりとなってしまうことは、致し方ないとも言える。


ただ、MVには必ず制作総指揮を担う人物がいて、そこには大いなる意思が秘められていることもまた事実。読者の方々が今回の記事、ひいては4組のアーティストのMVを観てどのような感想を持つかは分からない。ただこうも思うのだ。『ループを元にしたMV』を観て抱く『その真意を再度ぐるぐると思考してしまうループ感』は、ある意味では制作者の術中に嵌まっているのでは、と。