キタガワのブログ

島根県在住のフリーライター。ロッキン、Real Sound、KAI-YOU.net、uzurea.netなどに寄稿。ご依頼はプロフィール欄『このブログについて』よりお願い致します。

『アーティストはいつまでバズった代表曲を歌わなければならないのか』問題

こんばんは、キタガワです。


全てのアーティストにとって、最大の目標のひとつに位置付けられているもの……。それこそが所謂『バズ』と呼ばれる追い風である。最近ではmeiyoが12年の長い下積み生活で自棄になって制作したとされる“なにやってもうまくいかない”がヒットを記録して評価を受けたり、和ぬかが“寄り酔い”から多数の人気アーティストに楽曲を提供するようになったりといった動きが見られているけれど、その他我々が認知しているアーティストもほぼ全員がこれらのバズがきっかけで、音楽に光を当てられているはずだ。

 

【meiyo】なにやってもうまくいかない【MV】 - YouTube


ただ移り変わりの激しい音楽業界が一度売れるだけで安泰、とされる訳は当然なく、ひとつの楽曲が跳ねた先にはまた新たな戦いが待っている。それこそが『バズった曲を超える1曲を作らなければならない』という強いプレッシャーだ。皮肉なことに、楽曲を評価するも評価しないも全てはリスナー次第。ある時は「○○ってめちゃくちゃ良いよね」と称賛した数カ月後には「○○は一発屋だった」と翻す舌先三寸な世間の目はとてもシビアで、総括するならば『売れるためには一度バズり、それからも売れ続けるためには何度もバズらなければならない』との残酷な考えが何より正しいことになる。


そしてリリース的な部分以上に、特に一度跳ねたアーティストがライブを行えばバズった楽曲を期待されてしまう点も、悲しい事実として垂直に立っている。それこそ僕などは音楽家ではないのでその心情を推し量ることは出来ないけれども、数年前から何百回何千回と披露してきた楽曲ばかりに目を向けられ、今の新曲に然程フォーカスを当てられない状況が如何に辛いかは、容易に想像出来てしまう。……だが求められているからにはやるしかない。それがたとえ、今の自分がやりたくない楽曲であったとしても。


もちろん、売れている楽曲を演奏しなければならないと理解していながらもセットリストに入れない、というアーティストもいるにはいる。我々がよく知るバンドで言えば、レディオヘッドは“Creep”のみが評価され続けるバンドイメージにストレスを抱え、ある時期からは封印。今でも伝説と呼ばれる2003年のSUMMER SONICでサプライズ披露された時には一大ニュースとして取り上げられたし、ノエル・ギャラガーは完全に自分が関心を失っているオアシス曲をほぼ排除した。この判断をファンがどう見るかというのは置いておいて、本人の気持ちを考えれば別段悪いことではないと個人的に感じる。

 

Radiohead - Creep - YouTube

 

にも関わらず、アーティストの9割以上が代表曲を絶対に入れ込む流れが止まらないのは、やはり業界的にもそうするのが是とする風潮が強いからだろう。片や長年応援するファン的には「毎回この曲聴くの活動の足枷となった曲でもあった。リリース後のライブでは「クリープ」を目当てに見に来る客がほとんどで、ライブで披露する新曲は注目されなかった。実際メディアに煽られてクリープに飛びついたファンの多くはそれほどレディオヘッドに忠実ではなかったため、これ以後『ザ・ベンズ』の"Street Spirit"までバンドのシングルが取り立ててヒットすることはなく、バンドの側でも難しいマーケティングを強いられてもいる訳で、本当に難しい判断だろうなと……。そんな中でも、間違いなくアーティストの現在進行系を捉えることが出来るのはここ1〜2年の間にリリースされた新曲群であるので、ここを無視して代表曲ばかりに目を向けるのも些か良くない、とも思ったりも。今後はサブスクやYouTubeの発達もあってより新進気鋭の音楽が生活に結びつくことと推察するが、どうかその音楽を一度でも好きになった人たちだけは、どんな時でもアーティストの味方であってほしいと強く願っている。