こんばんは、キタガワです。
全ての演奏が終わった後、心の中にぼんやりと浮かんだ思い。それは「本当にオバ犬は解散するのか?」という、実質的な解散ライブとして行われたこの日にしてはおよそあり得ない感想だった。何故なら随分と久方ぶりに観た彼らの勇姿は、数年前と何も変わらないマイペースな雰囲気に満ち溢れていたのだから。
解散発表と共に発表され、チケットが僅か1時間足らずでソールドアウトした今回のライブ。場所は活動当初よりオバ犬が懇意にしていた立川BABELで、客席は本来のキャパシティをコロナ対策で大幅に絞った中、半ばプレミア化したチケットを入手した多数のファンが詰めかけた。なお今回のライブはツイキャスにて生配信も行われ、彼らが有終の美を飾る瞬間を実際にオバ犬の音楽に救われてきた多くのファンが目撃した。
OverTheDogs「イッツ・ア・スモールワールド」Music Video - YouTube
定刻になると“映幻の花”や“チーズヘッドフォンデュ”といった過去曲のBGMが緩やかに流れる会場にメンバーがゆっくりと足を踏み入れ、疎らな拍手を一身に浴びる。今回が解散ライブということもあり必然「何が最初に披露されるのか」との予想もファン誰しもがしていたものと推察するが、1曲目はメジャーデビューアルバム『トケメグル』リリース当初よりオープナーの定番と化していた“イッツ・ア・スモールワールド”での幕開けだ。原曲のキーボードよりも僅かにギターの主張が勝ったサウンドをバックに、中央に立つ恒吉豊(Vo)は飛び道具的なギターを弾きつつ、鼓膜にしっとりと寄り添う歌声を響かせていく。正直長年ライブに参加してきたファン視点からすると年齢の経過からか、彼の歌声は明らかに数年前より声のトーンは下がっていて特に高音部分は若干辛いところもあるようには思えたし、1年半以上ぶりのライブであることも影響して楽器隊のミスタッチもある程度はあった。けれどもそれ以上に今まで培われてきた19年間(現メンバー在籍からは数えて13年間)の歴史と歌の力がぐんぐんとエネルギーを牽引していくような、そんな素晴らしい空気が“イッツ・ア・スモールワールド”には早くも宿っていて、それを観ているこちらとしても「本当に最後なんだ」と突き付けられるようでもあり悲しいやら楽しいやら、何とも名状し難い感覚に襲われる。
OverTheDogs - ココロデウス - YouTube
OverTheDogsは解散を発表したその日に、約6年ぶりとなるニューアルバム『amazing box』のリリースを発表。恒吉いわく「このバンドで出来ることはしたと思う」とするこのアルバムはオバ犬の最後のアルバムであると同時に彼らの全ての力を注ぎ込んだ代物で、そうした観点からもこの日のライブは『amazing box』を支点にするものだろうと事前予想を立てていたのだが、実際はこのアルバムからの楽曲は予想に反して何と1曲も披露されず、更にはここ最近リリースされてはいたものの売上が伸び悩んだ楽曲すらも徹底的に排除していた。それこそ筆者が最後に彼らのライブを観たのはもう6年以上前のことだが、具体的にはこの時のセットリストと当時のセットリストを見比べてもほぼほぼ同じと言って差し支えない、言わばOverTheDogs絶頂期のライブの定番曲や人気曲を隅々まで散りばめたベストセットとなった。
突飛な演奏や「オイ!オイ!」といったコール&レスポンス、ライブならではのアレンジ……。そうしたロックバンド然とした行動はOverTheDogsのライブにはまずもってない。実際これまでの彼らは楽曲の合間合間にゆるいMCを多用することで独自の世界観を構築していくことも多かったのだけれど、“どこぞの果て”後のMCで恒吉が「今日はMCよりも今日をたくさんやりたいなと思って」と語っていたように、今回はある意味では無骨に音源を投下し続けるという強気のスタイルで進行。長らくのブランクがあったとはいえ、佐藤ダイキ(Ba.Cho)はしっかりとした低音ベースとコーラスで楽しませてくれるし、同じく樋口三四郎(Gt)も肩肘張らない演奏。この中では唯一解散後も恒吉と音楽活動を続けていくことを宣言している星英二郎(Key)も、トレードマークの帽子を被りつつ綺麗な打音を響かせている。なおドラムのサポートは長年オバ犬と共に歩んできた比田井修(Dr)で、これが本当に最後のライブになるのか逆に実感が湧かない。ただこれは覆ることのない決定事項なのだということも集まった誰もが理解していて、それが「最後の勇姿を見届けよう」とするエネルギーにも繋がっていた。
OverTheDogs「愛」Music Video - YouTube
そんな彼らの『らしい』マイペースぶりと、多くの観客の思いを同時に体現した楽曲こそが、中盤に披露された“愛”であったように思う。ライブ後の公式ツイッターにて恒吉は「最後のライブで盛大に放送事故レベルで歌を外した」と自虐的に綴っていたが、どうやら1曲目の“イッツ・ア・スモールワールド”から9曲目の“愛”までの間、彼の耳に付けられたイヤモニの調子が悪く(恒吉は「本番で力入り過ぎてるせいかリハの倍くらい音がデカい」と言っていた)、歌声の調整にかなり意識を費やしていたらしい。その中でもこの“愛”を演奏した数分間が最もイヤモニに翻弄された時間として位置しており、恒吉は何度も音を外し、高音や声の強弱についても終始おぼつかなかった。ただ思い返せば、機材トラブルでギターが鳴らなくなったり、MCをしすぎて曲を削らざるを得なくなったり、野外ライブ中に突然雨が降ったりとこうした突発的な困難もオバ犬の恒例だった。だからこそこのワンシーンには……本人たちは納得のいかなかった部分もあったろうが、個人的には「解散ライブでもオバ犬は最後までオバ犬なんだなあ」と感じ、気付けば笑ってしまった次第である。
“愛”を終えると暫しのMCへ移行……の前に、まずは「自分の声が凄くおっきいかも知れないです。テンションが上がってるのかな」と先程から不調続きのイヤモニの修正をPAに頼む恒吉。するとすかさずダイキが「気持ち爆上がりしちゃってる?」と突っ込むも恒吉は無視。更に恒吉が「後で“愛”もう一回歌いてえわ。これが最後の愛……LAST LOVEにしては……」と語れば「その時うちら全員いなくなるから」とダイキが横槍を入れるも再度無視されるという、高校生時代から同じ釜の飯を食うふたりの親密な関係性を改めて確認すると、恒吉は初めてゆっくりと今回の解散、そして何故解散する身でありながら毎年9月22日にだけ再結成しライブを行うのか、その理由について口を開いた。
「一応、今日で解散になります。ただ普通に『今日でもう会わないぜ』っていうのは凄く寂しいなと思っていて、バンドの在り方なんていろんな形があっていいと思っていて。……元々OverTheDogsは僕がボーカルではなくて、荻野彰(オギノアキラ)っていう、19歳の時、当時僕がドラムでバンド組んでたんですけど、彼が亡くなってしまって。僕が引き継いでバンドやって。9月22日っていうのは彼を思い出す日にしようという意味で、こういう形を始めたんですよ。今となっては正直思い出さない日も出てくるんですよ。10何年も経ってると。で、思い出すときはハッピーな感じで思い出そうと思って。OverTheDogsも無くなるんじゃなくて、荻野のことを思い出すように続いていきたいと思うので、今後もよろしくお願いします」
何故OverTheDogsは解散するのか、その理由を紐解くのはどちらかと言えば簡単だ。当然いろいろな思いを抱えての決断だったことだろうと推察するが、言葉を選ばずに言えばOverTheDogsは最後まで売れることはなかったし、今回のライブに関してもコロナの感染助長の可能性があると最後まで悩んでいたことから察するに今後も続くコロナ禍を考えてのことだったかもしれないし、他にも恒吉が結婚して、障害のある子供達の学童保育で働きつつ音楽活動を行うことに思うところがあったのかもしれない。しかしながら毎年9月22日にのみ再結成するという方針には些か疑問を抱いたものだったが、2016年の恒吉執筆のブログ記事を改めて読むと、その心中に思いを馳せることが出来る。
OVER THE DOGS うつらうつら MV - YouTube
9月22日は荻野彰が電車事故で他界した命日で、以降彼らはこの日を『バカの日』と呼び自主企画を毎年行ってきた。そして文中でも記されている「荻野とOverTheDogsを作った以上、このバンドはどんな形になってもメンバーがいる限り続ける。それが俺のさだめだと思ってる」との言葉こそが、全ての答えなのだ。オバ犬は確かに解散を選んだが、恒吉における荻野の存在と同じくオバ犬は一生なくならないし、ずっと続ける。何にも迎合しなかった彼ららしい、どこまでも意固地な主張だ。そんなMCが終わって鳴らされた“さかさまミルク”は、中でも荻野を強く意識した楽曲として切なく響いた。この楽曲はこれまで恥ずかしながらOverTheDogsが様々な楽曲で歌っている『私と貴方』の関係性を描いているものだと認識していたけれど、このMCを聞けば明らかに意味が変わってくる。《さしあたり今日も僕が/思う事は君がいないその事だけ》《どーせ僕は君の事を思いながら生きるしかない》との歌詞を鑑みるに、この歌は亡き荻野に対して描かれたものだったのだ。他にもその後に披露された《今日もまた君について考える》と歌うバラード曲“うつらうつら”も、《流れ星が生まれ変わって きっと人になるんだ》とする“メテオ”も、遡ってみれば冒頭の“イッツ・ア・スモールワールド”もそう。OverTheDogsは4人で歩んできたバンドというより、最初から最後まで荻野を入れた5人で続いていたし、そしてまたこれからも続いていくのだ。
泥酔しながら書いたので支離滅裂ですが、書ききれなかったのでオバ犬解散の思いを追っかけファン視点で書きました。 pic.twitter.com/2MFwZxARMS
— キタガワ(音楽アカウント) (@IPieerot) 2021年9月22日
今回のライブは先述の通り、今までの活動の総括的なセットリストで進行していた。故に集まったファンひとりひとりにとって大切な楽曲は異なるだろうし、逆にこの日演奏された17曲だけでは全然足りないと感じるファンも多いことだろう。翻って、僕個人にとって最も思い入れのある楽曲をひとつだけ挙げるとすれば、それは『トケメグル』に収録された“うた”という楽曲だった。詳しくは上記の個人アカウントで記しているけれど、とにかく自分にとって“うた”は特別な存在で「もう一度だけ聴きたい」と願い続けながらも結果、オバ犬は解散するに至ったのだ。……“メテオ”終了後「バンドがなくなるって初体験なんですけど、それでもやっぱり歌っていきたいなと思っております。ずっと歌って生きていって良いと思いますか皆さん!」と叫んだ恒吉。そこから雪崩れ込んだのはよもやの“うた”であり、思わず涙腺を刺激された。「歌を歌いたい」と願いつつこの日は基本的にギターを持たず歌唱に徹した恒吉と、「もっとオバ犬の曲を聴きたかった」とする我々ファンの気持ちを汲んでか、誰もが望むセトリで寄り添ってもらったファン……。その関係性は本当に最後まで、素晴らしいものだった。
OVER THE DOGS チーズヘッドフォンデュ MV - YouTube
最後の長尺のMCは、“チーズヘッドフォンデュ”後に。ここではメンバーひとりずつ、今の思いを聞く時間となった。まず口を開いたのは樋口で、2006年の3月にギターが全く弾けない状態にも関わらずダイキの「一緒に伝説作りましょう!」と書かれた印象的なメン募を見て加入してしまい、ギターが一切弾けないことが分かった瞬間のスタジオ練習で空気が凍ってしまった懐かしい記憶に触れつつ、最後には「いろんな景色を見せてもらいました」と感慨深く思い出を語ってくれた。
続いてはこの中では唯一、恒吉と音楽活動を続けることが発表されている星。「人にはそれぞれゴールがあって、でもバンドは始まってみたらゴールってなくて」とし、OverTheDogsで普通の人生では味わえない経験が出来たことから悔いは全くないと力強く語った。区切りとしてギスギスすることもなく、「ここで終われることがわりと幸せ」であると、彼らしい屈託のない笑顔を見せた。
一方、最も感情を露にしていたのが高校時代に荻野、ダイキ、恒吉の3名で結成されたOverTheDogsの初期メンバーでもあるダイキだった。彼は感謝の気持ちを述べようとするも直ぐ様声が詰まり、以降は涙をこらえながら訥々と言葉を紡いでいく。だがいつも剽軽なキャラクターで皆を笑顔にしてくれる彼らしく、これ以上は喋れないと察したのかMCを早々に切り上げ「今までもこれからもOverTheDogsはずっと残ると思うので、これからもよろしくお願いします!」と力強く叫ぶと、それから次曲に移行するまで、声を出さずに涙を流していた。
最後を飾るのは恒吉。まずは「長い間OverTheDogsをやって。売れてるバンドはいっぱいいて。売れてるバンドがずっと続いてるのは当たり前で、ずっと悔しい思いをしながらバンドを続けてて、よく一緒についてきてくれたなと思います」とメンバーへの率直な胸の内をさらけ出すと、「暗い別れではなくて。良いことを作ろうと思って解散を選びました。OverTheDogsで歌いたい、でもそれよりもっと楽しいことが出来るような気がしたんです。だから正直に言うと、今のメンバーとは出来ないと思いました。でも最高に楽しいんですよ。このメンバーと音楽やることは。だからそれは嘘じゃないし、今日は本当にありがとうと思いながら歌えてるし。関わらない人が多い中、本当に関わってくれて本当にありがとうございました」と未だ心の整理がつかない我々に向けて、しっかりと解散の理由について述べてくれた。……毎年9月22日にだけライブを行うとはいえ、解散は解散である。ただ音源も作らず取り敢えずレーベルに籍を置くだけのグループや、無期限活動休止と言いながら10何年活動していないバンドより遥かに潔いこの選択はきっと、彼らなりの『筋を通す』ことと同義なのだろう。確かにこうした解散のスタンスを取るバンドは今までになかったけれど、そもそもの成り立ちが“さかさまミルク”前のMC通り荻野ありきで、また荻野の命日である9月22日を境に大きく変化したもので。しかも彼ら自身が納得しているのであれば、こうした形も悪くないのではと思えた。
OverTheDogs「本当の未来は」@渋谷WWW - YouTube
本編ラストに演奏されたのは『トケメグル』から、これまで多くのライブで最終曲としてプレイされてきた“本当の未来は”。この楽曲で歌われるのは端的に言えば、予想も出来ない未来の希望的予測。空飛ぶ車、癌の治療薬、疲れない靴、海外まで5秒の旅行手段……。それらは『トケメグル』が発売された10年前、彼らが「未来はこうなったらいいのに」とする素晴らしいイメージを具現化したものである。ただ2021年現在の『本当の未来』のリアルは、景気は衰退、謎のウイルスが蔓延し、そして当時の彼らが予想すらしていなかったバンドの解散というよもやの出来事が立て続けに起こってしまっているというのが事実で、嫌な話をすれば、彼らが望んでいた未来とは完全に真逆の道を進んでいると言っていい。ただ少なくとも、解散を自ら選択した彼らの心に一切の後悔はない。というより、彼らにとって未来は解散よりも更に先……。未来はメンバーたちがジジイの歳になってもそのまだまだ先にある事柄なのだという、徹底したポジティブ・シンキングなのだ。そして様々な思いを乗せたMCを経て展開した楽器隊に関しても幾分フラットな空気感で、特に恒吉に関しては以下のブレイク途中の映像と比べても手を交差したり身ぶり手振りで雰囲気を作り出したりという『魅せる』アクションがほぼ廃されており、今までに観てきたどのライブよりも自然体だった。彼らの予想もつかない未来に向けて高らかに鳴り響いた“本当の未来は”は、間違いなく彼らにとっても本編ラストに披露する必然性を携えた楽曲であったことだろう。
本編が終わりしばらく続いた手拍子の後、アンコールで再びステージに舞い戻ったメンバーたち。しかしステージに立つなり、恒吉は恥ずかしげに笑みを浮かべながら「アンコールありがとうございまーす!……ちょっともう1回“愛”やっていいすか。成功するまで“愛”やろう」とよもやの宣言。なおダイキは「成功するまで帰れま10みたいな」と先程の感涙を帳消しにする弄りを展開するも、恒吉は当然のように無視。なおこの突発的な“愛”2回披露の裏では立川BABELの社長による「もっかい“愛”やってくれ」との鶴の一言があったためであるらしく、もはやどう転んでもやらざるを得ない状況になったとのこと。
そうして演奏に漕ぎ着けた2度目の“愛”が、樋口のマイクが落下したこと以外は概ね完璧(?)な形として取り敢えずの成功を収めると、残り1曲という状況もあってか恒吉は感慨深げに「何か寂しいね。終わるの」とポツリ。ただダイキは「でもボチボチお腹空いてきちゃったから……」と最後までマイペースで、思わずファンからな笑いが。そして恒吉が「惜しまれますけども、次の曲で最後かな。本当にあの、来年もあるかもしれないし、4年後に1度かもしれないけど。何回も言うと嘘くせえから最後にするけど、本当にありがとうございました!」と語ると、正真正銘最後の楽曲となる“マインストール”でもって大団円を迎えた。
OverTheDogs「マインストール」 MUSIC VIDEO - YouTube
バンド名表記を変え、恒吉の歌声を変え、所属レーベルを変え……。彼らは十数年の活動において様々な変化を経験してきたが、その中でも唯一不変だったものこそが自分たちの音楽スタイルだった。自分が動けばきっと最高の未来が待っているとするOverTheDogsの活動は、それこそ我々のようなファンではない人間から見たら見ればどう映ったかは分からないし、中にはきっと近しい親戚からすると「まだ売れないバンドなんかやってるの?」とか、インディーバンド好きからしても「OverTheDogs?いたなあそんなバンド」など、決して肯定的ではない意見も多かったことだろう。しかしながら最後のMCでも語られていたように、彼らはこの選択に一切の後悔は抱いていない《将来は君の想い通りだよ/最高の想像を信じればいい/生涯は君の中にある/そうさ 変えてゆける》……これは幾度も繰り返されるサビのフレーズだが、その歌詞の通り、OverTheDogsという殻を破って未来を見据える彼らの姿はとても美しく感じられる。そんな希望的未来を暗示するようにボーカルパート以外の部分ではメンバーが「せーの!」と叫んでファンが(声は出さないまでも)「オーイ!」と返す感動的な空間が形成され、恒吉は声を枯らしながらの絶唱でもって最後の歌声を響かせていく。その姿は解散ライブというよりも、まるで数年前に小バコで観た彼らの姿とリンクするようでもありある意味ではとても普段通りだったけれど、全てが終わった今改めて思う。本当にOverTheDogsは、どこまでもOverTheDogsだったのだ。
……最後までフワフワとした空気感で我々を包み込んでくれたオバ犬は遂に解散してしまった。おそらく名も広く知られていない彼らの解散について、メディアは何も言わないだろう。実際某有名音楽サイトも懇意にしていた媒体からも、更にはWikipediaにも現在解散の報は乗せられること自体されていないし、正直長年彼らのライブに何度も参加してきたファン視点で見ても、フロアにとてつもなくゆとりのある環境でしかライブを見たことはなかった。恒吉は最後に「売れてるバンドはいっぱいいて。売れてるバンドがずっと続いてるのは当たり前で、ずっと悔しい思いをしながらバンドを続けてて」と語っていたけれど、大衆に認知されなければやがて自然淘汰されるという図式は変わらない。いちファンからすれば「もしも彼らが売れていたら解散はなかったのだろうか」と考えてもしまうけれど、完全には分からない。
しかしながらどれだけ考えても、我々がどれだけオバ犬の楽曲に救われてきて、また彼ら自身が素晴らしい活動を続けていたということも紛れもない事実。そして結果としてこの日、恒吉の声質を『A STAR LIGHT IN MY LIFE』から大幅に変え、あまりにも短かった所謂『絶頂期』と呼ばれる時を経てインディーズに戻り、名前をOVER THE DOGSに改名したりと迷走を続けた果てにあったのは、彼ら史上最もリラックスした空間だった。何の欲もない、自身を良く見せようとする思いもない。ただ純粋に応援してくれたファンに向けて、歴代の代表曲を網羅する2時間に、心底後悔がないほどに圧倒されてしまったのだ。……この日あらゆる事象がひっくり返った世界でOverTheDogsはひっそりと姿を消したけれど、飼い犬が家を飛び出して主が心配するも結局普通に戻ってくるのと同じように、彼らはきっとこの先もどこかで楽しく暮らし、また9月22日にひょっこり顔を見せに来るのだろう。どこまでもマイペースで自分たちを信じ抜いたオバ犬の居場所は我々の心の中からずっと消えることはないのだから、後はゆっくり待つのみである。
【OverTheDogs@立川BABEL セットリスト】
イッツ・ア・スモールワールド
ココロデウス
カフカ
どこぞの果て
ラバーボーイラバーガール
スターフィッシュストーリー
愛
さかさまミルク
うつらうつら
メテオ
うた
おとぎ話
パンダの名前に似た感情
チーズヘッドフォンデュ
本当の未来は
[アンコール]
愛
マインストール