キタガワのブログ

島根県在住のフリーライター。ロッキン、Real Sound、KAI-YOU.net、uzurea.netなどに寄稿。ご依頼はプロフィール欄『このブログについて』よりお願い致します。

【ライブレポート】爆弾ジョニー・忘れらんねえよ・THEラブ人間『サポートやろうぜ』@渋谷WWW X

こんばんは、キタガワです。

 

f:id:psychedelicrock0825:20210922230149j:plain

爆弾ジョニー、忘れらんねえよ、THEラブ人間という、ことライブハウスを中心に活躍するロックバンド好きにはたまらないスリーマンとなった、爆弾ジョニー主催の対バンイベント『サポートやろうぜ』。そのタイトルからも分かる通り、この日はかねてより爆弾ジョニーのメンバーがサポートとしてアシストしてきたふたつのバンドに声をかけ実現したイベントだが、コロナの影響により延期を重ね、ようやっとこの日に実現に至ったという訳だ。では今回のライブがエネルギーを異様に迸らせたものだったのかと言うとそうではなく、あくまで普段通りのテンションだったということも含め、総じて「らしいなあ」と感じる幸福な一夜だった。

 

 

THEラブ人間

f:id:psychedelicrock0825:20210922230626j:plain

トップバッターとしてステージに立ったのは下北沢が誇る恋愛ロックマエストロ、THEラブ人間。まずはコロナ禍に制作された未音源化の新曲『太陽の光線』でフロアを温め、ロック的な布陣+バイオリンによる独自性の高いサウンドをゆるりと聴かせていく。その姿は至って自然体だが、きっと義理深い彼らのことだ。言葉より何より自身の思いを歌に乗せて伝えることが感謝の強い体現であると考えての、敢えて肩肘張らない形に終始したパフォーマンスなのだろう。


今回のライブはライブハウスが短縮営業であるためか、比較的全組とも持ち時間は少なく、中でもTHEラブ人間は演奏曲にして5曲とある意味では「もっと聴きたい!」とファンをやきもきさせる罪なライブでもあったが、そうした中でも彼らの現在地を存分に見せ付けていたのはすこぶる頼もしかった。今回のライブのハイライトとして位置していたのは紛れもなく“砂男Ⅱ“と”砂男”から成るキラーチューン2連発で、“砂男Ⅱ”の後半に爆弾ジョニーの“なあ~んにも”をこの日限りのサプライズ披露した他、結成当初からこれまで何度もセットリスト入りを果たしてきた“砂男”は原曲の歌唱部分の大半を崩しつつ、前をしっかり見据えて届けるというライブならではのアレンジで魅せた。

 

【砂男 / THEラブ人間】 - YouTube

 

「音楽なしだとちょっとキツいわな、人生は。アフターコロナが終わったあとに、みんながまた歌ったりする世界が戻ってくるかは分かんない。でもこの3バンドはみんなが歌えなくても、大丈夫って思ってます。みんながこの先ライブで歌えない未来が来ても2倍3倍、10倍デカい声で歌いますんで。音楽を好きという理由の前では、どんなことでも取り払えます」……。30分の持ち時間に唯一もたらされたMCで金田康平(Vo.Gt)が語った言葉が、今でも印象に残っている。もはや音楽はコロナに憂う現代において、必要と見なしていない人にとっては圧倒的に優先度が低い存在となってしまったが、対照的に音楽を心から欲する人々にとっては改めて音楽の必要性に気付かされる1年半であったのも事実で、このMCで彼らは音楽を鳴らす立場として、集まってくれた音楽好きたちを全面的に肯定した。彼らの楽曲は全曲がラブソングだが、この日の『恋愛対象』は他でもない我々に向けてのものだったようにも思え、とても感動した次第だ。

 

THEラブ人間「ズタボロの君へ」【Official Music Video】 - YouTube 


ラストソングは最新作『夢路混戦期』から“ズタボロの君へ”。ツネ・モリサワ(Key)が前方に躍り出て煽り倒したり、金田が直撃しすっかり背が低くなったマイクに齧り付くように歌う一幕を経てアグレッシブに駆け抜け、最後はベースのサポートを務めた爆弾ジョニー・小堀ファイヤー(Ba)の名前を連呼する連帯感抜群のクライマックスでステージを去ったTHEラブ人間。その表情はまるで後輩に後を任せるかのように満面の笑顔だった。


【THEラブ人間@渋谷WWW X セットリスト】
太陽の光線
大人と子供(初夏のテーマ)
砂男Ⅱ(間奏:なあ~んにも)
砂男
ズタボロの君へ

 

忘れらんねえよ

f:id:psychedelicrock0825:20210922230658j:plain

THEラブ人間からバトンを引き継いだのは、遂に先日40歳の誕生日を迎えた柴田隆浩(Vo.Gt)によるロックバンド・忘れらんねえよ。ライブでは必ず笑いを重要なエッセンスとしたパフォーマンスを行うことでも知られる彼ら。必然その登場シーンにも期待が高まるところだが、今回は数日前に週刊誌でいろいろあったRADWIMPSの“前前前世”を流しながらオンステージ。柴田は「何か最近揚げ足とるやつばっかですけど、いいんだよバンドマンは格好良いことやってれば!バカヤロー!」と叫びつつ、急いでギターの用意を始める。よく見るとサポートはロマンチック☆安田(Gt)、小堀ファイヤー(Ba)、タイチサンダー(Dr)と柴田以外の全員が爆弾ジョニーメンバーで、まさしく『サポートやろうぜ』に相応しい編成である。


1曲目は彼らを一躍表舞台に押し上げた代表曲“CからはじまるABC”で、その勢いでもって一気にフロアの熱量を高めていく。楽曲自体の性急さもさることながら、柴田は《いつのまにか三十路になっていく》を「40歳になりました!」、《グループでスノボに行った》を「(今年は)夏フェスなかったな!」など歌詞を所々突発的に変化させ、笑いの燃料も次々投下。すっかり灼熱地獄になったフロアに対し「それでも足りない」とばかりに更なる熱を帯びる演奏……。忘れらんねえよにおけるCD音源とライブの相違点についてはこれまでにも体験してきてはいたが、それでもこの圧倒的なパワーは何度観ても驚かされるばかり。

 

[PV] CからはじまるABC - 忘れらんねえよ - YouTube


今回の忘れらんねえよのセットリストは所謂『フェスセトリ』と呼ばれる、キラーチューンを多数披露する極めて激しい内容で展開。ただ基本的には後半に向けて次第に上がっていくのが通例のフェスセトリとは違い、この日の彼らは特に前半部分に代表曲を散りばめる一風変わった形を取っていて、ある意味では新鮮だ。演奏曲についても“ばかばっか”では早くもサポートメンバーへのパワハラ的ノンアルコールビール一気を見せ、“踊れ引きこもり”では今回のイベントのアンサーとして“バンドやろうぜ”とTHEラブ人間の楽曲を弾き語り、菅田将暉に提供した“ピンクのアフロにカザールかけて”をセルフカバーしたりとサービス精神も旺盛で、一切息つく暇もないのも○。


加えて、サポートメンバー3人との親しい関係性が白日のもとに晒されたのもファンには嬉しいところで、爆弾ジョニーのライブでは自由奔放なメンバーたちが忘れらんねえよのサポートをする時にはとても腰が低く、謙虚であることを暴露した柴田にすかさずタイチサンダーが「遊ぼうや柴っちゃぁん!」と悪ノリイメージ全開で返すも、柴田が「楽屋ではこんな感じ(体育座り)で座ってたじゃん」と隠された真面目ぶりを新たに暴露してしまう流れ然り、磐石のパフォーマンスはこうした信頼関係で成り立っているのだと再認識。

 

「俺よ届け」LIVE (2021/4/23 忘れらんねえよ 主催『ソーシャルディスタンスなツレ伝』より) - YouTube


最後に披露されたのは“俺よ届け”。本来であればもう1曲演奏する予定だったようだが、ラスサビの時点でスタッフに確認を取っての「興奮しすぎてこれが最後の曲になりました!」という予想外の幕引きとなったのも、実に彼ららしい。暴風のような激しさで駆け抜けつ気付けば去っていった怒濤の30分は、きっと集まった観客の心に絶大な印象を与えたはず。この分だと10月にZeppで開催されるワンマンライブも満員御礼は間違いなしだろうと確信する、そんな魂のこもったライブだった。


【忘れらんねえよ@渋谷WWW X セットリスト】
Cから始まるABC 
ばかばっか
踊れ引きこもり(間奏:砂男、バンドやろうぜ)
あの娘に俺が分かってたまるか
ピンクのアフロにカザールかけて(菅田将暉セルフカバー)
俺よ届け

 

爆弾ジョニー

f:id:psychedelicrock0825:20210922230719j:plain

楽しい時間ほど過ぎるのは早いもので、気付けば残すところ出演バンドは爆弾ジョニーただ一組だけとなった。これまでTHEラブ人間と忘れらんねえよの濃密なライブを観た後であることもそうだし、彼ら自身もこの直前にニューアルバムのリリースをツイッターで発表していたことからも、セットリストの予測が全く出来ない状況下でのライブとなった訳だが、りょーめー(Vo.Gt)が「誰も知らない新曲やります。爆弾ジョニーです!」と語って1曲目に披露されたのはよもやの新曲。それもニューアルバムに収録されているものでもないらしく、正真正銘の本邦初披露の楽曲でスタートする驚きの幕開けである。

 

爆弾ジョニー 『なあ~んにも [Music Clip]』 - YouTube

 

以降は観客誰しもの心中のシンガロングを巻き起こした“なあ~んにも”、りょーめーの傍若無人な振る舞いで視線を一身に集めた“唯一人”と続き、その唯一無二のステージングでみるみる観客を虜にしていく。思えば爆弾ジョニーが新進気鋭の高校生バンドとしてシーンに降り立ってから10年が経過、当然そのライブスタイルもかつての怖いもの知らずな若者らしさから少しずつ経験を積んで、現在では地に足着けた演奏になってはいる。ただ根本的なライブ姿勢は不変であり、まず第一義に自分たちが楽しみ、その相乗効果で観客も楽しくなるという幸福な循環は更に磨きがかかっている印象すら受ける。


そのうち中盤に披露されたライブアンセムこと“キミハキミドリ”は、爆弾ジョニーのライブの楽しさを雄弁に物語るワンシーンとして位置していた。この日THEラブ人間の物販として販売されていたスペシャルワッペンを額に貼り付けたり「授業を無視してラブ人間を思って勉強しました」「マス掻いた後に柴田のことは思わなかったでーす!」など歌詞の変更、途中の振り付けに関しても「世の中知った方がいいことと知らなくていいことがあるんで……」と突発的な言動で翻弄するりょーめーも噴飯ものだったが、後半に差し掛かると突如タイチサンダーが自分のサポートメンバー(?)である『MacBook Proくん』の力を借り、無機質な声を合図に呪文を言い放つ一幕で爆笑の嵐に。ロックバンドのライブの魅力は「ひとつたりとも同じライブはない」ことであると個人的に思っているけれど、本当に爆弾ジョニーはそんなロックライブの素晴らしさを体現してくれる存在なのだなあと、思わず頬が緩んでしまう。


その後のMCでは今回のスリーマンがこの3組になった理由や諸々の爆弾ジョニーの近況について語られた。ロマンチック☆安田(Key)いわくTHEラブ人間は下北沢ニテ、忘れらんねえよはツレ伝というツアーで頻繁に誘ってくれるため、そのお返しの意味合いも込めて企画されたものらしく、以降もニューアルバムリリースの報や物販など様々なお知らせを試みようとするのだが、時間の都合上バッサリカット。予定を変更して残りの時間は全て演奏に使う割り切りぶりも、音楽至上主義の彼ららしいと言うものだ。

 

爆弾ジョニー「イミナシ」PV - YouTube

 

最後に披露されたのは本来ならば中盤に位置することが多い“イミナシ!”で、過去を振り返る必要性や生まれてきた意味といったある種哲学じみた事柄を全てまとめて“イミナシ!(意味無し)”とする彼らなりのポジティブ・メッセージを響かせた……。かと思えば、余韻も残さずステージから撤退。そしてアンコールで再び戻ってきたりょーめーが「時間がねえって言ってんだろ!チューニングとか野暮だから止めよう!」とやたら忙しない挙動でファストチューンな未発表曲“ララララ”を爆速で鳴らし、またもふわりと去っていった。今回は爆弾ジョニーの自主企画で、ともすれば力の入ったライブにもなるだろうな、と事前に予想していたのだが、蓋を開けて見れば最後まで自由奔放だった27歳の若者たち。1年の延期もコロナも、そんなことはどうだっていい。今音楽を鳴らす場所があって、好きで聴いてくれる人がいればそれだけで良いのだという馬鹿正直なそのライブには「頑張った!」といった努力主義の達成感という以上に、明らかな楽しさがあった。

 

【爆弾ジョニー@渋谷WWW X セットリスト】
コバルト(未発表新曲)
なあ~んにも
唯一人
キミハキミドリ
メドレー(123346→緑→賛歌)
イミナシ!

[アンコール]
ララララ(未発表曲)

 

 

THEラブ人間の貴方へのメッセージ性、忘れらんねえよの猪突猛進ぶり、爆弾ジョニーのフリーダムさ……。今回のライブは『サポートやろうぜ』と題されてはいたもののその実、ありとあらゆる面で「ライブバンドかくあるべし」なロックの魅力を強く見せ付けた代物だったように思う。当然、コロナ禍における今回の彼らのライブはコロナ前と全く同じな訳はない。個人的に彼らのライブにはそれぞれ何度かずつ赴いている身だが、例えばTHEラブ人間がハンドマイクで客席に寄りかかることはなかったし、忘れらんねえよが観客の頭上でビールを一気することもなく、同じく爆弾ジョニーは観客と一緒に謎の呪文を叫び合うことも出来なかった。それは様々な制限が課されている関係上不可能なことは当たり前で、逆に言えばそうした観客とのレスポンスが廃された状態でどれほど観客の心を掴むことが出来るか、というのも大きな課題として乗し掛かっていたのも事実だ。


そして結論から言えば、彼らは限られた中で一組の例外もなく、見事に観客の心を掴んだ。それは元を辿って見れば各自10年以上、愚直にライブ活動に励んで培われた地力がこのコロナ禍でも何ひとつ損なわれることなく、観客に届いたことの表れだったのではないだろうか。おそらくコロナが完全に収束するにはあと丸々2年程度はかかり、THEラブ人間の金田がMCで語っていたようにライブハウスで声が出せない、或いは収容人数制限などの措置は変わらず継続されると推察する。ただ彼らの今回のパフォーマンスと精神性を見る限り、少なくともライブ活動においては安泰であると心から安心することが出来た。……『ロックバンドは最高』。この気持ちに改めて気付かされた今回のライブの記憶は、まだまだ続くコロナ禍できっと参加者の心に希望の光として輝き続けることだろう。