キタガワのブログ

島根県在住のフリーライター。ロッキン、Real Sound、KAI-YOU.net、uzurea.netなどに寄稿。ご依頼はプロフィール欄『このブログについて』よりお願い致します。

映画『総理の夫』レビュー(ネタバレなし)

こんばんは、キタガワです。


菅首相が退陣し、時期総理大臣を決定付けると言っても過言ではない29日の党開票。その日に向けて現在各陣営の動きは加熱化を続けている。立候補者は岸田、河野、高市、野田の4名であり、それぞれコロナ対策も理念も主張もバラバラ。今記事執筆時点では岸田と河野の一騎討ちになるだろうとの見方が強まっているが、果たしてどうなることやら。ともあれ新首相誕生の瞬間を目撃出来ることはとても素晴らしいものだし、いろいろ思うところはあれど期待はしている。


ただ「未だ日本の総理に女性が就任したことがない」という事実については、確かにひとつの疑問として浮かんではいた。世界に目を向ければ一国のトップに女性が就くことは珍しくないし、そもそもの話として男性と女性とで考えに大きな差がある訳でもないのである。なお今回の選挙にしても女性立候補者の高市、野田が勝利することはまずないというデータが出ており、世論がある程度男女平等に近付いてきた中でも女性の就任は未だ難しい状況が続いている。

 

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そんな総裁選挙真っ只中に公開された映画こそ、今回取り上げる『総理の夫』だ。今作は日本の内閣総理大臣に就任した初の女性総理誕生と、その妻を支える夫に焦点を当てたヒューマンドラマ。物語はバードウォッチングを生業にしている夫の相馬日和(田中圭)に対して妻の相馬凛子(中谷美紀)が「私が総理大臣になったら不都合なことはある?」と問い、夫はその深意も分からぬまま電波の届かない北海道の山奥に1週間滞在。そして戻ってくると空港で直ぐ様メディアに囲まれ、妻が本当に総理大臣になってしまった事実を知る、というあらすじで始まる。


今作を鑑賞する上で重要な点として挙げられるのは主に2点。それは生活が一変し普段のような生活が出来なくなってしまう夫の葛藤と、妻が総理大臣になったことによって訪れてしまう事象の数々である。まず最初の点について見てみると、全体として「日本初のファーストジェントルマンとなった夫にしては少しばかり現実味がないかなあ」と思うところがまあまあある。まずもって絶対に描写しなければならない「毎日が多忙です」という至極当然の日常については描写されているので良しとするが、妻が消費税アップという強行的な政策を行っていることから考えても、家にマスコミがほぼ押し掛けなかったり、夫の勤務先に良くも悪くも影響(仕事の依頼が大量に来る、もしくは嫌がらせがされるなど)が何らなかったりと、確かに場面場面を観ればあまり気にならないまでも、それこそSNS社会の今によく考えれば「この行動を総理の夫がやったら普通にダメじゃね?」と考えられる事柄も何ら話題にならず消えてしまうことに気付いた瞬間、かなり御都合主義のようにも思えてしまう。


『妻が総理大臣になったことによって訪れてしまう事象』の1点についても同様に、突っ込みどころが多々。これについては分かりやすいところでいくと金銭的政策の是非であろうと思うのだが、例えば先述の「消費税上げます」にしても、絶対的に世論は賛成派と反対派に別れる。今作は基本的には総理の追い風的なムードで進む(つまり賛成派多数)なのだけど、そうした場合にも当然『賛成に値する理由』と『反対派を唸らせる論破』が必要になるのだ。で、今作はどうかと言えば消費税賛成派の意見は主に「総理大臣カッコいいから」や「女性だから頑張ってくれそう」といったゆるーい意見ばかりで、逆に反対派に対してはよもやの『総理が慈愛を見せ付ける』というまさかの説得で話が終わってしまう。総理大臣は国のトップ。ならば何かが起きたときは何かで交渉材料にする、というのが簡単な方法だが、そうした事柄がかなりぼかす形で描かれていたので、少し残念だった。


ただし、今作が完全な駄作だった訳ではない。正直思うところはいろいろあったが観る人によっては些細なものだし、物語の根幹部分はある程度起伏もあって楽しめた。更に個人的には原作とは大きく異なるラストも好感触で、腑に落ちた部分もあったのは紛れもない事実だ。けれどもこの時期を敢えて狙って公開したようなハードルが上がるタイミング然り、それこそ近年公開された映画の『新聞記者』や『記憶にございません!』といった政治を題材とした映画と比べてネガティブを超えて明らかにポジティブ方面の展開に寄っていたりと、そうした点を踏まえるとやや微妙だった、というのが個人的な思いである。


なお余談だが、今作『総理の夫』を観て改めて政治映画制作の難しさを感じたのも、新たな気付きとして位置していた。まずもって政治を語れば間接的に右か左かの話にも言及してしまうので賛否両論は避けられない。だからこそ今回政治映画としては珍しい『初の女性総理』という新たな引き出しを開けたのは素晴らしいと思うし、逆に言えば半ばフワフワした物語に終始してしまったのは、そうした『誰も傷付けない映画』を目指そうとした結果なのだろうとも。……ともあれ、2時間を要して観る作品としてはこの点数。悪い映画ではないのは間違いないので、以下の公式動画を観て気になった方は面白く観ることが出来るハズ。


ストーリー★★★☆☆
コメディー★★★★☆
配役★★☆☆☆
感動★★★☆☆
エンターテインメント★★★☆☆

総合評価★★★☆☆

 

映画『総理の夫』予告🕊【9月23日(木・祝)公開】 - YouTube