キタガワのブログ

島根県在住のフリーライター。ロッキン、Real Sound、KAI-YOU.net、uzurea.netなどに寄稿。ご依頼はプロフィール欄『このブログについて』よりお願い致します。

千葉市が『SUPERSONIC 2021』開催延期を要望したことについて思うこと

こんばんは、キタガワです。

 

f:id:psychedelicrock0825:20210611214015j:plain


もうじき暑かった季節も終わり、本格的に秋の気候に突入しようとしているが、思えば音楽ファンにとって今年の夏は昨年の同時期以上に絶望の夏として位置していた。実際に少しずつライブシーンは有観客での公演にシフトしつつはあるものの、やはり直前に国内の感染状況が悪化したり、若しくは出演者が感染・ないしは濃厚接触者に当たったことで開催が急遽取り止めとなった事態もかなりの数あったし、直接的なもの以外にも「ライブ行くの止めたら?」と家族に言われて参戦を見送ったり、キャパ減少でそもそものチケット倍率が高くなり入手出来なかったという人も存在するはずだ。


そんな中所謂『夏フェス』と呼ばれるライブシーンに目を向けてみるとそこには目を疑うような壊滅的状況があり、ROCK IN JAPAN FESTIVALも、RISING SUNも、SWEET LOVE SHOWERも……。国内の様々なフェスはRUSH BALLやフジロックを例外として、ほとんど全てが延期・中止を余儀無くされた。正直既存のウイルスより感染率が高いデルタ株がここまで蔓延してしまえばフェス開催は困難の極みで、「こんな状況だから仕方ないよ」と言ってしまえばそれまでだが、彼らだって生活がある。主催者は万全の体制でお客様を迎えるし、出演者は呼ばれれば喜んで演奏する。何故ならそれが仕事だからだ。ただ世論もメディアも一様に中止方向に傾いたことで、今やフェスへの風向きは昨年よりも遥かに悪くなっている。


そして個人的に気になっている点のひとつが、開催地域・或いは県の医師会から直接的に『NO』を突き付けられる場面が増えてきたこと。言うまでもなく世論より何より、そうした地域的な部分からの発言は主催者側にとってはほぼレッドカードに近いものがあり、当然のように警告を受けたフェスは全てが延期・中止の措置をやむ無く講じているのが実情。まるで音楽フェスだけが晒し首にされるような地獄の状態は、我々が思っている以上に深刻化しつつある。

 

www.sponichi.co.jp


翻って今回の報道だ。スパソニは昨年秋から1年延期、今年の9月18日~19日の2日間に渡って開催される予定で、もしも開催されればコロナ禍では初。年数にして約2年ぶりのインターナショナルフェス開催となる点においても多くの期待が込められていて、出演も全1ステージ、規模縮小、全アリーナ席、アルコール販売なし、加えて海外からの出演アーティストには全員3日間の自主隔離を課すという徹底的な対策で、ようやく長らく停滞していた洋楽の波が動き出すとされていたが、ここにきて状況は一変してしまった。


これまでもスパソニについては過去記事でも多く記しているため、詳しい情報と持論はそちらを参照して頂きたいところだが、個人的には今年スパソニが開催されるかどうかで、少なくとも海外アーティストから見る日本の立場は大きく損なわれると考えている。というのも既に海外ではフェスやライブはコロナ前と同じ形で開催される環境下になっていて『フェス=やるべき』との考えが大多数であり、実際このあまりに酷い来日規制もマスク着用も発声制限も海外からすると「何で日本はまだこんな対策しか出来ないの?」……強い言葉を使ってしまえば「じゃあもう日本行かないでアジアの国でフェス回った方が良くない?」と呆れ返るレベルだからだ。そう。スパソニは今や単なる洋楽フェスではない。海外プロモーター(アーティスト)から見る日本の在り方を唯一変化させることが出来る、最後の一手なのだ。


今回の主催者であるクリエイティブマンも、そうした事は重々承知だ。だからこそこれまでのサマソニ(スパソニ)で考えれば異常なほど厳格な感染防止対策を徹底して開催に漕ぎ着けようとしているし、それらは全て千葉市にも直接報告している。来場者を2日間で1万人に抑えます。ステージは減らします。飲食は限られたスペースで……等々。つい先日大阪公演中止が公式からアナウンスされたが、収益の大多数が洋楽系統のライブであるクリエイティブマンとしてはこれも断腸の思いだったろう。今やギリギリもギリギリ。けれども洋楽好きのファンのため、洋楽の火を絶やしてはならないという強い思いで、何とかこれだけはと血の滲む努力を重ねてきたのだ。


対して千葉市が懸念している事項は「県内外から訪れること」、この1点に尽きる。確かに言い分は痛いほど理解できるし、特に千葉市で暮らしている人々のことを考えればやむなしな判断だとも思う。ただつい先日同会場では1日で8000人近い観客を動員して野球の試合が行われていた(スパソニは2日で1万人)ことも考えると、音楽フェスのみがロックオンされたことについては疑問しかないし、そうでなくとも千葉市は県内外にアピールする飲食イベントも多数開催している訳で、仮に「スパソニは延期を。県内外から人が来ることが原因です」とすればこれまでの試みとの整合性が取れないというか、やはりどうしても「じゃあ野球はいいの?」「他のイベントならいいの?」となってしまうのは必然だ。


しかしながら、ここまで来てしまったら十中八九スパソニは開催を断念せざるを得ない。2度に渡っての延期は実質不可能なので、すっぱり中止にして来年のサマソニに切り替える可能性が濃厚だろう。ただ既に海外アーティストのビザも飛行機予約も取っているはずで、会場の転換で流す映像、物販、装飾機材も発注済みのはずなのでその損害は計り知れない。最悪の場合、来年以降のクリエイティブマン主催のフェス開催さえ危ういのではないかと、考えたくはないがそう考えてしまう自分がいる。現状クリエイティブマン側は開催の意向を示しているとのことだが、そこには「もう本当に中止にしたらいろいろと終わってしまう」との絶望の思いも大きいのだろうと推察してしまう。


今回の記事を読んでくださっている方々に強く伝えたいのは、それぞれの立場からの多面的な視点理解だ。SNSが発達した現在、マイナス面はプラス面を凌駕する加速度で飛び回っている。今回トレンドに上がったのが『SUPERSONIC』との正式名称ではなく『スーパーソニック』という主催者側がこれまでほぼほぼ使ってこなかったカタカナ表記だったのも、TLに流れたのが主催者側からのアナウンスではなくニュースサイトのまとめ記事だったのもそう。確かに現在フェスを開催することに否定意見はあって然るべしだが、どうか批判される側の意見についても目を向けてみてほしいと強く願っている。多数派が少数派を捩じ伏せるのではなく、多数派は少数派の意見を少しでも汲み取るべきだ。そして音楽を愛する我々だけは、おそらく近日中にクリエイティブマンが下すであろう判断を、様々な思いも含めて飲み込む必要がある。……今日からは「どうか温情的な判断が下されますように」と願い続ける日々が続きそうだ。