こんばんは、キタガワです。
デルタ株に起因する感染急拡大。NAMIMONOGATARIによるフェス全体への不信感。千葉市後援辞退の報道。スクリレックスやカイゴなどヘッドライナーを務める予定だったDJ陣のキャンセル……。昨年秋から1年延期、状況としても「間違いなく昨年よりは良くなるはずだ」との希望を軸に進められていた今秋のスパソニは、言葉を選ばずに言えば結果『昨年よりも明らかに悪い状況下で開催されるインターナショナルフェス』としてのよもやの立ち位置で開催される運びとなった。そう。一時は中止の可能性も濃厚だったけれど、数々の逆境を乗り越えてスパソニは遂に今月の9月18日~19日に行われるのだ。
なお一番の懸念事項であった海外アーティストたちは既に大多数が来日済みで、現在は東京のホテルにて3日間の自主隔離中。チケットはソールドアウト。コロナ禍であることも鑑みて、ライブ配信については若者の間で大流行中の配信サイト『17(イチナナ)』にて超大物DJたちの生ライブを鑑賞出来ることも伝えられている。主催者であるクリエイティブマンも洋楽ファンの我々も含め、長らくライブどころかそもそもアーティストの来日すらままならなかった苦難の時期を過ごしてきたが、その悩みともやっとこの日でおさらばだ。待ちに待った祝祭は正真正銘、すぐそばまで迫っている。
誰しもが気になるのはそのタイムテーブルだろう。感染拡大防止の観点からワン・ステージとなってはしまったが、この情報だけを見て残念がるのは本当に時期尚早。何故なら各日、チケット代だけを考えても明らかにペイ出来る素晴らしいアーティストが盛り沢山なのだから。まずは初日・18日のヘッドライナーを務めるのは我らがDJ王子・ゼッド!2019年のサマソニで総額ウン千万円をかけて作られた特製DJセットを持ち込み灼熱のダンスフロアに変えてくれたことも記憶に新しいが、自粛期間中に“Funny“や”Inside out”といった新曲もドロップしている関係上、セットリストも更にアップデートしたものになりそうだ。そしてトリ前の絶好のポジションには現状31億回再生(!)のキラーチューンを生み出しEDMのトップをひた走る若者ことアラン・ウォーカーがお目見えで、ゼッドとは対照的に近未来寄りのスペースサウンドを得意とするこちらも間違いなく今年のハイライトになることだろう。他にも2018年にバンドセットでサマソニのトリを担った億単位のバズのスペシャリストのクリーン・バンディットが本邦初公開のDJセットで出演し、氷の国ノルウェーからは『アナと雪の女王2』の挿入歌でもお馴染みとなったオーロラが待望の初来日。ここまでの布陣だけを見ても、海外フェスがひとつ成立しそうなブッキングには感服するばかりである。
Zedd - The Middle (Live at SUMMER SONIC 2019) - YouTube
日本勢も負けてはいない。DJセットで出陣するのは電気グルーヴの立役者こと石野卓球で、卓越したDJプレイで魅了すること必至。個人的には卓球楽曲もさることながら、先日のフジロックで電グルの“虹”を披露しなかったことが心残りなので、是非ともこの楽曲で締めてほしいなあと思ったりもするところ。急遽のピンチヒッターとして……というかおそらく本人たちが「俺らこんなデカいとこでやんの!?」と一番戸惑っているであろうどんぐりずも番狂わせを狙うに相応しいポジショニングだし、ファンにとってはSKY-HIが主催するボーイズグループのオーディション番組『THE FIRST』から誕生したBE:FIRSTがオープニングアクトを務めた後のSKY-HI、という展開も感涙ものだ。正直SKY-HI→どんぐりず→オーロラ→クリーン・バンディットの流れはラップとポップスとDJが入り乱れるかなりのカオスタイムであると言えるが、こうしたミスマッチぶりを見事に成功へと導くのも、思えばスパソニの手腕だったりもするので、期待しかない。
続いて翌日19日。もうこれについては誰も異論はないだろうが、トリに冠されたスティーヴ・アオキ、ゼッド、アラン・ウォーカーが一同に介するまさかのB2Bを観ずには絶対に帰れない。そもそも前日出演のゼッドとアラン・ウォーカーがツーデイズで出演すること自体まず有り得ないことではあるが、彼らがこうして誰かとDJコラボをすることは実は今までほぼ例がなく、しかもそのお相手が『海外DJ収入ランキング』でもトップ10に入るというこの3組ときた。これは間違いなく海外的にも驚きの試みでファンもびっくり。この日はツイッターのトレンドが世界的に『スパソニ』『アラン・ウォーカー』『ゼッド』『スティーヴ・アオキ』一色になるのは100%避けられないだろう。
加えて、カイゴが出演をキャンセルしたことで実質的なヘッドライナーとなったスティーヴ・アオキのパフォーマンスにも要注目。元々彼が出演する時点でTLが異様な盛り上がりを見せていたので彼がトリを担うことに文句がある人間などいないはずだが、今回はきゃりーぱみゅぱみゅとのコラボ曲あり、あのBTSのリミックスありとかなり内容的にも濃いものになるのは必然だ。中でもきゃりーは同日出演者に名を連ねているので、少なくとも何らかのゲスト出演は実現すると見て良いはずだ。
Steve Aoki - Ultra Music Festival Miami 2017 [Live] - YouTube
対して親日家として知られるリハブは、かなり日本に寄ったステージになりそうでこちらも期待大。特に見所は“Sakura“や”Samurai”といった日本に着想を得た楽曲の数々で、これらは当然海外でも披露されてはいるがここ日本で聴くことには、とても意味のあることだとも思ってしまう。なおそうした系統の中でデジタリズムが爆音ゴリゴリEDMを鳴らすのも楽しみで、メンバーのひとりであるイスメイルが妻の出産のため来日断念となったのは残念だが、実はジェンスオンリーのライブはほぼ初だったりもするので結果プレミア。なお鬱屈した思いを発散するという意味でも、爆音の“Pogo”がこの日本で鳴らされることはマストだ。
更にその最強の海外勢に加勢するのがPerfume、きゃりーぱみゅぱみゅ、NiziUなのも素晴らしい。特にPerfumeは映像効果を多用した衝撃的なVJで、かつて並みいる海外アーティストを押し退けて『コーチェラで最も秀でていたライブ10選』にも選ばれたほどなので、今回は果たしてどうなることやら。なお同じ中田ヤスタカプロデュースのきゃりーも大規模な全国ツアーを控えての出陣になるので、ニューアルバムからの新曲もいくつかプレイしそうだ。そして昨年は紅白歌合戦にも出演し、この日は大多数のティーンが押し寄せること必至のNiziUは何と初の有観客フェス出演であり、まずもって後世に語れるレアなライブになる。
ただここまで感情の赴くまま書き綴ってきたが、数日後に控えるスパソニが出演者のハッピーな話題だけで終わるほど簡単な話ではないことは、誰もが理解しているはずだ。しっかりソーシャルディスタンスが図られるのか。観客側は本当にルールを遵守するのか。運営は細部にまで目を凝らしていたのか……。それこそフジロックやJAPAN JAMのときのように「今コロナ禍で海外のアーティストを呼んでフェスが行われています!」とメディアで連日すっぱ抜かれ、袋叩きに合う可能性だってあるかもしれない。故にフェスはむしろここからが本番。感染者をゼロに抑えた上で最高の遊び場を提供、次の来日公演に繋げていくことが本当の意味での『スパソニ成功』と言える。
だからこそ、参加者する方々もイチナナで観る我々も、この日は強い音楽好きとしてのモラルを持って当日を迎える必要があると思っている。声が出せないEDMはライブじゃないとの意見はもっともだ。ただ主催者であるクリエイティブマンはそうしたことも分かっていてそれでも開催へ漕ぎ着けたし、出演する海外アーティストも先述の通り、全員3日間の自主隔離を余儀無くされた状態でフェスでパフォーマンスを行う。これについては一度アーティスト側の立場になって考えてみてほしい。大好きな、若しくは初めて行く土地に飛行機で10時間かけて向かっても、日本特有のオタク文化や食べ物にも触れられず外出禁止の3日間。そうしてようやく辿り着いた会場はガラガラ。ライブをしても日本は現状発声禁止なので、声出しOKでキャパ100%の自国との差に思うところは絶対的にあるだろう。ライブの後はそのままどこにも寄らずに飛行機でまた10時間フライトし、帰国する……。本年を言ってしまえば僕が逆の立場なら絶対に嫌だし、「それなら今年は出演キャンセルして来年出るよ」とする方が普通だろう。
ただ、彼らは数々の制限を飲み込んだ上で今回フェスに出演してくれる。これが日本に対しての信頼と言わずして何と言おうか。……だからこそ我々はアーティストたちの思いに賛同する意味でも、しっかりとルールを守らねばならない。限られた中でも楽しまなければならない。そして何より主催者やアーティストに、強い感謝の心を持ち続けなければならないのだ。全ての辛かった出来事が帳消しになる祝祭の時はもうじき。と同時に、この1年半培ってきた自制心を一番発揮する場というのも、もうじき訪れるスパソニの2日間だ。