キタガワのブログ

島根県在住のフリーライター。ロッキン、Real Sound、KAI-YOU.net、uzurea.netなどに寄稿。ご依頼はプロフィール欄『このブログについて』よりお願い致します。

【ライブレポート】ネクライトーキー『ゴーゴートーキーズ!2020 日比谷野外音楽堂編』@日比谷野外音楽堂

こんばんは、キタガワです。

 

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5人のポップロック集団、遂に野音に到達す……。コロナ禍以後はオンラインで開催されるサーキットイベントやYouTubeライブ『デジタルビリビリ演奏会』等、制約を課される中でも精力的な活動を続けていたものの、やはり愚直なライブ活動を結成当初から続けてきたネクライトーキーである。緊急事態宣言が発令されてから間も無く呟かれた「めちゃくちゃライブしたいな」との朝日(G)のツイートにも如実に表れていたように、かつてのようなライブ体験を渇望する思いは強かったようで、遂に約7ヶ月ぶりとなる有観客でのライブに漕ぎ着けた。


会場に選ばれたのは大阪は大阪城音楽堂、東京はなんとライブの聖地との呼び声高い日比谷野外音楽堂で、もはや言うまでもないがネクライトーキー史上最大規模の会場となる。長い長いお預けを喰らった彼らは、如何なる形でライブを展開するのか……。間近に迫った運命的な時間に、否が応にも期待が高まる。


時刻が開演時間の17時を回ると、多種多様なパーカッションの音色と共に誰かしらの「ようこそ」との一言をぶつ切りでサンプリングした形容し難いダンサブルなSEが流れ、観客は誰からともなく立ち上がり、リズムに合わせて手拍子を行う。瞬間、照明に照らされた野音のステージ。気付けばステージの背後には印象的な『ネ』の一文字が出現しており、色とりどりの照明に照らされて妖しく光っていた。


次第に勢いを増していくSEを締め括るように変声機で声質が変えられた「ワンツースリーフォー」との野太い声と共に鈴の音色が響くと、もっさ(Vo.G)、カズマ・タケイ(Dr)、中村郁香(Key)、藤田(B)の順でメンバーが入場。最後にネクライトーキーの全楽曲の作曲を務める朝日がドラムセットをぐるりと迂回してポジションに着くと、マイルームに突如出現した害虫に怖気を震うパンクナンバー“虫がいる”を投下。


ソーシャルディスタンス確保のため、客席は人ひとり分空席になっていてスペースが目立つし、更には発声の制限により観客が歓声を上げることもない。しかしながら腕を高々と挙げるアクションと、音楽のアンサンブルにゆらゆらと体を委ねる観客の姿は紛れもなくネクライトーキーがコロナ禍で長らく思い描いていた理想的な光景であったはず。事実時折向き合って拍を合わせる演奏やメンバーそれぞれのコーラスパートに目を向けるとどことなく力を帯びている感さえあり、ステージの中心で歌うもっさは《もはや気分はマジで最低さ》の一節を絶叫。1曲目ながら早くも会場全体の一体感を作り出していた。


前述の通り、今回のライブ会場はネクライトーキー史上最大規模であると同時に、久方ぶりのワンマンライブでもある。故に今回のライブはバンドの歴史を総括するような代物となり、ファーストフルアルバム『ONE!』、時代の朝日の別名義として知られるボカロP・石風呂の楽曲をセルフカバーしたミニアルバム『MEMORIES』、今年1月にリリースされた待望のメジャーデビューアルバム『ZOO!!』の楽曲群を満遍なく配置。加えてライブ初披露となる新曲3曲を展開し、結果として約2時間、演奏曲は計23曲という大盤振る舞いのセットリストとなった。

 


ネクライトーキーMV「夢みるドブネズミ」


新機軸のポップロック“夢みるドブネズミ”、《今は只の平成30年だ!》との歌詞を「今は只の令和2年だ!」に変えて笑顔で駆け抜けた“めっちゃかわいいうた”、中村による小気味良いサウンドが印象的な“音楽が嫌いな女の子”等、前半部の彼らはチューニングもほどほどにとりわけアッパーな楽曲を連発するスタイルを取っていたのだが、このある種性急な猪突猛進ぶりが此度の彼らがどれほど強い思いを抱いてこの場に立っているかということを、雄弁に表していたように思えてならなかった。


ひとしきり楽曲をプレイすると、初のMCに移行。まずはもっさが「えーっと皆さん、お久しぶりです!忘れてるかもしれないんで……我々はネクライトーキーです!今日は晴れて良かったよね。本当に。今日(予報では)雨らしかったけど……」と飾らない胸の内を語るも言葉が続かず、沈黙が訪れる。すかさず朝日が「昨日天気予報聞いた時点では『雷雨になるでしょう』って言われててんけど、そうじゃなくて本当に……」とたどたどしく言葉を紡ぐが、同様に失速。まさにバンド名前を体現した性格的暗さが明るみに出たそれを見かねた中村が「そんだけでいいの?久しぶりなのに」と助け船を出すも、もっさは暫し思案した挙げ句「……いきましょう」とボソリ。思いがけず次の楽曲に移行させる一連の流れに、観客からは思わず笑いが溢れる。


秋の日は釣瓶落としで、先程まで明るかったはずの空は次第に暗くなり、MCが終わる頃にはすっかり日の落ちた野音会場。本来ならば沈黙が支配して然るべしなチューニングにおける楽曲と楽曲の間には秋虫の声がカナカナと聞こえる趣深い一幕もあり、環境としてはこれ以上ない程ベストだ。しかしながら彼らの猪突猛進的な勢いは中盤になっても留まることを知らず、以降はポップネスかつミドルテンポな楽曲の数々を固め打ち。

 


ネクライトーキー MV「許せ!服部」


ネクライトーキー LIVE「許せ!服部」


中でも圧巻だったのは、もっさが朝日のギターのボリュームノブを徐々に上げてスタートした“許せ!服部”。朝日による「騒ぐな服部ー!」の絶叫と共にテンポが高速化した中盤では、ドラムのカズマ・タケイに全員が向き合っての「ワンツースリーフォー!」を合図に各楽器を同時に打ち下ろして興奮を生むと、もっさはそそくさとステージ袖にハケていく。再度ステージに現れたもっさの両手には『CD』『ライブ』と記された2枚の札が掲げられており、前方に据えられたお立ち台に登ったもっさは、それらふたつのプラカードを背中に隠した状態で、まずは『CD』の札を掲げる。すると楽器隊が織り成すサウンドが単音かつスローリーな音像と化し、メンバーは船上の船乗りのように小刻みに体を動かし、緩やかな演奏に変化。そしてもっさが『ライブ』の札を挙げれば一転、演奏が高速化。先程まで単音を鳴らしていた朝日もコード進行を駆使してのアグレッシブな演奏に変貌し、観客の腕もそれに呼応するように激しく前後に揺れる。


なおこの『CD』と『ライブ』を切り替えるアクションはもっさ個人によるタイミングに全て委ねられているらしく、メンバーはもっさの一挙手一投足を見逃すまいと真剣に視線を注ぐ。今年に入ってからの配信ライブでも同様のパフォーマンスが成されてはいたものの、やはり独特の緊張感は、有観客ならではだ。もっさはその後もメンバーへのパターン変化の応酬で盛り上げると、ラストは常時『ライブ』状態のどしゃめしゃな演奏で魅せ、最終的にかなりの長尺となった“許せ!服部”を締め括った。


ライブは早くも後半戦に突入。ここまである種性急に突き進んできた彼らだが、挑戦的な展開で観るものを翻弄した“ぽんぽこ節”後はもっさのボーカリスト然とした魅力を前面に押し出した“渋谷ハチ公口前もふもふ動物大行進”、虚無的な日常をつまびらかにする“深夜のコンビニ”といったバラードナンバーをしっとり聴かせ、この日何度目かのMCへ。


完全なる沈黙に支配された環境下。もっさは沈黙に耐えかねたように「なんかここに来るまではめちゃくちゃ時間かかったのに、ライブは凄い早いの不思議やな……」とたどたどしくも言葉を紡ぐが、そこはかとなく主語述語の関係性が掴みづらいMCに気付いた藤田に「ん?何の話?リハより体感的に時間が過ぎるのが早いみたいな、そういうこと言おうとした?もしかして」と容赦ない突っ込みのターンが回ってしまい、まごつくもっさ。ふと背後に目を向けると、他のメンバーは茶化し合うでもなく静かに笑みを湛えている。ライブは熱いが、トークはあまりに自然体なネクライトーキー。そのある種日常的な会話を思わせる一連の流れにはメンバー間の仲の良さを強く感じさせた。

 


ネクライトーキーMV「明日にだって」


そして朝日が「今回イベントより前ってなると2月のライブが最後なので……。その間いろいろありましたが、とりあえず今んとこ生きて音楽やれてるので、良しとしましょうか。今日は本当にありがとうございます」 と語ると、以降は“明日にだって”、“こんがらがった!”、“北上のススメ”の順に展開されるクライマックスに導くが如くのアッパーチューンの連続だ。


本編最後に演奏されたのは最新アルバム『ZOO』における最終曲に位置していた“朝焼けの中で”で、メンバーは皆笑顔で楽器を演奏し、観客は無意識的な手拍子でもってフィナーレへの花道を形作る。もっさは時折目を瞑りながらの歌唱で無気力な中にも色濃く生活を映し出す歌詞を真摯に伝えるに加え、終盤における《朝焼けの中》との一部分では「朝焼けの」の箇所で声を限界まで引き伸ばし、続く「中」で一息つく安堵に満ちた一幕も挟まれた“朝焼けの中で”。演奏終了後はメンバー全員が集まった観客に幾度とない丁寧なお辞儀で感謝を伝え、ステージを降りた。


彼らがステージを去った直後には、誰に言われるでもなく、アンコールを求める手拍子がさざ波のように広がっていく。時折全体の手拍子のテンポが狂うも、観客の意識的に正しいテンポに戻して続いていくというかつてはライブ会場で当然のように観られた光景さえ、改めて此度の有観客ライブの感動を呼び起こす重要なエッセンスとして映った次第だ。


照明が点き、再びステージに姿を現したメンバーたち。中村が「さあもっささん!喋ることがあるんじゃないのかい?」と促すと、もっさは今年の12月から、5大都市を回る『ゴーゴートーキーズ!2020 師走』と題されたツアーを敢行することを発表。発声制限のため声が出せない観客の思いを代弁するように、中村がサンプラーに組み込まれた歓声こと「うおおお!」のボタンを押すと、喜びの拍手が会場中に広がっていく。次いで「配信とライブいろいろありますが、いい文化だなあと。会場に足を運べない人っていろんな事情があると思ってるので、これは(コロナが収束して)落ち着いた後でも残ってったらいいなあと。予算はかさむんですが、その辺も乗り越えて。今はこれで良しとしよう!」と朝日が語ると、どこからともなくリズミカルな打ち込みの音が聞こえ始める。


次第に謎の音が耳に迫る中、朝日による「聞いた話によるとネクライトーキー、初めてアニメのオープニングやるらしいじゃないですか」という説明が挟まれ、アニメ『秘密結社 鷹の爪~ゴールデン・スペル~』のオープニングテーマである“誰が為にCHAKAPOKOは鳴る”を初披露。

 


TVアニメ『秘密結社 鷹の爪 ~ゴールデン・スペル~』ノンクレジットOP映像|ネクライトーキー『誰が為にCHAKAPOCOは鳴る』/Necry Talkie


“誰が為にCHAKAPOKOは鳴る”はネクライトーキー初のコール&レスポンスを主軸としたロックナンバー。もっさは幾度も「セイ!チャカポコー?」と観客に問い掛け、声を出せない観客の代わりにメンバーが「チャカポコー!」と絶叫。全体を通して何十にも及ぶ「チャカポコ」の応酬が繰り広げられたが、声色を変えてのチャカポコ、首を捻って疑問系のチャカポコ、泣き声で悲しく魅せるチャカポコ等、その都度もっさが突発的なアレンジを加えて言霊を放つのが面白く、最終的に「ジャガボゴォ!」や「ギャギャゴゴ!」といった原型を留めない叫びに変貌。この日集まったほとんどの観客にとって完全初見であるはずの“誰が為にCHAKAPOKOは鳴る”は、あまりに印象的なひとつのフレーズを誰しもの頭に落とし込み、大盛り上がりで響き渡った。

 


ネクライトーキー MV「オシャレ大作戦」


そして彼らの名前を広く知らしめた契機とも言える“オシャレ大作戦”が満を持して鳴らされ、正真正銘ラストに据えられた楽曲は“遠吠えのサンセット”。


原曲よりBPMを落とした形で始まったこの楽曲。しばらくはその緩やかなサウンドにゆらゆらと揺蕩う会場だったが、サビに突入した瞬間BPMが高速化。そして2番に入る頃には始まりと比べて更に一段階程度遅くなっており、最終部では開幕時の1.5倍とも2倍ともつかない圧倒的なスピードで演奏。全体として2分少々のこの楽曲は結果多くのテクニックとライブならではの再構築で駆け抜け、アウトロでは楽器隊全員が自身の武器を振り上げた状態でピタリと制止。カズマ・タケイがスティックを打ち下ろすと同時にコードをジャーンと鳴らし、約2時間に及んだライブはその幕を降ろしたのだった。


以前より獰猛に、また強靭なタフネスを携えて帰還したネクライトーキー。この日観た彼らは紛れもなく、圧倒的な進化を遂げて野音の地に立っていた。思えば先の見えないコロナ禍の渦中でありながらも彼らが歩みを止めることは決してなく、オンラインライブへの積極的な参加、将来的なコロナウイルス収束後に向けてのバンド練習、新曲の制作等、日々経験値を積み重ねてきた。そしてそうした愚直なバンド活動が花開いた結果こそが此度の素晴らしき成功体験であることは、もはや疑う余地がない。


様々な行動に制限が課された2020年であるが、こんな時だからこそ出来る新たな活動もある。……12月からは新たなツアー『ゴーゴートーキーズ!2020 師走』も控えており、やむを得ず中止となってしまった全国ツアー『ゴーゴートーキーズ!2020春』で経験するはずだった喜楽的な事象を取り戻さんとばかりに、目標に向かって進んでいるネクライトーキー。根暗な5人による猛然たる疾走は、これからも続く。


【ネクライトーキー@日比谷野外音楽堂 セットリスト】
虫がいる
夢みるドブネズミ
めっちゃかわいいうた
音楽が嫌いな女の子(石風呂セルフカバー)
壊れぬハートが欲しいのだ(石風呂セルフカバー)
タイフー!
放課後の記憶
だけじゃないBABY
夏の暮れに
夕暮れ先生(石風呂セルフカバー)
新曲
許せ!服部
ぽんぽこ節
渋谷ハチ公口前もふもふ動物大行進
深夜とコンビニ
新曲
明日にだって
こんがらがった!
北上のススメ
朝焼けの中で

[アンコール]
誰が為にCHAKAPOCOは鳴る(新曲)
オシャレ大作戦
遠吠えのサンセット