キタガワのブログ

島根県在住。音楽ライター。酒浸り。

【ライブレポート】美波『TURQUOISE2019⇆2020 ONEMAN TOUR』@広島セカンドクラッチ

こんばんは、キタガワです。

 

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11月3日、広島セカンドクラッチにて美波によるワンマンツアー『TURQUOISE2019⇆2020 』が開催された。


今年は楽曲のひとつがアニメのOPテーマに抜擢され、それを起爆剤として『ライラック』や『main actor』といった過去の楽曲にもスポットが当たったことから一躍ネットシーンの中心へと躍り出た美波。そんな今回は前回の『カワキヲアメク ONEMAN TOUR』から約半年ぶりとなる全13都市、15公演を回る大規模なツアーである。


しかしながら今回のライブは、正直どのようなセットリストとなるのか一切予想がつかないものでもあった。何故なら過去に発売されたミニアルバム『Emotional Water』、ファーストシングル『main actor』は全て完売しているため、現状聴くことが出来る正規の音源はシングルカットされた『カワキヲアメク』に収録されている4曲のみ。加えて彼女の昨今のツイッター上では新曲を予感させる歌詞を発信をしていたりと、ニューモードの美波も顔を覗かせていることは明らか。そう。今回のライブは『TURQUOISE2019⇆2020 』と題されていることからも分かる通り、総じて現在と未来の美波を体現するライブとなった。


音楽のあるべき姿を取り戻すため『勘弁してくれ時代の波』との言葉をキーワードとして活動している美波らしく、会場には波の音が静かに流れ、心地良いムードを形作っている。しかしながら背後から時折聞こえる「前に詰めてください!」というスタッフの声と共に我に返ると、周囲は大勢のファンでぎゅうぎゅう詰めだ。今回のツアーは全公演が完全ソールドアウト。必然リラクゼーションミュージックのようなBGMとは裏腹に、次第に熱気が高まってくる感覚に陥る。


開演時間を5分ほど過ぎると、淡い照明の中今回のライブのサポートメンバーである角本雄亮(Dr)とcoba84(key)がステージに降り立つ。冒頭こそcobaのピアノのみの演奏でじっくり聴かせていたものの、次第に角本による力強いドラムが参加しての二人三脚のジャム・セッションに変貌。徐々に会場を温めていく。


その大塚巧(Gt)となんぶし(Ba)、そして美波(Vo.Gt)が登場。この段階では照明は点いてはいるものの未だ暗く、メンバーの表情は伺い知れない。


ギターを構えてメンバーと目配せした美波。瞬間、目映い光が会場を包み込む。ライブはシングル『カワキヲアメク』収録の『Prologue』でもって、華々しく幕を開けた。


〈今日も歯を食いしばって 何のために生きればいいの?〉

〈次までは 次まではって 追い込むことで成り立ってきたの〉

〈ああいいよなあ お前はいいよなあって〉

〈君って 僕って 迷って 未完成品 プロローグ〉


『Prologue』は開幕に相応しい、ロックテイスト全開のファストチューン。その激しいサウンドもさることながら、美波の感情を乗せた喉が枯れんばかりの絶唱が、壮絶な現実味を帯びて会場に降り注いでいく。


メディアでは一切素顔を見せることのない美波の風貌は、金髪に白シャツ、黒ズボンという極めてボーイッシュな装い。更には「かかってこいや広島!」、「後ろの方が(声が)デカいぞ!」と焚き付けるように叫ぶ場面も多々あり、彼女がいちミュージシャンとして確固たる信念を持ってこの場に立っていることを、まざまざと思い知らされた。

 


美波「ホロネス」MV


その後は『ホロネス』、『Monologue』と比較的ロック色の強い楽曲で魅了すると、ここで角本を除いたサポートメンバーは楽器を持ってステージを降り、ステージ上には美波と角本のみに。


スタンドマイクすら撤去される中、ステージの中心に設置された椅子に美波がゆっくりと腰掛ける。そうして始まったのは『水中リフレクション』と『先生、あのね』だ。


キーボードの柔らかな調べに乗せ、真っ白なマイクを介して歌う美波はまるで泣いているかのように声を絞り出して歌う。その姿はまるで演劇の一場面を見ているようでもあり、端的に表現するならば『感情移入型の歌手』と言ったところ。


中でも完全なるアカペラで歌われた『水中リフレクション』での「なぜ笑うのです?泣けばよいでしょう」の一幕は心をギュっと掴まれる感覚にも陥り、終了後にはっと思い出したように送られた疎らな拍手は、彼女の吐き出したメッセージがいかに集まった観客の心を打ち、また共感を得ているのかを、何よりも雄弁に証明していたように思う。


新曲『アメヲマツ、』後は大塚によるMCへ突入。今回は新メンバーを加えての初の広島公演ということもあり、まずは各自が「今まで広島に何回行ったのか」をテーマに、他愛のないトークを展開。加えて今年3月に広島で行われた『カワキヲアメク ONEMAN TOUR』に触れ、今回のライブとも総合して改めて広島に住むファンの熱量が凄まじいことや、この日のライブがいかに楽しいものなのかを、ファンと共有しながら熱弁していく。


今年は間違いなく美波史上最も爆発的に人気を博した年であったと言えよう。人気アニメの主題歌として起用された『カワキヲアメク』に端を発し、現在では公式動画は僅か4本しか公開されていないにもかかわらず、総再生数は8000万回超と驚異的な広がりを見せている。


このMCにて「このライブハウスでやるのは3回目」と美波は語っていたが、正直現在の美波の人気を鑑みるに今回会場に選ばれたライブハウスは明らかに狭く、一見今の人気とは釣り合っていないようにも思える。しかし美波の行動理念は数年前から一貫して変わらない『良い歌を作って全国に届ける』というものであり、それは会場がどれだけ大きくなろうとも、関係ないのだ。


事実『水中リフレクション』や『先生、あのね』といったピアノと歌のみで進行するライブならではのアレンジが施された楽曲群は小さなライブハウスに相応しい世界観を構築していたし、アッパーな楽曲では終始「オイ!オイ!」のコールが鳴り止まなかったりと、総じて「今日のライブは全編通して最高だった」と心から思えた一夜だった。


そして「ここから後半戦です。盛り上がって行けますか!」と大塚が観客に問い掛けて始まったのは『カワキヲアメク』だ。

 


美波「カワキヲアメク」MV


〈もういい ああしてこうして言ってたって 愛して どうして? 言われたって〉

〈遊びだけなら簡単で 真剣交渉無茶苦茶で〉

〈思いもしない軽(おも)い言葉 何度使い古すのか?〉


イントロの時点で大歓声に湧いたそのフロアの中心を、孤独を孕んだ言葉の数々が切り裂くように響き渡っていく。『カワキヲアメク』は前述したように全体の言葉数が多く、声を張り上げる箇所も多数存在するため歌唱の難易度は極めて高い。しかしながら美波は息が続かなくなりそうな場面は精神力でカバーし、髪を振り乱しながら鬼気迫る演奏を繰り広げるなど、ライブならではの肉体的なサウンドに昇華。今回のライブにおけるひとつのハイライトとも言える盛り上がりを見せた。


その後は「代わって、化わって、変わってよ」との歌詞が印象的に響いた新曲『ヘナ』、美波が「跳べー!」と絶叫して突き上げられる拳とタオルが入り乱れた『ライラック』と続き、この日何度目かのMCへ。

 


美波「ライラック」MV


「ライラック凄かったね。あんなに盛り上がってくれたの初めてかも。3公演目だけど、トップかな」と美波がクールな笑顔を浮かべながら語る。気付けばサポートメンバーは全員ステージを降りており、ステージには美波ひとりになっていた。


しばらく無音の時間が続き、美波が再びゆっくりと語り始める。それは美波が今まで決して表沙汰にはしてこなかった、注目度の上昇と共に膨らみ続けた内に秘めたる思いであった。


「私がまだ高校生の頃、お客さんが0人のフロアで歌っていたりして。終わった後はずっと楽屋で泣いてました」


「2公演終わってさ。正直ボロボロだったんだよ。何か私、だっせーなって思って……」


「最近悩むことが多くなって。だれかと比べられたりとか、周りの人たちから『美波は○○っぽい』って言われたりとか。美波は美波なんだけどなあとか。私は私なんだけどなあとか。いろんなことを考えてました」


「今学生だよって人もこの中にいると思うけど、本当に大変だなって思います。勉強とか部活とか、プライベートとか。いっぱい悩むこともあると思います。でもそれはあなたが今を変えようと、頑張ろうとしているからです」


ミュージシャンには2種類いる。音楽は音楽・自分は自分とはっきり割り切っている人間と、音楽=自分自身であり、音楽を作り続けなければ自己が保てない人間だ。その中で美波は間違いなく後者の人間であり、音楽はその時々で彼女自身を説き伏せ、前進させる役割を担ってきた。しかし彼女は同時に、音楽への思いが強すぎるが故の葛藤と悩みも、人一倍経験してきた。


特に昨年は、自身初となるメジャーデビューに伴う悩みから最後まで歌えない状態になってしまったり、体調不良によりライブ自体が中止となったり、過去には弾き語りの生放送中に涙を流したこともあった。詳しい理由については明言されていないものの、過去と現在の痛みを赤裸々にぶち撒けるような彼女の楽曲を聴いていると、それらは全て彼女にとって音楽という存在があまりにも大きすぎるゆえ、その重みに耐えきれず潰れてしまったひとつの例であったとも思うのだ。


MC中、美波の瞳は濡れていた。しかしそれでも過去と現在の自分を照らし合わせながら、一言一言言葉を紡ぎ、思いの丈を美波は集まったファンに届けていた。もちろん今回語られた一部始終だけでは、美波の音楽生活の全てを理解できたとは言い難い。だが総じてこの数年間の彼女がどれだけの思いで音楽と向き合い、また苦難の日々を送っていたのかを、知ることができた瞬間でもあった。


「今日は、前を向くためにこの歌を歌います」と語って始まったのは、『main actor』。

 


美波「main actor 」MV


〈ひとつだけ ひとつだけ ひとつだけ ひとつだけ〉

〈僕がここにいる証明を〉

〈僕にしか 僕にしか 僕にしか 僕にしか〉

〈出来ないことの証明を〉


美波は時折声を震わせながら、アコースティックギターの弦が切れそうなほどの力強いストロークで、自身の全てを出し尽くそうと言わんばかりの気迫で魅了していく。後半にかけては歌詞の一部分を絶叫したりフラついたりしながら、限界突破のパフォーマンスで圧倒。周囲には涙を流す観客も多数見受けられた。もはや『main actor』は美波だけの歌ではない。同じように辛い悩みを抱える若者たちに徹底的に寄り添った、讃美歌のような壮大さで鳴り響いていた。


『main actor』後はサポートメンバーが三たび配置に付き、本編最後に披露された楽曲は『フライハイト』と名付けられた新曲だった。


『フライハイト』は今回演奏した楽曲で例えるならば『ライラック』に似た、爆発的なロックナンバー。美波は「おい!そんなんで良いのか!最後だぞ!」と観客を焚き付け、出し惜しみなしの完全燃焼を図る。加えて落ち着いたサウンドに変化して行われた後半の「しょうもなーいぜー」、「タラッタラー」から成るコール&レスポンスの一体感は筆舌に尽くしがたいものがあり、今後美波のライブを語る上での新たなキラーチューンになる印象を受けた。


ステージを去った後、自然発生的に巻き起こされた「みーなーみ!」コールで舞い戻った美波とメンバーたち。美波は大歓声に沸く観客を眺めつつ「ヤバいね。バイブス高めで良いですね」とご満悦。


なお美波は広島カープのユニフォームを身に纏っており、「せっかくのアンコールなんで、カープ女子になりたかった」と思いを吐露するも、直後に自身が構えたギターとユニフォームが全く同じ赤色であることに気付き「服もギターも赤……」と笑いを誘う。


するとおもむろにギターをストロークした美波は「カープ、カープ、カープ広島……」と『それ行けカープ』を披露するこの日ならではのサプライズが。しかしながら美波はサビ以外はほぼうろ覚えの状態らしく、他のメロ部分は曖昧な発音と鼻歌で力技で進行していく。最終的には観客が残りの歌詞をサポートしつつ、角本のドラムも加わって大盛り上がりで終了。


その後は1年刻みでこの日集まった観客の年齢層を把握。15歳から20歳までのファンが最も多かったことや、最年少は中学校2年生のこどもであることを確認し、全員で拍手喝采。美波も「こんなにいろんな年代の人たちに聴いてもらえて嬉しいね」と嬉しそうだ。


しばらくゆったりとした語り口で言葉を紡いでいった美波だが、すうっと息を吸うと、その後は決意を秘めた面持ちで語り始める。


「美波は来年、第二章に行かなければなりません。アンコール、1曲だけやります。……って言ってもさっきもやったんだけどさ。この曲だけは絶対に覚えて帰ってほしいから」


「ありがとう広島、絶対忘れない。また絶対帰ってくる。お前ら忘れるなよ!」と叫んで始まったのは、この日2回目となる新曲『フライハイト』だ。


美波は「来れんのか?来れんのかって!もっと来いよ!」と今まで以上に観客を煽り倒し、目をひんむきながらの渾身の絶唱でもって、フロア全体が揺れに揺れた。何よりも印象的だったのは、観客の絶大な盛り上がりだ。それは『フライハイト』がこの日2回目の演奏となったことも理由のひとつではあるが、何より第二章へと歩を進めようと未来を見据えた美波への無意識的な祝福のようにも感じられ、感動的に映った。


事実コール&レスポンスも本編よりも数倍大きな声で、多数の「オイ!オイ!」コールでもって新曲であることを感じさせない、言うなればライブで何度も披露されているキラーチューンのような天井知らずの盛り上がりを記録。美波の第二章が輝かしいものとなることを約束させるように響き渡った。


演奏終了後は「ありがとうございました!」とステージを去った美波とメンバーに観客は割れんばかりの拍手を送り、大団円で幕を閉じたのだった。


今年の音楽シーンは、取り分けインターネットを中心に大きな広がりを見せた。ずっと真夜中でいいのに。、Eve、三月のパンタシア、花譜……。年齢も風貌も一切不明な謎のアーティストが台頭する、いわば音楽の新時代に突入した感すらある。


そんな中、何故美波はここまでのブレイクを記録し、今を生きる若者の代弁者たる役割を果たすまでに至ったのか。その答えが、今回のライブには如実に表れていたように思う。


美波の発するメッセージは現代の若者と完全にイコールではないにしろ、似通った部分が多数見受けられる。今の若者はSNSの発達に伴った人間関係の複雑さでもって、孤独感を抱きやすいと言われている。今回のライブで弾き語りの形で披露された『水中リフレクション』や『main actor』といった楽曲に顕著だが、美波の楽曲では上手く生きられない人間の悩みや葛藤、疎外感が等身大で描かれる。それは美波自身が経験した紛れもないリアルなのだろう。


だからこそ、彼女はここまで多くの若者に愛されると思うのだ。血を吐かんばかりの熱量で歌いながら、叫びながら若者の心の叫びを代弁する美波は、今後も同じように悩みを抱える人間に寄り添い、心を解きほぐしていくだろう。


悲壮、孤独、怒りといった様々な感情が爆発した、素晴らしいライブであった。来年に訪れる美波の第二章は、きっと光輝いている。


【美波@広島 セットリスト】
Prologue
ホロネス
Monologue
水中リフレクション
先生、あのね
アメヲマツ、(新曲)
カワキヲアメク
ヘナ(新曲)
ライラック
main actor
フライハイト(新曲)

[アンコール]
それ行けカープ
フライハイト(新曲)