キタガワのブログ

島根県在住。文筆。rockinon.com外部ライター等。

【ライブレポート】ずっと真夜中でいいのに。『果羅火羅武〜TOUR』@広島上野学園ホール

こんばんは、キタガワです。


本通りからアストラムラインに乗り、数分。アナウンスが白島駅への到着を告げると、それまで別々の場所で揺られていた人々が一斉に降車した。よく見ると年齢層は若く、各々『うにぐりくん』のキーホルダーや様々な色の缶バッジを身に付けている。……無論、彼らの目的はひとつ。ずっと真夜中でいいのに。広島上野学園ホール公演への参加だ。

 

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ずっと真夜中でいいのに。公式サイト


スマートフォンに表示させたQRコードを顔の横にかざして会場へと足を踏み入れると、そこは圧倒的なまでの人の海。特にグッズ売り場の盛況ぶりはとてつもなく、具体的には列がずーっと進んで階段の2階へと向かっており、そこから角を曲がって真っ直ぐ進み、また曲がって直進。もう1度曲がるとそこが最後列だった。もはや「人気がある」という言葉では言い表せない熱狂ぶりを見て、早くもこの日のライブの成功を確信する。


客席に入ってまず驚いたのは、その装飾。ステージ上部には細長い謎の物体がぶら下げられている他、『永遠是深夜有多好。(ずっと真夜中でいいのに。)』と記された看板が鎮座、ステージ中央にはドラム缶などの廃品が無造作に置かれている。左には一般市民が暮らしているのか洗濯物が干された家が鎮座し、右にはゲーム機が2代、オープニング画面を延々とループ。中央から上へと伸びた螺旋階段を上がると、そこには何かがありそうな雰囲気だが、まだこの時点では照明が暗く、確かな把握は困難だ。もちろんそれらの物体を避けるようにして演奏機材も置かれている訳で、正直とてつもない情報量の多さにどこを見ても面白い(客席から把握出来たのは主にこれだけだが、おそらくはもっといろいろな要素が存在すると思われる)。


定刻を5分ほど過ぎると暗転。直後パッと明点した会場の左手側の窓が開くと、謎の2人組が干していた洗濯物を取り込み、その窓からトランペットとトロンボーンを出す形で中国映画を彷彿とさせるメロディーを奏でる。そして混乱する我々をよそにステージ右手の扉が開けば佐々木“コジロー”貴之(G.Vn.三味線)、二家本亮介(B)、村山☆潤(Key.鍵盤ハーモニカ)、伊吹文裕(Dr)らそれぞれバンダナなスカーフで顔を隠したバンドメンバーがお目見え。しかしながらずとまよの中心人物であるACAね(Vo.G.扇風琴.鉄琴.杓文字)の姿は未だなく、観客はキョロキョロとステージの随所に目を凝らしながら彼女を探している。

 

ずっと真夜中でいいのに。『こんなこと騒動』MV - YouTube

 

……という疑問を抱くのも束の間、《でぁーられったっとぇん》との“こんなこと騒動”の高らかな歌声と共にこれまで紫の照明に包まれていたステージ2階部分にスポットが当てられ、そこに鎮座していた巨大な鍋のフタが数メートル持ち上がり、その中に潜んでいたACAねが煙に包まれながら登場。誰もが予想していなかった展開に拍手喝采を送る観客の興奮を更に高めるように、楽曲はどんどん熱を帯びていき、サビに差し掛かる頃には早くも今回のハイライトとも思える程の盛り上がりに。いつの間にかステージ中央に降りているACAねの表情は暗い照明に照らされているためその一切が確認できないが、髪を後ろでひとつに束ねていたり、高音を出す際に腰を屈めたりといった大まかな様子は確認でき、思わず「実際に存在している……」という感慨深い気持ちにも陥る。

 

今回のライブはずとまよ史上最大規模のツアーであることは元よりリリースツアーでもない関係上、一体どのようなライブになるのか多くの注目が注がれていたことと推察する。まずセットリストに関してはこれまでのアルバム・ミニアルバム作品から満遍なく選出され、果ては来年2月16日に発売予定のミニアルバム『伸び仕草懲りて暇乞い』に収録される新曲も多数披露する現時点でのベスト的代物。サポートメンバーについても圧巻で、先述の楽器隊に加えて5曲目“居眠り遠征隊”からはOpen Reel Ensembleのメンバー2名も帯同するよもやのフルメンバー、総勢9名編成。徹頭徹尾、どこを切っても最高・熱狂・幸福の三拍子が揃った死角なしのパフォーマンスの約1時間40分だ。

 

ずっと真夜中でいいのに。『低血ボルト』MV(ZUTOMAYO - FASTENING) - YouTube


以降は大量のレーザー光線が視覚的な楽しさももたらした“低血ボルト”、ハンドマイクになったACAねのパワフルな歌唱がダイレクトに鼓膜に伝わった“勘冴えて悔しいわ”、楽器隊の演奏が一際鋭さを増した“お勉強しといてよ”と続き、この日初となるMCへ。まずは初の広島公演について少しばかり触れると、以降は「さっき、むさし(広島で有名な弁当屋)を食べて、お腹パンパンで、幸せです……」と訥々と語る。そんなACAねらしいMCにほんわかすると同時に、数年前に参加したライブよりも明らかにMCの声のトーンが上がっていることにも気付き、思わず「場数を踏んできたんだなあ」と感慨深い気持ちに。そしてACAねは「今日はカラ国(からこく)を広島に持ってきました……。左は中華街で、小籠包が美味しいです。右はゲームセンターになってます……」と、ステージを見渡しながら今回のツアーのコンセプトを説明。『果羅火羅武〜TOUR』というタイトルを見た瞬間からその意味を考えていたけれど、どうやら今回のツアーは『カラ国+から(〜)+ラブ』……。つまり架空の国・カラ国から全国のファンに感謝を伝える代物のようだ。最後に思い出したように今やずとまよライブでお馴染みになった物販のしゃもじにも触れ、「グッズのしゃもじもまた使います。今は抑えてもらって……。また後で教えますね」とボソリと呟いたACAね。フワフワしていてなおかつ楽しい、不思議な空間である。

 

ずっと真夜中でいいのに。『MILABO』MV(ZUTOMAYO - MILABO) - YouTube


そこからはOpen Reel Ensembleのメンバー2名を加えた9名編成で“居眠り遠征隊”と“MILABO”を。中でも前半戦の大きな起爆剤となったのは“MILABO”で、サビ部分のACAねの腕を左右に振るアクションに端を発し、観客の腕もゆらゆら揺れる最高の空間に。冒頭でACAねが登場したステージ2階のフタからは黄色のミラーボールが出現して眩い光で客席を照らしているし、Open Reel Ensembleのメンバーも形容し難いサウンドで牽引している。そして何より強く感じたのは観客のずとまよに対しての信頼感。……これまでCD音源でしか触れてこなかった大好きなアーティストが広島に来てくれた喜び然り、頭からっぽで踊り狂える環境を提供してくれたこと然り、生ライブの臨場感然り。マスクの上からでも分かる観客の笑顔が視界に入るたび、改めて「ライブの素晴らしさってこうだったなあ」としみじみ感じた。

 

【期間限定】ずっと真夜中でいいのに。『機械油』(from LIVE Blu-ray CLEANING LABO「温れ落ち度」) ZUTOMAYO - Engine Oil - YouTube


ACAねの手拍子ならぬしゃもじ拍子が波及して広がっていく“機械油”と“雲丹と栗”では天井知らずの一体感で魅了。ステージ上のアクションについても面白く、“機械油”ではACAねが歌詞の通り電子レンジをバールで叩いたり、佐々木が三味線を弾き倒す一幕がありつつ、続く“雲丹と栗”はサウンドの迫力を敢えて抑えた展開ゆえにしゃもじ手拍子が映える。余談だがACAねが掲げるしゃもじには緑色のライトが埋め込まれていて振るタイミングがはっきり分かったし、よく見ると観客も思い思いにシールを貼ったりしてカスタマイズしているのも大いなる発見だった。


“眩しいDNAだけ”を終えると、一度観客を着席させてのMCへ。ここでは次なる楽曲であり、アルバム『伸び仕草懲りて暇乞い』に収録予定の新曲“ばかじゃないのに”に秘められた深意を語ってくれた。「この曲は……夜中に起きてしまって。冷蔵庫を開いたら冷蔵庫の光が反射して目に入って。周りを見てもどこも明るい(電気が点ってる)とこなんてなくて、この場所だけが。……それで、たったひとりの孤独感というか。そういうことを書いた曲です」。

 

ずっと真夜中でいいのに。『ばかじゃないのに』MV (ZUTOMAYO - Stay Foolish) - YouTube


《言っとけばいいのに ばかじゃないのに》とサビで歌われるこれまで“ばかじゃないのに”について、MVを観るだけではその意味を完全に推し量ることは難しかった。その理由はひとつで、ACAねがストレートな表現を意図的に避ける形で歌詞を記しているためである。そしてそれはずとまよの他の楽曲でも同様で、“秒針を噛む”にしろ“正しくなれない”にしろ、明らかにACAねの精神性が現れている楽曲であっても真意が汲み取れない……つまり我々がMVや歌詞を何度も見ながら意味を考察するしかないという状況になり、それが結果としてずとまよの魅力に繋がっている。そんな中で今回ACAねはこの楽曲を『孤独感』によるものだとはっきりと語ってくれたし、現代に生きる人間……特にSNS社会で他者と比較してしまう若者にも、その思いは不鮮明ながらも確実に伝播する。ずとまよがここまでの熱量でファンを獲得し続ける理由の一端が、少し垣間見えた気がした。

 

【期間限定】ずっと真夜中でいいのに。『正義』(from やきやきヤンキーツアー@東京ガーデンシアター2020.11.29) ZUTOMAYO - Seigi - YouTube


着席状態で数曲終えると、ここからはクライマックスへと突き進んでいく。中でも盛り上がりに一役買ったのは“正義”で、村山☆潤による鍵盤ハーモニカ演奏をACAねが指揮する始まりから、楽曲はどんどん熱量を上げていく。これまでミステリアスな側面が強かったACAねはステージをピョンピョン飛び跳ねながら興奮を体現し、観客もそれに従って腕を挙げていく。背後にはミラーボール。上からはレーザー。サウンドはもちろん爆音という多幸感溢れる空間において、サビ部分ではラスサビ前のACAねによる「お好み焼きー!」の絶叫を契機に演奏がまた白熱。上に飛びながらしゃもじを振り乱すACAねの姿をハイライトに、完全指定席ながらも汗がじんわり浮き出るほどのとてつもない盛り上がりを記録した。

 

ずっと真夜中でいいのに。『あいつら全員同窓会』MV (ZUTOMAYO - Inside Joke) - YouTube


そしてACAねが「最後はシャイなから騒ぎで踊りましょーう!」と叫び、ラストは“あいつら全員同窓会”で大団円。おそらくは大半の観客がライブでは初めて聴く楽曲である関係上、どのような盛り上がりになるか未知数な部分もあったのだが、間違いなくこの日一番の爆発が起こっていたのが“あいつら全員同窓会”であったと言わざるを得ない。MVにおける主人公の精神性を真似しているのかACAねが時折首を傾げながら歌うAメロから、サビでは全員がしゃもじと腕を振る振る。驚いたのはこのサビ部分で施された《シャイなから騒ぎ》や《身勝手な僕でいい》の最後の『ぎ』と『い』で観客を高くジャンプさせるライブアレンジで、最初は全く分からなかった観客もACAねが『シャイなから騒』あたりから姿勢を低くして『ぎ』で上に飛ぶ光景を見て理解し、2回目以降は全員が模倣する空間に。もはや汗が滲むというより汗だくに近い状態になった我々と、まるで「まだまだ!」と焚きつけるように何度も飛び跳ねさせるACAねの双方向的な関係性に感動しつつ、ライブは終幕。ステージ右手の扉からぎゅうぎゅう詰めで去っていったメンバーたちに、観客は痛いほどの拍手で感謝を表現した。


本編は終わったが、まだ聴きたい曲は山ほどある。というより、終わってほしくない……。そんな観客たちの思いが込められたアンコールの手拍子(としゃもじ拍子)に乗って再びステージに姿を見せたメンバー。青い照明に照らされて様子は全く見えないが、次なる楽曲に向けて着々と準備を進めているのが分かる。そうして『あの印象的なイントロ』が流れ始めると、観客は一斉に体をビクッと震わせて心の中で絶叫した……。そう。アンコール1曲目はずとまよの名を広く知らしめた“秒針を噛む”である。

 

ずっと真夜中でいいのに。『秒針を噛む』MV - YouTube


もはやずとまよのステージング以上に我々の興奮が上回っているような稀有な環境で投下された“秒針を噛む”は、まさしくライブのキラーチューンとして位置していた。説明いらずの歌詞の数々を心の中で大熱唱しながら演奏は過ぎていき、終盤では《このまま奪って 隠して 忘れたい》の歌詞の一節をこれまで通り観客と一緒に歌う……ことは出来ないので、同じリズムで手拍子する形で盛り上げる。ただそんな中でもACAねは手拍子を「大きく」「小さく」「小さくから大きく」などアレンジを観客に要求していて、その全てが楽しく、ラスト《ハレタ レイラ》の最終部をACAねが全力で伸ばし続け、それに伴って音圧もどんどん上がっていく様では、ACAねの圧倒的な声量も感じることが出来た。


なおアンコールで披露されたのは全てがファーストアルバム『正しい偽りからの起床』から。続いてのACAねが2階部分に登って歌唱した“サターン”から、遂にライブは最終曲に。新型コロナウイルスでかつての生活が奪われたこと、こうしてライブを開催できる喜び、そして「広島、ありがとうございました……。また絶対、来たいです……」との広島県民大熱狂の一言を経て、鳴らされた最後の楽曲は“脳裏上のクラッカー”だ。

 

ずっと真夜中でいいのに。『脳裏上のクラッカー』MV - YouTube


最後ということもあってか、我々観客のボルテージも最高潮、楽器隊も全員参加+空中には空気砲という大盤振る舞いの状態で突き抜けた“脳裏上のクラッカー”。本編ラストの“あいつら全員同窓会”のように、かつてのライブでは《繋ぎ止めてよ》や《打ち鳴らして笑おう》といったサビの部分で飛び跳ねる一幕が恒例になっている中で、その役割が“あいつら全員同窓会”に移ったのかほぼ行われないという驚きはありながら、言ってしまえばそんな些細なことは関係なしの盛り上がり。終盤では管楽器隊がサポートメンバーらの鼓膜目掛けて音をぶつけ手耳を押さえるといった各自のソロ演奏に爆笑したりもしつつ、ACAねも限界突破の圧巻の歌声で応戦。そうして全ての楽曲が終わりACAねを除く全員がいつもの扉から出た後、たったひとりだけ階段を登っていき、フタの開いた鍋に入って「楽しかったです。また会いましょう。バイバーイ……」と語った瞬間フタが閉まる最高のラストで、ライブは幕を下ろしたのだった。


終了後、物販のグッズ列に並びながら考える。今回のライブは約1時間40分。ことバンドのライブとしては若干短めだったと言っていいだろう。にも関わらず、“正義”が始まったあたりで「もうそんな時間!?」と感じていた自分がいたのだ。……ふと周囲を見渡すと再びグッズ列には長蛇の列が出来ているのみならず、公式ファンクラブに入会しようと動く人もかなりの数いた。如何に音源が素晴らしいバンドでも、もしもライブの衝撃が少なかったらとてもこうはいくまい。


要はそれほどまでに今回のライブが、文字通り時間を忘れて楽しめた濃密な代物だったことを表しているのだろう。オンライン配信、YouTube……。様々な形でライブを楽しむことが出来る現在、やはり生のライブに代替するものはないのだ。たとえ他の人がどう思おうとも、一緒に踊り、感動し、音を楽しむ。その素晴らしさに改めて気付かされたライブがずっと真夜中でいいのに。の今回の広島公演だった。


【ずっと真夜中でいいのに。@広島上野学園ホール セットリスト】
こんなこと騒動
低血ボルト
勘冴えて悔しいわ
お勉強しといてよ
居眠り遠征隊
MILABO
機械油
雲丹と栗
猫リセット(新曲)
眩しいDNAだけ
ばかじゃないのに
正しくなれない
マリンブルーの庭園
マイノリティ脈絡
正義
あいつら全員同窓会

[アンコール]
秒針を噛む
サターン
脳裏上のクラッカー