キタガワのブログ

島根県在住のフリーライター。ロッキン、Real Sound、KAI-YOU.net、uzurea.netなどに寄稿。ご依頼はプロフィール欄『このブログについて』よりお願い致します。

【音楽文アーカイブ】君はビリー・アイリッシュを知っているか? 〜未来のスターを認識する時は今だ〜

君はビリー・アイリッシュを知っているか?
 
もし知らないのなら、今すぐチェックすべきだ。
 
今彼女の存在を知ることは、すなわち近い将来スターダムを掛け上がるであろう歌姫を、最も早い段階で認識することに他ならないのだから。
 
ビリー・アイリッシュは今年、米ビルボードの『次にブレイクする21歳以下のアーティスト』に選出された、弱冠16歳のシンガーソングライターである。
 
彼女の大きな特徴は、特異な人生経験から生まれた個性的な楽曲の数々。そして、端正なルックスからは想像出来ないエネルギッシュなパフォーマンスである。
 
まず、楽曲の点から見ていこう。彼女の注目度が一際高まったきっかけは、某動画サイトで公開された『Bellyache』という楽曲からだった。
 
晴れ渡った空の下、景色の変わらない荒野をひたすら歩く銀髪の女性。この人物こそが主人公、ビリー・アイリッシュその人である。
 
〈私どうしちゃったんだろう 私の心はどこに行ったの(和訳)〉

〈(中略)〉

〈あ、でも、お腹が痛いわ(和訳)〉
 
物悲しいメロディーの中、彼女は繰り返しこう歌っている。人生は全部自分で決めるもの。でも次第に、自分が自分ではなくなってしまう気もする……。
 
決して解決しない哲学じみた自問自答を考えた結果、絶え間ない腹痛を引き起こす。そんなストーリーだ。
 
実は彼女は生まれてから一度も、学校に通ったことがない。その代わりにホームスクールでの学習や地元合唱団での活動を行ったりした経験が、現在の彼女を形成している。
 
それは他の同年代の子と比較すると、特殊なものだったに違いない。クラス内のグループに属したこともなければ、部活動に精を出すこともなかった。しかし彼女は『普通じゃない人生経験』を噛み締めながらも、「私は私だし」という達観した心持ちでいる。
 
人一倍悩み、苦しんだ果てに掴んだ『私らしさ』。しかしふと出現する黒い感情に惑わされることもある……。特に『Bellyache』の歌詞は、16歳の彼女にしか書けない至高のものであると思う。
 
次に、ライブパフォーマンスについて。
 
彼女のステージでの立ち振舞いは、環境によって大きく異なる。まず、バンドメンバーを従えたライブでは、自由奔放な彼女を見ることが出来る。髪を振り乱し、ステージ上を所狭しと動き回るそれは、どんな場所も遊び場に変えてしまう、年相応の若い少女の姿そのものである。
 
ダンスの経験も豊富であり、ライブ中はほぼ全曲において、感情を爆発させるような情熱的なダンスを見せる。ミステリアスな彼女の雰囲気とちょっとダークな楽曲とのコントラストは、抜群の組み合わせでもって観客を魅了する。
 
逆に、ぐっと音数の減ったアコースティックライブでは、安定した歌唱に終始する。ひとつひとつの歌詞に思いを乗せ、まるで演劇を観ているかのような説得力でもって、聴く者の心に訴え掛けてくる。
 
バンド編成の時のような躍動感こそ無いものの、それを補って余りある彼女の『歌の力』には、驚くこと間違いなしだ。
 
バンドでも、アコースティックでも。どんな環境であっても最上級のパフォーマンスを見せてくれるビリー・アイリッシュ。繰り返しになるが、彼女は必ず近い将来、海外のポップ・アイコンになると断言できる。
 
アルバムのセールスも好調で、現在は勢いそのままに新曲を立て続けにリリース中。8月にはサマーソニックにて、初の来日も決定している。このライブを期に、日本での知名度もますます高まっていくだろうと予想する。
 
僕らが歴史の目撃者となる日は近い。未来のスターと実際に出会うことができる幸福を噛み締めながら、当日を待ちたいと思う。


※この記事は2018年6月14日に音楽文に掲載されたものです。