キタガワのブログ

島根県在住のフリーライター。ロッキン、Real Sound、KAI-YOU.net、uzurea.netなどに寄稿。ご依頼はプロフィール欄『このブログについて』よりお願い致します。

【音楽文アーカイブ】全てが謎のニューカマー『ずっと真夜中でいいのに。』を聴け 〜今年最後の台風の目はこいつらだ〜

とあるPVを観たあとに、ふと「これだから音楽聴くのはやめられないんだよなあ」と思った。スペースシャワーTVやYouTubeの関連動画で紹介された曲を片っ端から聴く毎日で、そのたびに「うーん微妙だな」という思いを抱き続けていたのだが。100回に1回でも彼女らのような音楽に出会えるのならば、こんな生活も悪くないなと。
 
彼女らの名前は『ずっと真夜中でいいのに。』。今後必ずメジャーになるであろうこの名前を、まずは押さえておいてほしい。
 
メンバーは作詞作曲を担う『ACAね』というひとりの女性以外、一切の情報が明かされていない。ソロユニットなのか、バンドなのか。それすらもはっきりしない。
 
そんな謎のベールに包まれた彼女らは、とある楽曲のPVと共に、音楽シーンに殴り込みをかけた。それが『秒針を噛む』である。
 
『秒針を噛む』はあれよあれよという間に再生数を伸ばし続け、現在は700万再生超えを記録している。これは新人アーティストとしては異例の記録であることは間違いないし、タイアップも何も付いておらず、ただ口コミのみで広がった結果というのが興味深い。
 
ピアノを主軸としたキャッチーなポップロック。そこに細かな音が重なり合い、耳にドスンと来る重厚なサウンドとなっている。
 
中でもサビ部分の大爆発は、あまりにも衝撃的だ。声を張り上げて歌うACOね氏と、音圧がさらに数倍はね上がったかのようなサウンドでもって、一瞬にして引き込まれてしまう。
 
ペースを一切落とさずに突っ走る『4分半の事件』が終わると、不思議と最初から聴いてみたくなる魅力が詰まっている。本来情報量が多く耳障りなはずのサウンドも、ピアノがあることでまろやかに。さらにはACOね氏の歌声も相まって、何周もリピートしてしまう。
 
他のアーティストとは一線を画する歌詞にも注目だ。この曲で歌われているのは、フラストレーションを抱えながらも、それでも懸命に生きようともがく孤独者の内情である。
 
〈このまま奪って 隠して 忘れたい〉

〈分かり合う◯ 1つもなくても〉
 
この『孤独者』の内情は、詳しくは明かされない。全ては靄がかかったように不鮮明で、抽象的な表現に終始している。しかし発散できずに溜め込んだ心の辛さは、画面越しに見る者にも痛いほど分かる。僕個人としてはこの歌詞を見るたびに、心が締め付けられそうになってしまう。
 
数日前には新曲『脳裏上のクラッカー』の動画も公開された。こちらも素晴らしいのでぜひチェックしてもらいたい。
 
彼女らは自身を表す言葉として『ずっと真夜中でいいのに。』を選択した。真っ昼間に昇る太陽のような、日々明るく人生を謳歌している人間には決して分からない、鬱屈した感情を歌う。
 
11月14日には上記で紹介した2曲を含む待望のファーストミニアルバムが発売予定。来年には初ライブも決定している。
 
今後も活躍に目が離せない。断言する。2018年最後の台風の目はこいつらだ。


※この記事は2018年10月5日に音楽文に掲載されたものです。