キタガワのブログ

島根県在住のフリーライター。ロッキン、Real Sound、KAI-YOU.net、uzurea.netなどに寄稿。ご依頼はプロフィール欄『このブログについて』よりお願い致します。

【音楽文アーカイブ】笑顔と熱狂のロックンロール・パーティー 〜THE BAWDIES『FLASH BACK '09 & '10 TOUR』、最終公演ライブレポート〜

昨年開催され、惜しくも中断を余儀なくされた『Section #11 Tour』から約1年。新型コロナウイルスの猛威にも負けず、THE BAWDIESが再び全国ツアーに乗り出した。僅か1週間あまりで全国5箇所を回る『FLASH BACK '09 & '10 TOUR』と題された今回の全国ツアーはそのタイトルからも分かる通り、2009年にリリースされたメジャーファーストアルバム『THIS IS MY STORY』と2010年にリリースされたメジャーセカンドアルバム『THERE'S NO TURNING BACK』収録曲を基盤に、ファン投票によるリクエストを元にしたセットリストで構成されるコンセプトツアー。活動歴が長くなるにつれ、かつて披露されてきた楽曲が次第にライブで演奏されなくなるのはミュージシャンの常だが、彼らの初期衝動とも言うべき楽曲群を今、改めて聴くことが出来るという貴重なツアーだ。


定刻、18時。ミラーボールに照らされる中、お馴染みのウィルソン・ピケットの名曲“Land of 1000 Dances”のSEに乗せてメンバーが袖から登場。その表情は一様に満面の笑みを称えていて、この時点で今回のライブの成功を感じさせる程のポジティブな雰囲気だ。「今回のコンセプトを鑑みるに1曲目はアレかなあ……」などと思いを巡らせていると、SEを切り裂くようにMARCY(Dr)によるリズミカルなドラムが鳴り響く。そう。1曲目に選ばれた楽曲は『THIS IS MY STORY』でも1曲目に配置されていた“EMOTION POTION”である。そしてMARCYによる打音の最中、呼応するようにROY(Vo.Ba)が開口一番「THE BAWDIESでーす!今大変な時期だと思います。でもこんな時だからこそこの瞬間だけは、色んなことを忘れて思いっきり楽しみましょう。そしてそれを明日からのパス、明日からの光にしてほしいなと思うんです。どうですか?行けますか?行ってもいいですか?」と焚き付け焚き付け、楽曲に雪崩れ込み。鼓膜を揺らす重低音、縦横無尽に相棒を暴れ弾くTAXMAN(Gt.Vo)とJIM(Gt.Cho)、天に突き上げられる多数の掌……。それは観客全員がマスク着用、発声を制限されている以外、誰もがイメージするTHE BAWDIESのライブそのものだった。中でもROYが言語化不能の低音シャウトを限界まで伸ばして拍手喝采を浴び、そこから《僕は貴方に手を差し伸べ続ける(和訳)》と放たれた後のラスサビは筆舌に尽くしがたい程で、未だ1曲目ではあるが早くも会場は熱狂の渦に包まれる。


後のMCでROYから説明が成されてようやっと合点がいったのだが、今回のライブは大まかにふたつの構成に分けられており、ゆうに総演奏時間の半分以上を占めた前半部では“B.P.B”を除くファンリクエストのトップ10に選ばれた『THIS IS MY STORY』と『THERE'S NO TURNING BACK』の楽曲群を、対する後半部ではリクエスト第2位に選ばれた“B.P.B“や代表曲”JUST BE COOL”他、最新アルバム『Section #11』収録曲も点在する、幾らか近年のTHE BAWDIESの歩みを見せ付ける形でしっかり差別化を図っていたのが印象的。そしてやはり驚くべきはその大半が随分と久方ぶりにライブ披露となる初期の楽曲群。日本人離れしたROYのボーカル然り泥臭いR&Bを掻き鳴らすサウンド然り、THE BAWDIESが海外のブラックミュージックに音楽的な影響を受けていることは広く知られているけれど、10年の時を経てデビュー時の楽曲群を聴いていると良い意味で荒削りで、よりロックの初期衝動を体現しているようにも感じられ、加えてこの10年THE BAWDIESは一切妥協なしで、数ある名曲を生み出し続けてきたという事実をも思わせる至福の時間だった。

グルーヴィーなサウンドでオーディエンスが跳び跳ねまくった“YOU GOTTA DANCE”を終えると、この日初となるMCへ。バンドを結成して以降、毎年驚異的なペースでライブ活動を行ってきた彼ら。けれども新型コロナウイルスにより去年一年間はほぼライブが出来ず、THE BAWDIESの歴史にぽっかり穴が空いたような気持ちになったと回顧。ただ活動が停滞する中でライブへの思いは一層強くなったとし、今年は一度原点回帰……スタート地点に戻ろうという考えから、初期にリリースされたアルバムを軸にセットリストを組むコンセプトとなったことを説明。その熱い語り口に誰しもが真剣に耳を傾けていたが、以降は流石はトークに定評のあるROY。アルバムのリリース日を盛大に間違えたことを機に緊張が解れると、この日着ていたスーツは12年前に実際に着用していたものであるという話題から「今でも着れるのが凄いでしょ?でも油断しないでください。知らないうちに首だけ締まってますよ」と年齢の経過を報告したり、スーツのネクタイをズラすと出現する同色のストライプ模様を指して「トリックアートです」と突っ込んだりとフルスロットルの饒舌さで翻弄。その軽快なトークに思わずファンが吹き出してしまう点も含め、最高の環境だ。


パーソナルスペース度外視の極めて近い距離感で演奏を繰り広げた“EVERYDAY'S A NEW DAY”、目配せありでじっくりと聴かせた“TINY JAMES”、TAXMANが印象部を歌唱しROYが猛然と追随した“MOVIN' AND GROOVIN'”と“SO LONG SO LONG”……。学生時代からの仲であるTHE BAWDIESらしい仲睦まじい関係性を随所に感じさせながら楽曲は続いていく。そんな中満を持して鳴らされたのは人気投票で堂々の1位に輝いた“SAD SONG”だ。“SAD SONG”は諦めのつかない不器用な男の恋心を歌った『THERE'S NO TURNING BACK』屈指のミドルナンバー。楽曲の制作者がROYである関係上、楽曲で記されている内容は彼のみぞ知るところであるし、リリースから10年が経過した今では、おそらくは薄れ行く淡い思い出として記憶されていることだろう。ただロックンロールを祖とする彼らの楽曲の中では稀有な内容・曲調である“SAD SONG”がこうして純然たるファン投票の1位に選ばれたことには、感慨深い思いも頭をもたげるというもの。その証拠にステージの中心で歌唱するROYの視線は常に前を向いていて、まるで一人一人に伝えるようでもあった。


以降は一転、“KEEP YOU HAPPY”で再度のロックンロールパーティーへと誘うと、突如会場が暗転。ROYの「助けてー。ひいー。お、鬼だー!」とのあからさまな棒読みの絶叫で再び明転すると「こんにちは!僕は竈門炭治郎と申します。鬼を見掛けませんでしたか?」とファンに問うという、ここまでストレートに明言されればもう爆笑するしかない展開に次いで、鬼に扮したTAXMANがMARCYを食すよもやの展開に(なお昨今のライブでは“HOT DOG”前にコントが披露されることが定番化しているため、この時点でファンの大半は次に何が演奏されるのか理解したはず)。ただ「その鬼というのは……これのことかー!」と全力で乗っかるTAXMANに対してROYは思っていたノリと違ったのか冷静に「違います。やめてください。そういうことじゃないんです」と一蹴。そして袖から現れたのはJIM扮するその名も『竈門ソーセージ郎』。以降も息の会ったコンビネーションでお笑いライブ並みの爆笑量と化した会場に、片手ずつ食材を持ったROYとJIMによる「僕たち、パンと!ソーセージで!二人会わせてホットドッグ、召し上がれ!」との開幕宣言でもって、キラーチューン“HOT DOG”を投下。勿論最高のタイミングで披露された“HOT DOG”はこの日のハイライトとも言うべき盛り上がりを記録し、ROYは幾度もシャウトを繰り出し、特にJIMは前方のカメラマンが追うことすら難しい程にギターを暴れ弾き、興奮を扇動する。ファンについてもソーシャルディスタンスをしっかり守った空間で誰もが全力で跳び跳ね、彼らのライブの俗称である『ロックンロール・パーティー』を体現していた。

リクエスト上位楽曲を連発したこの時点で既に凄まじい満足感を抱くけれど、これまでは未だ第1章。続いてはROYが「転がり続けるバンドなので、最新のTHE BAWDIESも一緒に味わって行きたいと。そして一緒にお祭りモードに突入していく……。どうでしょうか。参加していただけますか?」とファンを促すと、第1章の興奮そのままに第2章へと突き進んでいく。第2章の開幕を飾ったのは『Section #11』収録の“LET'S GO BACK”。《Ba-pa-pa-ba-pa-pa-pa-la》との印象的なフレーズがファン誰しもの心で歌われれば、続く“IT'S TOO LATE”でROYのひび割れたロングトーンが鼓膜を刺激。人気投票2位に選ばれたTAXMAN歌唱のロックアンセム“B.P.B”がこのタイミングで演奏されたことも何よりの最適解だったように思うし、比較的新し目の楽曲でありながら今やライブで欠かせないナンバーとして確立する“SKIPPIN' STONES”も更なる沸点突破の起爆剤として素晴らしい役割を果たしていた。気付けばメンバーの顔面からは頻りに汗が滴り落ちていて、MARCYが着用するカッターシャツは所々に透けが目立つ。つまりはこの日のライブがそれ程ハイカロリーなステージングであったことの証明でもあるのだが、メンバーが笑顔を絶やすことはなく、まるで一分一秒を無駄にせず最大限楽しもうとしているような、そんな思いすら感じた次第だ。


本編最後は“JUST BE COOL”で、ROYによる「皆様ひとりひとりが打ち上げ花火になっていただいて、飛び上がってください。行けますか?」との開幕から出し惜しみなしの完全燃焼を図ったTHE BAWDIES。感情が理性を凌駕するが如くのパフォーマンスでJIMもTAXMANもつんのめりながら楽器を弾き倒していて、サビ部分では前方のメンバー3人が齧り付かんばかりの勢いでマイクに接近し、声の出せないファンに変わって大熱唱。そうした熱い彼らの姿に呼応して会場の熱量も上昇を続け、サビ部分ではROYの合図でフロアが大きく波打ち、圧巻の光景を形成。オンラインでライブを鑑賞しているファンにも思いを寄せながら、クライマックスは「ラスト、日本全国行きましょうか。いくぞー!ニッポーン!」というROYの一言で会場が揺れに揺れ、幸福な笑顔の花火がそこかしこに打ち上げられた。


“JUST BE COOL”終了後、メンバーの「まだまだ演り足りないから早くアンコールよろしく」と訴えかけるようにも感じさせる体力の有り余った動きでステージを後にすれば、すかさず会場に集まったファン全員が団結してアンコールを求めるハンドクラップを鳴らす。暫くして力強いアンコールに答える形でメンバーが再びステージに現れると、会場は割れんばかりの拍手で応酬。ROYが「ありがとーう!」と感謝を伝えるとそれは益々大きく広がり、心底満足げな表情を浮かべながらのチューニングタイムに突入だ。よく見ると服装も全員黒スーツから白いカッターシャツへとラフな格好に変化していて、普段はアンコールが終わった後からTAXMANが飲み始めるはずのビールもこの日はツアーファイナルであるからなのか、この時点で早くもプルタブをオープン。その瞬間のカシュッとした音にエフェクトまでかける徹底ぶりである。以降は少しばかり肩の荷が下りたのか、ライブ前に行われたMARCYによる円陣で「お前ら行けんのか!」「声が小せえ!」というその柔和な性格に似合わぬ鼓舞を行ったことについて語って爆笑の渦へ。それからも散々弄られ続けたMARCYはどんどん勢いを増していくトークを嘆きつつ、今回のライブが5日後までアーカイブが残ることに触れ「ぜひ円陣を見てやってください」と締め括るも、直ぐ様ROYから「円陣じゃなくてライブ観てほしいんです……」、JIMからは「円陣のアーカイブってこと?」と更に燃料を投下する事態に。MCと言えば時に冗長になってしまうことも多いため、ライブハンドとしての永遠の課題のひとつとして頻繁に挙げられる一幕ではあるけれど、ことTHE BAWDIESは別。次々と移り変わる応酬にはファンも大満足の様子で、次曲へとスムーズに導く起爆剤として位置しているのも面白い。

注目のアンコール1曲に選ばれたのは、先日MVが公開されたばかりの新曲“OH NO!”。例年通りのライブ活動がなかなか出来なかった関係上、“OH NO!”は今回のセットリストの中では大多数のファンがライブでは所見となる楽曲ではある。ただそもそも彼らは今回のセットリストで言うところの“SKIPPIN' STONES”然り“JUST BE COOL”然り元々新曲として披露された楽曲も、度々ライブでブラッシュアップすることでいつしかキラーアンセムとして確立させることを10年以上に渡って続けてきた訳で、現に今回の新曲も「もう何百回とライブにかけてきたのでは?」と驚いてしまう程の熱量で盛り上がっていて、今後THE BAWDIESにとって重要な楽曲となる確信すら抱いた。


「それでは皆さん、今日は本当にありがとうございました。久し振りに会いましたけども、これからも我々はとにかく転がり続けておりますので、ロックンロールが足んねえときは我々に巻き込まれに来てください、良いですか?」……。“OH NO!”後にROYは最後のMCで力強くそう呼び掛け、ファンは決意を込めて万感の拍手で答えた。ラストに披露されたのは『ロックンロールを続ける』との思いをタイトルに込めた“KEEP ON ROCKIN'”。原曲と比較しても明らかに早いBPMで駆け巡る中、メンバーは皆一心不乱に「まだ行ける!まだ行ける!」と喰らいつくように演奏を続け、既に沸点に達していたと思われていた会場の熱を天井知らずの勢いで引き上げていく。本来ファンとのコール&レスポンスを行う場面ではROY曰く「リンゴを潰すくらいの力」で足踏みとクラップで代替を図り、暴れ馬のような様相でクライマックスへ侵攻。最後はキメとしてROYが「ヴォー!」と絶唱すると、MARCYがスティックを連続でシンバルに振り下ろす動作に合わせてメンバーもコードを掻き鳴らしての完全燃焼で終了。いつまでも続く拍手の海を揺蕩いながらメンバーが深々と一礼し、最高のロックンロールパーティーは大団円で終幕したのだった。


このご時世において有観客でのライブを行う真の意味合いは何だろうかと、僕はこの1年間ずっと考え続けていた。お客さんを楽しませるため?音楽を未来に繋げるため?現状を打破するため?……今現在数ある制限の中でライブを敢行するアーティストには様々な気持ちが内在しているに違いないし、おそらくそのどれもが正解で、またある意味では不正解なのだろう。未だ確たる答えは出ていないけれど、今回のライブを刮目して、THE BAWDIESについてだけは確信めいたものを得ることが出来た。彼らがライブを行う理由。それは彼らが純粋に『ライブをやりたい』から。そして彼らの望む最高のライブの形こそが『ファンがそこに存在し一緒に楽しむ』ものであるから。彼らの思考を読み解くと、これ程単純で素晴らしい答えに行き着く。


ライブの序盤にて、ROYは今回のライブにはコロナ禍でライブが出来ない1年を経ての原点回帰の意味合いが込められていると語っていた。それは決してリスタートというネガティブなものではなく、あくまでもかつての楽曲を通じて当時に立ち返るものである。徹頭徹尾笑顔に満ち溢れた今回のライブを経て、彼らはまた、より一層の飛躍を遂げることだろう。……全ての演奏が終わった後、TAXMAN扮する若大将手動で行われた恒例の『ワッショイ』の無声版である『サイレントワッショイ』を目に焼き付けながら、僕は強く思った。「コロナが収束したらTHE BAWDIESのライブでまた絶対に声が渇れるまで歌って、バンTが汗でぐちゃぐちゃになるまで騒ごう」と。


※この記事は2021年5月25日に音楽文に掲載されたものです。