キタガワのブログ

島根県在住。文筆。rockinon.com外部ライター等。

【ライブレポート】Starcrawler『JAPAN TOUR 2019』@梅田BANANA HALL

こんばんは、キタガワです。

 

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帰路に着きながら「とんでもないものを観た」という酷く抽象的な思いが頭を支配していた。今すぐ誰かに熱弁したいような、事件を目撃した野次馬じみた思い。……大阪のディープな繁華街の一角で行われた約1時間半に及ぶライブは、紛れもない大事件であった。


2015年にアメリカ・ロサンゼルスで結成されたスタークローラー。彼らの来日公演は2018年のフジロック及び全国ツアー、そして今回のツアーを含めると通算三度目となるが、今回はニューアルバム『Devour You』リリース後という絶好に脂の乗り切ったタイミングでの来日となる。


紅一点のフロントウーマン、アロウ・デ・ワイルド(Vo)による血みどろのパフォーマンスや、平均年齢21歳の若者ならではの初期衝動全開で展開されるライブが話題を呼び、一部では「スタークローラーはロックの未来である」と語られるほどに、こと海外ロックシーンで注目を一身に集める彼ら。


そんな彼らのライブを一目観ようと会場である梅田・BANANA HALLでは、オープニングアクトであるThe ティバのライブ終了後には観客の多くが前方へと大移動。収容人数は約500人と決して広くないライブハウスではあるものの、結果的に前方は完全なるすし詰め状態。対して後方に留まる人はまばらという両極端な光景が出来上がり、スタークローラーへの期待値の高さを証明する形となった。


ステージで一際目を引くのは、188cmの身長を誇るアロウ用のセッティングが施された、およそ日本のバンドではまず見ることはない高々と鎮座したマイクスタンド。それ以外はギター、ベース、ドラムとロック然とした配置ながら、スピーカーの上にポツンと置かれたキモカワの人形も、ミステリアスな雰囲気を演出するのに一役買っている。


定時を少し過ぎ、暗転。軽やかなミッキーマウスのSEに乗り、まずはオースティン・スミス(Dr)が配置に着く。瞬間全体重でもって振り下ろされる重厚なドラミングの後に現れたのは、ティム・フランコ(Ba)とヘンリー・キャッシュ(Gt)の2名。演奏が一種のジャムセッションの様相を呈したところで、アロウがゆっくりとステージに降り立った。


驚くべきはその服装で、ヘンリーは白を基調とした多数の花が描かれた一昔前のロックスターを彷彿とさせる華々しい風貌であったのに対し、アロウはと言えば露出の多い白いドレスに身を包んではいたものの、胸から下半身にかけてはまるで重症を負っているかのように真っ赤に染まっている。その光景はともすれば淫靡な雰囲気も覚えるが、血の気が引いたようなアロウの顔色と、何より一部分が深紅に染まった上半身にも目を向けると、それはあまりにも異質であった。その当人のアロウはと言えば頭を抱え、何かに怯えるような表情で客席を見渡していた。精神的に不安定な挙動に心配してしまうが、この情緒不安定なステージングこそスタークローラーの基本スタイルなのだ。


1曲目はニューアルバムから“Home Alone”。印象的だったのはやはりヘンリーとアロウの2名。ヘンリーは右へ左へと暴れながらギターを掻き毟り、早くも演奏と衝動のバランスが著しく失われた暴走列車の様相。アロウに至っては時に体をびくつかせ、時によろめきながらハンドマイクで鬼気迫る歌唱を繰り広げていた。終始彼女が放さなかったマイクスタンドはアロウの体重を支える役割を果たしていて、まるで獰猛な野獣を強制的に繋ぐ鎖のようでもあった。


そんな暴れ馬状態と化した2名と対照的に、地に足着いた正確なリズムを刻んでいたティムとオースティンにも注目したい。ティムはほぼ直立不動で主張の少ないベースラインで地盤を固め、オースティンは鼓膜にダイレクトに届くドラムを展開。……一歩間違えば瞬時に破綻しかねない猪突猛進型のライブパフォーマンスがスタークローラーの売りのひとつではあるが、スタークローラーのライブが決して『荒々しいだけのロック』との印象を抱かせないのは、タイトにリズムを刻む彼らの存在も大きいのだろうと感じた次第だ。


“Home Alone”のラストは轟音のアウトロの中、アロウはマイクケーブルで自身の首を力一杯締め、そのまま背後に倒れ込んでしまう(これは誇張表現ではなく、実際に頭が地面に叩き付けられる音がした)。1曲目から限界突破のパフォーマンスに、会場は割れんばかりの歓声に包まれた。


その後は“Used To Know”、“Love's Gone Again”、“Lizzy”と立て続けに4曲を披露。終わった時点で未だ10分にも満たない性急さには驚かされるばかりだが、結論を述べると今回のライブで、彼らは曲間にまともな休憩はおろかMCも水分補給も、ほぼ行わなかった。まるで何かに取り憑かれたように一方的に演奏のみを繰り広げるその姿は一種の焦燥に駆られているようでもあり、凄まじいポテンシャルの高さをありありと見せ付けていく。


この日のライブは『Devour You』リリース後のツアーとのことで、セットリストの大半を担っていたのは言うまでもなく『Devour You』の収録曲。具体的には唯一のバラード曲“Call Me a Baby”を除く全楽曲を網羅すると共に、ファーストアルバム『Starcrawler』からのファストチューンも随所に取り入れた現時点までのベスト的なセットリストで進行。決して演奏は上手くはないし、卓越したテクニックや奇抜な楽曲展開もない。スタークローラーが今回行ったのは、徹頭徹尾ロックンロールに人生を変えられた4人の若者たちによる、ただただひたすら泥臭く武骨な存在証明であった。

 


Starcrawler - I Love LA


この日のハイライトとして映ったのは、中盤で演奏された屈指のライブアンセム『I Love LA』。限界突破のテンションで飛び跳ねながらギターを掻き毟るヘンリーと目をひん剥きながら歌うアロウ。これまでは観客へ何らかのアクションを促す行動は取らなかった彼らだが、サビ部分ではアロウがマイクを客席に向けシンガロングを促す一幕も。必然「I Love LA!」の大合唱に包まれての凄まじい一体感を見せ、演奏終了後に満面の笑みで会場を眺めるヘンリー、心から嬉しそう。


以降も彼らはフルスロットル。ヘンリーは事あるごとにステージドリンクを霧状に吹き出し、変顔を頻発しながら大股でギターを弾き、アロウは大迫力のブリッジを見せ付けたかと思えば、時折ケタケタと笑い始めたり、全てに絶望したような表情を浮かべたりと終始情緒不安定。更に演奏終了後はマイクをゴツンと落としたり地面に倒れ込むなどヒステリックに感情を露にし、まるで何かが憑依したかのようなパフォーマンスの一挙手一投足に目が離せない。あまりにも激しく動くため服の隅々からは艶かしい肌が露出し、乳首に関しては完全に透けているのだがおかまいなし。ふとステージ下部に目を凝らすと、ローディーにより貼り付けられたセットリストは一切の判別が出来ないほど粉砕され、破片がそこかしこに散らばっている有り様。集まった我々が、いかにクレイジーな時間を過ごしているのかを物語っていた。


本編ラストはニューアルバムのリード曲のポジションを担っていた“Bet My Brain”。

 


Starcrawler - Bet My Brains


MV同様前のめりで歌唱するアロウ。ステージに目を凝らすといつの間にかヘンリーの姿はなく、客席前方のフロアでギターを弾いていた。ヘンリーの長尺ギターソロに沸くその間に、アロウは映画『呪怨』のキャラクター・貞子を彷彿とさせる動きでもって地べたを這いずりながら裏へと消えていった。かくして本編は残った3人のメンバーが鳴らす面妖なノイズに呑まれながら、大盛り上がりで終了したのだった。


しばらくして、事前発生的に広がった大きな手拍子で再び迎え入れられたスタークローラー。アンコールで演奏されたのは、現状リリースされているふたつのアルバムでとりわけダークな存在感を放っていた“She Gets Around”と“Chicken Woman”だ。

 


Starcrawler - 05 - Chicken Woman - Primavera Sound 30 May 2018 - Primavera Sound - Barcelona


中でも最終曲“Chicken Woman”はあまりにも衝撃的だった。“Chicken Woman”はスローな前半こそダークな印象の楽曲だが、後半にかけては一転、速いBPMに変貌するスタークローラーきっての代表曲。ノイズに包まれながら、楽曲は徐々にボルテージを高めていく。そしてベースオンリーのサウンドに変化した頃、待ってましたとばかりにテンポが変化。その瞬間、アロウの口から大量の血糊が吐き出される。口元はみるみるうちに赤く染まり、アロウは真っ赤に染まった口元を触り、髪や顔に血糊を塗りたくっていく。口元のみならず全身がみるみるうちに赤く染まっていく。

 

楽器隊が演奏に加わるまさに絶好のタイミングで、アロウは客席へとダイブ。ヘンリーは観客から見て左側にある柵へよじ登り、ヘッドバンギングを繰り出しながらギターを鳴らす。更に定位置へと戻る際にはいち観客としてライブを観ていたファンの女性の手を引いて共にステージに上げると、自身のギターを手渡して力一杯弾くよう指示。そうして血みどろのアロウが地面を転げ回り、ファンの弾く解放弦による爆音が延々鳴り響く中、この日梅田・BANANA HALLで行われた『事件』は大団円で幕を閉じたのだった。


僕は何を観ていたのだろうか。ロック。恐怖。エロ、血糊……。1時間半に渡って目の前で繰り広げられていた光景はおよそこの世のものとは思えない、音楽の形を成した『何か』であった。


彼らは未だインディーズバンドであり、別段音楽シーンで絶大な人気を博すほどではない。多くの偉人たちが「ロックは死んだ」と揶揄するように、彼らのような無骨なロックをがむしゃらに鳴らすバンドは今やほぼ売れないとされ、こと海外音楽シーンでは敬遠される存在でもある。この日壮絶なライブで観客を魅了し大歓声に沸いた彼らも、その限りではないだろう。


けれどもロックとは、本来そうしたあぶれものたちによる音楽でもあったはずだ。遥か昔ブラックミュージックに端を発したロックンロールは時に規制され、時に無礼な存在として、社会に蔑まれ、そして同時にある一定の人々には、自身の思いを具現化する反逆の象徴として長年愛されてきた。


……2020年現在、ロックの在り方は大きく変化した。楽曲にメッセージ性を孕んだり、四つ打ちを多様したり果てはSNSや動画アプリを巧みに使ったりと、音源以外の部分がフィーチャーされて話題に繋がるバンドも少なくない。だが言いたいことや奏でたい音といった数々の欲求が高まって抑えきれなくなり、全てを内包して衝動的に鳴らされるもの……。それこそがロック本来の形ではなかろうか。

 

そう。だからこそ「ロックは死んだ」と揶揄される今、彼らのような若い年代の人間が直接的なロックを鳴らすことには、大きな意味があるような気がしてならないのだ。具体的には絶体絶命の危機にあるロックンロールの、救世主たる役割を果たすことを期待せずにはいられない。この日のライブは彼らが巻き起こすストーリーのほんの一部分に過ぎないということを、2020年は彼ら自身の手で証明してくれるはずだ。

 

【Starcrawler@大阪 セットリスト】
Home Alone
Used To Know
Love's Gone Again
Lizzy
Hollywood Ending
Toy Teenager
Lets Her Me
Tank Top
I Don't Need You
Ants
I Love LA
Rich Taste
Pet Sematary(ラモーンズカバー)
No More Pennies
Born Asleep
Different Angels
You Dig Yours
What I Want
Pussy Tower
Train
Bet My Brains

[アンコール]
She Gets Around
Chicken Woman