こんばんは、キタガワです。
努力主義の無骨な活動が良しとされてきた時代は遥か昔。今やSNSやYouTubeの発達により、突如出現した新進気鋭のアーティストが一気に音楽シーンを台頭する新時代に突入した。そんな中メディアで頻繁に取り上げられるのは唯一無二の歌声、オリジナリティ溢れるサウンド、彼らだからこそ書ける歌詞など、そのアーティスト『ならでは』の要素。……確かに、どんなアーティストがカバーをしてもどうしても原曲には勝つことが出来ないし、そのアーティストならではの魅力は絶対的に存在する。しかしながら同時に思うのは「どんなアーティストも間違いなく誰かの影響を受けていて、それらを自分なりの表現なり歌唱法で表現したのが音楽」であるということ。断言するが、誰からも影響を受けていないアーティストはこの世にひとりも存在しない。
そんな中、世界には他作品に影響を受けたと公言した楽曲や特定の音楽を指し示した楽曲というのも数多く存在する。そこで今回は『他作品にオマージュやパロディ、インスパイアされたアーティストの楽曲とアルバム5選』と題し、インタビュー等で堂々と他作品からアイデアを拝借したと語っているアーティストの作品から5つをピックアップ。今回に限り比較として、上部にアーティストが「影響を受けた」とよる楽曲、下部にはその「拝借元」の楽曲のMVを貼り付ける形で書き進めていきたい。
『Van Weezer』/Weezer
海外を代表する古株的ロックバンド・ウィーザー。彼らを語る上でまず話題に組み込まれるのが『泣き虫ロック』という代名詞。何故こうした表現が広く知られているのかと言えば、その曲調こそ完全なるポップロックでありながら、歌詞に目を向けるとまるで学校の片隅でひとりノートに書き殴るようなセンチメンタルな香りがすることからである。
そんな彼らは今年2021年、僅か3ヶ月という短いスパンでふたつのアルバムをリリース。そのひとつがストリングスを大量に起用したオーケストラ作品『OK Human』。そしてその後にリリースされたのが最新作『Van Weezer』で、特に『Van Weezer』は多くのファンを唸らせる怪作となった。何故ならこのアルバムのコンセプトはメタルサウンドを主軸としていて、先行公開された“The End Of The Game”を見ても分かる通り、およそウィーザーのイメージとは完全に真逆を行くそのギターの高速タッピングが連続するサウンドは今までのウィーザーが敢えて行ってこなかった代物であるためだ。
ただこの作品を知る上で避けて通れないのは、メンバー全員がメタルに多大な大きな影響を受けて青年期を過ごしているということ。リヴァース・クモオ(Vo.Gt)はキッスの大ファンとして様々なメディアで語っているし、ブライアン・ベル(Gt)はブラック・サバス。スコット・シュライナー(Ba)はスレイヤーとメタリカ。パトリック・ウィルソン(Dr)はヴァン・ヘイレン(ちなみに今作のタイトルはもちろんヴァン・ヘイレンがモチーフ)と、メタルは常に彼らと共にあった。けれどもクラスの隅で読書を決め込むような彼らには到達出来なかったのがメタルという音楽でもあって、総じて今作では『ウィーザーがメタルをやろうと頑張った結果ウィーザーに戻った』ような、言わば「どう足掻いてもウィーザーはウィーザーである」との真実を白日の元に晒す結果となった。そう。メタルをやりつつどこまでも彼ららしい『Van Weezer』がここまでの注目を浴びた背景には、ポップとメタルという決して混じり合うことのない音楽ジャンルの彼らなりの合体があったのだ。
Weezer - Hero (Official Video) - YouTube
Van Halen - Panama (Official Music Video) - YouTube
『Zerwee』/Billy Cobb
まずこのZerwee(ザーウィー)なる作品名を見た瞬間、思わず驚いた人も多いことだろう。タイトルにもあるように、この作品はウィーザーの大ファンであると公言するビリー・コブによる、愛情を込めたオマージュアルバムとして位置している。
甘酸っぱい歌詞、ポップなロックサウンド……。今作における楽曲の数々はどこを切ってもウィーザーのファースト・セカンドアルバムを彷彿とさせる出来で、それはある意味では活動開始から何十年にも渡って第一線でロックシーンを牽引するウィーザーが様々な試行錯誤を繰り返す中で、長年のファンが抱く「前みたいなウィーザーを聴きたい」という我が儘な思いをファン目線で体現する作品となった。ここまでの内容を紐解くと、ともすれば「自身の注目を集めるためにウィーザーを利用したのでは?」という邪な考えも浮かぶのは必然だが、ビリー自身が何年間もウィーザーを繰り返き聴き続けて育ってきた……というよりウィーザーを半ば神格化しているレベルのファンであることは間違いないし、実際オリジナル(?)のウィーザーとしても『OK Human』のアルバム周辺ではウィーザーファンのコンポーザーから「こうすべきでは?」とのアイデアを得て成功したことも考えると、ウィーザーとファンの関係が相互的に作用した素晴らしい循環のようにも思える。
なおビリー・コブは今作の大反響を受け、この作品の発売から1年後に次なる新作『Zerwee, Pt. 2』を発表。前作のウィーザーぶりを更に進化させることはもとより、浮世絵のジャケットや“Orihime and Hikoboshi”、“Naita Aka Oni”といったリヴァースの親日ぶりさえ掘り下げた作品に。ウィーザー自身が活発な活動を続ける中『ウィーザーよりもウィーザーらしい』と語られるその内容にはいささが語弊もあるが、とにかく。結果かねてよりのファンも「わかる!」と膝を打つサウンドは一聴の価値ありだ。
Weezer - Say It Ain't So (Version 3) - YouTube
“感情のピクセル”/岡崎体育
音楽シーンのエンタメ担当・岡崎体育。岡崎と言えばMVあるあるをコラージュして展開する“MUSIC VIDEO”や空耳アワー日本版的な手法で話題を博した“Natural Lips”といった独特の着眼点から織り成す楽曲がよく知られているが、今作のMVでは世間一般的なイメージにおけるロックバンドのMVを強く意識して制作されている。なお公開当初より、その雰囲気等から参考とされているのは日本のポップロックバンド・SWANKY DANKの“Sink Like a Stone”であるとファンから多くの指摘があったが実際そうではなく、岡崎自身が抱く「日本も海外も含めてロックバンドのMVはこうした形のものが多い」という認識によるもの。
前述の通り今曲のサウンドや歌詞、そしてMV展開に関してはロックバンドの形に意図的に寄せていて、更には実際自室のPCでほぼ楽曲を完成させる岡崎にしては珍しくバンドマンにレコーディングを頼んでおり、ロックファンであれば思わず頷いてしまう要素がてんこ盛り。故にメロまではいつものファニーな岡崎体育感こそ少な目だが、ただサビ部分に突入した瞬間に誰もが爆笑すること必至の爆弾が投下され、一気に『岡崎体育の曲』になる。
結果岡崎の名を広く知らしめた楽曲のひとつとなった“感情のピクセル”は現在でもライブで都度セットリスト入りする楽曲として定番化したが、思えばこれまでの岡崎体育の楽曲の中でもこれほどロックに振り切った楽曲というのは制作されておらず、ある意味『ライブでの魅せ方』を主軸にして展開される岡崎のライブでもシンプルに盛り上がるアンセムとして確立した。
岡崎体育 『感情のピクセル』Music Video - YouTube
SWANKY DANK -Sink Like a Stone- feat. Hiro(from MY FIRST STORY)【Official Video】 - YouTube
『Who Am I ?』/Pale Waves
海外で今、ライブシーンを中心に人気を獲得しているロックバンド・ペール・ウェーヴス。彼らが何故海外インディーズシーンを席巻する存在となったのか……。その理由についてはファーストアルバムによるところが大きい。当時の彼らは目を黒く塗り潰してバンギャのような格好でライブを行う所謂『ゴス・イメージ』がとても強く、それとは対照的に楽曲はポップというギャップが大衆に受け、ファーストアルバムリード曲である“Television Romance”等はまさにそうした評価を地で行くものだったのだけれど、最新作『Who Am I ?』では一転、徹頭徹尾ロック然とした楽曲が占める意欲作となった。
こうした突然のイメージチェンジについて、バンドのフロントウーマンであるヘザー・バロン・グレイシー(Vo)は様々なメディアで『アヴリル・ラヴィーン』の名前を挙げている。……そう。下記の楽曲を聴けば分かる通り、このアルバムはヘザーが幼少期から聴き続けていたアヴリルの影響を強く受けるものになった。その理由は「ファーストアルバムと同じ曲は作らないようにしよう」という思いから制作に着手したことが要因で、今までメンバー全員で制作していたところを今回はコロナ禍もありヘザーひとりが担当。元々前作のようなサウンドはメンバーの誰かしらが提案したものだったためにポップな形になったそうだが、何にも縛られない状態でヘザーが作った楽曲はやはり、どう作ってもアヴリルになってしまうという事実。無論ファーストとのギャップには大いに悩んだそうだが、そこに新たに暮らし始めた同姓のパートナーが背中を押したこともあり、こうしてペール・ウェーヴスのセカンドアルバムは圧倒的な驚きと共に世に送り出されたのだ。
Avril Lavigne - Losing Grip (Official Music Video) - YouTube
『20名』/グループ魂
俳優としても活躍中の破壊(Vo.阿部サダヲ)、暴動(Gt.宮藤官九郎)、港カヲル(46歳.皆川猿時)らグループ魂。結成20年を迎えた彼らが投下したのは、全20曲という密度で構成されたコンセプトアルバム『20名』。これまでも様々な著名人を迎えた楽曲を発表してきたグループ魂だが、このアルバムでは何と全曲が人名。“津川雅彦”や“アニマル浜口”、“さかなクン”といったしっかりとしたロックアンセムに加えて、お馴染みの爆笑コント作品“向井徳次郎”、“中村屋華左右衛門”など大盤振る舞いの楽曲の数々はまさしく新境地。
必然歌詞の内容も人名に沿ったものとなり、“彦麿呂”では「海の宝石箱やー!」を筆頭とした名ゼリフ、“楳図かずお”は家の特徴とやりたい放題だが、何故か『どこを切ってもグループ魂』という20年続いたコミックパンクバンドとしての強みを押し出しているのも感慨深い。元々エロや笑い、パンクロックを有名俳優が鳴らすギャップ的な部分で注目されがちだった彼らだが、今作に収録された楽曲からは「ここまでやってもファンなら許してくれる」との絶対的な信頼あってのこと。現在でも『20名』の楽曲はほぼ毎回セットリスト入りを果たしていることからも、それは明らかだろう。なおグループ魂は2020年12月30日をもって解散をサプライズ発表。何も聞かされていなかったメンバーである石鹸(Dr.三宅弘城)がよもやの大号泣してしまう一幕もあったが、同時に2022年の春に再結成することも発表。ただこうした発表さえ「一度解散をやってみたかった」という思いによるものらしく、最後には爆笑の渦に包まれた。我々の想像を軽々と超える彼らの動きは、まだまだ止まらない。
……さて、これまで様々な比較を絡めて記述してきたが、各アーティストのMVを観る限りでも、驚くべきは今回取り上げた全てのアーティストは他作品からの影響を受けているとしながらも、自分なりの個性がしっかりと勝っている点であろう。「私なりに曲を作ったらアヴリルになった」というペール・ウェーヴスのヘザーのインタビューにもあるように、どれほど影響を受けたとしてもそれは単なる『影響』に過ぎず、自身の実体験等を踏まえて楽曲を紡げばそれは結果としてオリジナリティのある楽曲となることを改めて噛み締めることのできた次第だ。
繰り返すが、アーティストは間違いなく他の誰かしらの影響を受けている。それはこの記事を読んでいる貴方の大好きなアーティストも例外ではなく、おそらくは様々なインタビュー等でその影響を受けた先については話が出ているはずだ。であれば、是非ともそうした背景にも目を向け、願わくば『アーティストが心酔したアーティスト』の楽曲にも触れてほしいと強く願う。……巡り巡る音楽の循環。何よりも素晴らしきサイクルに一度耳を傾けてみるのも、きっと一興だ。