キタガワのブログ

島根県在住のフリーライター。ロッキン、Real Sound、KAI-YOU.net、uzurea.netなどに寄稿。ご依頼はプロフィール欄『このブログについて』よりお願い致します。

【音楽文アーカイブ】『最高の春』を希求する 〜『VIVA LA ROCK 2021』開催表明に見る、邦楽フェスの未来〜

「きっと来月には収まるだろう」「夏には」「冬には」「来年には」……。思えば前向きな思考変換を、我々は1年以上に渡って試み続けてきた。しかしながら現実は深刻さを増す一方で、新型コロナウイルスの急拡大は収束の兆しさえ見えない。この記事を執筆している4月19日時点で、東京都の1日の感染者数は700人前後を推移。緊急事態宣言が一足早く解除された大阪府では1日の感染者数が某日には1000人を超え、医療提供体制が逼迫。重症病床数を患者数が上回り、病床使用率が事実上100%を超える状態が続いている。


気付けば季節は春だ。おそらくは行事の思い出さえ何ら経験せず、家と学校、或いは家と勤務先の往復を繰り返すうちに数か月後には気温が急上昇。我々がはっと意識する頃には、すっかり夏の陽気となっていることだろう。……ライブにも行けない。遠征もできない。日常からライブという生き甲斐が奪われて1年。今もなお半ば生殺しのような状況に陥っているライブキッズはきっと少なくないはずだ。


生の爆音に飢える人々にとって、ワクチンや感染拡大を除いた大きな懸念……。それは「今年のフェスは本当に決行されるのか」という1点に集約される。ROCK IN JAPAN。サマソニ。京都大作戦。ライジングサン。現時点の夏フェスのみで考えても、様々なイベントが例年通り企画されている。全く夏フェスがない最悪な夏を我々は昨年経験したが、流石にもう1年堪え忍ぶのは正直、きつい。何とか夏にはこの状況が改善傾向となることを願うばかりである。


その希望的な未来を占う試金石となるのが、ビバラロックやJAPAN JAMといった所謂『春フェス』の動向だ。開催地はそれぞれ埼玉、千葉といずれも現状『まん延防止等重点措置』区域の対象に示されている県であり、更にこれらのフェスに関しては開催まで2週間を切っている。このふたつのフェスが開催されるのか、延期されるのか、中止となるのかによって今後の夏フェスの開催可否にも大きく影響を及ぼすことは明白で、開催可否に日々多くの目が注がれている……というのが、飾らないリアルである。


そして待ちに待った4月19日、いち早く開催の決断を発表したのがビバラロックだ。去る4月18日のインスタライブでもプロデューサー・鹿野淳氏が「中止は今のところ1%も考えていない」旨とさいたま市からも全面的なバックアップを受けていること、現状中止の要請といった話は一切受けていない事実を述べていたが、19日にはオンラインでの生配信、チケットリセール、東京スカパラダイスオーケストラのゲストボーカルなどポジティブな事柄を一挙大解禁。他にも徹底した感染対策や、政府が示したイベント収容制限数をビバラは下回っていること、何より公式サイト上の熱い熱い決意表明などを鑑みても、予期せぬ出来事が起こらない限りはほぼ間違いなく今年のビバラは開催されると見て良いだろう。……再度繰り返す。我々が望む最高の音楽の祭典は、来たる5月1日~5月5日に開催されるのだ。

けれどもコロナ禍にフェスを開催するということは、当然世間からの風向きは良いものではないのも確かだ。社内や学校で「フェス行くんだ」と声高に言えない状況でもあるし「毎年行ってるけど今回のビバラはちょっと……」と、参戦を見送る人も少なくないとも思う。ただ前述の通り、此度のビバラが開催されることは大きな意味を持つ。


何故なら誇張でも何でもなく、夏までに春フェスがひとつも行われなければ、ライブシーンは崩壊の一途を辿るからだ。窮状が好転しないまま、気付けば1年。アーティストの大半はライブ活動がグッと減った。特にライブを信条としてきたライブバンドにとっては辛い1年であったろうし、実際ライブが出来ないフラストレーションから活動が停滞し、メンバーが脱退したり活動休止をしたり、果ては解散してしまったバンドもこの1年多く目にしてきた。音楽ファンにとっての『ライブ』という非日常の存在も薄れ始め、かつてライブに足しげく参加してきたライブキッズの中にはライブ自体から離れてしまう人や、何となく音楽自体を聴かなくなった人さえいる。そしてそうした人々は、我々が予想するよりもずっと多いのだ。


もうひとつ、収益率についても記述しておきたい。まず大前提としてソーシャルディスタンスの観点でキャパシティを減らす関係上、全盛期の動員はまず見込めない。プラス、ことフェスとなると飲食系(特にアルコール類)の販売規制や医療関係者の配置増員といった様々な可能性を試行錯誤する必要もあり、コストは増大。今回のビバラも同様だが十中八九、今年開催される全てのフェスはたとえチケットがソールドアウトしようが赤字となる。こんなことは言ってはならないとは思うが、今年の音楽フェスは行わない方がよほどリスクは低いはずなのだ。


そう。とどのつまり今年多くの会社がフェスを敢行する理由は「ただただ心から音楽が好き」で、我々に素晴らしい音楽を届けたいという強い思いが第一義にある。だからこそ僕は「どうかこの状況で行われるフェスを応援してほしい」と声高に訴えていきたい。そして参加は不可能でも金銭的に余裕があればオンラインチケットを購入し、フェスに触れてほしいと。今年のビバラロックはオンラインでも生配信が行われ、チケットは1日券が3000円、5日券は何と6000円。昼夜音楽漬けの素晴らしき非日常を体験するには、あまりにも安い金額設定であるのは言うまでもない。ひとりひとりの認識の変化と行動は必ずや、ライブシーン全体を救うことに繋がっていく。


昨年、音楽シーンを中心に大いなるムーブメントとして巻き起こった『#春は必ず来る』とのハッシュタグ。……確かに昨年、季節的には春は到来した。けれども残念ながら『音楽ファンの望む素晴らしい春』は訪れることなく状況が一向に好転しないまま夏、秋、冬と季節は移り変わり、遂に今年、勝負の春は再び訪れようとしている。音楽の未来のために、今年こそは。素晴らしき春の到来を、心から願ってやまない。


※この記事は2021年4月30日に音楽文に掲載されたものです。