キタガワのブログ

島根県在住のフリーライター。ロッキン、Real Sound、KAI-YOU.net、uzurea.netなどに寄稿。ご依頼はプロフィール欄『このブログについて』よりお願い致します。

【音楽文アーカイブ】歌って笑える総合病院 〜四星球ライブツアー『SWEAT 17 BLUES』ライブレポート〜

先日、鳥取県・米子Aztic laughsにて開催された四星球の全国ツアー『SWEAT 17 BLUES 完成CELEBRATE? TOUR』に参加した。
 
様々なジャンルで溢れる音楽シーンだが、ことロックシーンにおいて四星球について語る際には、専ら『コミックバンド』という括りで語られることが多い。
 
その理由はひとつで、彼らのライブは常に笑いと共にあるからだ。小道具を多用し、世間のニュースを弄り、曲中にユーモアを織り混ぜながら、どこまでも笑いを突き詰めたライブを行うのが四星球の魅力のひとつである。それはさながら喜劇を観ているようでもあり、世間一般のライブ体験とは一味違った形で楽しませてくれる。
 
今回のライブはそんな四星球に求められている笑いの要素とロックバンドとしてのとてつもない熱量がひしひしと伝わる、大盛り上がりの空間と化していた。
 
ライブ開始前、フロアには『CAN YOU CELEBRATE?』他、安室奈美恵の有名な楽曲が繰り返し流されていた。おそらくこれは今回のライブツアーのタイトル『完成CELEBRATE?』の伏線回収なのだろう。こうした隠れた笑いの要素を見付けると「四星球らしいな」と思ってしまうと同時に、期待値が次第に高まる感覚にも陥る。笑いの導火線の火は既に点けられている。あとは爆発するのを待つばかりというところだ。
 
暗転した後、SEとして安室奈美恵の楽曲を流しつつ、ステージに降り立ったメンバー。そのままバンド演奏を始めるかと思いきや、誰も楽器を持っていない。呆気に取られる観客をよそに、北島(Vo.Gt)が笑顔で語り始める。
 
「MOROHAのライブ最高やったなー。俺らもライブ聴きながら楽屋で『今すぐ歌いたい』って思ったんやけど、あと10分間は歌いません!」

まずは彼らの前に出演したMOROHAを弄って一笑いを引き起こすと、ここで今回のライブツアーのタイトルに冠された『SWEAT 17 BLUES』の意味について説明する時間に突入。北島曰く『SWEAT』というのは直訳すると『汗』であることから、今回のライブツアーの裏テーマは『汗を流すこと』であると語る。
 
そこで今回は『メンバーの中で誰が一番汗をかけるか』を競うライブを行うと宣言。具体的にはライブ開始前に計った体重とライブ後に計った体重を比較し、最も体重が減っていなかったメンバーには罰ゲームを与えるというもの。
 
ちなみに罰ゲームの内容は『全力のケツバットを食らう』。そんなケツバット担当として選ばれたのはMOROHAのギター担当、UK。スポーツ経験豊富なUKの豪腕で尻を叩かれるのは一体誰なのか。冷静に考えると馬鹿馬鹿しいライブにも見えるが、これが四星球なりの平常運転である。
 
事前の体重測定(ちなみにBGMはライザップ)の後、『四星球聴いたら馬鹿になる』からライブはスタート。
 
〈下半身ロバ 上半身人間 パッと見ケンタウロス〉

〈下半身鹿 上半身馬 馬鹿タウロス〉
 
伝説の生き物を題材としながらも、まるで男子小学生が考えたような低レベルなボケを連発するこの楽曲は、聴いているだけでIQがぐんぐん下がっていくよう。しかしながら「これが四星球の真骨頂だ」と言わんばかりの演奏と笑いの数々に、観客は皆一様に幸せそうな笑顔を浮かべている。

今回のライブはリリースツアーということもあり、ニューアルバム『SWEAT 17 BLUES』の楽曲を軸として進行。楽曲そのものの完成度もさることながら、楽曲中には必ず何かしらの笑いの要素が含まれており、片時も目が離せないエンターテインメント性抜群の空間を形成していたのが印象的だった。
 
続く『鋼鉄の段ボーラーまさゆき』では、まさやん(Gt)自作の作品の数々がステージに登場。まずは大きく『まさゆき』と書かれた段ボールを背負ったかと思えば、ラピュタ城を彷彿とさせる巨大な城も出現。ギターソロに至っては色とりどりの音符が次々と飛び出すなど、まさに「作れないものはない」という歌詞を体現した笑いを生み出していた。
 
『いい歌ができたんだ、この歌じゃないけれど』では早くも北島がフロアに降り、会場全体をぐるぐると回りながら巨大なサークルを作り出す。しかし当初はその後に「いい歌が」「できたんだ」のコール&レスポンスを行う予定だったが、客席に海外から来た観客を見付けたことから急遽取って付けたような英語版の「ナイスソング」「フォール」に変更することに。もちろん英語の文法的には大間違いの翻訳なのだが、「こういうのは勢いが大事!」と雰囲気重視で大盛り上がり。
 
ちなみに冒頭こそステージ後方で鑑賞していたその海外から来たという観客も、次第に四星球の馬鹿馬鹿しさに心動かされたようで、『いい歌ができたんだ、この歌じゃないけれど』からは積極的にサークルに参加たり最前列で腕を挙げたりし、日本人以上のポテンシャルでライブを楽しんでいたのが印象的だった。意味不明でも楽しめる。それこそが四星球のライブである。
 
その後は『モスキートーンブルース』や『HEY!HEY!HEY!に出たかった』、『言うてますけども』といったファストチューンを次々投下。『言うてますけども』に関しては演奏終了後の真面目なMC中に「~とか言うてますけども!」と突如サビ部分の演奏に逆戻りするシーンも。それも1度ならず3度4度と繰り返すため、観客はいつ『言うてますけども』に戻るか分からない緊張感に包まれる。そんな中北島は「言うてま……す!」といった普通に会話を終わらせるフェイントも各所に挟みつつ、圧倒的な熱量で盛り上げていた。
 
ここで中間結果発表とのことで、上半身裸になっての体重測定へ移行。中でもピンボーカルとしてステージの端から端へと動き回る北島のカロリー消費量は凄まじく、短時間でかなり体重は減少。しかしその他のメンバーはあまり減っていない様子……。
 
そこで見かねた北島から「ここからはサウナスーツ着てライブやります!」という鬼発言が飛び出し、ここからは何とピッチピチのサウナスーツを着てライブを進行することに。更には最も体重の減りが芳しくなかったU太(Ba)とまさやんに対しては、サウナスーツ+アウター着用という地獄の所業。
 
その後は「ここからは15分間バラードやりますんで、靴紐結んだりしててください」との北島のMCから『ラジオネーム いつかのキミ』と、会場が米子Aztic laughsであることにちなんで昨今ほとんど演奏されないレア曲『LAUGH LAUGH LAUGH』を披露。
 
ゆったりとした時間が続き「そろそろ汗も引いたかな」と思いきや、次の瞬間には代表曲『クラーク博士と僕』を投下。更には客席にマイクスタンドとフラフープを投げ込み、本来観客だけがいるはずのフロアでまさやんが大暴れする事態に発展。遂には大きなフラフープを観客と一緒に回したり、観客のひとりにボーカルを託すなどやりたい放題。客席は灼熱のカオス地帯へと変貌した。
 
終始抱腹絶倒の爆笑空間を作り出していた四星球のライブ。本編最後の曲として鳴らされたのは、今回のライブツアーのタイトルにも使われている『SWEAT 17 BLUES』。
 
この楽曲の演奏前、北島は長尺のMCでもって、四星球のライブの在り方について語った。
 
「先日『私はリウマチの患者です』というお客さんがおりまして。『普段は何をしても痛くて腕を挙げることすらできない。でも四星球のライブでは痛みを感じずにとても楽しめるんです』と言っておりました。皆さん、四星球は医療ですんで。嫌なことや辛いこと、なかなか治らんことあったらいつでも来てください」
 
思えばこれまで行った彼の発言は必ず、直接的なボケや会話自体がフリになっていたりと、何かしらの笑いを含んだオチが据えられていた。だがこの時は、観客の目をしっかりと見ながら真剣に語っていたのが印象的だった。
 
僕は今まで四星球に対して漠然と『面白いことをやっているバンド』という認識しか抱いていなかった。だが四星球のメンバーも人間だ。長い人生で、数え切れないほどの悩みや葛藤も経験してきたはずである。にも関わらず彼らはステージ上や楽曲内、果てはSNSの日常的な呟きに至るまで、闇に包まれた部分を露程も見せない。ふとした瞬間に四星球を思い返す際は決まって笑顔のメンバーが浮かんでくるほどに、あまりにも笑顔のイメージが徹底されている。
 
そうした点を踏まえて上記のMCを紐解くと、観客に対してだけではない別の部分も見えてくる。そう。おそらくは彼ら自身も、四星球の存在自体を心の拠り所にしているのだ。
 
四星球の歌には、日々のストレスや怒りに満ちた言葉は一切使われていない。あるのは非日常的な馬鹿馬鹿しい笑いだけ。彼らはそんな悩みに効く特効薬にも似た笑いを、何年間も全国各地を渡り歩きながら届け続けている。
 
そこには『笑いに救われる観客』と『観客の笑顔に救われる四星球』が渾然一体となって溶け合う、いわば『総合病院としてのライブ』があるのだ。だからこそ四星球は長い時を経ても愛され続け、また彼らは頑張り続けられるのだと、勝手ながら推察してしまう自分がいた。
 
北島はMCを「先程演奏した発明倶楽部という曲は、時間を巻き戻す曲でございます。辛いことがあったらいつでも戻ってきてください。会いに行きますんで」という言葉で締め括り、最終曲『SWEAT 17 BLUES』へと雪崩れ込む。その興奮と熱量は言わずもがなで、僅か1分少々の楽曲ながら汗と笑いに包まれた極上の時間となった。
 
……本編終了後は「はい、体重はかりまーす」と余韻も残さずすぐさま体重測定へ以降。結果北島はぶっち切りの体重減少で罰ゲーム回避となったものの、U太とモリス(Dr)、まさやんが0.4キロしか減っておらず、何と現時点でのツアー開始後初となる3人同時罰ゲームとなった。

ここでMOROHAのギター、UKを呼び込みケツバットを慣行。細い身体からは予想もつかない恐るべき豪腕で振り抜くUKの一撃は凄まじく、会場全体に大きな音と悲鳴が響き渡る。加えて2時間に渡るライブの後ということもあり、毎回叩かれた側のメンバーからは尋常ではない汗の飛沫が撒き散らされるため、その都度大爆笑に包まれた。
 
先程とはうって変わって身軽な格好で登場したアンコールでは、ニューアルバムの中でまだ演奏していなかった『Soup』と『Teen』、そして昨年台風によって中止となった米子初のロックフェス『StarryNight』にて、最後に演奏する予定であったという『オモローネバーノウズ』を披露。
 
〈オモローネバーノウズ まだ オモローネバーノウズ まだ〉

〈おもろいことが おもろいことが待ってるはずだろ〉
 
辛いことも苦しいことも全部笑い飛ばせるようにと、徹頭徹尾笑えるライブを形成していた四星球。アンコールで演奏された『オモローネバーノウズ』は、そんな四星球の思いが内包されたある種の応援歌のようにも感じられた。観客の中には涙を流す人も見受けられ、今でも四星球が愛される理由を目の当たりにした感覚があった。きっと四星球は最大級の現実逃避を携えて、これからも全国各地を渡り歩くのだろう。
 
全力の『オモローネバーノウズ』のパフォーマンスを見ながら、何故だか僕はセンチメンタルな気持ちになってしまった。ライブももうじき終わってしまう。出来ればこの時間が永遠に続いてほしい……。
 
……と思ったのも束の間、「最後は『プロジェクトA』のテーマソングでお別れしたいと思います!」との一言から中国語バリバリの『東方的威風』のカバーを 「◎△$♪×¥●&%#?!」と声高らかに歌い上げながら物凄いスピードで去っていった。
 
僕はといえば一瞬でも感傷的になった自分が馬鹿馬鹿しくなって、また笑った。

 

 

※この記事は2019年8月30日に音楽文に掲載されたものです。