キタガワのブログ

島根県在住のフリーライター。ロッキン、Real Sound、KAI-YOU.net、uzurea.netなどに寄稿。ご依頼はプロフィール欄『このブログについて』よりお願い致します。

【ライブレポート】Starcrawler『JAPAN TOUR 2019』@梅田BANANA HALL

こんばんは、キタガワです。

 

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帰路に着きながら「とんでもないものを観た」という酷く抽象的な思いが頭を支配していた。今すぐ誰かに熱弁したいような、事件を目撃した野次馬じみた思い。……大阪のディープな繁華街の一角で行われた約1時間半に及ぶライブは、紛れもない大事件であった。


2015年にアメリカ・ロサンゼルスで結成されたスタークローラー。彼らの来日公演は2018年のフジロック及び全国ツアー、そして今回のツアーを含めると通算三度目となるが、今回はニューアルバム『Devour You』リリース後という絶好に脂の乗り切ったタイミングでの来日となる。


紅一点のフロントウーマン、アロウ・デ・ワイルド(Vo)による血みどろのパフォーマンスや、平均年齢21歳の若者ならではの初期衝動全開で展開されるライブが話題を呼び、一部では「スタークローラーはロックの未来である」と語られるほどに、こと海外ロックシーンで注目を一身に集める彼ら。


そんな彼らのライブを一目観ようと会場である梅田・BANANA HALLでは、オープニングアクトであるThe ティバのライブ終了後には観客の多くが前方へと大移動。収容人数は約500人と決して広くないライブハウスではあるものの、結果的に前方は完全なるすし詰め状態。対して後方に留まる人はまばらという両極端な光景が出来上がり、スタークローラーへの期待値の高さを証明する形となった。


ステージで一際目を引くのは、188cmの身長を誇るアロウ用のセッティングが施された、およそ日本のバンドではまず見ることはない高々と鎮座したマイクスタンド。それ以外はギター、ベース、ドラムとロック然とした配置ながら、スピーカーの上にポツンと置かれたキモカワの人形も、ミステリアスな雰囲気を演出するのに一役買っている。


定時を少し過ぎ、暗転。軽やかなミッキーマウスのSEに乗り、まずはオースティン・スミス(Dr)が配置に着く。瞬間全体重でもって振り下ろされる重厚なドラミングの後に現れたのは、ティム・フランコ(Ba)とヘンリー・キャッシュ(Gt)の2名。演奏が一種のジャムセッションの様相を呈したところで、アロウがゆっくりとステージに降り立った。


驚くべきはその服装で、ヘンリーは白を基調とした多数の花が描かれた一昔前のロックスターを彷彿とさせる華々しい風貌であったのに対し、アロウはと言えば露出の多い白いドレスに身を包んではいたものの、胸から下半身にかけてはまるで重症を負っているかのように真っ赤に染まっている。その光景はともすれば淫靡な雰囲気も覚えるが、血の気が引いたようなアロウの顔色と、何より一部分が深紅に染まった上半身にも目を向けると、それはあまりにも異質であった。その当人のアロウはと言えば頭を抱え、何かに怯えるような表情で客席を見渡していた。精神的に不安定な挙動に心配してしまうが、この情緒不安定なステージングこそスタークローラーの基本スタイルなのだ。


1曲目はニューアルバムから“Home Alone”。印象的だったのはやはりヘンリーとアロウの2名。ヘンリーは右へ左へと暴れながらギターを掻き毟り、早くも演奏と衝動のバランスが著しく失われた暴走列車の様相。アロウに至っては時に体をびくつかせ、時によろめきながらハンドマイクで鬼気迫る歌唱を繰り広げていた。終始彼女が放さなかったマイクスタンドはアロウの体重を支える役割を果たしていて、まるで獰猛な野獣を強制的に繋ぐ鎖のようでもあった。


そんな暴れ馬状態と化した2名と対照的に、地に足着いた正確なリズムを刻んでいたティムとオースティンにも注目したい。ティムはほぼ直立不動で主張の少ないベースラインで地盤を固め、オースティンは鼓膜にダイレクトに届くドラムを展開。……一歩間違えば瞬時に破綻しかねない猪突猛進型のライブパフォーマンスがスタークローラーの売りのひとつではあるが、スタークローラーのライブが決して『荒々しいだけのロック』との印象を抱かせないのは、タイトにリズムを刻む彼らの存在も大きいのだろうと感じた次第だ。


“Home Alone”のラストは轟音のアウトロの中、アロウはマイクケーブルで自身の首を力一杯締め、そのまま背後に倒れ込んでしまう(これは誇張表現ではなく、実際に頭が地面に叩き付けられる音がした)。1曲目から限界突破のパフォーマンスに、会場は割れんばかりの歓声に包まれた。


その後は“Used To Know”、“Love's Gone Again”、“Lizzy”と立て続けに4曲を披露。終わった時点で未だ10分にも満たない性急さには驚かされるばかりだが、結論を述べると今回のライブで、彼らは曲間にまともな休憩はおろかMCも水分補給も、ほぼ行わなかった。まるで何かに取り憑かれたように一方的に演奏のみを繰り広げるその姿は一種の焦燥に駆られているようでもあり、凄まじいポテンシャルの高さをありありと見せ付けていく。


この日のライブは『Devour You』リリース後のツアーとのことで、セットリストの大半を担っていたのは言うまでもなく『Devour You』の収録曲。具体的には唯一のバラード曲“Call Me a Baby”を除く全楽曲を網羅すると共に、ファーストアルバム『Starcrawler』からのファストチューンも随所に取り入れた現時点までのベスト的なセットリストで進行。決して演奏は上手くはないし、卓越したテクニックや奇抜な楽曲展開もない。スタークローラーが今回行ったのは、徹頭徹尾ロックンロールに人生を変えられた4人の若者たちによる、ただただひたすら泥臭く武骨な存在証明であった。

 


Starcrawler - I Love LA


この日のハイライトとして映ったのは、中盤で演奏された屈指のライブアンセム『I Love LA』。限界突破のテンションで飛び跳ねながらギターを掻き毟るヘンリーと目をひん剥きながら歌うアロウ。これまでは観客へ何らかのアクションを促す行動は取らなかった彼らだが、サビ部分ではアロウがマイクを客席に向けシンガロングを促す一幕も。必然「I Love LA!」の大合唱に包まれての凄まじい一体感を見せ、演奏終了後に満面の笑みで会場を眺めるヘンリー、心から嬉しそう。


以降も彼らはフルスロットル。ヘンリーは事あるごとにステージドリンクを霧状に吹き出し、変顔を頻発しながら大股でギターを弾き、アロウは大迫力のブリッジを見せ付けたかと思えば、時折ケタケタと笑い始めたり、全てに絶望したような表情を浮かべたりと終始情緒不安定。更に演奏終了後はマイクをゴツンと落としたり地面に倒れ込むなどヒステリックに感情を露にし、まるで何かが憑依したかのようなパフォーマンスの一挙手一投足に目が離せない。あまりにも激しく動くため服の隅々からは艶かしい肌が露出し、乳首に関しては完全に透けているのだがおかまいなし。ふとステージ下部に目を凝らすと、ローディーにより貼り付けられたセットリストは一切の判別が出来ないほど粉砕され、破片がそこかしこに散らばっている有り様。集まった我々が、いかにクレイジーな時間を過ごしているのかを物語っていた。


本編ラストはニューアルバムのリード曲のポジションを担っていた“Bet My Brain”。

 


Starcrawler - Bet My Brains


MV同様前のめりで歌唱するアロウ。ステージに目を凝らすといつの間にかヘンリーの姿はなく、客席前方のフロアでギターを弾いていた。ヘンリーの長尺ギターソロに沸くその間に、アロウは映画『呪怨』のキャラクター・貞子を彷彿とさせる動きでもって地べたを這いずりながら裏へと消えていった。かくして本編は残った3人のメンバーが鳴らす面妖なノイズに呑まれながら、大盛り上がりで終了したのだった。


しばらくして、事前発生的に広がった大きな手拍子で再び迎え入れられたスタークローラー。アンコールで演奏されたのは、現状リリースされているふたつのアルバムでとりわけダークな存在感を放っていた“She Gets Around”と“Chicken Woman”だ。

 


Starcrawler - 05 - Chicken Woman - Primavera Sound 30 May 2018 - Primavera Sound - Barcelona


中でも最終曲“Chicken Woman”はあまりにも衝撃的だった。“Chicken Woman”はスローな前半こそダークな印象の楽曲だが、後半にかけては一転、速いBPMに変貌するスタークローラーきっての代表曲。ノイズに包まれながら、楽曲は徐々にボルテージを高めていく。そしてベースオンリーのサウンドに変化した頃、待ってましたとばかりにテンポが変化。その瞬間、アロウの口から大量の血糊が吐き出される。口元はみるみるうちに赤く染まり、アロウは真っ赤に染まった口元を触り、髪や顔に血糊を塗りたくっていく。口元のみならず全身がみるみるうちに赤く染まっていく。

 

楽器隊が演奏に加わるまさに絶好のタイミングで、アロウは客席へとダイブ。ヘンリーは観客から見て左側にある柵へよじ登り、ヘッドバンギングを繰り出しながらギターを鳴らす。更に定位置へと戻る際にはいち観客としてライブを観ていたファンの女性の手を引いて共にステージに上げると、自身のギターを手渡して力一杯弾くよう指示。そうして血みどろのアロウが地面を転げ回り、ファンの弾く解放弦による爆音が延々鳴り響く中、この日梅田・BANANA HALLで行われた『事件』は大団円で幕を閉じたのだった。


僕は何を観ていたのだろうか。ロック。恐怖。エロ、血糊……。1時間半に渡って目の前で繰り広げられていた光景はおよそこの世のものとは思えない、音楽の形を成した『何か』であった。


彼らは未だインディーズバンドであり、別段音楽シーンで絶大な人気を博すほどではない。多くの偉人たちが「ロックは死んだ」と揶揄するように、彼らのような無骨なロックをがむしゃらに鳴らすバンドは今やほぼ売れないとされ、こと海外音楽シーンでは敬遠される存在でもある。この日壮絶なライブで観客を魅了し大歓声に沸いた彼らも、その限りではないだろう。


けれどもロックとは、本来そうしたあぶれものたちによる音楽でもあったはずだ。遥か昔ブラックミュージックに端を発したロックンロールは時に規制され、時に無礼な存在として、社会に蔑まれ、そして同時にある一定の人々には、自身の思いを具現化する反逆の象徴として長年愛されてきた。


……2020年現在、ロックの在り方は大きく変化した。楽曲にメッセージ性を孕んだり、四つ打ちを多様したり果てはSNSや動画アプリを巧みに使ったりと、音源以外の部分がフィーチャーされて話題に繋がるバンドも少なくない。だが言いたいことや奏でたい音といった数々の欲求が高まって抑えきれなくなり、全てを内包して衝動的に鳴らされるもの……。それこそがロック本来の形ではなかろうか。

 

そう。だからこそ「ロックは死んだ」と揶揄される今、彼らのような若い年代の人間が直接的なロックを鳴らすことには、大きな意味があるような気がしてならないのだ。具体的には絶体絶命の危機にあるロックンロールの、救世主たる役割を果たすことを期待せずにはいられない。この日のライブは彼らが巻き起こすストーリーのほんの一部分に過ぎないということを、2020年は彼ら自身の手で証明してくれるはずだ。

 

【Starcrawler@大阪 セットリスト】
Home Alone
Used To Know
Love's Gone Again
Lizzy
Hollywood Ending
Toy Teenager
Lets Her Me
Tank Top
I Don't Need You
Ants
I Love LA
Rich Taste
Pet Sematary(ラモーンズカバー)
No More Pennies
Born Asleep
Different Angels
You Dig Yours
What I Want
Pussy Tower
Train
Bet My Brains

[アンコール]
She Gets Around
Chicken Woman

映画『カイジ ファイナルゲーム』レビュー(ネタバレなし)

こんばんは、キタガワです。

 

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映画カイジの最終章にして完全オリジナルストーリー。更に映画における中心部分を担うゲーム要素は原作者・福本伸行自らが手掛け、過去作の主要人物に至っては軒並み再登場という大盤振る舞いっぷりで話題を集めた『カイジ ファイナルゲーム』を観た。


先に断っておくが、僕は現在もヤングマガジンにて絶賛連載中の原作『カイジ』の大ファンである。原作はもちろんのこと、雑誌の発売日には毎週欠かさずチェックする。……言わばカイジのヘビーリーダーと言っても過言ではないだろう。


そんなこんなで意気揚々と劇場へ足を運んだ訳だが、端的に表現するならば、個人的には然程良くなかった。具体的には頭を空っぽにして雰囲気のみで楽しむ分には十分だが、とりわけ映画カイジの1作目、2作目と比較してしまうと大きく見劣りする印象を受けた。


ストーリーの主だった展開は過去作とほぼ同じ。金を得ようと模索するカイジが大規模なギャンブルゲームへの参加を決意し、最終的にはイカサマとあからさまな侮蔑で翻弄する相手側に対し、大勝を収める流れである。


今作において過去作にも原作にもない確固たるオリジナリティーとして描かれているのは、貧富の超拡大だ。東京オリンピック終了後に急激に景気が落ち込み、その結果失業率は40%を超え、給料からは実に7割がピンハネ。ビールは350ml缶1本1000円と、かつての地下帝国ばりの格差社会となっていた。そのため過去作や原作では一貫して自身の借金返済を理由に行動してきたカイジだが、今回カイジが大金を得ようとするのは純粋に「生活をより良くするため」であり、その点も過去作と大きく異なる。


そうしたシナリオを踏まえて何故今作が個人的駄作として成り下がってしまったのか。その理由は、希望的観測に満ち溢れたそのストーリー展開だ。


思えばかつてのカイジは勝利への可能性を徹底的に思案し、相手への劇的な対処法然り、万が一のトラブルにも対応できるような工夫然り『攻略の糸口』と『成功に至るまでの確たる可能性』を病的なまでに突き詰めていた。


例えば当てれば13億の金を得る高額パチンコ『沼編(映画ではカイジ2で、結末も異なる)』では、僅かな傾斜により後方に存在する当たり穴に絶対的に玉が到達しないことを見抜いたカイジが、建物内にある端の空き家の一室を借りて水貯めを大量に設置し、パチンコとは逆側の地盤沈下を引き起こして強制的に当たり穴に入れた。更に同じく沼にて、店側の調整器具のちょうど真上に穴を空け、そこから磁石を吊り下げて日増しに調整器具を大きくする細工を施し、最終的には玉がブロッキングされないようにもした。


……これらは全て構造とルールを逆手に取ったもので、事実カイジは地盤沈下に先駆けてあえて店に潜入して警備を強化させたり元土木作業員に話を聞いたりし、調整器具に至っては「パチンコ中はどんなことがあっても店側の責任で中止は無効である」との注意書きを免罪符とし、行動の正当化を図っていた。総じて一見無謀なそれらの行動は綿密な計算と勝負の状況に合わせたものであり、カイジが「建物を傾けたのさ」「調整器具の上見てみな。穴空いてるだろ」と語った当初こそ「それはルール的に駄目だろ」という思いは抱くにしろ、物語が進むにつれて腹落ちし、気付けばカイジの着眼点に感服してしまう。それこそがカイジの面白さであり、今なお愛され続ける所以なのだと信じて疑わない。


さて、そうしたかつてのカイジの行動を踏まえると、今作のゲーム展開及びストーリーにはいささか無理がある。ゲームの攻略法を語れば物語の核心に触れる可能性が高いので名言は避けるが、選択を誤れば死ぬゲームや、負ければ全資産を剥奪されるゲームの攻略があまりに天文学的確率とは言わないまでも運否天賦に賭けたものが多く、『金を稼がないと死ぬ』という過去の絶体絶命の境遇と異なり『ただ金を得たいだけ』という今作のカイジにおける目的とも釣り合わない。加えて今まで慎重に事を運んできたカイジにしては非常に短絡的というか「勝負に勝てたのはただのラッキーだっただけでは?」と思う場面も多かった。


そして主立ったひとつが気になり始めると全体の悪い点も見えてくるもので、基本的な会話の流れで「それは○○だ」「○○って何だよ」といったオウム返しが頻発することや、もはやネット上でもお馴染みとなった藤原竜也の絶叫が過去作と比べて極めて多いこと、何より、全体を覆うカイジにとって有利に運びすぎるストーリー展開とゲーム構成の粗さに気付いてしまう。何も考えずに観るならいざ知らず、日常的に様々な物事を俯瞰で判断し、思いを巡らせる人間にとっては極めて不向きな映画であると思った次第である。


正直映画を1時間程経過した瞬間には「これは早くも今年の映画でワースト1位かもしれない」との思いも頭を過ったが、辛うじて持ち直した理由は後半部分の存在。序盤から中盤にかけての若干強引な流れを引き継いでうまく帰結させる手法はなかなかに筋は通っているように思えたし、加えてクライマックスへと突き進む高揚感にも繋がっていた。この部分だけを鑑みれば、確かにカイジの良さは出ている。しかし中盤までのストーリーとゲーム展開がどうにも……。という訳で、この点数に。


今作は様々な映画に触れた人であればあるほど、ある種の批判点が目につくだろう。だが藤原竜也による「キンキンに冷えてやがる!」の一言を観たいがために劇場に足を運ぶ人なら満点か。『ジョーズ』にしろ『ターミネーター』にしろ、人気映画の3作目に関しては嫌な予感が付き物だが、今作もまさにその類いであった。うーん……。


ストーリー★★☆☆☆
コメディー★★★☆☆
配役★☆☆☆☆
感動★★☆☆☆
エンターテインメント★★★☆☆
藤原竜也のカイジ度★★★★★

総合評価★★☆☆☆
(2019年公開。映画.com平均評価3.0点)

 


映画『カイジ ファイナルゲーム』予告

 

個人的CDアルバムランキング2019[5位~1位]

こんばんは、キタガワです。


長きに渡って続いてきた総文字数2万字超えの『個人的CDアルバムランキング』も、これにて完結。遂に5位~1位の発表だ。


果たしてキタガワが選ぶ、今年度最も素晴らしいアルバムは何なのか……。緊張の瞬間である。


それではどうぞ。

 

→20位~16位はこちら

→15位~11位はこちら

→10位~6位はこちら

 


5位
Weezer(ブラックアルバム)/Weezer
2019年3月1日発売

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3年前、『Weezer(ホワイトアルバム)』発売後にリヴァース(Vo.Gt.Pf)が「次のアルバムはブラックアルバムだ」と語ったことから全ては始まった。しかし蓋を開けてみればその翌年に発売されたのは『ブラックアルバム』ではなく『Pacific Daydream』と名付けられた代物であり、後にメディアに「いや、次は絶対にブラックアルバムだよ」と語ったリヴァースであったが、更に予想を良い意味で裏切る形で『ティールアルバム』を発表し、そして今作『ブラックアルバム』が発売された。気付けば彼がこのアルバムの制作を示唆してから、3年の年月が経過していた。


もはや言うまでもないが、このある種ランナーズハイ的なハイペースさはリヴァースの絶好調に起因していて、本人いわく「最近は毎日曲を作ってて、持ち曲のストックがありすぎるんだ」とのこと。ちなみに他のメンバーも「今のリヴァースはヤバい」と吹聴して回るレベルであると言い、「毎月とんでもない数の楽曲が渡されて大変」とも語っていた。御愁傷様である。


そんな『ブラックアルバム』だが、全編通してある意味ではWeezerらしくない新機軸の試みが多く成されている。自宅でピアノを弾きながら作曲したという今作は、ピアノの主張もさることながらメロの没入感が極めて高い。更には《死ね死ねゾンビ野郎》、《ハードなドラッグをやろうぜ》と今までになかった歌詞も相まって、確かにブラックなアルバムだ。


それでいてポップな魅力は一切衰えていない今作は『今のWeezerは無敵で最強』という事実を何よりも雄弁に現している。「次のアルバムはハードロックになる」と明言し、既に次回作とその次のアルバムタイトルまで発表しているWeezer。彼らの現在地を再確認する上でも、このアルバムは是非今触れておくべき1作と言えよう。

 


Weezer - High As A Kite (Official Video)


Weezer - Can't Knock The Hustle (starring Rivers Wentz)

 

 

4位
潜潜話/ずっと真夜中でいいのに。
2019年10月30日発売

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インターネットシーンを目下躍進中の注目株、ずとまよ初のフルアルバム。2019年は個人的にずとまよ関係の仕事依頼を複数いただいた関係上、ずとまよ並びに『潜潜話』については徹底的に掘り下げた感があるのだが、それはそれとして。当記事ではコラムでは然程触れなかった内容を中心として語っていきたい。


ずとまよの魅力はその独特な歌詞にあると思っている。僕はかつてコラムにて「ずとまよの歌詞は意味深な言葉の数々によって、聴く人によって異なる解釈ができる工夫が凝らされている」と書いたが、あれは非常に言葉を濁す形で書いていて、正直なところ今でも歌詞をどれだけ読み解こうともバンドの中心人物であるACAね(Vo)の本心は全く分からないままなのだ。


《遺影 遺詠 遺影 遺詠 遺影 遺詠 遺影 死体》で終わる“勘冴えて悔しいわ”、《でぁーられったっとぇん》との謎の言葉の羅列で始まる“こんなこと騒動”、サビで《ただはシャイいだって笑いあって さよなら差?》と絶唱する“正義”など、ACAねの歌詞は総じて作為的に捻じ曲げられており、フワフワと宙に浮いたまま一向に着地しない。その結果ずとまよ自身にミステリアスなイメージが付いたために、YouTube上のコメント欄で散見される「よく分からないけど凄い」という驚きと唯一無二の魅力に繋がっているのだと思う。


10月24日のZepp Tokyoのライブに足を運んだ際、ACAねがMCで語った発言が、今でも印象に残っている。


「新しいアルバムは、自分が中学生時代に悩んでいたことが軸になってて。昼休みとか休み時間とか、ひとりでいるじゃないですか。みんな、結局。私も友達がいなかったわけじゃないんですよ?でも、距離感を測ってる自分がいて。なるべく人に好かれたい、嫌われたくないっていうのがあって」


「その時から人に言われて気付いたんですけど、無意識に鼻歌を歌う癖が付いてたんです。本当に無意識で気付いてなかったんですけど、その話の『間』が怖くて。で、ある時それをつつかれて。友達に凄い耳障りな思いをさせてしまったのかと、悩んだりもして。でも今はこうやって歌ってるから、そうしたことも曲にしてるし。幸せだなって感じていて。弱い部分を歌で正当化して逃げてるだけかもしれないけど」


……彼女の飾らないMCを聞いて分かったのは、やはり彼女には確固たる思いがあったということ。そして同時に、彼女自身が直接的な言葉で伝えること自体あまりに苦手な人間であるために、こうした湾曲した表現に終始しているということだった。しかしながらこうした感情は今を生きる人……とりわけ若者に共通する事柄であるとも思っていて、『潜潜話(ひそひそばなし)』と題された当アルバムを鑑みても、やはりずとまよは「売れるべくして売れたのだなあ」とも考えてしまう。


……何だか話が完全に脱線してしまったが、とにかく。この順位にした理由はアルバム全体の完成度が非常に高かったことと、僕自身が聴けば聴くほど好きになっていく感覚が日増しに膨らんでいったためである。以上!

 


ずっと真夜中でいいのに。『ハゼ馳せる果てるまで』MV


ずっと真夜中でいいのに。『こんなこと騒動』MV

 

 

3位
人間なのさ/Hump Back
2019年7月17日発売

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突然だが、あなたにとって音楽に求めるものとは何だろうか。歌詞の良さ、歌声、ノれる……。人によって様々だろうが、個人的には『再生ボタンを押してからどれだけの短時間で心が動くか』であると思っている。


例えば「○○しか聴かない」といった音楽ファンであればひとつのアルバムを吟味する時間もあろうが、音楽ライターを生業にし、日々多種多様な音楽を聴かざるを得ない僕のような特異な人間にとっては、様々なバンドの良し悪しを判断するその第一歩は決まって冒頭10秒~20秒だ。そしてサビ部分まで通して聴き、2番に入る頃には別の曲に切り替える……。そうした形で一通りそのアーティストの音源を聴き、また新たなアーティストを探す、といった具合。だからこそ冒頭で「おっ?」とアンテナが反応するアーティストは何より貴重であり、同時に僕はそうしたアーティストを年間通して聴く傾向にあるし、今回のアルバムランキングに入った20枚のアルバムも基本的に、最初の取っ掛かりは冒頭10秒~20秒だった。


以下の“LILLY”、“拝啓、少年よ”に顕著だが、『人間なのさ』はそのあまりに無駄を削ぎ落とした作りから、必然的に『冒頭の心を掴むスピード』が異常に早いのだ。全曲に渡り長いイントロや環境音を用いた雰囲気作りは皆無で、再生ボタンを押したその1秒後にはギターもしくはドラムの音が襲い掛かってくる。実に収録曲の約半分が3分以内に終わるというその極端な性急さはあまりにも衝撃的であり、こと日本におけるガールズバンドの試みとしてはほぼ無かったのではなかろうか。


林(Vo.Gt)の中性的な絶唱とロックバンド然としたサウンド、小学生でも理解できるシンプルな言葉で思いの丈をぶつける歌詞が渾然一体になった今作は「つべこべ言わずに私たちの歌を聴け!」という力強さに満ち満ちている。


「日常にストレスとかしんどさを自覚することが全然ない」と語る林。彼女がそうしたポジティブな信念を抱く理由はひとつ。寂寥や悲壮といった鬱屈した感情を感じることが出来るのも、全ては『人間』であるからこその思いであると捉えているからだ。そしてそんな今作は『人間なのさ』と名付けられ、アルバム内には日常で経験しうるであろう、ありとあらゆる出来事が踊る。全ては幸福で、全ては必然だ。Hump Backの志を是非体感すべし。

 


Hump Back - 「拝啓、少年よ」Music Video


Hump Back -「LILLY」Music Video

 

 

2位
だから僕は音楽を辞めた/ヨルシカ
2019年4月10日発売

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2019年は『だから僕は音楽を辞めた』、『エルマ』という2枚のアルバムを世に送り出したヨルシカ。かの名曲“言って。”が巨大なバズを巻き起こしたのはもう数年前のことだが、今のヨルシカは間違いなくインターネットシーンにおいてEveやずとまよと同等か、それ以上の人気を博す存在であることは疑いようもない事実であろう。


数ヵ月前のツアーにおいて、数々の名曲をセットリストから省き『だから~』と『エルマ』の収録曲のみを演奏していたことからも分かる通り、上記の2枚のアルバムは完全なる地続きになっている。音楽に挫折したエイミーがエルマと出会い、音楽への情熱が再燃する『だから~』。そして、その後のエルマがエイミーの作る音楽を追い求める形で制作した『エルマ』。ふたつのアルバム内で繰り広げられるのは、まるでひとつの短編小説の如き重厚な物語だ。


『エルマ』ではエンドロールへ向かうようなスローな楽曲が全体を占めているのに対し『だから~』はまるで焦燥に駆られながら楽曲制作を行うエイミーの思いを体現するように、どちらかと言えばロック色強めの作風となっているのも印象深い。


《エルマ、君なんだよ/君だけが僕の音楽なんだ》と心情を吐露する“藍二乗”から始まり、ラストは《売れることこそがどうでもよかったんだ/本当だ 本当なんだ 昔はそうだった》と歌われる、“だから僕は音楽を辞めた”にて悲しき物語は幕を閉じる。かつてRADWIWPSの音楽が物語と密接に絡み合った映画『君の名は。』が爆発的ヒットを記録したのは記憶に新しいが、当アルバムは全体を通して、まさにそうした『音楽を媒体に介した壮大なストーリー』が見えてくるのだ。


正直『エルマ』を含めず『だから僕は音楽を辞めた』というひとつのアルバムのみを2位に選出してしまったのは、小説の前半部分を流し読みして全体像を判断してしまうようでもあり、心苦しい思いもある。だからこそ当ブログで『だから~』に少しでも興味を抱いた方は、是非ともふたつのアルバムに目を向けていただけないだろうか。そして歌詞カードをじっくり読み解きつつ、各アルバムの奥に潜むヨルシカの深意に思いを馳せてほしいと強く願う次第だ。

 


ヨルシカ - だから僕は音楽を辞めた (Music Video)


ヨルシカ - 藍二乗 (Music Video)

 

 

1位
SUPER MUSIC/集団行動
2019年4月3日発売

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……という訳で、2019年のアルバムランキングをトップで駆け抜けたのは、集団行動初のフルアルバム『SUPER MUSIC』。ロケットスタートそのままの勢いでゴールテープを切るが如く、圧倒的なポテンシャルで1位となった。


実は3年に渡って続けてきた当企画において、集団行動のアルバムは唯一3年連続でランクインしており、昨年に発売されたミニアルバム『充分未来』は12月に突如出現したネクライトーキーの進撃により総合2位となったものの、逆に言えばネクライトーキーのアルバムがその年に発売されていなければ間違いなく1位にする腹積もりであった。


僕はその際の短評にて「来年に発売されるアルバムが今回を上回る完成度であれば、おそらく次の集団行動は1位にする」という趣旨の内容を記した覚えがある。しかしながら『SUPER MUSIC』は僕自身もいち音楽ライターの端くれとして「ファンだから」との盲目な理由でもって即座に1位にするつもりは毛頭なかったし、むしろ1位のハードルを極めて高くして臨んだ感すらある。


にも関わらず、終わってみれば集団行動の圧勝。発売後から今に至るまで「聴いていない日は1日もないのではなかろうか?」と感じてしまう程に心酔し、実際ここ数年間のアルバムを総合してもここまで一切の捨て曲なしで終えるアルバムは思い付かず、栄えある1位と相成った。


何度も当ブログでも記しているが、集団行動のメインソングライティングを務める真部(Gt)は元々、“LOVEずっきゅん”で一躍活動の幅を広げた『相対性理論』というバンドの中心人物であった。これは誇張表現でも何でもなく、一部の音楽関係者から『日本の音楽シーンは相対性理論前・相対性理論後に分けられる』と言わしめたほど。


彼の魅力はそのあまりにも常識はずれなワードセンスと、キャッチーなメロ。そのエッセンスは集団行動の今作には今までに以上に多量に散りばめられており、鼓膜を際限なく刺激する。


《す巻きにして東京湾にポイ》とポップに誘拐事件を描く“クライム・サスペンス”、《私は誰?私は誰?私はバレリーナ》と疑問符が頭に浮かぶこと請け合いな“ティーチャー?”、《ピッピーそのひと止まりなさい》が耳から離れない“婦警さんとミニパト”、《課長になれても部長になれても社長になれても関係ない/おっきい隕石降ってきた》と謎のバッドエンドに突き進む“ザ・クレーター”……。今作に収録されているほぼ全ての楽曲にはどこか突飛で、かつ奇想天外なパワーワードが挟まれている。


そして何より耳馴染みの良い助走からサビで爆発する、その卓越したメロディーセンスには脱帽だ。別段特異な手法を取り入れている訳でもなく、ただ純粋に軽やかなポップスを地で行くメロディーは『みんなのうた』的でもあり、ロックバンド的でもあり、意味不明でもある。……総じてどう足掻いても「集団行動っぽい」以外に形容出来ない独特な楽曲群には、何度聴いても感服するばかりだ。


あまりにもマイペースな活動からか、注目度は決して高くない集団行動。しかし今現在売れているバンドもかつては売れない時期が絶対的に存在した訳で、今作は言わば今後音楽シーンを掻き回すであろう集団行動の、後に至る会心の一撃のようにも思う。音楽を確信的に鳴らす集団行動は、今もとんでもない音楽を画策しているに違いない。

 


集団行動 / 「クライム・サスペンス」Music Video


集団行動「ザ・クレーター」Lyric Video(Full ver.)

 

 

……さて、今年のCDアルバムランキング。これにて全ての順位が出揃った。改めて、20位~1位の個人的CDアルバムランキングの結果は以下の通りである。

 

20位……二歳/渋谷すばる

19位……WHEN WE ALL FALL ASLEEP, WHERE DO WE GO?/Billie Eilish

18位……LIP/SEKAI NO OWARI

17位……i/上白石萌音

16位……ウ!!!/ウルフルズ


15位……ガールズブルー・ハッピーサッド/三月のパンタシア

14位……MOROHA Ⅳ/MOROHA

13位……VIVIAN KILLERS/The Birthday

12位……Hello My Shoes/秋山黄色

11位……瞬間的シックスセンス/あいみょん


10位……しあわせシンドローム/ナナヲアカリ

9位……TODOME/MOSHIMO

8位……Traveler/Official髭男dism

7位……834.194/サカナクション

6位……aurora arc/BUMP OF CHICKEN


5位……Weezer(ブラックアルバム)/Weezer

4位……潜潜話/ずっと真夜中でいいのに。

3位……人間なのさ/Hump Back

2位……だから僕は音楽を辞めた/ヨルシカ

1位……SUPER MUSIC/集団行動


……繰り返しになるが、今年はとりわけサブスクの発展やインターネットシーン発のアーティストの台頭が目立った。こと海外においては「ロックは死んだ」とまで揶揄され、まるで数年前と対極を進むように、現状に異を唱えるメッセージ性の強い音楽(主にヒップホップなど)が好まれるようになった。総じて良い意味でも悪い意味でも、新時代の到来を音楽シーン全体が体現するような、運命的な年であったと言えよう。


企画のタイトルを『個人的CDアルバムランキング』と題している通り、今回のランキングは基本的に自身の嗜好を最優先事項と捉えて作成している。そのため「○○が入ってない!」と憤慨する人や「そこまで良くないじゃん」という否定意見もあって然るべしだ。おそらく僕も僕以外の誰かが同じような『CDアルバムランキング』なる記事を書いたとしたら、同じように否定的な思いを抱くと思う。


しかしただひとつ声を大にして伝えたいのは、僕が長々とランキング付けをしている理由はひとつで『読者の方々にとっての更なる音楽の出会いになってほしい』というその一心だけなのだ。「ヨルシカいいじゃん」でも「集団行動の歌詞凄い」でも始まりは何でも良い。1組だけでも興味を持ったら。聴いて良いと思ったら。その際はCDを購入したり、あわよくばライブに足を運んでほしい。


YouTubeの関連動画や友人のカラオケ、街中で流れる音楽のように、今回の記事が何となくあなたの新たな音楽の引き出しを開けるその契機になれば幸いである。


次回は1年後。お楽しみに。

個人的CDアルバムランキング2019[10位~6位]

こんばんは、キタガワです。


やっとこさ10位から6位までの発表である。……過去3年間に渡り続けてきた『個人的CDアルバムランキング。結果的に今まで60枚に及ぶCDアルバムを紹介してきた訳だが、何と今回は5組全てが初のランク入り。まさに2020年の新時代に相応しい(2019年のうちに1位まで完結させようと思っていたのですが無理でした。申し訳ない)、フレッシュな顔ぶれとなった。


以下10位から6位までの順位と短評を書き記していく。それではどうぞ。

 

→20位~16位はこちら

→15位~11位はこちら

 

 

10位
しあわせシンドローム/ナナヲアカリ
2019年4月10日発売

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2年前突如YouTube上に君臨し、大バズを記録したナナヲアカリ。その会心の一撃とも言える楽曲は言わずもがなの“ダダダダ天使”であり、飛躍的な注目の獲得に至った訳だが、そんなナナヲアカリの急上昇は当然の如く年を経るごとに緩やかな傾向を辿っていき、今では(悪い意味では決してなく)YouTubeの関連動画に出ることもほぼない中、全国を回るライブ活動と楽曲製作を中心に活動を行っている。


『しあわせシンドローム』というタイトルに顕著だが、今作はとりわけ『幸せとは何なのか』をテーマに進行していく。変わらず電子音を多用したアッパーなサウンドではあるものの、その根底にはナナヲアカリが今まで表沙汰にしてこなかった、鬱屈したリアルがある。


SNSがもたらす疎外感や人間関係、リボ払い、アルバイト、責任転嫁……。アルバム全体を覆い尽くしているのは、今までのナナヲアカリのイメージとは真逆の鬱屈した感情だ。アルバムの帯に記載されている「自由って、なんか不自由だ」との一言にある通り、生き辛い《社会怖えーつれーうっそ》と“オトナのピーターパン”、MV内にて無表情に《幸せなら手を叩こう》と歌う“シアワセシンドローム”など、今作には「辛くても何とか生きなければ」という強い思いと共に、半ば自暴自棄に『幸せ』を自身に言い聞かせる楽曲が多く見受けられる。


声を大にして書くべき事柄ではないのかもしれないが、僕は個人的に『ネガティブな感情を一切表に出さず、辛いことがあっても笑顔で、一貫して相手に合わせて生活する』という人間が苦手である。……これに関しては実際に八方美人を貫いた結果精神的に潰れてしまった友人らを多く見てきたからでもあるだうが、とにかく。総じて仕事でも友人関係でも、嫌なことには異を唱えるべきであるし、辛いことがあれば吐き出すべきだと(そうした人間を否定することはないにしろ)、僕は信じて疑わない。


《やんないんじゃない、できないんだ ドヤ!》と一種ネガティブな本質を二次元のキャラクターで隠しながら、ポジティブなイメージに昇華していたかつてのナナヲアカリが一転、言うなれば偽りの仮面にヒビが入ったような『シアワセシンドローム』は、彼女の三次元部分の本質が見え隠れしている稀有な点でもって、大いに評価したいと思う次第だ。

 


オトナのピーターパン / ナナヲアカリ


シアワセシンドローム / ナナヲアカリ

 

 

9位
TODOME/MOSHIMO
2019年3月13日発売

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全国ツアーやフェス出演など精力的な活動を続けるロックバンド、MOSHIMO。ライブの規模も動員も拡大傾向にあった彼女らだが、11月末に突如としてメンバー2名の脱退が発表されたことで、実質的に今作が4人体制としては最後のアルバムとなってしまった。


MOSHIMOの魅力は、男女間の恋愛をテーマに愛を掘り下げる歌詞にある。しかしながら比較的穏やかに恋愛模様を綴る楽曲も多かった過去のMOSHIMOと違い、今作は『TODOME』とのタイトルやジャケットの岩淵(Vo.Gt)の憂いを帯びた表情に顕著に現れている通り、男側に対しての鬱憤をひたすら吐き出すダークなアルバムと化しているのが最大の特徴。


必然サウンドもロックに振り切った形となり、「キスはセーフだがセックスはアウト」というひん曲がった恋愛観が炸裂する“電光石火ジェラシー”、マイナーコードを多用しパンクに寄った“釣った魚にエサやれ”など、明るさを前面に押し出していたかつてのMOSHIMO像を良い意味で破壊し再構築。それでいてMOSHIMO印のキャッチーなメロは失われるどころか鋭さを増しており、サビ部分に至っては一度聴いただけで瞬時に口ずさめるほど。


加えて上記の楽曲では野球拳のフレーズやソーラン節のメロディーを取り入れるなど、今作『TODOME』で今までのポップな方向性をガラリと変えたMOSHIMO。果たしてメンバーの脱退を乗り越えた来年のMOSHIMOは、どのような視点で恋愛模様を描くのか。新たなMOSHIMOの第一歩は間違いなく、このアルバムだろう。

 


MOSHIMO「電光石火ジェラシー」MV


MOSHIMO「釣った魚にエサやれ」MV

 

 

8位
Traveler/Official髭男dism
2019年10月9日発売

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僕は生まれも育ちも島根県。ヒゲダンは山陰地方(島根と鳥取)では久々に誕生したビッグスターとして大いに盛り上がっている現状ではあるが、別段僕自身が「同じ島根の人間だから」と忖度した訳でも何でもなく、純粋にクオリティーの高いアルバムなのでこの順位となった。……ただそれだけの話なのだが、オリコンチャートの成績を見てもヒゲダンの名前がここまでの勢いで広がった、その契機とも言える出来事は間違いなくこのアルバムのリリースだろう。


注目すべきはその曲順。基本的には日本でも海外でも、所謂『リード曲』と呼ばれる楽曲はアルバム前半に固められることが多いことをご存知だろうか。これはアルバム1枚を丸々通して聴く人間が減少傾向にあり、人間の集中力は長時間続かないことを逆手に取った方法で、前半に代表曲を詰め込むことでさもアルバム全体が良質なものとなるかのように見せ掛ける形。『アルバムは売れない』と揶揄され、サブスクの発展が著しさを増した昨今ならではの試みと言っていい。


対してヒゲダンの発明とも言えるアルバム構成を見ていこう。当アルバムで主な核となる楽曲は“イエスタデイ”、“宿命”、“Stand By You”、“Pretender”の4曲だが、『Traveler』はこの4曲を前半のみに固めず、かつほぼ連続では流さない手法を取り入れているのだ。具体的にはまず1曲目と2曲目に“イエスタデイ”と“宿命”を流して没入感を高め、ミドルテンポな楽曲で織り成しつつ“Stand By You”は8曲目に。そしてロックに振り切った後半から12曲目に満を持しての“Pretender”を投下するという、気付けばアルバム曲も無意識的に頭に入るような工夫が凝らされている。


無論アルバム曲の完成度も素晴らしく、ロックやポップ、バラードと千変万化の引き出しでもって楽しませつつ、中でもかねてより彼らが強い自信であると語っているポップな楽曲の破壊力は随一。今年は紅白歌合戦の初出場も決定したヒゲダン。バンド名を「髭の似合う歳になってもワクワクするような音楽を作りたい」との思いで名付けたことや今作のタイトルを『Traveler(旅人)』と冠したことからも分かる通り、今作はいわばひとつの通過点であり、更なる高みへと登り詰めるヒゲダンのほんの序章に過ぎないことを証明した1作でもある。

 


Official髭男dism - Pretender[Official Video]


Official髭男dism - イエスタデイ[Official Video]

 

 

7位
834.194/サカナクション
2019年6月19日発売

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各地の夏フェスには決まって名前を連ねるサカナクションだが、オリジナルアルバムとしてのスパンは長く、今作は約6年ぶりのリリースとなった。


6年もの間アルバムリリースがなかったとは言え、“新宝島”を筆頭としたシングルは定期的にリリースしており、収録曲はシングルが中心。山口(Vo.Gt)がオケを流して踊るファニーな動画も話題となった“忘れられないの”、全国ツアーで披露されたものの大幅な歌詞の変更から、タイトル自体も変更を余儀なくされた“モス(仮タイトルはマイノリティ)”、度重なるライブと共に成長してきた“多分、風。”などほぼ全てで異なるアプローチが施され、サカナクションの様々な側面を垣間見ることのできる濃密なアルバムとなっている。


もはや周知の事実だが、サカナクションの発起人でありメインソングライティングを務める山口はひとつひとつの楽曲に対し、確固たる執念でもって向き合う人間である。……もちろん全てのアーティストにとって音楽は真面目に取り組むべきものではあるが、山口の熱意ははっきり言って異常。かつて“エンドレス”のAメロ部分の歌詞のみに1ヵ月を要したり、“新宝島”には1年単位の時間をかけて取り組んだ山口。そして今作を含めたほぼ全てのアルバムが発売延期を繰り返し、『834.194』は様々な事柄を経て奇跡的かつ運命的に誕生した。


そんな当アルバムは念願叶ってか、爆発的な売り上げを記録。総じて一切の妥協を許さないサカナクションと、最良のアルバムの完成を静観し待ち望んだファンとの双方向的な信頼関係が成し得た大成功と言っても過言ではない。サカナクションの新境地を体現すると同時に入門編としてもお勧めできる、濃密なアルバムだ。

 


サカナクション / モス


サカナクション / 忘れられないの

 

 

6位
aurora arc/BUMP OF CHICKEN
2019年7月10日発売

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ドーム公演を含めた過去最大規模となるライブツアーを敢行し、全公演ソールドアウトを果たしたバンプ。もはや世間的流行とは別の極致に突入しながらも、確固たる日本のポップアイコンの地位を確立したバンプ。


そんな彼らの絶大な人気は決して古参ファンによる長期的なものではなく、楽曲のその完成度から成るものであると共に名実共に証明した名盤こそ、今作『aurora arc(オーロラの弧)』である。


気付けば結成20年を優に超え、フルアルバムは今作で9枚目となる彼らだが、とりわけ今作は彼らのストロングポイントであったポップ主体に楽曲を展開している印象。更に教会の讃美歌の如き壮大さで幕を開ける“アリア”や《ベイビーアイラブユーだぜ》とかつてないほど直接的に放たれるラブソング(“新世界”)といった実験的な試みも挟みつつ、誰もが求めていたバンプ像を如実に体現している。


話は逸れるが、僕は全ての物事を懐疑的に捉えてしまう面倒臭い類いの人間だ。そのためアイドル中心の音楽シーンや街中で流れるポップソング、果ては若者の音楽離れやアーティストが突然有名になったりといった物事を見るたび、ある種モヤモヤした感情が頭を支配してしまう。


正直BUMP OF CHICKENも個人的には然程詳しくなく、何故ここまで人気が下火にならず全盛期以上の全盛期を発揮しているのか甚だ疑問だった。しかしながら今作『aurora arc』を一聴し、今までの疑問は瞬時に霧散した。今作はとにかく楽曲が良い、ただそれだけだ。だがその『ただそれだけ』のことが、何よりも雄弁に「BUMP OF CHICKENは最強の存在である」と語っている。大阪のライブを拝見した際、藤原(Vo.Gt)がアンコールにて「最初は俺ひとりでスタジオにこもってそこからメンバーと一緒になって作るんだけど、やっぱりその中では不安みたいなものもあって」と語っていたが、そうした思いを孕みながら期待を裏切らないバンプの人気を見ていると、やはり日本の音楽シーンを背負って立つべき存在であるとも思う。

 


BUMP OF CHICKEN「望遠のマーチ」


BUMP OF CHICKEN「Aurora」

 

 

……さて、いかがだっただろうか。


次回は遂に5位~1位の発表である。果たして2019年、がむしゃらに音楽のみを聴き続けてきた僕が最も感銘を受けたアルバムは何なのか。近日公開予定。乞うご期待。