キタガワのブログ

島根県在住のフリーライター。ロッキン、Real Sound、KAI-YOU.net、uzurea.netなどに寄稿。ご依頼はプロフィール欄『このブログについて』よりお願い致します。

【ライブレポート】DNA GAINZ『"Baby Noise vs Bug the World tour" FINAL』@松江B-1

こんばんは、キタガワです。

 

音楽を好きになって何十年も経つが、何かを聴いて「こいつらやべえ!」と感じることは年々減っている気がする。もちろん、何をもって「こいつらやべえ!」とするかは人それぞれだ。けれどもライブハウスに生きるリスナー視点からすると、それはおそらく『音楽の熱量』だと思う。それはTikTokやYouTube経由の『バズ曲』が世間的に浸透する今でこそ余計に感じるものでもあって、そうした楽曲も良いなあと思う一方、心を震わせる音楽に出会うことを、心のどこかでは求めていたのではないか。

そうした中で出会ったのが島根県松江市発、ライブの全国行脚で動員を獲得するバンド・DNA GAINZだった。実際、彼らの楽曲をキャッチー、更には口ずさみやすい点で魅力的に映ったのが始まりではあったが、その中にロックバンド然とした熱量が多分に存在することを確信。そこからどんどんハマっていった。彼らの真意については先日松江市の居酒屋にて敢行した独占インタビューに詳しいとして、その本質を知るにはやはり、ライブでなければならないと思ったのもそのときだ。

今回のツアーファイナルは、彼らの本拠地である松江市で、言わば凱旋ライブの体を成した代物。ボーカルのながたもライブで語っていたが、地元民でも正直ここまでパンパンのB-1は見たことがないレベルでチケットは実質的なソールドアウト。会場には彼らの楽曲に心掴まれたファンがギッチギチに詰め、その瞬間を心待ちにしていた。

ammo、bokula.ら盟友2組によるライブを終え、DNA GAINZの出番はオーラス。浮遊感に包まれたSEを背にステージ裏から現れたのは宏武(Dr)、はだいぶき(B)、イタガキ タツヤ(G)、ながたなをや(Vo.G)の4名で、各自思い思いのスタイルで来たる爆発に向けて心を整えている。中でも印象深く映ったのはながたで、ライブでの独特のポーズ(指をキツネの形にするイメージ)を天に掲げながら、音に合わせて体を揺らめかせている。つられて同様のポーズを掲げるファンとの一体感も、ライブを長らくこなしてきた信頼感の証だろう。

DNA GAINZ / ラフラブ (Official MUSIC Video)"TSK「かまいたちの掟」"ED曲 - YouTube

オープナーは、彼らの名前を広く知らしめた契機とも言える“ラフラブ”。音源とは異なりながたはシェイカーを振り、イタガキはクラベスのような打楽器を用いながら、徐々に熱量を高めている。そして冒頭からのメロが終わると楽器隊が一斉に音を鳴らすのを契機として、ライブハウスは一瞬にして轟音空間へと変貌した。……彼らがサウンド、更には歌詞についても深く考えるバンドであることはこちらのインタビューで語ってくれた通りだ。しかしながらライブハウスの空間で聴く“ラフラブ”は『ラブラブ(LOVE LOVE)』という言葉自体を再考。結果『笑える愛=ラフラブ(LAUGH LOVE)』とする独自解釈をその熱量でもって叩きつける、がむしゃらな爆発だった。

今回のセットリストは現在の持ち曲と未発表曲をほぼ網羅した、現時点でのDNA GAINZのベストを見せ付ける形。なお我々が音源として聴ける楽曲の全ては今のところ“ラフラブ”、“Sound Check Baby”、“GOLD HUMAN”の3曲なので、セットリスト的には大多数が初見の楽曲も複数存在。しかしながらそれらの未発表曲をライブ後半に敷き詰めた攻め切る構成でもあったのは彼ららしく、MCがほぼなかったのも含め、何か信念のようなものさえ感じた次第だ。

DNA GAINZ / Sound Check Baby (Official Music Video) - YouTube

次なる楽曲は先日デジタルリリースされ、高評価の声が多く挙がった“Sound Check Baby”。元々情報量の多いこの楽曲、会場に集まったファンのほとんどが「どんなアレンジで演奏されるんだろう?」と期待していたことと推察する。……なお実際はどうだったのかと言うと、ながたがルーパーで《サウンドチェック》の声とボイスパーカッションをループさせ、サウンドに付随させていたのでビックリ。メンバーの体重を乗せた演奏が牽引する中、早くも汗だく状態のながたは時折声を枯らしながら、限界突破のパフォーマンスで魅了していく。ライブハウスに足繁く通っていると、軽やかに演奏して去っていくバンドも多い。けれども彼らの姿はとてつもなく無骨で、そうした熱いライブこそ、雄弁に心を震わせるのだなあと再認識。エネルギーで持って全部持って行く感じというか。

以降は音源化されていない楽曲を連発する、彼らの真価を見せ付けるゾーンに。はだがストリング・ビーズで自然的な音を奏でるゆったりした一幕から、後半に一気にノイズで畳み掛ける理外の“バラード”。ながたが「死んだ友達に届きますように」と吐露し、極楽浄土と現実とを対比させる“歪な世界”。声にエフェクトをかけつつ、バンドの希望的未来をシェンロンに頼んで始まった“神龍”と多彩な楽曲が並んだ中で、特筆すべきは“神龍”の爆発力。実際、先日のインタビューでライブアンセムについて訪ねたときに「“神龍”がマジでヤバい」という話を聴いていたのもあるが、キャッチーさに加えてノイズにまみれたどしゃめしゃ感、4人の弾けっぷりを目の当たりにすると、今後のライブでもひとつのキーポイントになること請け合いの楽曲だった。

「僕はライブをするとき、いつも『ライブハウスにいる、ここにいる全員でひとつの生き物にしたい』と思ってます。この場にいる誰が欠けても出来なかった」……。ながたは短いMCでこう語ると、改めてこの日集まってくれたファンに感謝を伝えていた。冒頭でも綴ったように、この松江B-1の会場がここまで埋まるのは異例中の異例で、彼自身もそのことを理解しているからこそだろうと思う。

GOLD HUMAN - YouTube

そして「最後に隕石落として帰ります」と語って雪崩れ込んだのは“GOLD HUMAN”。人類を救っても、愛を知っても決して満たされない乾き。だからこそDNA発で何かを成そうという、バンドの存在意義をも体現したキラーチューンだ。ながたはフレットを動かす指が滑る程の汗で思いを爆発させ、楽器隊のサウンドについてもますます熱量を高めていくサウンドに載せて完全燃焼を図る……。それは理屈ではなく心で伝える、バンドの理想形に最も迫った代物だった。

ここでライブは終わりかと思いきや、正真正銘のラストソングとして鳴らされたのは“オーバーザ・ムーン”と題された楽曲。ながたは終始ハンドマイク、サウンドの軸となる部分は同期を使用しており、BPMも終始ゆったり目。これまでの楽曲とは雰囲気の全く異なる楽曲だったのが印象深い。なお聴こえてくる歌詞を汲み取るに、こちらは地球から遠く離れた月や宇宙を題材にしていることも判明。以前のインタビューで宏武が「(歌詞は)スケールの大きいものがいい」と発言していた、そのひとつの解とも言える展開に思わず唸ってしまった。どこまでレンジの広い制作をするんだと。

DNA GAINZは基本的にアンコールはやらない主義を貫くバンド。ゆえにライブはここで終幕となったが、そこに「もっとやってくれ!」という感情は誰しもが皆無だったことだろう。持ち時間40分に全てを詰め込んで余韻のみを残すライブは、それ程までに圧巻だったのだから。

彼らの楽曲を初めて聴いた人が、必ず抱くのはその『熱量』。そしてそれを爆発させる場は当然ライブハウスだろうと思ってはいたが、いやはや。ここまで命を削るレベルの勢いで畳み掛けるライブというのは全国的にも非常に稀有であるし、もっともっと広がっていく可能性を強く感じた一夜だった。……「音楽の形っていろいろあって迷っちゃいますよね。でも、自分の好きを信じたらいいです」とながたは最後に語っていたけれど、その『好き』が今回DNAに刻まれた我々は、きっと次のライブにも足を運ぶのだろうと思う。リリースの報を待ちながら、来たるその日を楽しみにしたい。

【DNA GAINZ@松江B-1 セットリスト】
ラフラブ
Sound Check Baby
バラード
歪な世界
神龍
GOLD HUMAN
オーバーザ・ムーン