キタガワのブログ

島根県在住のフリーライター。ロッキン、Real Sound、KAI-YOU.net、uzurea.netなどに寄稿。ご依頼はプロフィール欄『このブログについて』よりお願い致します。

映画『バッド・ランズ』レビュー(ネタバレなし)

こんばんは、キタガワです。

上映時間は2時間半、内容は超ディープ。更には劇中のセリフは大半が大阪弁で、超早口&専門用語バリバリ……と、公開初日から様々なカオス情報が公開されていた映画『バッド・ランズ』を観た。

ストーリーとしては、まるではぐれ物の道を辿るようなダークなもの。主人公(安藤サクラ)はオレオレ詐欺の案内人であり、多くの高齢者を騙す手法で金銭を得る人間。対して弟(山田涼介)は刑務所服役から闇の世界へ逆戻りし、荒れた生活を送っていた。そんなふたりが『ある事件』をきっかけに、更なる地獄へと足を踏み入れる……。あらすじとしてはこのような形だが、実際にはホームレスや警察、オレオレ詐欺グループ、違法賭博屋といった様々なストーリーが同時に展開。多くの出来事が交錯する、非常に複雑な物語となっている。

冒頭にもある通り、この映画にはマイナス面もいくつか。特に『会話の大半がガチの大阪弁』なのは辟易してしまった点。そもそもこの映画では標準語で話す人自体がほとんどおらず、かつ大阪独特の表現(コーヒーをコーシー、虎を阪神タイガース、粉がブワーなっとるやつをお好み焼き、など)がマシンガントークで流れてくるので、総じて耳が追い付きづらい。イメージとしては、我々のおじいちゃん世代の古い大阪弁でずっと言い合いをしている感じ。セリフ数だけでも相当なものがある。

他にも尺が長かったり、取り扱うテーマ自体が詐欺関係の闇であること、場面展開が多かったり……などなど、今年公開された映画の中でも取っ付きづらい部類なのは確か。しかしながらこの映画は結果として、完成度としては素晴らしい高さだった。

特に驚いたのが、時間の使い方。2時間半という時間をどう使ってオチまで持っていくのかについては、鑑賞前にも考えてはいた。おそらく一番やりやすいのは、物語のテンポをあえて遅くする方法。これは同じく長尺の3映画で頻繁に使われているもので、例えば人と人とが握手する描写でもゆっくりゆっくり映すことで、その人物の心にある「本当はこの人と握手するのは嫌。でもやるしか……」といった葛藤も同時に描くことが可能。これは3時間ある『ドライブ・マイ・カー』も同様だった。

ただ、この作品は通常あり得ないテンポ……それこそ10分に1回レベルで全く違う場面に切り替わり、他者の話が延々進む異色作。なもんで「このペースでいくと無理なんじゃないか?」とも思ったが、なんとこの映画、冒頭から約1時間半という時間を助走に費やし、その後の1時間で突っ切る作品だったのだ。要は『起承転結』における、『起』を1時間半やるのである。話がほぼ進まないこの時間(しかも大阪弁でめちゃくちゃ速い会話が大量にある)を耐えられるかは賛否が分かれるところだけれど、ラストで全部回収するのは強気過ぎるなと。

後はやはりと言うべきか、安藤サクラの演技が軍を抜いている。今回の出演者は山田涼介、生瀬勝久以外の人物は物語に直接的には干渉しないのだけれど、これらのキャスティングだからこそなのか、闇を秘めた演技も含めて安藤サクラは「触ったら怪我するヤバさ」を放出している点で、抜群だったと思う。このキャラありきの展開なのは重々承知にしろ、改めて驚いた次第。

この手の作品にしてはあまりグロさもなく、多くの人に進めたいカオス映画『バッド・ランズ』。なぜこの映画のタイトルがバッド・ランズなのかは開始数秒で明かされるが、その真の意味は2時間半後に分かる、というのも、なかなか面白い。そして何と言っても後半の畳み掛けは本当に最高で、約1時間半を耐えてでも観る価値アリ。最近よくあるお涙頂戴の映画とは似ても似つかない、世の中の底の底のそのまた底の楽園で生きる人々を描く作品。まさしくバッド・ランズ(Bad Lands)である。

ストーリー★★★★★
コメディー★★★★☆
配役★★★★☆
感動★★★☆
エンタメ★★★★☆

総合評価★★★★☆(4.0)

◤本予告◢ 9/29(金)公開 映画『BAD LANDS バッド・ランズ』 - YouTube