キタガワのブログ

島根県在住のフリーライター。ロッキン、Real Sound、KAI-YOU.net、uzurea.netなどに寄稿。ご依頼はプロフィール欄『このブログについて』よりお願い致します。

【ライブレポート】キュウソネコカミ・新しい学校のリーダーズ・Klang Ruler・すりぃ『カミオトLIVE』@なんばHatch

こんばんは、キタガワです。

2021年から始まった、『カミオト夜』と題された音楽番組。この番組は「関西発ゆかりの音楽」をコンセプトに毎週放送され、新たな音楽を発掘する上で重要なコンテンツとして位置している。

そんなカミオトは今回初となる試みとして、関西出身のアーティストをブッキングした『カミオトLIVE』の開催を発表。出演者はキュウソネコカミ、新しい学校のリーダーズ、Klang Ruler、すりぃというジャンルもバラバラな4組で、会場にはその特別空間を楽しもうと、大勢のファンが来場した。また前日に発生した台風の影響で危惧された開催だが、結果的には台風一過でピーカンな環境下(キュウソネコカミのグッズのみ新幹線遅延により未到着)。

会場に入ると、超満員のフロアと共にステージを彩られた『カミオト』の文字がドドンとお目見え。更には様々な箇所にカメラクルーが配置されていて、今回のライブが映像化されることも何となく理解する。そうしてしばらく待っていると、袖から読売テレビアナウンサー・佐藤佳奈が登場。今回のライブが『関西発の音楽』をコンセプトにしていること、6月16日と17日に放送される特別番組で、今回のライブの様子が映ることなどを説明。「テレビの向こうにも届くように、全力で声出しをお願いします!」という佐藤の一言に、一気に盛り上がるフロアである。

 

ステージ上にシンプルなバンド機材が配置されていたことから予想していた通り、1番手に選ばれたのはすりぃ。ボカロPとしての活動に加え、昨今では自身がボーカルを執ってのライブも行う稀有なアーティストのひとりだ。ビカビカのSEと共に登場したのはすりぃ(Vo.G)の他、佐々木侑太(G)、malo(B)、西本タツヤ(Dr)らサポートメンバー3名。「すりぃです。よろしくお願いします!」の一言で一斉に向き合うバンドメンバーたちの姿は、凛々しい。

空中分解(long ver.) / すりぃ - YouTube

すりぃのライブは基本的に“空中分解”からのスタートで、今回も例に漏れず。スピード感のあるサウンドの中心を、歪んだギターと打ち込みが駆け抜ける様は圧巻だったが、驚いたのはバンド全体がライブ慣れしていたこと。……後半のMCでも語っていたように、すりぃはボカロPとしての活動を中心としているため、生身でのライブ経験は少ない部類に入る。実際筆者が初めて彼のライブを観たときは演奏に集中しているイメージを抱いたものだが、ここ1年で全国ツアーの場数を踏み、全体のセトリを意識するようになったためか、バンドがどこかリラックスした雰囲気だったのは素晴らしかった。すりぃはクルクルと回りながらギターを弾いたりと、茶目っ気もたっぷり。

今回のライブは前半に比較的新しい楽曲を、後半にはお馴染みのバズ曲を敷き詰めるセットリストで展開。そのうち前半の“ビリビリ”と“ジタバタ”は、これまでの『ボカロ曲をすりぃがセルフカバーする』という図式とは違って、何とすりぃ史上初となるオリジナルが本人歌唱の2曲。ゆえにその内容にも熱視線が注がれることとなった訳だが、生音の迫力も含めて素晴らしいライブチューンに仕上がっていたのが印象的。

ジタバタ / すりぃ - YouTube

今回の出演アーティストの持ち時間は全員均等の30分。そして4組のうち最も多くの楽曲を演奏したのがすりぃであることからも分かるように、彼のMCの尺は非常に短く設定されていた。そこで語られたのは主に着用していたTシャツの話で、「ライブをするならこれを着てほしい」と大阪の友人から渡されたTシャツに書かれたイラストがなぜか東京……というトークで笑いを誘う。また地元がここ大阪だからなのか発言にも関西なまりが多く、緊張がほぼない感も。

【LIVE映像】ラヴィ / すりぃ ONE MAN TOUR 2023「ジャンクション」Shibuya Spotify O-EAST - YouTube

ライブはここから一気に畳み掛け。アッパーな“ジャンキーナイトタウンオーケストラ”を経て、打ち込みのシンセが暴れ回り《無能》のレスポンスが起こった“ラヴィ”、待ってましたの代表曲“テレキャスタービーボーイ……。楽曲が投下されるたびに一段階上がっていくボルテージは、まだ活動は短いまでも『ライブバンド』のイメージを印象づけるには十分。ふと周囲を見ると先日開催された全国ツアーのTシャツを着たファンが前へ前へと移動しており、楽曲の力さえ感じる一幕だった。

【本人が歌った】エゴロック(long ver.) / すりぃ - YouTube

ラストナンバーはこちらもお馴染みの”エゴロック“。音源とは違う《バイバイバイ》のトーン変化、更には矢継ぎ早に放たれる歌詞に詰まってしまう場面も含めて、これまで大多数が聴いてきたであろう『ボカロPのすりぃ』の音ではない『すりぃ本人』としての歌唱が、ぐんぐん牽引していく感覚。ラストは大阪への感謝を口にしながら、完全燃焼のエネルギーで演奏を終えたすりぃ。始まる前は若干のアウェー感もあったが、結果的にはライブ終了後に物販の列に並ぶ人多数。おそらく今年からはソロの活動が本格化すると思われるすりぃ、その幕開けを最高の形で飾ったライブだった。

【すりぃ@なんばHatch セットリスト】
空中分解
ビリビリ
ジタバタ
ジャンキーナイトタウンオーケストラ
ラヴィ
テレキャスタービーボーイ
エゴロック

 

続いてのアーティストはKlang Ruler(クラングルーラー)。この日出演する新しい学校のリーダーズの”オトナブルー“や”Suki Lie“といった楽曲の作曲者本人が在席する他、昨今ではブラックビスケッツの”タイミング 〜Timing〜“のカバーがTikTok上でバズを記録。それでいてCDリリースは1枚もなく全曲がデジタル配信という、にわかに注目を集めるバンドだ。

リハの時点で「東京から新幹線で30分前に着いたので、今からリハーサルしてもいいですか?」と語っていたようにギリギリの到着となった彼ら。本編は中央に置かれたスピーカーから、Siriの言葉のような「忘れられない最高のエクスペリエンスをお届けしたいと思います」機械的な言葉が放たれてのスタートで、袖からyonkey(Vo.Key)、やすだちひろ(Vo.Key)、Gyoshi(G)、かとたくみ(B)、SimiSho(Dr)がババッと登場。間髪入れずに“ちょっとまって”で踊らせにかかる5人組である。

Klang Ruler - ちょっとまって(Official Music Video) - YouTube

フェスなどでの露出は増えているものの、それこそ昨今ではyonkeyの楽曲提供の情報や“タイミング 〜Timing〜”のバズ……といったライブ以外での認知が基本的になっている彼ら。そのためライブで目撃するのは初めての人が多かったように推察するが、実際はメインボーカルの2人(どちらもサングラス着用)はキーボードをほぼ弾かず煽り倒し、サウンドは打ち込みで変声期ボイスを入れ込むという、非常に稀有なライブスタイルにびっくり。特に腰まで曲げながら右手を振って観客を煽るyonkeyの姿は印象的で、否が応でも盛り上げるエッセンスになっていたことは特筆しておきたい。

Klang Ruler - ジェネリックラブ (Official Music Video) - YouTube

以降は“レイドバックヒーロー”、や“ジェネリックラブ”といったライブアンセムを多数投下。完全初見の観客のマスに合致するキャッチーさが光る。特に興奮が底上げされたのは”Set Me Free“の一幕。レトロポップを彷彿とさせる雰囲気とライブ感を散りばめたそれは、例えるならば中森明菜の”DESIRE -情熱-“をイメージさせるような抜群の印象度で降り注いだのだから。……思えば新しい学校のリーダーズの“オトナブルー”にもどこか古き良き時代の音を感じたけれど、やはりyonkey自身が昭和〜平成初期の楽曲についてリスペクトしているからだろうなと。

Klang Ruler - Set Me Free (Live from "Odyssey" at Shibuya WWW, 2023) - YouTube

“飛行少女”へと続いたライブは、現時点では音源化されておらずライブのみで聴くことのできる“I Think Abouj You Now”でシメ。これまでゆったりと動く楽曲とは少し異なり、低音強めでガツンと来るサウンドで魅了するこの曲で、Klang Rulerの印象を更に近付けた形だ。SimiShoはトルネードポテトのような変わった形のシンバルを叩きまくり、他のメンバーはサンプラーを多用する場面もありつつ、これまでのサウンドの全部盛りな音で楽しませる。手を振ったりといったアクションで観客との一体感を生み出し、ライブは終幕。カバー曲は一切やらず、あくまでオリジナル曲で畳み掛ける30分……。初見ながら間違いなく全員が虜にさせられた、とてつもない完成度のライブだった。

【Klang Ruler@なんばHatch セットリスト】
ちょっとまって
レイドバックヒーロー
ジェネリックラブ
Set Me Free
飛行少女
I Think About You Now

 

ここからは一旦のブレイクタイムとして、読売テレビアナウンサー・佐藤佳奈がすりぃとKlang Rulerらを招き、関西をテーマにした特別トークへと以降。メディアで一切顔を明かしていないすりぃは「僕は大阪出身で、ここ関西で音楽を始めたので。ほんま楽しかったです」と喜びを爆発。対するKlang Rulerはボーカルのやすだちひろが唯一の関西出身とのことで、元々存在を良く知っていたこのなんばHatchでライブが出来たことを、とても嬉しそうに語ってくれていた。

そしてその後は最近気になった物事や大切な思い出を、写真を通して語ってもらうコーナーへ。スタッフが事前にアーティスト側から渡された写真を持ってきて、その写真について本人に語ってもらう……という形だ。まずすりぃが提示したのは去る4月22日、なんばグランド花月で撮影した当日の出番表。彼いわく、長らく大阪に住んではいたもののなんばグランド花月には行ったことがなかったそうで、この日が初めて。なお彼はかなりのお笑い好きらしく、この日の吉本新喜劇のお笑いライブで、出囃子が流れた瞬間に号泣してしまったとのこと。またお笑い芸人ではテンダラーが好き、という初出し情報も。

続いてKlang Rulerのやすだは、満面の笑みでカメラ目線で笑う女性の写真をチョイス。この写真は関西の大学を中退し、夜行バスで上京した際に撮影された自分の写真であり、撮影者はやすだの家族。現在では関西なまりが完全に消えたやすだだが、この時点では「東京と大阪はそんなに離れてないから、すぐに戻ってこれると思ってた」といい、言わば「行ってきまーす!」のような軽い気持ちでこの満面の笑顔が撮られたという。簡単に戻って来れる距離ではないと気付いたのは上京後のことだったそうで、様々な思いが内包された写真となった。

 

さて、ここからはお待ちかね。後半2組のライブの到来だ。続いて登場するのは、既存のアイドルとは全く異なるアイドル像を確立した、新しい学校のリーダーズ。ここでデータ的な話をしてしまうと、おそらくこの日集まった観客のおよそ5割以上は新しい学校のリーダーズ目当てで集まっていたように思う。ライブ前、物販列のあり得ないレベルの列の長さといい、グッズ着用率といい……。とにかく今回の『カミオトLIVE』で、最も熱視線が注がれていたのは間違いなく彼女たちだったのだ。かく言う筆者は『THE FIRST TAKE』の”オトナブルー“の知識がせいぜいの立場だったが「そこまで注目されるなら観てみよう!」といった考えだった訳だけれど、いやはや。総じて「こりゃ売れるわ……!」と衝撃を受けた30分だった。

バンド系の楽器が全て撤去され、まっさらになったステージ。そこに学校のチャイムの音が鳴り響いた瞬間、後ろから押し寄せるファンの勢いでグワッと前に押し出され、割れんばかりの歓声が轟いた。直後ステージ上に現れたのはセーラー服を着たMIZYU、RIN、SUZUKA、KANONの4名で、独特のポーズで配置に着く。

ATARASHII GAKKO! - 青春を切り裂く波動 (Official Music Video) - YouTube

オープナーとして選ばれたのは激しいロックチューンたる”青春を切り裂く波動“。純粋に楽曲の持つキャッチーさにも惹かれる中で、驚いたのはその独自性の高い振り付けだった。前転を繰り出すMIZYUの他、腕をブンブン振り回すリフ。更にはヲタ芸を彷彿とさせるものまで、既存のアイドルでは絶対に観たことのないであろう挙動がバンバン繰り出される様は圧巻だ。ちなみにこれらの振り付けは、なんと全て自分たちが考案したもの。衝動で全てを牽引するような、力ずくな時間にただただ感動しっぱなしである。

この日のセトリは言わばフェスセトリであり、持ち時間に持ちうる代表曲を出来る限り配置。前の出番のKlang Rulerのyonkeyが提供した楽曲も含め、駄目押しで畳み掛ける流れだった。アイドルグループとしては珍しく歌声は完全生声、オイ!オイ!といった観客とのレスポンスもなし。しかも水分補給もほぼなしというストロングスタイルで、振り付けに関しては人間跳び箱、ブリッジ、ヘドバン、エアギター、抱き合い……。果てはメンバー同士で殴り合ったり早着替えをしたりとやりたい放題。一瞬たりとも見逃せないこの時間はライブというより、ある種の舞台芸術の域にも達しているように思えた。

中盤のMCでは、彼女たちが海外ライブを終えてから初の日本ライブということに話が及ぶ。唯一の大阪出身であるSUZUKAはこのことに触れ「二重の意味でただいまです」と感慨深げ。ただ、その直後にファンから届けられた「おかえりー!」の声に対しては「やだー!めっちゃうれしいー!ありがとぉー!」とコテコテの関西のおばちゃんスタイルで返すところは、流石はSUZUKAである。

ATARASHII GAKKO! - オトナブルー (Official Music Video) - YouTube

以降は”じゃないんだよ“からの代表曲”オトナブルー“、『好き』の感情を否定する動きに走る”Suki Lie“と続いていく。先述の通りボーカル面は生歌でダンスも素晴らしい中で、この辺りに来るととにかくSUZUKAの挙動が目立つことにも気付く。これに関しては”オトナブルー”の一幕に顕著に表れていて、他の3人が中心で踊っている途中で、SUZUKAひとりだけが前に動いたり、ステージ端で煽ったりするのだ。今回MCをしたのも思えばSUZUKAのみであり、実質的なリーダー的役割を担っているのかな、と思った次第。

そしてダブステップ調の“Pineapple Kryptonite”のリミックスでセーラー服から特攻服へ早着替えする離れ業(本当に一瞬)を見せつつ、最後の楽曲は彼女たちのコンセプトである『個性と自由ではみ出していく』を体現した“迷えば尊し”。メンバーは何度もヘドバンを繰り出しながら、ファンに腕を掲げて共感を叫んでいたのが印象的。才能や友情、外見などの「〇〇すべき」といった固定観念に徹底したNOを突き付け、自分なりに迷いながら進むことが青春であるとする、彼女たちなりの考えが爆発した瞬間だった。

ATARASHII GAKKO! - 新しい学校のリーダーズ 「迷えば尊し」 - YouTube

ライブが終わると一転、チャイムの音から一列に並びつつ、ファンと一緒に「一同気を付け!礼!安め!下校!」の順で叫び、猛ダッシュで去っていった彼女たち。……その後に残されたファンの大歓声を浴びながら、僕は彼女たちに対して「これこそが新しいアイドルのリーダー的存在なのかなあ」との感想を抱いた。あれもダメこれもダメ、更には「アイドルかくあるべし」といった縛りが強いアイドルシーンで、個性と自由ではみ出す魅力を彼女たちは体現していた。これぞ青春日本代表。

【新しい学校のリーダーズ@なんばHatch セットリスト】
青春を切り裂く波動
じゃないんだよ
オトナブルー
Suki Lie
Pineapple Kryptonite(Remix ver.)
Pineapple Kryptonite
迷えば尊し

 

気付けばライブはいよいよラスト。テレビ版『カミオト夜』でも何度も出演を果たし、ライブバンドとしても引っ張りだこのキュウソネコカミが、この異種格闘技戦的な4アーティストのトリを飾る時間がやってきた。

キュウソと言えばフェスで『本気のリハ』と称して1曲丸々演奏することでも知られていて、今回も対バンイベントながら敢行。選ばれた楽曲は“MEGA SHAKE IT!”で、リハなのに叫びまくり煽りまくり。中盤のダンスも本編さながらの熱量で踊っていて、ファンも熱唱で答えているのが感動的だ。ただこの時間はあくまでもリハな訳で、ドリンク交換やグッズ購入のために外に出る人も多数いたのだが、それを観たヤマサキセイヤ(Vo.G)は「(台風が過ぎて)電車動いとるやろがあー!まだ帰るなあー!おるあぁぁー!」と絶叫。1分後に戻って来ることを宣言し、ステージを降りたキュウソである。

キュウソネコカミ - ビビった MUSIC VIDEO - YouTube

そして再びステージに姿を表したセイヤ、ヨコタシンノスケ(Key.Vo)、オカザワカズマ(G)、カワクボタクロウ(B)、ソゴウタイスケ(Dr)の5名は、いきなりのキラーチューン“ビビった”で本編スタート。この楽曲は《メジャーに行って1、2年で消えるバンド多過ぎクソワロタ》、《俺らが作った音楽を売って売れなくなったらはい終了!!》との歌詞にも表れているように、彼らがメジャーデビューを決めた際、メジャーでの過酷な状況をあえて皮肉る形でリリースされたもの。ちなみにこのタイトルにしても所属事務所・ビクターエンタテインメントをもじった代物なのだが、それはそれとして。ライブではほぼ1度も欠かさず鳴らされてきたこの曲がなんと初っ端に配置されたことで、興奮も一気に高まっていく。

キュウソネコカミー「ファントムヴァイブレーション」PV - YouTube

続いては早くもここで投下!の“ファントムヴァイブレーション”。スマホ依存症の危険性について記した、今考えれば先見の明がある歌詞だったものが、今回は《1日2時間は見てる》を《6時間は見てる》、《2ちゃんのまとめを見ちゃうね》を《5ちゃん》に変化させたりと時代の変化に合わせて変えているのも彼ららしい。声出しが解禁になったことで、《スマホはもはや俺の臓器》を大合唱出来る状態になったのも、キュウソのライブにとっては嬉しい流れだ。

MCでは「えー、我々キュウソネコカミは今回最年長でございます。さっきすりぃさんの年齢をWikipediaで調べたんですが非公開で、でも確実に僕らより10歳は下だと思います。他の方々も間違いなくそうです!」と、この日最年長の出演者であることをイジりまくるキュウソ。そう言えばフェスで彼らの名前を毎回見るようになってから、もう10年以上が経過しているのだ。

シャ乱Q 『いいわけ』 - YouTube

そんな彼らのライブバンドらしさが爆発したのは、続く“伝統芸能”の一幕。NHKのど自慢を彷彿とさせる前フリの後、ステージ左側に突然スポットが当たってそちらを見ると、そこにいたのは知る人ぞ知る有名ラジオパーソナリティ・樋口大喜(後のセイヤのツイートによると、どうやらセイヤからのラインで急遽の出演が決まったとのこと)!彼はあのハスキーな声で「それでは歌っていただきましょう。シャ乱Qで“いいわけ”!」と叫ぶと、そこから鳴らされたのはまさかのシャ乱Qのカバー!フルで1曲丸々やり、最後はのど自慢の鐘がひとつだけ鳴るという、大爆笑の展開である。

『「鐘ひとつって……。あの、僕らいろいろこの1曲のために準備してきたんすよ。この日のために練習をしぃ、ブワァァっていうリフを作りぃ、歌詞を覚え……。さあ、得点は!」→また鐘ひとつ鳴る』という更なる爆笑展開を挟みつつ、遂にここからはキュウソの真骨頂。「今からここは、ふれあい動物園と化す!」とのセイヤの一言から始まったのは、コロナ禍ではセットリストに一切入れていなかった“DQNなりたい、40代で死にたい”。

キュウソネコカミ - 「DQNなりたい、40代で死にたい」 DMCC 神戸ワールド記念ホール - YouTube

客席突入、大勢のファンに担がれながら進んでいき、場合によってはステージ最後方のファンの元までセイヤが辿り着くパフォーマンスで有名なこの楽曲(動画参照)。しかしながらコロナ禍でソーシャルディスタンスが当然となった中で、彼らはこの楽曲を完全にセットリストから除外して3年が経った。そして遂に訪れたのが制限緩和後のこの機会であり、セイヤは筋斗雲(実際は木の板)に乗りながら在りし日のように客席へ。この光景に心から感動したのは長年のキュウソファンだとしても、所見の人にとっても驚きのムーブなのは間違いなく、一瞬で虜にしていたのは感動的だった。

キュウソネコカミ - 「私飽きぬ私」 - YouTube

ラストに演奏されたのは、セイヤの「心に1曲突き刺して帰りたい!」との一言から雪崩れ込んだ“私飽きぬ私”。様々な不安が襲い来る人生……。しかしながらそうした中でも自分らしく生きることが何より重要だとする、キュウソなりの励ましが詰まった新曲だ。これまで数年間ライブのラストに必ず置かれていた“ハッピーポンコツ”を廃し、この楽曲を選択したことには彼らなりの輝かしい未来の希求があるからだろうと推察した次第だ。セイヤは何度も《不安だ》と絶叫し、時折フラつきながらの完全燃焼。彼らが『ライブバンド』と呼ばれる所以を体現するのみならず、誰しもの心に訴えかけた壮絶な時間がそこにはあった。

【キュウソネコカミ@なんばHatch セットリスト】
ビビった
ファントムヴァイブレーション
伝統芸能 〜いいわけ(シャ乱Qカバー。feat.樋口大喜)
DQNなりたい、40代で死にたい
私飽きぬ私

 

ライブ終了後は、新しい学校のリーダーズとキュウソネコカミを招いた最後のトークコーナーへ。ここでも先程のトークと同じく各自が選んだ写真について語ってもらう流れだったが、まず新しい学校のリーダーズが選んだのは、メンバーも一緒に写った4年前の家族写真。こちらは眼鏡がトレードマーク、唯一の大阪出身であるSUZUKAの選出だ。話を聞くに、昔は大阪でのライブがあるたびにSUZUKAの家にメンバーが泊まるという流れが出来上がっていたらしく、SUZUKAは「実は今日おとんが観にきてるんですわ……」と暴露。大歓声に枠くフロアを見ながら対抗意識を燃やしたのか、キュウソネコカミのフロントマン・セイヤは「それとはちょっと違うんですけど、俺の親父は7回くらいステージに立ったことがあります」と違う方向からアタック。更なる爆笑に包まれる会場である。

キュウソネコカミが選んだのは、ヨコタがとある建物の前で自撮りした写真。こちらはヨコタが大ファンというジャニーズWESTのライブ会場であるらしく、ヨコタはひとり大盛り上がり。ただ他のメンバーはそもそも誘われてもいなかったそうで、トークをほぼシャットアウトする低血圧ぶりである。そこから話は「メンバー全員とSMAPの解散コンサート行きました」というキュウソの話から、新しい学校のリーダーズも「私たちは香取慎吾さんのソロコンサート行きました」と話は脱線。

最終的には新しい学校のリーダーズが香取慎吾の“東京タワー”に関わっていること、加えて振り付けなども担当した話が暴露されると、ヨコタは悶絶。「マジですか!うわーマジですか!あれホンマ最高なんです!ありがとうございます。完全敗北ですわホンマ……」と半泣き状態で、それを見かねたセイヤが「もっと俺らにも声援くれー!」と絶叫する抱腹絶倒の流れで、全てのプログラムは幕を閉じたのだった。

キュウソネコカミ、新しい学校のリーダーズ、Klang Ruler、すりぃ……。個性もサウンドも大きく異なる4組の対バンは、我々に『ライブの楽しさ』を十二分に伝えてくれる、素晴らしい場所だったように思う。

TL的にも物販的にも、正直な話をしてしまえば今回集まった観客の多くは、新しい学校のリーダーズであったと推察する。ただワンマンライブでそのアーティストを2時間観るのと、こうして対バンライブとして30分×4組の尺で観るのとでは、音楽シーン全体の将来的な意義が変わってくる。それこそ終演後にすりぃやKlang Rulerの物販に並ぶ人も、キュウソのライブを賞賛する声が多くあったように、新たな出会いという点において『カミオトLIVE』は本当に重要なライブだったのだ。

繰り返すが、この日の模様は来たる6月16日と17日の『カミオト』にて放送が予定されている。一体この日のライブがどのような環境だったのか、是非とも今回のレポートと合わせて観ていただければ幸いだ。音楽最高。ライブ最高。そしてそれを実現させてくれる媒体こそ何より有り難いものだと再認識した、まさしく『神音』と呼ぶに相応しい幸福度の高い一夜だった。