こんばんは、キタガワです。
煽り運転。今や車を定期的に運転する人でこの言葉を聞いたことがない、というのはほぼ100%いないだろう。煽り運転とは連続蛇行で通り道を塞いだり、衝突寸前まで車間距離を空けず、走行者にプレッシャーを与える運転の総称で、言葉の通り人を煽るような運転を指す。最近では宮崎文夫被告の恫喝・暴行動画が広く拡散されたことを契機に瞬く間に危険性が取り沙汰され、類似事件も多数発生した。こうした社会的影響を受け、警察庁は煽り運転を昨年6月に事実上厳罰化した改正道路交通法・妨害運転罪を創設。現在では違反した際には最悪の場合の措置として一発免停となる、重大な罪と化したのだ。
今回観賞した海外映画『アオラレ』はまさしくこの煽り運転をメインテーマに据えた作品となっていて、遅刻ギリギリで焦る渦中で渋滞に巻き込まれた家族が、信号が青になっているのにいつまで経っても進まない前方の車に一発クラクションを放ったことを契機に、あまりに絶望的な報復を受ける、というストーリーで進行するミステリーホラー映画である。
この映画での肝は間違いなく、煽り運転に短を発するラッセル・クロウ演じる加害者の異常な行動の数々である。身も蓋もないことを言ってしまえばこの映画は『13日の金曜日』や『スクリーム』、『ファイナルデッドシリーズ』とほぼほぼ同じ展開で突き進むシンプルな流れになっていて、観賞時には「これどこかで見たことあるような展開だなあ」などと既視感を強く覚える人も多いと推察する。ただ確固たるオリジナリティーとして映るのはやはり煽り運転という異質な空間にあるようにも思っていて、それこそ『13日の金曜日』ではホラーシーンと逃亡シーンが頻りに移り変わるためにある種の心の平常が保てるのだが、今作はまずもって「常に背後から追われ続けている」恐怖が持続するのでかなりハード。その他詳しい明言は避けるが「そうきたか!」と思わず口を押さえてしまう加害者の驚愕の思考回路……というか「絶対に追い詰めてやる」との執拗な執念がぐんぐん押し寄せてくる展開で一時も目が離せない。正体不明のサイコ野郎が襲いかかってくるホラーはもちろん怖いが、怒りの中にも冷静沈着な感情は未だ残っているにも関わらず、それでも「どうせ俺の人生はこれで終わりだ」と腹を括って犯行に及ぶ普通の人間の方が最も怖いと思い知った。
実際観賞後は心臓バクバク。手はブルブル。劇場からの帰路はいつもより幾分スピードを落として走行してしまうこと請け合いの間接的な説得力があった。道を譲って貰った時に、感謝のウィンカーを出し忘れてはいないか?ふとした拍子にクラクションを押してしまったことは?対向車優先道路にも関わらず、こちら側が先に曲がったことは?……今まであなたが気にせず取り続けてきた行動はもしかしたら、デス・ドライブの始まりに直結する可能性もあるかもしれない。全ての車運転者を戦慄させる最怖のミステリーホラー。是非その真髄を劇場で体感してもらいたい。
ストーリー★★★☆☆
コメディー☆☆☆☆☆
配役★★★★☆
感動★☆☆☆☆
エンターテインメント★★★★★
総合評価★★★☆☆