キタガワのブログ

島根県在住のフリーライター。ロッキン、Real Sound、KAI-YOU.net、uzurea.netなどに寄稿。ご依頼はプロフィール欄『このブログについて』よりお願い致します。

映画『Winny』レビュー(ネタバレなし)

こんばんは、キタガワです。

無料で楽しむことの出来る動画配信サービス。それらは我々の生活に欠かせないものになった反面、様々な権利的違反もつきもの。例えば、YouTubeでのテレビ番組アップロード。これは全体の4分の1サイズで表示させたり、声を加工することで限りなくさせることで、ポリシー違反になりづらくするものだ。他にもポルノ系や映画、アニメなどが無料かつフルで観られる状態にもなっていて、『訴えられればアウトだけど誰も訴えないからセーフ』のラインギリギリを攻める動画は、今この瞬間も増え続けている。

今回鑑賞した映画『Winny』は2004年、日本で実際に発生したサイバー事件である『Winny事件』を題材とした作品。市場に無料動画を流通させた主媒体であるWinnyの開発者・金子勇(演:東出昌大)の逮捕をきっかけに、弁護人の壇(演:三浦貴大)を含めた弁護団と共に裁判を戦うという、半ノンフィクション映画だ。

今作には重要部として、ひとつ大きな『答えのない問い』がある。それは冒頭で壇の口から語られた、「もし俺がナイフでお前を刺したとする。そら逮捕されるんは俺やな。じゃあ『ナイフを作った生産者』を罪に問えるか?っちゅう話や。生産者には罪はない」というもの。……そう。この事件の犯人とさせている金子は悪意ある動画を広める技術こそ作ったものの、そこに悪の心はなかった。つまり動画のフリー配布については、その技術を悪用した第三者が行ったものだったのだ。

このWinny事件は我々の生活を軸に例えると、その複雑さを深く考えることが出来る。例えば徹夜続きの人間が、店の商品を持ってフラフラと外に出てしまったらそれは万引きなのか?、かくれんぼで車の下に隠れていた子供に気付かず車を発信させたら殺人未遂なのか?など……。繰り返すが、今作における金子の罪は『金子の作った技術を悪用して、第三者が動画を無料配布(著作権侵害)させた』という、極めて微妙な立ち位置なのである。

果たして、前代未聞のこの事件を無罪にすることが出来るのか……。その結末はWikipediaを観れば分かってしまうのでくれぐれもネタバレなしで鑑賞してもらいたいのだけれど、実際の事件を題材にしているだけあって、そのリアリティは本物だ。加えて今作では彼と同じように正義感を持って内部告発する警察官や、裁判に至るまでの日々も合わせて描かれることで、当時の金子と壇弁護士の数年間を追体験する役割も果たしていて○。そして物語のクライマックス、判決が言い渡される瞬間とその後の数分間は、ここ数年の映画全体を通して観ても圧巻の代物。

今のご時世は著作権・肖像権問題は変わらず叫ばれているものの、その恩恵を受ける人も多数存在するあまり、線引きが曖昧になりつつある。YouTubeでテレビ番組を違法視聴する人はもちろん、長州力の「喰ってみな飛ぶぞ」然りアンミカの「白って200色あんねん」然り。実際の番組を切り取ったものがバズり、本人でさえ新たな武器として使おうという動きも強いのが今である。……それは一体、かつてのWinny事件と何が違うというのだろう。インターネットが発達した現在だからこそ、多くの人に届くべき傑作。

ストーリー★★★★★
コメディー★★★★☆
配役★★★☆☆
感動★★★★☆
エンタメ★★★★☆
=総合評価★★★★☆(4.5)

映画『Winny』予告編 3月10日全国公開 - YouTube