キタガワのブログ

島根県在住のフリーライター。ロッキン、Real Sound、KAI-YOU.net、uzurea.netなどに寄稿。ご依頼はプロフィール欄『このブログについて』よりお願い致します。

【ライブレポート】ジャパハリネットAC『「アコースティックだよ!全員集合!vol.1」ツアーファイナル!!!!』@米子Aztic laughs

こんばんは、キタガワです。

 

人気絶頂の中、2007年に解散したジャパハリネット。彼らはその8年後の2015年に再結成し、そこからメンバーの本業と両立する形で、精力的な活動をふたたび開始し始めた。ただ2019年に新型コロナウイルスが蔓延したことで、彼らは実質的な活動停止状態に。それならばと計画されたのが4人のジャパハリネットではなく城戸けんじろ(Vo.Acoustic Guitar.Harp)、鹿島公行(Acoustic Bass.Perc)がふたりで行う、その名もジャパハリネットACだった。

全公演が着席制、更には全てのチケットが当日の会場で手渡されるというアコースティックならではの環境なので、ステージも簡素……かと思いきやそうでもなく。確かにけんじろの立ち位置にはスタンドマイクとギターがあるのみだが、鹿島の足元にある大量のエフェクターは印象的だ。なお客席は全22席とかなりコンパクトで、まるでアーティストのディナーショーのような、ゆったりした感覚。集まったファンもおそらく県外勢だろうか、隣の人と話したり。かたやひとりでスマホを見詰めたり。その空気も和やかだ。

19時になって緩やかに暗転すると、舞台後ろのカーテンを開けてけんじろと鹿島がフラッと登場。立ち位置に移動するとけんじろはすぐに最前列の女性を「あ!」と指差して笑顔を見せる。どうやら愛媛公演でも出会った方のようである。その後は水筒から白湯をコップに出して飲み、鹿島はつば付きハットをアンプの上に乗せて歩き回る、とてもリラックスした幕開けだ。そしてふたりが一斉に「ジャパハリネット、ACでーす!」と高らかに叫んでカウントを取ると、オープナーの“Love me do?”へ。

 

『デリバリーだよ!全員集合!vol.1』ダイジェスト - YouTube

“Love me do?”と聴くと「ジャパハリにそんなタイトルの曲あったっけ?」と一瞬思ってしまうが、これはジャパハリネットが結成当初からライブのSEとして使ってきた、高知県出身バンド・Wig Beachによる楽曲のカバー。ライブに足しげく通ったファンだけに伝わるニッチな選曲にまずビックリだ。けんじろは朗らかな歌声でアコギを鳴らしており、対する鹿島は左足でパーカッションエフェクター(タンバリンの音が鳴る仕組み)を踏みながらベースを鳴らし、しかもエフェクターを随所で踏み変えて音を変化させるという非常に高難度なプレイをやってのけている。またそのベースの弾き方も単音ではなく、指の爪を使って上下に弾くギタープレイ的で、基本的に全ての弦が鳴っているという、これまたベースとしては稀有な演奏に驚く。

今回はジャパハリネットではなく、ジャパハリネットACとしてふたりでの出演。そのため「アップテンポで激しい楽曲はセットリストから外れるだろうな」と漠然と思っていたのだけれど、結果的には激しい曲どころか代表曲も大多数を廃し、約半分を新曲とカバー曲で固めた攻めのセトリとなった。ただバンド編成ではまずあり得ない選曲は逆に、この日の期間限定ユニットの貴重さを証明していたようにも思う。また今回のライブではMCが非常に多かったのも特徴で、時間を気にせずマシンガントークを繰り広げる様は、これまでのジャパハリと何ら変わらない嬉しさがあった。

「本当は2020年かな、再結成後のベストアルバムでツアーを回る予定だったんですけど、延期延期で中止となりまして。それでコロナが落ち着いた頃にやろうとなったんですが、どうにも4人が個人的な問題で今は集まることが難しいと。それなら暇なふたりで回ろうということで考えたのが、今回のジャパハリネットACでございます」。彼は今回のツアーとジャパハリネットACの活動について、次なるMCでこう語っていた。つまりこのアコースティック活動は期間限定に過ぎないもので、来年以降はジャパハリネットとして活動していく。……ということは、今回のライブが今後何年間続く彼らの活動において、かなり稀有なものになる証左でもあった。

また「アコースティックなので本来なら街の喫茶店とか、そういうところでやるものだと思うんですが、我々は今回ライブハウスを中心に回っております。ところがどっこい、ジャパハリネットACはライブハウスとの相性が良いんですねえ」と親和性の高さを語ったり、「最近の照明っていうとLEDが多いでしょ。でもあれって涼しいんですよ。ライブハウスは生の照明だから暑いんだけど、ライブやってるなって思える」という一言からパーカーを脱いだり、かと思えば最前の女性に「あっ!あなたも脱いどるね。やっぱ照明が来るから暑いんよね」と語りかけて「照明届かんやろ」と鹿島にツッコまれる一幕も。まるで漫才の掛け合いのようである。

 

ジャパハリネット【蹴り上げた坂道】 - YouTube

思えば彼らがロックシーンを牽引したのはパンク全盛期で、今から数えれば十数年も前のこと。そのため代表曲の“蹴り上げた坂道”然り、再結成後にライブで披露された“PEOPLE × PEOPLE”然り、セットリスト的には人それぞれ思い入れは異なるものばかりだったが、新たな一手として歌われたのは“ラ・セーヌへ行こう”と題された新曲。これまでも“It's a human road”など英詩の楽曲はあったが、サビは基本的に日本語のものが多かった。ただこの楽曲はなんと歌詞は全編英語で、リズミカルなポップソングとして新たな一面を見せてくれた感覚がある。先日レコーディングが終了した楽曲もこの“ラ・セーヌへ行こう”であるそうで、けんじろ曰く「40分くらいで終わった」とする完成度の高さ。来年リリース予定とのことなので、期待したいところ。

 

ジャパハリネット【帰り道】 - YouTube

鹿島とけんじろのふたりで作った代表曲“帰り道”、活動後期の“約束の場所”、そしてよもやの選曲となった鹿島の別バンド・ニッポリヒトのカバーである“絶望よ!こんにちは!”まで叩き込んで、再度MCへ。こちらはライブ語の食事の話で、前々回のライブ終わりに焼肉屋に行って失敗し、その次のライブではとても極上の肉を食べたが鹿島だけ全く食べなかった、という内容(注:鹿島は大の肉嫌い)。その店で提供されたA5ランクの肉に対して「だって油の固まりじゃないっすか!」と声高に叫ぶ鹿島は、今回の米子で美味しい海鮮系の店を質問。すかさず飛んだ「カニがうまい店」に反応を示した鹿島、無事行けただろうか……。

 

ジャパハリネット【哀愁交差点】 - YouTube

そして最後の楽曲はもちろん、これを聴かねば帰れない“哀愁交差点”。「何でもできる!」と無敵感に溢れていたあの頃と、社会に揉まれて身の丈を知った今の心境を歌うポッブロックだ。おそらくこの場に集まったファンが彼らの音楽と出会ったのは、もう10年以上も前。言わばこの日演奏された“哀愁交差点”は、あれから10年経ったそれぞれのアンサー的意味合いをも携えていたように思う。哀愁交差点の真ん中を、あっちへフラフラこっちへフラフラ……。良いことが起これば悪いことが起き、その繰り返し。人生が思うように行かないことは、嫌というほど経験した。でもそれでも生きていかなければならないのだ。時折声をからしながら熱唱するけんじろと、静かな熱量を込めてベースを鳴らす鹿島を観て、誰もが「また明日も頑張ろう」と思った、感動的な時間だった。

アンコールは、またもリラックスムードで開始。客席後ろに外国人の観客が座っていたことから、「本場の人に全部英語の“ラ・セーヌへ行こう”を歌ってしまった」とけんじろ。そのMCを聴いて爆笑していた外国人の観客を観て「良かった!笑ってくれてる!」と楽しそうな雰囲気を作り出し、ゆるーい空気が流れていく。

アンコール1曲目はこれまた新曲の“僕らが忘れたたったひとつの事“(最下部の動画の演奏曲)。”ラ・セーヌへ行こう“とはまた違ったミドルテンポな楽曲で、アコースティックアレンジとも合う1曲。こちらは本家ジャパハリと言うよりはACに合致している印象があり、来年の作品に収録されるかは不明だが、今この場で鳴らされたことは意味のあるものだったように思う。

 

ジャパハリネット 【贈りもの】 - YouTube

そして運命のラストソングは”贈りもの“。余談だが終演後、鹿島氏に見せていただいたセットリストにはもともと”百花繚乱“と記されており、そこに棒線が引かれて”贈りもの“となっていた。おそらくは直前で変更したのだろうと思われ、有り難いことにこの変更は最高の結果となった。というのも、ラストソングとなった”贈りもの“は彼らのライブでは超定番の楽曲であったからだ。歌詞を聴くたびにかつての青春が蘇る感覚はもちろん、彼らが今もまだ活動を続け、地方都市まで足を運んでくれている喜びもその感動に拍車をかける。そして思うのだ。やはり何年経っても、ジャパハリは不変であると。

けんじろが「来年また帰ってきます。それまで元気でやってくれよー!」と叫んで、ライブは終了。時計を見ると時刻は20時20分、時間にして僅か80分のライブだったことになる。ただ体感的にはもっとあったような気さえして、満足感のあるイベントとして終わった次第だ。終演後はけんじろが「はいどうもいらっしゃいませー。いらっしゃいませー」と言いながら自ら物販に立ってファンと交流し、鹿島はひとりステージを片付けていた。この距離の近さは大バコをソールドアウトさせていたあの頃には絶対に有り得ないものだったが、ふと思った。多分パンクが今でも好きな僕らと同じで、彼らは何も変わっていないのだ。あの頃と同じ楽しさを持ちながら、年月だけが経った……。ただそれだけ。それがどれほど美しいことなのかは、もはや語るまでもない。

【ジャパハリネットAC@米子laughs セットリスト】
Love me do?(Wig Beachカバー)
蒼が濁ったナイフ
PEOPLE × PEOPLE
蹴り上げた坂道
対角線上のアリア2021
ラ・セーヌへ行こう(新曲)
帰り道
約束の場所
絶望よ!こんにちは!(ニッポリヒトカバー)
哀愁交差点

[アンコール]
僕らが忘れたたったひとつの事(新曲)
贈りもの