キタガワのブログ

島根県在住。文筆。rockinon.com外部ライター等。

【ライブレポート】神はサイコロを振らない『Live Tour 2022 “事象の地平線”』@松江B1

こんばんは、キタガワです。

 

https://www.universal-music.co.jp/kamisai/

確かに「今回のライブが素晴らしいものになるだろうな」とは、漠然と予感してはいた。というのも今回のツアーは全国を回る意味合いはもちろん、メンバー4人の地元に凱旋することも含めた大掛かりなツアー。この日の島根県は桐木岳貢(B)の地元にあたるからだ。ただ、完全ソールドアウトの会場でここまで無敵感溢れるライブを行うのもまた、予想だにしていないものでもあったが。


夕方17時頃会場に足を踏み入れると、そこにはライブグッズである青色のタオルを首から掛けたファンが大勢詰めかけていた。背後のスタッフからは「間隔を空けずにお願いします!」とのアナウンスが頻りに飛んでいて、この日がどれほど超満員の状態なのかを何となく察する。正直地元民としてはここ松江B1は地元バンドに特化したライブハウスとして知られているのだが、逆に言えばここまでパンパンなB1の客入りはコロナ禍前を含めても初と言えるレベルだ。


定刻の17時半、ゆっくりと客電が落ちるとライブスタート。幻想的なSEに乗せて黒川亮介(Dr) と吉田喜一(G)、ある意味では今日の主役的存在の桐木がゆっくりと姿を現す。中心に立つマイクの元には数秒遅れで柳田周作(Vo)が近付いて、しばらくの観客の誰もが固唾を飲んで見守る時間が続いていく。そして突然の爆音と共に柳田がマイクスタンドからマイクを抜き取ると、そのままオープナーの”タイムファクター“へと雪崩れ込み。

 

神はサイコロを振らない - 「タイムファクター」【Official Music Video】 - YouTube

アニメ主題歌に抜擢され、結果的に神サイが知名度を飛躍的に高める契機となった”タイムファクター“。当然ライブの盛り上がりは素晴らしく、中でも印象的だったのはファンとの双方向的な信頼関係が垣間見えたこと。おそらくこの日集まったファンの大半は県外から訪れていて、彼らのライブを元々知っている人は多かったものと推察する。ただそれにしても、イントロが鳴り響いた瞬間に飛び跳ねて喜んでくれたり、顔を覆いながら涙を堪えるファンを見ていると「本当に神サイは愛されているんだな」という確信が、グワッと押し寄せてくる感動がある。対して神サイ側も柳田はマイクを振り抜くようなパフォーマンスで視覚的にも訴え掛け、演奏も一緒に歌うような独特なメロを奏でていて、一緒に最高の夜を作り上げようとする思いすら感じられた。


この日のライブはタイトルにもある通り、先日リリースされたメジャーファーストアルバム『事象の地平線』を軸として進行。セットリストの大半を最新式の神サイで体現した他、既存曲からは”秋明菊“や”揺らめいて候“、更にはリリース前の新曲である”六畳の電波塔“も披露する、全てのファンの思いに答えた盤石の構成だ。活動期間が長くなるにつれて「あの時ライブ行って良かった……」と嬉しくなってしまうのはライブキッズの常だが、この日は今後何年か経って「あれは紛れもなく伝説の1日だった」と確信する、そんな一夜だったように思う。

 

神はサイコロを振らない「秋明菊」Official Music Video - YouTube

前半部分は取り分けアッパーな楽曲を中心に展開し、ぐんぐん熱量を上昇させる役割を担う。これは端的に言えば『事象の地平線』におけるBPM高めの楽曲を連続して鳴らすものと称して差し支えないのだけれど、それでも柳田がまだ序盤にも関わらずステージから降りて柵越しに熱唱する一幕然り、吉田が勢い余って台を踏み外す一幕然り、彼らのエネルギーが爆発的に会場を掌握していたことはつまるところ、ロックバンド・神サイの強みが存分に発揮された瞬間であったとも言えるかもしれない。


この日初めてとなるMCでは、もちろん地元凱旋者である桐木を中心にトークを盛り上げ。ただ桐木はこの日の会場の松江ではなくそこから2時間程離れた浜田市出身(注:浜田にはライブハウス自体が存在しない)であり、松江には彼の妹が住んでいた関係上2回ほどしか行ったことがないという。地元凱旋としてはあまりに予想外の流れなのだが、これが田舎のイメージの強い島根県の現実である……。なおメンバーの中では「島根のMランドで免許取った」とする黒川と桐木以外はほぼ初島根で、柳田いわく夜の松江の街を歩いていたとき、夜の店周辺にヤンキーが大勢たむろしていて驚いたという。すかさず「ヤンキーって言っても良いヤンキーと悪いヤンキーがおるやん。もちろん良い方よ!」とフォローするも、それを否定も肯定も出来ない微妙な島根感。


そして「ほぼ運転せずに2週間で免許取れた」といういろいろと語弊がある桐木のトークで爆笑をさらいつつ、ここからは緩やかな後半戦へと突入していく。この場面での肝はバラード、ないしはミドルテンポ楽曲で、神サイの真骨頂とも言うべき独特な世界観で包み込んでいく。確かに彼らはロックバンドではあれど、どこか世間一般的な『ロックバンド』とは趣を異にする包容力が魅力のひとつ。”夜永唄“や”あなただけ“といった柳田のボーカルを前面に押し出した楽曲に触れていると、本当に唯一無二の声質を持つ人物なのだなと実感。ふと周囲を見ると号泣するファンも多く存在し、総じて彼らに対するそれぞれの『好き』がひとまとめになったような、そんな感慨深い気持ちにも陥る。

 

神はサイコロを振らない「イリーガル・ゲーム」【Official Music Video】(テレビ朝日系金曜ナイトドラマ『愛しい嘘~優しい闇~』主題歌) - YouTube

”イリーガル・ゲーム“と”未来永劫“を経て、本編ラストの楽曲として鳴らされたのは”僕だけが失敗作みたいで“。個人的にはこの楽曲に、彼らの真意を見た気がした。というのも、この日のライブで彼らは常に笑顔で、いわゆる『陽』の部分をピックアップし続けていたから。どこで聞いたか「いつも人前で笑顔でいる人は何かしらの憂鬱を抱えている」という言葉。おそらくその言葉の通り、特にボーカルの柳田の精神性を考える上で”僕だけが失敗作みたいで“はとてもストレートに心情を歌っていたように思う。なかなか芽が出ない現実を才能がないから、努力不足だからと自傷し、惰眠を貪るかつてのリアル。きっと今の彼も今ライブ中こそ笑顔を振り撒いているが、ひとりの空間ではネガティブな思いに囚われることもあるだろう。でも少なくとも他者に影響を与えるライブの空間では違う。敢えて自分を強く見せて楽しい時間を伝えることで、ファンが仕事だの人間関係だののクソッタレな人生を生きることが出来るならそれで良いと彼は本気で信じているのだ。そんな彼が放つ辛く悲しい応援歌は、各々の心にじんわりと届きながら鳴り響いていた。

 

暗転後、再度呼び込まれてのアンコールは”胡蝶蘭“→”LOVE“→”巡る巡る“の3曲。”胡蝶蘭“ではイントロが流れた瞬間からファンが跳び上がって喜ぶ一幕もありつつ、初期曲らしい存在感を。”LOVE“では《I LOVE》の掛け声に合わせてファンが手で形作ったハートマークが揺れる揺れる。そして正真正銘のラストナンバーとなった”巡る巡る“でもって、ライブは大団円。体を上下するのではなく、体が宙に浮くレベルでの飛び跳ねでこの日1番の盛り上がりを記録した。アンコール最後のためか、あまりにはしゃぎすぎてお立ち台から吉田が転げ落ちてしまい、それを見た柳田も一緒に転がるワンシーンもご愛嬌(上記吉田のツイート参照)。あまりに多幸感に満ち溢れた光景は、きっと集まった誰しもの心に刻まれたことだろう。


この日をもって『事象の地平線 地元凱旋編』は終幕。ここからは一気に東へと向かい、また彼らを愛し続けるファンたちと共にツアー&フェス出演という幸福たるルーティンに繰り出す。でも、間違いなくこれからの歩みは大丈夫だ。何故なら彼らはステージを降りる際、4人で肩を組んだ状態で「みんなのこと愛してます!大好きです!どうかこれからも末永く宜しくお願いします!」と叫んでいたから。自分だけの力だけではなく、ファンの思いも感動的に携えて進む道のりが最高じゃないはずがない。神サイが愛され続ける理由すら、強く感じさせる素晴らしいライブだった。また地元凱旋ライブが行われることがあれば、是非とも再び松江に来てくれることを願って。

 

【神はサイコロを振らない@松江B-1 セットリスト】
タイムファクター
1on1
クロノグラフ彗星
少年よ永遠に
Illustration
泡沫花火
目蓋
秋明菊
六畳の電波塔(新曲)
夜永唄
あなただけ
イリーガル・ゲーム
揺らめいて候
未来永劫
僕だけが失敗作みたいで

[アンコール]
胡蝶蘭
LOVE
巡る巡る