キタガワのブログ

島根県在住のフリーライター。ロッキン、Real Sound、KAI-YOU.net、uzurea.netなどに寄稿。ご依頼はプロフィール欄『このブログについて』よりお願い致します。

文学的歌詞の魅力が分かる、SAKANAMONの代表曲5選をまとめてみた

こんばんは、キタガワです。

 

f:id:psychedelicrock0825:20220205032024j:plain

https://sakanamon.com/

 

ロックバンド界で、まさしく魚が回遊するように独自のスタンスで活動するバンド・SAKANAMON。彼らの魅力は当然ひとつには留まらない。耳馴染みの良いメロ、ふいに口ずさんでしまいそうなキャッチーなサビなど複数存在する中で、取り分け印象部として位置しているのは藤森元生(Vo.G)が紡ぐ文学的な歌詞だろう。今回はそんなSAKANAMONの唯一無二の歌詞表現にスポットを当てて、驚きに満ちた5曲をピックアップ。めくるめくSAKANAMONの歌詞世界に、この機会にどうか浸ってみてほしい。

 

 

①ミュージックプランクトン

SAKANAMON「ミュージックプランクトン」 - YouTube

《正解を来す脳内進行/最終選択が僕らを拵えてはぐるぐると/回る血液や藉す来歴/さあ何と結び付く》

自身初の全国流通盤『浮遊ギミック』に収録され、言わずと知れた代表曲となっている代物こそ、まず最初に紹介する“ミュージックプランクトン”。この楽曲では自身を食物連鎖の最下層に生きるプランクトンに見立てながらも、たとえどんな手段を使ってでも生き残ってやるという強い決意が秘められている。


またタイトルを見ても明らかなように、これは厳しい音楽業界の只中にいるSAKANAMON自身をも暗喩しているとも取れる。結果的にSAKANAMONは“ミュージックプランクトン”をリード曲に冠したアルバム『na』でメジャーデビュー。晴れてプランクトンからの脱却を成し遂げるに至った。現在でもこの楽曲は「SAKANAMONと言ったらこれ!」な楽曲で、ライブアンセムとしても同じく定番化している関係上、入門編としても強くオススメ出来る1曲。

 

②カタハマリズム

SAKANAMON「カタハマリズム」 - YouTube

《草臥れる日々 斜陽に凭れ/曲がる街路樹 憂いのミーム/思いの儘に戯れ姦しむ馬鹿も受理される》

先述の“ミュージックプランクトン”に続く形で、全国のロック好きに広く認知されたのが2枚目のミニアルバム『泡沫ノンフィクション』収録の“カタハマリズム”。この楽曲では型に嵌まり続けることの茫洋さと、そこから殻を破って活動することの重要性を説いているメッセージ性の強い代物だ。


また“カタハマリズム”は一聴しただけでは分かりづらくもあるが、その実難読漢字が多く用いられているのも特徴のひとつ。「良い曲だなあ」と何気なく歌詞カードを見た時の衝撃は未だに忘れられないし、どうしても難しい漢字にぶつかったら意味を調べながら読み進めていくのも一興だ。もちろん“カタハマリズム”は上記の“ミュージックプランクトン”と並ぶライブアンセムとなっているけれども、おそらくはミュージックシーンにおいても稀有な『歌詞の意味を調べたくなってしまう』という特殊なフレーズの数々は是非とも興味を抱いてもらいたいところ。

 

③鬼

SAKANAMON / 鬼 MV【3ヶ月連続配信Single】 - YouTube

《鬼軍曹 鬼コーチ 鬼嫁/鬼怖い》

数あるSAKANAMONの楽曲の中でも、エンタメ要素がとにかく強いのが“鬼”。昔話を彷彿とさせるメロからサビに辿り着く流れこそスタンダードで、1番が終わるまでは確かにロックバンド然とした雰囲気を帯びている。しかしながら2番に差し掛かると歌詞は次第に、本来あるべき姿の『鬼』からどんどん脱線。ラスサビに突入した頃には全く予想もしなかった展開へと変化しており、思わず笑ってしまうこと請け合いだ。


ある種SAKANAMONの新機軸を切り開いたとも言える“鬼”であるが、楽曲全体に目を向けると冒頭の『鬼』について歌う部分では丁寧にフリを作り、続く『鰐』ではテンポを落としてじっくり聴かせ、ラストの『蟹』で一気に曲調も歌声もアッパーになっていく作りは流石で、音楽的な完成度も極めて高い。総じて「笑いを生み出すにしても単純な形には絶対に落とし込まないぞ」という、SAKANAMONらしい反骨精神すら感じられる力作だ。

 

④OTOTOTOTONOO

SAKANAMON「OTOTOTOTONOO」MV - YouTube

《労を労い 楽になって良いんだよ/打ち止めだ 笑っちゃえば良いんだよ》

2021年にリリースされたコンセプトアルバム『ことばとおんがく』収録。読みは『オトトトトノオウ』で、どこかアダルティーな雰囲気をも醸し出すミドルチューンだ。舞台となっているのは疲れを癒やす場の代名詞ことサウナであり、心なしか歌詞を見てもどこかサウナを表すような表現が多用されている。ただこれまでのSAKANAMONの楽曲に比べて敢えて歌詞の重要性は抑えられている感も否めないため、誰もが一度はサラッと聴き流してしまうことだろうと推察する。


けれどもタダでは起きないのがSAKANAMONである。これについては以下のMVを参照してもらいたいと思うのだが、楽曲終了後に明らかとなる『とある事実』を知った時、まるでひとつの重厚な物語を読んだ後のような読後感を得ることが出来るはず。そう。この楽曲は緩やかに踊れる楽曲であることはもちろん、あまりに深い伏線回収作品でもあったのだ……。

 

⑤かっぽじれーしょん feat.もっさ(ネクライトーキー)

SAKANAMON「かっぽじれーしょん feat.もっさ (ネクライトーキー) 」MV - YouTube

《ねえねえねえ お醤油取って?/え?何?何? ドジョウ掬って?/ねえねえねえ 映画見に行こう/え?何?何? 平和にニート?》

言葉に焦点を当てたコンセプトアルバム『ことばとおんがく』の中でも一際異彩を放つこの楽曲は、新進気鋭のロックバンド・ネクライトーキーのボーカルを務めるもっさをフィーチャーした、SAKANAMONにとっては珍しいダブルボーカルソングとなっている。


その内容はと言えば、彼女(もっさ)が放つ一言に対し、会話的な逃げを続ける彼氏(藤森)との不思議なワンシーンの連続。『落ち着こうって』を『おしるこしょっぺえ』、『何食べに行く?』を『南無阿弥陀仏』に聞き間違えてしまうなど、明らかにわざと進まなくしている会話のラリーに次第に嫌気が差す彼女。だがその心は実は……という、男女それぞれの恋愛感情を描いたストーリー展開が見事な楽曲。

 

「聴く人の生活の肴になるような音楽を作りたい」という願いから名付けられたSAKANAMONは、当初の目標通り、移り変わりの激しいロックシーンをその独自の歌詞世界と音楽性を武器としながら、緩やかな回遊を続けている。確かに一躍彼らを表舞台に押し上げた楽曲こそ“ミュージックプランクトン”や“カタハマリズム”といった代物なのは揺るぎないが、きっと現在SAKANAMONの虜になっている人々はその先にある文学的な素晴らしさにも目を向けた結果起爆剤としてのキラーチューンを超えるアピールポイントを見付け、より彼らに心酔した、ということなのだろう。


どこか不思議で、一度見たら忘れられない中毒性をも携える彼らの楽曲の数々に、貴方は何を思っただろうか。「ビックリ」「面白い」「最高」……。きっとその感情の多くは抽象的な驚きに満ち溢れていることと推察するが、よく考えれば世界広しと言えど、ここまで歌詞に重点を置いているアーティストはそうそういない。だからこそ、SAKANAMONは14年の長きに渡って愛され続ける。そこにSAKANAMONにしか成し得ない、素晴らしい作品が生み出される限り。