キタガワのブログ

島根県在住のフリーライター。ロッキン、Real Sound、KAI-YOU.net、uzurea.netなどに寄稿。ご依頼はプロフィール欄『このブログについて』よりお願い致します。

『正義』について歌う曲5選

こんばんは、キタガワです。


当ブログは約2年間に渡り、音楽関係の記事を様々な視点から書いてきた。


ライブレポートやCDレビューはもちろん、サイケデリックな音楽や顔を隠したバンド特集、果ては年間ベストアルバムの発表やエロいアーティスト写真を集めてみたりと、その括りとテイストは全てバラバラだ。


もちろんなぜ僕がこうした記事を書き続けるかと言えば、『未だ見ぬ素晴らしい音楽に出会うきっかけ』になって欲しいからである。音楽の入りは何でもいい。カラオケでもライブでもCDからでも。……そして、こんなブログからでも。


さて、今回は新たな試みとして『正義について歌う曲5選』と題し、歌詞の一部分に『正義』という言葉が使われている楽曲について記したいと思う。


世間一般でもよく使われる『正義』。辞書で調べてみると、そこには「道徳的な正しさに関する概念」と定義されていた。自分にとって絶対に譲れないもの。自身の行い。それらを正義と呼ぶ。


しかしふと考えてみると、歌詞にしっかりと『正義』と使われている楽曲は少ない印象を受ける。それこそ前述した「自分にとって譲れないもの」のように、正義を何か別の言葉に言い換えて歌うことはあるにしろ、赤裸々にズバっと「これは僕の正義だ」などというミュージシャンはあまりいない。


きっと正義について歌った下記の楽曲群を聴けば、彼らが言わんとするメッセージが分かるはずだ。

 

 

拝啓、いつかの君へ/感覚ピエロ

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拝啓、いつかの君へ

そんなに愛想笑いが 巧くなってどうするんだい?

忘れた訳じゃないだろ いつまでそこで寝てんだよ

「あんたの正義は一体なんだ?」


関西のロックバンド、感覚ピエロ。ライブでは必ずセットリスト入りし、彼らの一番のヒット曲とも称されるのがこの『拝啓、いつかの君へ』である。


この楽曲はドラマ『ゆとりですがなにか』の主題歌として選ばれ、ドラマ自体の人気と共に『拝啓、いつかの君へ』、ひいては感覚ピエロそのものにも注目されるようになった。様々なメディアで語っている通り、彼らにとっては大切な1曲だ。


ドラマタイアップということもあり、歌詞はドラマを大きく意識して作られている。何かにつけて『ゆとりだ』と揶揄されながらも、懸命に努力する主人公の心情を表したメッセージソングだ。


しかしこれは同時に、くそったれな現代を生きる我々にも通じるところがあると思うのだ。社会や学校といったある種の集団の中では、自分の意思は徹底して殺さなければならない。少しでも他者と異なる言動をした者に明日はない。一匹狼の黒い羊は、集団の白い羊によって蹂躙されるのが世間一般の暗黙の了解なのだ。


この楽曲は「あんたの正義に覚悟はあるのか?」と問うて終わる。そう。集団においてある程度の迎合はするべきではあるが、結局は自分の生き方を貫くしかないのである。そんな当たり前に今一度気付かせ、背中を押してくれる1曲。それが『拝啓、いつかの君へ』である。

 


感覚ピエロ『拝啓、いつかの君へ』 Official Music Video(ドラマ「ゆとりですがなにか」主題歌)

 

 

正義の歌/ミオヤマザキ

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叩いちゃったって 叫んだって
何も変わりゃ 死ねねねねねねね
あんたの正義は誰かを救えんの?


MVが公開中止となるほどの過激な歌詞とミステリアスなライブパフォーマンスで人気を博すバンド、ミオヤマザキ。


今回紹介する『正義の歌』は昨今のライブでは必ずと言っていいほど最後に演奏され、現代社会のリアルな『今』を痛烈に批判する楽曲だ。


『正義の歌』に関してはミオヤマザキの他の楽曲と比べ、合いの手や壮絶なヘッドバンギングポイントといったライブで映える行為を重要視している印象が強い。更に「ウソ?ヤだ!」、「はーい」といった歌詞を見てしまうと、およそエンターテインメントに特化した楽曲にも思える。


しかしてその実態はヤリ捨てやツイッター、メンヘラ呼ばわりといった、SNSから派生する言動にディスを飛ばす痛快なロックンロール。「言いたいことをぶち撒ける」というこの楽曲は、不器用な生き方しかできないミオ(Vo)の言いたいことが全て集約されている楽曲という印象を受けた。


ライブをスレと呼び、参加者をミオラーと呼ぶミオヤマザキ。現在は過去祭大規模となる横浜アリーナのライブに向け、47都道府県のツアーの真っ最中。ちなみにチケット代はなんと無料だ。気になった方はライブで直接『正義の歌』を聴いていただき、その楽曲の持つメッセージ性に触れてほしいと思う。

 


ミオヤマザキ 1stフルアルバム「anti-these」収録『正義の歌』

 

 

正義/ずっと真夜中でいいのに。

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悪いことしてなくても 秘密を隠し通すことが正義なら

青い風声鶴唳押し込んで いつでも帰っておいでって

口癖になってゆくんだ


昨年彗星の如く音楽シーンに現れたダークホース、ずっと真夜中でいいのに。『正義』は今年発売のミニアルバム『今は今で誓いは笑みで』に収録されているミディアムチューンである。


個人的にずとまよの魅力は独特の歌詞にあると思っているのだが、この『正義』においてもまるで推理小説のトリックのような、頭を捻らなければ理解不能な文学的な歌詞のオンパレード。


『正義』に秘められた意味を完全に読み解くのは難しいが、無理矢理紐解くならば『自分と他者との距離=自身の正義の大きさ』と言うことになるのだろう。


吹けば飛ぶような存在を大切にしてしまう自分。大切な存在に近付きたいと思いながらも、付かず離れずの関係を築き上げてきた自分……。自身の正義はそんな脆く弱いものなのだと痛感する、自分を見つめ直す楽曲となっている。


今回紹介する5つの正義の曲と比較すると、この『正義』は極めて異質で、また判然としない。正義とは通常、それを自覚した上で指針としたり行動理念とするものだが、ずとまよにおける正義は未だ模索中。


それこそ中学生、高校生時代のような『自分はどうしたいのだろう』という葛藤と悩みが渦巻いている、全く新たな視点で描く正義である。

 


ずっと真夜中でいいのに。『正義』MV

 

 

あっぱれが正義。/和楽器バンド

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一富士二鷹三茄子! Everybodyあっぱれゲン担ぎ!

猪突猛進が正義。景気出せ チャンスは逃さない


当初は『千本桜』や『カゲロウデイズ』といったボーカロイドのカバーアルバムをリリースしたことから「カバーバンド」と揶揄されていたが、今やオリジナル楽曲を多数生み出し、新たなファンを取り込んでいる和楽器バンド。


『あっぱれは正義』は昨今のライブでは必ずセットリスト入りする、和楽器バンド史上最もアッパーなナンバー。世間一般的なロックバンドの形態プラス、和太鼓や琴、津軽三味線、尺八まで取り入れた奥行きのあるサウンドは唯一無二だ。


こちらもずとまよのように、一風変わった正義を表現している。というのもこの曲自体に大した意味合いはないのだ。歌詞を読み込んでみても『自身の正義は何たるか』というような文言は一切出てこないし、楽曲全体からはサウンドに重きを置く盛り上がる曲のイメージが強い。


しかしながら、元々文豪作家並みに難解な歌詞を連発し、徹底して『ライブで披露する』ことを前提とした曲作りを行ってきた和楽器バンドとしては正常運転のような気もする。総じて『あっぱれが正義』は、頭からっぽにして盛り上がりたいときに聴きたい音楽のひとつだ。ひとたび聴けばそこはダンスフロア。

 


和楽器バンド / あっぱれが正義。

 

 

蒼き日々/plenty

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朝が来るまでは 僕だけが正義

明日を笑えるように 何を裁く

今更何を怖がる? 独りよがりでいいだろ


ロックインジャパンのオーディションで優勝し、そこからスリーピースの若手の筆頭としてロックシーンを牽引したplenty。人気絶頂の中2017年解散し、現在は江沼郁弥(Vo.Gt)がソロで活動している。


この楽曲における『正義』は、今回紹介したどの正義よりも、確固たる信念をもって歌われる。正義は自分の中で既に確立しているものの、その正義を良しとしない他社との壁に悩む。そんな辛い現状を歌うのが『蒼き日々』という楽曲なのだ。


「明日が来るまでは僕だけが正義」とする歌詞や、誰もいない夜道を口ずさみながら歩くMVを見てもそれは明らかで、この主人公は間違いなく現実が上手くいっていない。しかし自分を曲げるのも嫌という強いプライドが、そんな現実を更に生きにくくさせている。


思えばplentyの解散ライブにおいて、最後に演奏されたのがこの『蒼き日々』だった。おそらく彼自身が明確な答えを口にすることはないだろうが、この楽曲は江沼の人生観そのものであり、またplentyをplentyたらしめる大事な1曲でもあったはずだ。


どしゃめしゃなギターと甲高い江沼の歌声が涙腺を緩ませる、次世代のロックンロールである。

 


plenty 「蒼き日々」

 

 

……さて、いかがだっただろうか。


正義というのは千差万別だ。僕もあなたも、吉本興業も自民党も、それぞれ違う正義じみたポリシーを抱いて生活しているはずである。


今回紹介した楽曲も『正義』を題材にしてはいるものの、その内容はそれぞれ異なる。ストレートな言葉で表現する感エロや、全体が靄がかったずとまよ。盛り上がりに特化した和楽器バンド……。彼らの楽曲全てに意味があり、また魅力が詰まっているのだ。


普段の会話の中で「僕の正義がね……」などと言う人はほとんどいない。口にすることも耳にすることも少なくなってきた『正義』をテーマにした楽曲群だが、この機会に一度聴いてみてはいかがだろう。


きっとあなたの正義を肯定し励ましてくれる、そんな楽曲ばかりだと思うから。