こんばんは、キタガワです。
サブスクとYouTubeの急激な発達により、1曲単位の破壊力がブレイクの最重要要素となりつつある音楽シーン。その中でも令和に入った辺りから広く音楽評論家たちの間では叫ばれるようになったのは『サビに早く辿り着くことが出来る楽曲は伸びる可能性が高い』というもので、日々スマホのスクロールのみで大量に消費される音楽の中で抜きん出るにはどうやら再生した瞬間にサビが聴こえる、若しくは出来るだけAメロBメロを省略した上でサビに到達させる流れが最も印象を強めるのに効果的なのだそうだ。
ちなみに昨今の流行歌の中で考えるとBTS“Dynamite”やyama“春を告げる”、YOASOBI“夜に駆ける”などがそれらに該当する楽曲群。いずれにしても一聴した瞬間、ずっと頭でぐるぐる鳴っているような(音楽的にはイヤーワームと呼ばれる)求心力の高いサビが流れることによって、ふとした時に「もう一回聴いてみようかな……」と思わせる魅力を携えていることについては、きっと誰もに共感していただけるはず。ただ、サビの重要度を理解した作曲家たちに現在新たな試練として立ちはだかっているのが『サビの中毒性問題』。当然現状のリスナー傾向が判明している関係上、同じことを考える作曲者も多数存在することと同義。故に極端な話をしてしまえば『オリジナリティー+中毒性の強いサビ+出来るだけ早く到達させる=バズが近付く』が最適解になっている中、その限られた枠を巡っての熾烈な争いが水面下で行われているのが今なのだ。
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ネッコに顔を踏まれたい / にっくきゆう feat.初音ミク - YouTube
以上の音楽シーンのリアルを踏まえて、本題である。昨年の11月末に楽曲を初投稿した正体不明のボカロP・にっくきゆうが手掛けた“ネッコに顔を踏まれたい”。この楽曲に、筆者はとてつもない衝撃を受けてしまった。近付けば近付く程距離を置かれる猫好きの悲しみを綴る歌詞。繰り返される《にくきゅう》のコール&レスポンス。僅か2分で終わる性急感……。そして何より気が付けば口ずさんでしまう圧倒的な威力のサビが、心を捉えて離さない。現時点でにっくきゆう氏の個人的なプロフィールは明らかになっていないし、数少ないツイッターの呟きと他楽曲を見るに、おそらくはボーカロイドに触れて間もなく、更には音楽的セオリー以上に自身の『やりたいこと』のみをふんだんに詰め込むスタンスを取っているのだろうと推察する。しかしながらそれらが意図しているのかどうかは別として今の音楽シーンの最適解にジャストフィットしている事実には、どこか新進気鋭のボカロPとしての鬼才さすら感じてしまう。
そして何度も聞き続けるうち、にっくきゆう氏の重要な気付きとして浮かぶこともひとつ存在する。それは「この直接的な歌詞は今しか書けない」というもの。個人的にはにっくきゆう氏は20代前半、ないしは10代の『若者』と呼ばれる類の年齢なのだろうと思っているが、実際何かに取り組み続けてから数年間も経つと子供が産まれたり就職をしたり、人間関係に悩んだりと経験を積んでいくことで、本人も驚くレベルでどんどん表現が変わっていくことに気付くのが創作活動なのだ。にっくきゆう氏においてもそれは例外ではなく、3年以内には大きく歌詞が変遷する出来事が起こり、知らず知らずのうちに表現が洗練されていくはず。……となれば他楽曲の“PS5が買えました”や“Talk…”もそうだが、ここまでストレートに自分の感情と日々を吐露する楽曲は、とても貴重な代物なのではないだろうか。
無意識的に音楽シーンのセオリーに従い、自らの実体験と希望を楽曲で具現化する謎のボカロP・にっくきゆう。未だ総楽曲数は少なく知る人ぞ知る人物として位置している中、その動きはまさしく「音楽を作りたい」との衝動に正直ながむしゃらさに満ち満ちている。楽曲投稿後の24時間ランキングで1位を獲得、ニコニコ動画プレミアムアワードでグッドルーキー賞を獲得するなど現時点での風向きを考えても完全にこちらを向いており、来年の2022年には予想だにしなかった大バズを迎える可能性も極めて高い。この素晴らしき才能に出会う契機は間違いなく、今をおいて他にはない。