キタガワのブログ

島根県在住のフリーライター。ロッキン、Real Sound、KAI-YOU.net、uzurea.netなどに寄稿。ご依頼はプロフィール欄『このブログについて』よりお願い致します。

ミニマルな単音ロックの立役者、ヴァンパイア・ウィークエンドの“A-Punk”の美学

こんばんは、キタガワです。


スマホひとつであらゆる音楽と邂逅することが可能になった現在から考えると「そんな時代もあったんだなあ」とどこか遠い目をしてしまう感もあるけれど、インターネットが今ほど普及していなかった今から10年以上前のシーンは、音楽への注目に至る契機が極めて少なかった。


サブスクもなく、YouTubeも今より発達していない。音楽と出会うにはジャケ買いかラジオで……という今では考えられない状況下で、バンドマンの多くが奔走したのはオリジナリティの構築だった。もちろんそれら全てが策略的なものであったのかと言えば答えはNOなのだが、例えば日本ではB-DASHが『適当アドリブめちゃくちゃ語』なる予想外の歌詞で話題を攫ったり、銀杏BOYZの傍若無人な振る舞いで若者が虜になったり、ゆらゆら帝国のサイケデリックさで「何かヤバいバンドがいる」と特集されたりと、稀有な印象が結果として自身の認知を広げることも多かったのである。

 

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https://www.sonymusic.co.jp/artist/vampireweekend/



今回取り上げるヴァンパイア・ウィークエンドも、同じく特異なサウンドが評価の対象となったロックバンドのひとつだ。そんな現在でも第一線を走り続けている彼らのブレイク要素となったのは間違いなく“A-Punk”と名付けられたファーストアルバムのリード曲で、実際当時それほど注目が向けられていなかったYouTubeにおいて、爆発的な閲覧数を記録していたのを強く記憶している。

 

この楽曲では徹頭徹尾、単音しか鳴らされていない。言うまでもなく本来ギターはコード進行がスタンダードで、場合によってはそこに単音を織り込むのが基本形。もちろん教則本にも「ギターは単音弾きでOK」なんてことはどこにも書いていない。にも関わらず彼らの試みは常に単音でロックを鳴らす代物で、更にはそれでいてキャッチーという正に新たな扉を開いた1曲と言えるのだ(余談にはなるがMVの一風変わった演奏シーンも面白く、名実共に彼らのバズのスタートはこの“A-Punk”を契機としていることがよく分かる作りになっている)。

 

Vampire Weekend - A-Punk - YouTube


ただ急激なブレイクの後には、その反動が来るのは必然。彼らも例に漏れずその後の歩みは徐々に緩やかとなっていき、あまりアルバム成績が振るわなかったり、ツアーの先々で“A-Punk”を求められる状況にも陥ったのは確か。そんな中で最近の彼らはバンドについて、ここにきて大幅な改革を敢行。何とバンドメンバーを大増員して10名以上とし、その単音サウンドに磨きをかけた(このメンバー数でもコードを用いないのは彼らのプライドなのだろう)。そして以下の『グラストンベリー・フェスティバル2019』の映像にある通り、彼らはバンド史上最大の大舞台で帰還。酸いも甘いも、長らく一緒に歩んできた“A-Punk”でもって、ほぼトリの素晴らしい出順を万感の思いで締め括ったのだ。

 

Vampire Weekend - A Punk (Glastonbury 2019) - YouTube

 

発売から13年の時が経っても、未だ彼らの代表曲として君臨するロックチューン“A-Punk”。様々な試行錯誤の末に生み出されたこの楽曲が再評価の兆しを受けている今だからこそ、もちろんこの楽曲の求心力は重々理解した上での話で、是非ともヴァンパイア・ウィークエンドの歩み全体にも目を向けてほしいと願ったりもする。それこそ例えば……そう。6年の歳月をかけてボーカルのエズラがパパになった心境を綴ったアルバム『Father of the Pride』とか。ちなみにこのアルバムでも単音は健在ながら、ロックやポップ、果てはサイケまで様々なジャンルにトライした快作なので、気になった人は是非。正直「VW?あー、“A-Punk”の人だよね」とのイメージが未だに強すぎる彼らなのだが、いろいろと変わってきている。それらにも目を向けて初めて、この楽曲の存在が活きるような気もする。 

 

Vampire Weekend - This Life (Official Video) - YouTube