こんばんは、キタガワです。
かねてより穿った視点から音楽を説いてきた当ブログ。今回は先日公開した『音楽活動と並行して本業(副業)を行うアーティスト』なる特集記事の後編をお届け。政治家や漫画家、果てはプロデュース業を主体とする多種多様なアーティストに焦点を当てて紹介した前編と比較すると、意外性はおよそそれ以上。各々の興味・関心と共にめくるめく未知の音楽の世界へ没入していただければ幸いである。
- 粗品(職業・お笑い芸人)
- Childish Gambino(職業・コメディアン、映画監督)
- 恵比寿マスカッツ(職業・セクシー女優)
- ゲーム実況者わくわくバンド(職業・ゲーム実況者)
- THE 南無ズ(職業・僧侶)
粗品(職業・お笑い芸人)
M-1グランプリ2018にて全国4640組の頂点に君臨し、その後はバラエティー番組出演や公式YouTubeチャンネル『しもふりチューブ』開設、テレビCM出演など破竹の勢いで芸能界を闊歩するお笑いコンビ、霜降り明星。彼らのネタの根幹部分を制作している人物こそツッコミ担当の粗品その人であり、霜降り明星のみならず大喜利やピンネタ、一人話芸を行う粗品の才能はお笑いのみに留まらない。
その中でも突出してかねてより趣味として独学で行ってきたものこそ『音楽活動』であり、具体的には2歳からピアノ、13歳からギター、高校からはEDMに熱中。持ち前の絶対音感で街中に流れる様々な音楽を瞬時に演奏出来るスキルも相まってお笑いに心血を注ぎつつ、趣味ながらもぐんぐん知識を吸収。そんな彼が自粛期間中である2020年より、遂に音楽活動を本格始動。突如としてYouTube上に投下された“ビームが撃てたらいいのに”が反響を呼ぶと、以降は“ぷっすんきゅう”、“希う”、“最高に頭が悪い曲”といったボカロ曲(ボーカルは初音ミク)を次々発表。そして自身の音楽レーベル『soshina』を大手音楽会社・ユニバーサルより発足……というのが彼の来歴であるが、公式YouTubeチャンネルを毎日更新、テレビ出ずっぱり、インタビュー複数と多忙を極める中よくぞここまで。
楽曲自体の完成度もなかなかに高く、特にネタ番組で見せる粗品の独特なワードセンスがこれでもかと落とし込まれている点も評価したい。『突拍子もない状況+切れ味抜群のツッコミ』がお馴染みの霜降り明星のネタと同様、楽曲も良い意味で意外性たっぷり。今後の粗品の動向には、お笑いと共に音楽的な意義においても注目する必要がありそうだ。
Childish Gambino(職業・コメディアン、映画監督)
近年における最大のヒット曲のひとつと目されるキラーナンバー“This Is America”の絶対的シンガーにして、マルチな活動を精力的にこなすチャイルディッシュ・ガンビーノ。
こと日本国内においてガンビーノは現時点で7.5億再生を記録している世界的ヒットソング『“This Is America”を歌っている人』との認識が強い傾向にあるが、海外におけるガンビーノは空前絶後のエンターテイナー、ドナルド・クローヴァーとしての認識が大前提にある。他にも自身がメガホンを取る映画監督やドラマの脚本家としての一面もあり、彼にとってアーティスト活動は自身の興味・関心に委ねた様々な活動の一環のひとつだ。ただ既知の通り黒人差別や武力、貧富の差を挙げての《黒人なら金を稼げ》《イカれた警察》《密輸品》といったネガティブなワードの数々をThis Is America(これがアメリカだ)とする強烈なリリックを展開していくこの楽曲の大バズにより、彼の立ち位置は今や国内外問わず『アーティスト寄り』となり、特にBlack Lives Matterムーブメントの勢いを増す人々の間では、彼の名前は一際大きな存在感を放っている。
すっかりアメリカの代弁者たる存在となったガンビーノ。しかしながら明らかなスーパースターとなった今でも自身の信条を頑として崩すことはなく、テレビ番組ではシリアスなMVとは真逆のエンタメ性を見せつつ報道番組では怒るところは怒り、事実と反する部分は訂正する自分らしさも維持している。全くの予告なしでサプライズリリースした新作アルバム『3.15.20』では大半の楽曲タイトルが数字で構成されるミステリアスぶりでファンを驚かせたけれど、コロナ禍で憂う今日もきっと、彼は新たな計画を練っている最中のはずだ。
Childish Gambino - This Is America (Official Video)
恵比寿マスカッツ(職業・セクシー女優)
一見清楚可憐なアイドルグループ。けれどもその実……という稀有な意外性が話題を呼び、取り分け『男性』から絶大な支持を集める恵比寿マスカッツ。彼女たちがにわかに脚光を浴びる理由というのはズバリ、彼女らの本職がセクシー女優であるため。正確にはメンバー全員がセクシー女優ではないにしろ、長年グループを牽引してきた主要人物は総じてFANZA等で作品を複数リリース済みの名女優ばかり。無論世界的に見ればストリッパーから転身を遂げたカーディー・ビーやレディー・ガガのように、性的職業に身を置きながらアーティストとして花開いた例も少なくはないが、前もってセクシー女優を公言し、更にその現状を売り文句として活動を行う例はない。
レギュラー番組での立ち居振舞いやキャラクター性も相まって、20代以降の層へ着々とアピールを続ける恵比寿マスカッツ。当然の如くメンバー人気は凄まじく一人のブレもなくほぼ均等にファンが付き、チェキ会では大勢の男衆が囲う。故に移り変わりの激しいAVシーンらしくメンバーが事あるごとに加入・脱退を繰り返す流動性もまた、時代に沿った形である意味好感が持てる。
楽曲についてもある種アイドル然とした構成でありながら、従来の『恋愛禁止のアイドルが恋心を歌う』という某国民的グループで散見された歌詞ではなく、恵比寿マスカッツは元々の土台がこと恋愛に関しては色々な意味で鉄壁であるため、その伝わり方は段違いだ。更に現在では先述したバラエティー番組やYouTube上の活動によって認知を伸ばし、バラエティーアイドルの立ち位置も視野に入れての活動を行っている彼女たち。言うまでもなく本業の比重が圧倒的に高い珍しいグループではあるが、彼女たちがアイドルとしての地位すら確立した時、その追い風はとてつもなく強いものになるはずだ。
EBISU MUSCATS (恵比寿マスカッツ) "マジョガリータ (Majogarita)" Official MV
ゲーム実況者わくわくバンド(職業・ゲーム実況者)
HIKAKINやフィッシャーズ、スカイピース等、大々的に名を馳せたYouTuberは今や幅広い広告塔として、またアーティストとしても重宝されていることは周知の通りである。しかしながらその実態はある軽度傾向が偏っている感もあり、大半は商品レビューを行うグループという元々発信イメージが確立しているYouTuberが改めてアーティストとして開花する場合がほとんど。
けれども以下のゲーム実況者わくわくバンド(以下わくバン)は全員がその名の通りゲーム実況者であることに加え、ギター、ベース、ドラム、キーボードのプレイヤーである点において、特殊性が著しい。曲調は所謂ポップロックであり、耳馴染みの良い湯毛(Vo.Gt)のボーカルとメジャーコードを多用した直接的ロックサウンドが光る。実際スタンダードなバンドだが、その中にもキーボードが飛び道具的なサウンドを混在させてしていたりと、なかなかどうしてバンドとしての地力が極めて高いのも面白い。
現在わくバンは通算4枚目となるシングル『心誰にも』を発表。表題曲たる“心誰にも”はテレビアニメ『シャドウバース』のエンディングテーマにも抜擢されるなど、実力も折り紙つきだ。加えて来たる某日には渋谷のライブハウスにてワンマンライブも敢行。チケットは既に完売済みで、ファンの期待値の高さを雄弁に示している。アーティスト活動+YouTuberという、おそらくは世界中のYouTuberが夢見るシンデレラストーリーの渦中にいるわくバン。今後もコンスタントなスタンスが求められること必至だが、質を落とすことなく猛然と駆け抜けていってほしい。
THE 南無ズ(職業・僧侶)
ラストに紹介するのは、バンドサウンドとエンターテインメントを融合させたコミックバンド『坊主バンド』からスピンオフ式に結成されたTHE 南無ズ。なお現在約100万人ものフォロワーを抱える大喜利アカウント『坊主』の中の人は、以下に記述する飲食店『坊主バー』の元従業員である。
元々の彼らは僧侶と並行して『坊主バー』なる飲食店を経営。世間一般的に僧侶と言えばともすればある種聖人君子のような厳かなイメージが脳裏を過って然るべしであるが、笑いを広く展開する坊主バー然り笑いのエッセンスを取り入れた楽曲然り、彼らの枠を廃した驚きの活動の数々は『仏教を広めるため』との思いが主軸として垂直に立っている。確かに法事の際に飲食の場が設けられることは多々あるし、一定のリズムで数ある難語を放ち続ける般若心境もルーツは音楽。故に彼らが僧侶と並行して音楽活動を行うというのも、あながち間違ってはいない……のでは。
『現代社会における安定した生活水準はほぼ下降線』とする彼らが様々な可能性を模索する心情は至ってフラット。若者言葉を随所に取り入れた“てら・テラ・寺”がTikTokを中心に広がりを見せていることも、僧侶による新たな試みとしては秀逸。昨今は彼らの所属する別バンド・坊主バンドが映画『君の名は。』のラストシーンを盛大に模倣した『君の宗派は。』なるツイートで万バズを記録したことは記憶に新しいが、それらの試みさえも純粋なエンタメ性プラス、閲覧者を仏教への興味に導く道筋のひとつなのだろう。
THE 南無ズ「てら・テラ・寺」MV/The Namuzu「Temple Temple Temple」Music Video
……さて、いかがだっただろうか。音楽活動と並行して本業(副業)を行うアーティストの世界。
2021年現在、音楽はサブスクリプションやSNS、YouTubeの発達に伴って素晴らしき飽和状態にあり、個々人にとっての良い曲、悪い曲はより鮮明、かつ瞬時に分かるようになった。YouTubeでバズったYOASOBIやTikTokで話題を博した瑛人が紅白歌合戦に出場したことからもそれは明白で、様々な既存の枠組みは少しずつ廃されつつある。であるからして『音楽へ至るためのバックボーン』というのも同様に、リスナーにとってはさして重要にならないと思うし、むしろ「こんな人たちがこんな音楽を!」と驚きを纏った興味としてはプラスに働く、そんな予感もする。
今回の前後編、文字数にして1万字オーバーの記事で、読者の方々に多大な影響を及ぼすことはおそらくないけれども、新たな音楽と出会う契機としては十二分だとも思うのだ。是非とも様々なアーティストの動向に目を凝らしてみてほしいと強く願って、今記事の締め括りとする。