キタガワのブログ

島根県在住のフリーライター。ロッキン、Real Sound、KAI-YOU.net、uzurea.netなどに寄稿。ご依頼はプロフィール欄『このブログについて』よりお願い致します。

『WILD BUNCH FEST 2021』の中止を知って、改めてNAMIMONOGATARIの所業にムカついてきた

こんばんは、キタガワです。

 

f:id:psychedelicrock0825:20210908023135j:plain


感染対策の在り方がある程度具現化されつつあるのはもちろん、頼みの綱であったワクチン接種も本格化。今年の11月末には希望する全ての年代への接種が2回終了するとの計画で動いており、それこそ11月からはこれまで強い制限が課されていたイベント実施や居酒屋対応、県外移動といった各々の行動も正常化させる試みとのこと。……そんな遅れつつも明らかに状況好転の兆しを見せている渦中において前向きになるならまだしも、まさか夏フェス中止の無情な波が2年続けて襲い来るとは誰も考えていなかったことだろう。


何故今日はこの記事を書こうと思い至ったのか。それはもはや言わずもがな、ワイバンの開催中止の報を見たからである。開催は約1週間後、チケットもソールドアウトとはいかないまでも各日ソールドギリギリまで販売しており、そうでなくともステージの装飾依頼やらフェス限定グッズやら感染対策の道具発注やらは済ませているわけで、間違いなく大規模な赤字は避けられないだろう。しかも今回は出演者を解禁しないまま中止となった前回と比べてタイムテーブルも発表しており、その分我々の喪失感も大きい。「やっぱり今年も駄目だった……」と誰しもが感じているはずだろうが、思い返せばこの気持ちは今年何度目だろうか。


当然、今回のワイバンが中止となった背景にはコロナウイルスの感染急拡大が最も重大な要素として位置していて、それは「開催地の山口県におきまして『感染状況ステージ4』が続き医療提供体制がひっ迫する中、地元行政からの自粛要請もあり、改めて主催者として熟慮しました結果開催を中止する事に致しました」とする主催者側のコメントを見ても明らか。確かにこうした状況下では100%感染しないフェス空間を維持するのは難しいため、特に山口県内の感染拡大防止のみならず県民の安心感の確保といった観点から考えても、この決断はある意味では正解と言って良い。ここまで尽力してくれたプロモーターの方々には心から感謝の気持ちを伝えたい。


ただ、今夏フジロックや RUSH BALLといった明らかに大規模なフェスが何とか開催に漕ぎ着けた一方、今月に入ってからのフェスが軒並み中止・延期を余儀無くされていることに関しては疑問も残る。というのも、各フェスごとにやっている感染防止対策は然程変わらないからだ。収容人数を1日5000人以下に抑えること。アルコール販売を停止すること。ソーシャルディスタンスを守ること。発声を制限すること……。どれもフェスの成功例と政府分科会の提言をしっかり遵守しながら、これまで頑張ってきたのだ。では9月までのフェスと9月に入ってからのフェスから見る『開催は絶対に中止にすべき』という圧倒的な批判が噴出した理由はどこにあるのか。僕はこの理由について十中八九、愛知県のヒップホップフェス『NAMIMONOGATARI 2021』の大炎上が関係していると睨んでいる。


話は少し逸れるが、そもそも大前提として社会はそこに『最悪な何か』が起こった瞬間、完全にイメージは失墜して元には戻らないということを改めて記しておく必要があるだろう。例えば会社の個人情報が流出すればお客さんが激減するのは当たり前だし、シーソーで事故が起これば「あの公園だけは行っちゃダメ!」と保護者間で話題になるし、野々村竜太郎元議員があの動画のイメージになっているのもそうだし、現在電通が悪徳企業としてすっかり有名になってしまったのも、持続化給付金問題で説明責任を果たせなかったことからだ。そうなればまずもって「すみませんでした!」だけでは済まない。何年経ってもネットで調べればすぐ問題は明るみに出るため、たったひとりが起こした出来事は文字通り、生涯足を引っ張る鎖となり続けるのだ。

 


そうしたリアルを踏まえて『NAMIMONOGATARI 2021』だ。これに関しては以前も個人的な思いを記したのでそちらも合わせてご覧頂きたいところだが、端的に説明するとモッシュ・ダイブあり、観客の絶叫あり、ソーシャルディスタンス確保なし、マスク着用なし、通常5000人以内の入場人数は8000人で敢行され、更にはアルコールも普通に提供されていたという明らかに意図的に産み出された6重苦こそが今年の『NAMIMONOGATARI 2021』であり、遂に最悪の事態として今日、参加者14人の陽性が判明。故にコロナ禍から1年半以上、これまでフェスでゼロベースを貫いていたクラスターを産み出したことが明るみに出てしまったのだ。開催地域の市長は「主催者には今日付けで、市民の努力を愚弄する悪質なイベントを開催したことへの遺憾の意と、今後二度と本市の施設であるりんくうビーチを使用させない旨を記した抗議文を送付いたします」との怒髪天を衝くメッセージを述べるに至った。これについては擁護のしようもないし「マジで主催者一発ぶん殴りたい」というのが本音なのだが、とにかく。


しかしながら先述のイメージの話に当て嵌めれば、これほどフェスにとってマイナスな話はない。実際僕自身もエゴサーチを繰り返して様々な意見を読んだが「全部のフェスがダメな訳じゃない」と擁護する声は僅かであり「やっぱりフェスって良くないよね」との意見が大多数を占めていた。中にはそもそもこうした状況で音楽を鳴らすこと自体がナンセンスだという声や、酷いものでは「ライブに参加した奴ら全員隔離してくれ」との強い否定も散見された。いち早くコメントを出した打首獄門同好会の大澤会長(Vo.Gt)は今回のクラスター発生とワイバン中止を受けて以下のように綴っているが、そこには常に感染防止を第一義として考えてきたアーティストサイドだからこその、心からの怒りが滲み出ていることが分かる。そう。これは誇張でも何でもなく、本当に『NAMIMONOGATARI 2021』は、これまで積み上げてきた多くの人の努力を白紙に戻す程の混乱を生じさせてしまったのだ。

 


そこに来て、今回のワイバン中止だ。何かが起これば第一にそいつのクビを切るし、第二に、再び『最悪な何か』が起こる可能性があるイベントが予定されているのであれば中止にするというのが、企業がイメージを壊さないために出来る最善策と言って良い。だからこそワイバンは中止になった。更には同じように、大きな事件がメディアにすっぱ抜かれ有名になってしまったからこそ、おそらくは今年の他のフェス(近々のもので言えばサマソニなど)にもかなりの悪影響が降ってくること必至だ。そしてそれらの元凶は様々なルールを自ら破って強行開催に踏み切った『NAMIMONOGATARI 2021』であることを、音楽を愛する我々はゆめゆめ忘れてはならない。正直僕個人も他者が頑張って企画したことに苦言を呈することはしたくないが、もうこのフェスについては(出演アーティストや案内に従った観客は別として)主催者に言い過ぎるくらいは罵詈雑言を言っても良いと思う。あと主催者はいい加減マジで説明責任果たしてくれ。


加えて、もうひとつ認識を変えていきたいことがひとつある。それはSNSでも日々多くの人が書き込んでいる「こんな時にフェスなんてやるな」との意見についてだ。確かに感染が拡大している今そうした発言は一理あるし、特に遠征をしてまで参加する人については同会場に住む県民以上のモラルの高さが必要になるため危機的な意味でも重大。……ただ、我々が思っている以上にフェスシーンはもう限界なのだ。どうにかして証明さん、PAさん、ステージの建築業者といった関係者の雇用を守らねばならないし、フェスがなくなれば音楽の灯は明らかに小さくなってしまう。今回のワイバンだってそう。出店は当然会場である山口県の飲食店がコロナ禍の赤字を取り戻そうとしていたはずで、参加者が宿泊する旅館も、山口へ向かうために利用する航空業も全部パアだ。例えば『ROCK IN JAPAN FESTIVAL 2021』は中止によって経済損失が77億3300万円にのぼることが明らかになったし、香川県の『MONSTER baSH』は50億円以上だそうだが、果たしてワイバンは何十億だろうか。「やめろやめろ」と書き込むのは容易いが、どうかもっと多面的な視点からこの苦境を捉えてほしいと切に願う。


これまでも何度も記してきたようにフェスの中止はこれからもまだまだ増えると予想するし、状況は1年前と比べてもかなり悪い。だとしても我々音楽好きだけはそんな状況だからこそ希望を持ち続けるべきだと思う。皆で大声を出して盛り上がっていたあの幸福たる時間はもはや遥か昔のようだが、それでもだ。絶対に来年こそはあの最高の景色を見るため、これからも音楽関係者を応援し続けていこうではないか。