キタガワのブログ

島根県在住。文筆。rockinon.com外部ライター等。

【後編】予想外、どんでん返し……。衝撃的な結末を迎えるアーティストのMV10選

こんばんは、キタガワです。


ドラマ然り映画然り、シナリオありきの作品にとって永遠の課題とも言える『どんでん返し』問題。どう助走をつけてクライマックスへと突き進むのか、計算し尽くされた脚本家の考えがラストに弾ける様は痛快極まりない反面、誰もが見たことのないオチというのは有名作品が粗方やり尽くしてもいて、難しい状況にもある。


今回は前回記した記事の後編……『衝撃的な結末を迎えるアーティストのMV』の後半5つの作品を列挙し、その作品群の魅力に迫っていくが、思わず「そう来たか!」と唸る代物の他、全く意味の分からないもの、はたまたアーティスト側の精神状態が色濃く反映されたミステリーMVまで幅広く記述しているため、もし気になった作品が見付かった暁には是非ともそのアーティストの他の楽曲にも目を向けてもらいたいと強く願っている。今記事がめくるめく音楽の世界へ突入する契機となれば嬉しい限りだ。

 

 

It's Not Living(If It's Not With You)/The 1975

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イギリスはマンチェスター出身のThe 1975(読み・ザ ナインティーンセブンティーファイブ)は、かねてよりバンドの首謀者であるマシュー・ヒーリー(Vo.Gt)の言動が幾度も取り沙汰されてきたことでも有名なロックバンドだ。彼の生活については重度のヘロイン中毒とアルコール依存に苦しめられていたことは彼本人が包み隠さず語っているし、ライブについても同性愛禁止法が成立しているドバイで男性にキスをして逮捕されかける事態に発展したり「今後はアーティストの男女比が平等のフェスにしか出演しない」と宣言したり、記憶に新しい2019年の来日公演では日本酒を1時間のライブ中曲がひとつ終わるごとにラッパ飲みし続け、最後はステージに倒れ込んだこともあるほど。


故にThe 1975はマシューの精神状態に大きく左右されるバンドであるとも言えるわけだが、以下『It's Not Living(If It's Not With You)』はそんな彼の当時の精神状態を如実に表した楽曲と称して然るべき代物。先に結論から述べてしまうとMVのラストは所謂『夢オチ』で終わる。ただそこに至るまでの幻覚めいた事象の数々や、自分が自分でなくなるような感覚は実際に彼が実生活で経験した精神障害の暗喩であって、あながちフィクションでもないという点においてこのMVは異質。加えてマシューという人物を深く知るためにも、ほぼほぼマストな作品となっているのである。……なお新型コロナの蔓延の影響で、早い段階から2021年内のライブ活動の全停止を発表したThe 1975。さぞ精神的に悪化した暮らしをしていると思いきや、ボーカルのマシューは自然豊かな環境でとても健全な生活を送っているそうなので、現在危ない状況には全くない、というのは最後に付け加えておきたい。

 

The 1975 - It's Not Living (If It's Not With You) - YouTube

 

 

ピント/スネオヘアー

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某アニメ作品の登場人物の髪型とは似ても似つかないヘアスタイルのロックマエストロ・スネオヘアー。彼の絶頂期とも呼ばれる年にリリースされたアップテンポナンバーこそ、その衝撃的な展開で公開直後に多くの話題をさらった“ピント”だ。舞台となるのはほぼお客さんが来ないコンビニエンスストアで、全くやる気のないスネオヘアーが淡々とレジ業務を行う様が描かれる。が、ワンオペ状態の時に限ってお客さんが多数来店する事態に次第にイライラがつのったスネオヘアーは、買い物カゴから食べ物を食べまくる暴挙に出て、以降はスネオヘアーが飯を食べるのをただただ客が眺めるだけというカオス空間に。


この時点でもおよそMVとしてはあり得ないレベルのトンデモ展開だが、大波乱はまだ先。誰もが予想し得ないラストは一見の価値ありである。おそらくは日本のアーティスト全体で考えてもスネオヘアーは悪い言い方をすればとてつもなく売れる気配が漂っていたにも関わらず、爆発的なブレークを果たすこともなく徐々にフェードアウトしていったアーティストとして知られることも多い。ただ現在の彼が平々凡々の立ち位置にいるかと言えば決してそうではなく、実質的な独立状態でも精力的に楽曲制作を行っていて、彼自自身が望んで得た未来こそが今なのだ。故に“ピント”はそうした彼の若かりし頃の衝動と自由奔放ぶりを体現した楽曲であるとも称することも出来る。

 

Pinto - YouTube

 

 

 

フルドライブ/KANA-BOON

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邦ロックシーンの言わずと知れた四つ打ち番長・KANA-BOON。おそらくは彼らの楽曲で最も認知されていて、なおかつライブのセットリストもほぼ皆勤のキラーチューンが“フルドライブ”であることには、ファンの人々からも異論はないはずだ。MVは愛する女性を追い求める容姿の整った男2人がパルクールを続けながら距離を詰めていくシナリオとなっていて、その疾走感溢れるサウンドをバックに、画面を見詰めるこちらも思わず前傾姿勢で見入ってしまう没入度の高さを誇っている。


なお今作がこうした作風となったことには彼らが当時メジャーデビュー決定……つまりは更なる一歩を踏み出そうと決意した時期であることも強く影響していて、かねてよりのKANA-BOONのイメージをそのまま体現しつつ「大衆にアピールするのであればこれまで以上の盛り上がりを」と望む彼らの挑戦的な姿勢が表れたもの。ただあらゆるアピールを含みつつもラストはしっかりと初期のKANA-BOONのMVに散見された『笑えるオチ』に繋げていくあたりは、彼ららしいなあとも思ってしまう。昨今のKANA-BOONはメンバーの脱退や谷口鮪(Vo.Gt)の精神的不安定によるライブ活動休止など、長くバンドを続けてきた彼らとしては最もナイーブな時期に突入してはしまったが、現在は感知。秋からは全国ライブツアーの開催も決定している。その際は“フルドライブ”も間違いなく披露されるけれど、是非ともこのMVの若かりし頃の姿と現在の脂の乗ったライブの姿とを対比して浸ることをおすすめしたいところ。

 

KANA-BOON 『フルドライブ』Music Video - YouTube

 

 

SHINKAICHI/Panorama Panama Town

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神戸大学発、衝動的なロックを掻き鳴らす4人組、Panorama Panama Town。そんな彼らの初の全国流通盤こそデビューミニアルバム『SHINKAICHI』。そしてそのリード曲として収録されているのが“SHINKAICHI”だ。パノパナのMVはどれも独自性が強い作風のものが多くなっていて、特に初期作はその内容も展開も予測不能なものが大半を占めているが、“SHINKAICHI”にしても同様に、大量の札束を抱えた岩渕想太(Vo.Gt)が謎の組織に追われ続ける荒唐無稽な流れの果て、ラストは岩渕がよもやの末路を辿るというある意味では映画サークルの自主制作作品の様相をも呈している。


なおそうした中にもラストにしっかりと意味を告げているのも彼ららしく、今作が『SHINKAICHI(新開地)』と名付けられていることの意味を強く感じさせる代物でもある。現在でも『SHINKAICHI』収録曲はライブのセットリストの軸として組まれており、楽曲の“SHINKAICHI”もそのひとつとして前半部分にボルテージを上げる起爆剤として鳴らされることが多いけれども、年齢を重ねてすっかり新開地に達した彼らだからこそ数年前とは一味違う魅力をもって響き渡る“SHINKAICHI”は何度でも経験したい、ライブのハイライトを担っていることだろう。

 

パノラマパナマタウン / SHINKAICHI(MV) - YouTube

 

 

助演男優賞/Creepy Nuts

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ロックフェスへの出演のみならず、昨今はバラエティー番組にも引っ張りだこのヒップホップユニット・Creepy 。ある意味ではヒップホップらしからぬ姿勢で話題を獲得してきた彼らの痛快な反抗歌……。それこそが以下の“助演男優賞”である。この楽曲で歌われるのは「俺らはアンダーグラウンドな存在なのだ」と自己否定するものでは決してない。主戦場とは異なる土壌であっても、必ず結果を出してやるという強い意思。だからこそ主演ではなく“助演男優賞”、だからこその自虐的フロウなのだ。


MVは前編で記したキュウソネコカミの“ビビった”同様、華のないアーティスト生命をレーベルが何とか好転させようともがく様が描かれているが“ビビった”と大きく異なる点として、それらがレーベルの利益を目的としての売り出し方であるということ。MVにも歌声やサウンドは本物に任せる反面、全く違う人物をCreepy Nutsにも仕立て上げるまさしく助演男優ぶりが表れているが、最後には計画が破綻。そして責任の一端を本人たちが被ることになり解雇される、何とも悲しい幕切れだ。彼らのこうした“助演男優賞”的な精神は現在でも不変で、特に今年に入ってからはDJ松永が東京オリンピック閉会式でプレイしたり、R-指定もほぼテレビで観ない日はないほど多くの番組に出演、音楽以外の活動も広く行っているが、それもやりたいことは全部やるし、歌詞で言うところの《時として主役を喰っちまう》との思いから。さあ、今年は遂に紅白歌合戦出場なるか?

 

Creepy Nuts(R-指定&DJ松永) / 助演男優賞【MV】 - YouTube

 

 

……そのアーティストについて語る場合における『好き』の要素は現在、多様化を極めている。もちろん第一義となるのは当然メロディーや歌声、音楽センスなど音楽的な部分であるべきだとは思う。しかしながら現在はバラエティー番組で見せる雰囲気や動画配信、中には「顔が好みだから好き」という人も少なくなく、現代の音楽シーンは各自が『売り』と見なす事柄をどう把握し、どう認知的な行動に移すかがとても重要になっている。今回紹介した『衝撃的な結末を迎えるアーティストのMV』もそのひとつ。特にYouTube上で公開されるMVにはコメントも残せるので、閲覧者がストーリーを自ら考察→他者に共有出来る点において利便性も抜群という今風な仕様も味方して「おおっ!」と思わせることが出来れば強い。今回読んでくださった方々に関しても同様に、心にグッと刺さる1曲は必ずや存在するはずなので、ストーリー展開ももちろんだが音楽性やアーティストの魅力についても思いを巡らせながら、ゆるりとその雰囲気に浸りながら楽しんでみてはいかがだろう。