こんばんは、キタガワです。
突如としてTLを駆け抜けトレンド入りした、ヒップホップフェスティバル『NAMIMONOGATARI 2021』。ヒップホップシーンにとって最大級の夏フェスとしても知られ、個人的にかねてよりフォローしているラッパーも多数出演する有名フェスの名前だ。昨年新型コロナウイルスの影響により中止が発表、今夏は様々な感染防止対策を徹底して開催に漕ぎ着けたとのことだったので、記事を見る前まではてっきりポジティブな意味で話題になっていると思っていた。「Zeebraが王者に相応しいステージングを繰り広げた」とか、「舐達麻が今の世情を痛烈に皮肉ったフリースタイルをした」とか。……ただ半強制的に目に入ってくる、同時刻トレンドに列挙された「コロナ病床逼迫状況1位の愛知県」やら「どこ吹く風の超密開催」やらをいろいろと見ていくと、おそらくは何か悪いことがこのフェスで起こっていたのだな、ということはいくら寝起きの馬鹿な頭でも何となく理解出来た。
結果、『NAMIMONOGATARI 2021』は炎上していた。それも単なる炎上とは違う。フェスから参加者のマナーへ。参加者のマナーからフェスの在り方へ。フェスの在り方からヒップホップ批判へと、今回のフェスの愚行が明らかになるたびに新たな火種となり、いつしか音楽シーン全体を巻き込む大炎上となっていたことを知り思わず心が痛くなったし、フジロックやRUSH BALLなど今夏様々なフェスが成功例を打ち立てて少しずつ前へ進もうという時に何たる愚行かと、強い憤りを覚えた。昔からヒップホップを好んで聴く人間ではあったのだけれど、正直今回の件で多少なりの嫌悪感すら覚えてしまった。以下、実質的な殴り書きテキストではあるが、『NAMIMONOGATARI 2021』の問題点について記述していきたい。
今回の炎上、予想を超えた火種になった大きな要素として主に『アルコールの提供』と『密』、『マスク非着用』の3点が挙げられると思う。まず『アルコールの提供』については、主催者側が県及び市町村に提供報告を行っていなかったことが現時点で明らかになっている。実際、愛知県知事・大村秀章氏は今回の件について「私のところまでは(酒提供については)届いていなかった」とし、付け加えて「もしもそうした話を知っていれば更に強く主催者側に通告していただろう」とも語る。常滑市市町・伊藤たつや氏も先週26日からガイドラインの遵守、病床逼迫の現状といった事柄を何度も主催者側に通達していたにも関わらず、なお上限5000人を遥かに上回る8000人(一般6000人+関係者2000人)で開催していたこと、止めてほしいと再三注意したにも関わらずアルコールを提供したこと、大多数がマスク未着用であったことに触れ「主催者には今日付けで、市民の努力を愚弄する悪質なイベントを開催したことへの遺憾の意と、今後二度と本市の施設であるりんくうビーチを使用させない旨を記した抗議文を送付いたします」と強い怒りを滲ませている。
対して主催者側の言い分としては「発注は一応ストップしたが、それまでに発注してしまった分については売らせて欲しい」という考えから販売に至ったとのことだが、これについても伊藤氏には表向きには「従います」と言い続けていたことや、大村知事へ関してはそもそも伝えていなかった点も鑑みると非常に悪質で、そのアルコールについてもストロング色の強い度数高めのものを大量にストックし、販売制限すら取っていなかったのも含め明らかな確信犯。これまでも酒禁止のルールはコロナ禍以後多くのフェスで適用されてはきたが、やはりアルコールと音楽の親和性(共依存性)は極めて高く、場合によってはネガティブな面もあるということが最悪な形で露呈した形だ。
続いては『密』。これについてはどちらかと言えば個人個人のモラルに該当するところが大きいのだが、客席に「ここから動かずに観てください」というようなバミりさえ成されていないわけで、まるで「廊下は走るな!」レベルの言っとけばいいか的な主催者側の楽観ぶりが透けて見える。そもそもこれまで成功してきたとされるコロナ禍以後の夏フェスはどれも大勢のスタッフがその都度注意したり、定期的にアナウンスを行うなどして対策を立ててきたものだがそうしたこともなく、それでは誰も従うはずがない。加えてアルコールが販売されていたことで観客の理性の枷が自分の意思とは関係なく外れ、そこには「みんな守ってないんだからいいじゃん」とのある種の同調圧力というか、音楽にアルコール、しかも晴れ晴れとした天気も加わり「逆にルール守り続けてたらつまらん」との、これまで何度も言われ続けていた自粛精神の崩壊さえ招いてしまったのは間違いなく主催者側の対策不足による。
最後に『マスク非着用』について。そもそも日本における外出時のマスク着用は80%以上に及んでおり、日々我々がマスクをしていない人を見るたびにふと感じてしまう「あの人マスクしてないじゃん」との不快感にも改めて目を向けてみると、いくらフェスという多幸感溢れる状況下ではあるが、ここまで大多数の人々がマスクを外すのかは些か疑問だ。……これについて僕はひとつの個人的な思いを抱いていて、本当はこんな事を書くべきではないのだろうが、この日マスクを外してモッシュに参加、大声で叫んでいた層は普段からそうした行動をしている人間なのだろうと思っている。居酒屋で大騒ぎしたり、県を跨いで友人らとバーベキューをしたり、それこそ自粛を一切していない人たち。ただ今回のフェス参加者の全員が全員そうした層であるとは考えられないので、おそらくメディアで頻りに取り沙汰されていたような前方部分で盛り上がる観客は普段から羽目を外すような人たちだが、後ろでゆっくり観ている人たちはその限りではないだろう。終演後にマスクが大量に地面に落ちていたことも考えると「だってマスクどっか言っちゃったんだもん!」とする人も一定数存在しただろうし、『マスク着用』についてはやはり参加者のモラルによることもの大きいのではないか。……まあ、そうさせないように尽力するのが主催者側の力の見せ所なので、そうしたことさえ考えず何ら対策をしなかったのが一番悪いが。
ここまで感情の赴くまま書き殴ってきたが、参加者は然程悪くない。最も悪いのは様々な問題点を参加者の感情のみに委ね、対策らしい対策をしてこなかった主催者にある。何故なら主催者側が本気で指導し、絶対的に成功させるとの気概を持てばそれは参加者に強く伝播し、観客側もすんなり従ったはずだからだ。そうならなかったのはこれまで様々なフェスで培われてきた運営方針・レギュレーションを無視して無理矢理フェスの体で運営した主催者の知識不足、及び楽観主義だ。つい数時間前、出演者のひとりであるZeebraが今回の一件について持論を述べてくれたが、まずもって一番最初にコメントを述べるべき立場にいる主催者側からは未だ何のコメントもなく、メディアからの取材依頼電話も主催者側が意図的にガチャ切りするという杜撰の対応が続いている。今回のフェスのみならず音楽フェス全体の好感度をも下げ、ヒップホップシーンにも多大な悪影響を及ぼした責任について、主催者側からの明確なメッセージなり、謝罪文なりが公開されることはマスト。一刻も早い対応を望む次第だ。
少し話は逸れるけれど、今回の一件は、日本政府の考えとして第一義に存在していた大前提たる『自助』のひとつの崩壊も意味しているとも思う。というのも、これまで飲食店の酒提供や時間短縮、外出自粛、テレワーク、人との会話は控えめになど多くの感染防止対策が取られてはきたが、それらは全てお願いベース。もし破ったとしても何ら罰則が付くこともなかった。ただその結果誰もが理解しているように感染は日増しに拡大していて、今回『NAMIMONOGATARI 2021』では実際にルールを守らない人々の温床となってしまった。そのため今後はこれまでの事業者に対してのフワフワとした対策だけではなく、例えば海外では主流になっている『ワクチン証明書を見せれば参加可能』にしたり『せめてここまでのルールを守らないと開催できないし、破ったら罰則』の遵守を主催者側に課したりといった強行姿勢もやむなしなんじゃなかろうかと。どうあれ、結果コロナ禍のフェスでこうした事件が起こってしまったことはしっかりと省みてほしいと願っている。
そして音楽を愛する我々の姿勢に関しても、今後は深く考えていかなければならない。大好きな音楽。大好きなフェス……。それらを守るために我々が出来ることはただひとつ。それは『ルールを守って楽しむ』ことだ。もちろんコロナは収まっていないし、まだ完璧にとはいかない。けれど各々が少なくともこうした状況下でどう動くか、どうすれば音楽というシーンへのプラスになるかを考えながら動くことで、風向きは必ず変わってくると信じている。今回はあまりに悲しいニュースが広がってはしまった。ならば後はそれを教訓にし、二度と音楽・音楽フェスでネガティブな話題を作らせないように頑張っていこうではないか。……信じよう。我々が望む最高のフェスは絶対にいつか訪れると。